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淫魔編:先輩の背中
【222話】僕の帰りを待ってるんだから
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「……っ!」
気を失っていたアーサーがハッと目を覚ます。体中が痛み意識が朦朧とする。ぐらぐら揺らぐ視界に、オークが投げる石を走って避けているベニートの姿が映った。
「ベニート!!…がふっ…」
立ち上がろうとしたアーサーの口から大量の血が吐き出される。アーサーはそのまま血だまりに倒れこんだ。
(内臓がいくつか破裂してる…。オークに振り払われたときに衝撃でやられちゃったみたいだ…。だめだ、左脚が折れてる…。頭も強く打ち付けたのかな…くそ…体が動かないっ…)
だが、アーサーは自分の損傷が急激な速さで回復していることに気付いた。首にかけているリンクスの指輪が熱くなっている。
(リンクスさんの指輪…っ!はやく…はやく治して…!!じゃないと…!)
「ぐぁぁっ!!」
「っ!」
ベニートのうめき声のあと、ばたりと倒れる音が耳に届く。オークの汚い笑い声がアーサーの頭にガンガンと響いた。そして聞こえる、アデーレの弱々しい声。
「あ…あ…いや…いやぁ…っ」
アーサーはガクガクと震える腕で上体を起こした。
「…めろ…やめろ…僕の…大切な人たちを…」
まだ立ちあがることができない。アーサーはそばに落ちていた弓を掴んだ。矢をかけ弓を引こうとするが、今の弱々しい力ではオークの皮膚を貫くことすら難しいだろう。その時アーサーは思い出した。アイテムボックスの中にモニカの火魔法液が入っていることを。がさがさとアイテムボックスまさぐり火魔法液を取り出したアーサーは、藁にも縋る思いで矢じりにたっぷりとそれをつけて再び弓を引いた。
「モニカ…!お願いっ…僕たちを助けて…!!」
ひょろひょろと矢が弧を描いてオークの体にコツンと当たる。その瞬間、爆発音と共にオークの体が吹き飛んだ。
「…へ?」
「…グォォォォォ?!グァァァッ!!ガァッ…グアゥゥゥ…ッ!!」
予想以上の威力にアーサーはぽかんとしてしまう。オークが吹き飛ばされた弾みに口から吐き落とされたアデーレも、横腹が欠損して悶えているオークを見て口をあんぐり開けていた。ゆっくりと振り返りアーサーを見る。
「…アーサー…」
「はっ!だめだまだ終わってない!」
「!!」
王様オークがよろよろと立ち上がる。ぎろりとアーサーを睨み、怒りに満ちた声で唸っている。ぼたぼた緑色の血を流しながらアーサーめがけて走り出した。
「アーサー危ない!!」
襲い掛かるオークに、アーサーはもう一度弓を引いた。次は見切られたが、愚かなオークはその矢を掴んだ。再び爆発が起きてオークの手が吹き飛ぶ。爆風に巻き込まれたアーサーも遠くへ吹っ飛んでしまった。勢いよく地面に体を打ち付け全身に痛みが走る。
「ぐぁっ!」
(だめだ!威力が強すぎる…!火魔法はもう使わない方がいい。だったら…!)
肘から下を失ったオークは怒り狂い再びアーサーに襲い掛かってくる。アーサーは剣を握り、それに毒魔法液をドバドバとかけた。指輪のおかげで徐々に回復していたアーサーは、まだ完全には骨がくっついていない足でなんとか立ちあがり剣を構える。腕を大きく振りかぶったオークと間合いを詰め、足首を狙って剣を叩きつける。弱っているアーサーでは皮膚を破るだけでやっとで、剣は骨に届きすらしなかった。
「ぐっ…!」
「グォォァァア!!!」
「がぁっ…!」
アーサーは蹴り上げられ空高く飛ばされた。治りかけていた内臓がまたも損傷する。アーサーは咄嗟に毒魔法液の瓶をオークへ投げた。オークの額に直撃した瓶は割れ、毒魔法液が顔に飛び散った。目に入ったのかオークは「ギェァァァァ!!」と叫びながら目を手で覆っている。
落下する彼をアデーレが体で受け止めた。二人は地面に倒れこみぜぇぜぇと苦しい息遣いをしていた。アーサーは吐血しながら立ち上がる。
「アーサー!だめ!あなたひどい怪我よ!!これ以上動いちゃ…」
「アデーレ見て…っ、ガフっ…、オーク…毒効いてる…っ。はぁっ…はぁっ…」
「え…?」
アーサーが指さす先には、倒れこんでガタガタ震えながら吐血しているオークがいた。
「ギィィッ…グォァッ…グォォォ…ッ」
「さすが…モニカだよ…どこまで僕を助けてくれるんだろう…っ」
「オークが…弱ってる…」
「アデーレ…、イェルドとベニートにエリクサーを飲ませてあげて…。僕はここから弓でオークに毒を打ち込んで追い打ちをかけるから…」
「いいえ。撤退よ。あなただってひどい怪我なんだから」
「僕はもう大丈夫だよ…。指輪のおかげで破損した内臓もほとんど治った…。今もずっと回復してる…。だから大丈夫…。撤退するにしても、まずは応急処置をしなきゃ…。応急処置ができたらすぐにここから出よう。二人はきっと重症だから…。それまでは僕がここで足止めする…。その間にもいつオークが襲ってくるか分からないからね…。大丈夫。遠くからしか攻撃しないよ。危険じゃないから…」
「……」
アデーレはアーサーをじっと見た。確かに彼の傷は徐々に癒えている。それにアーサーの言う通り、一刻も早くイェルドとベニートに応急処置をしなければいけない。アデーレは頷いた。
「できるだけ早く処置するわ。それまで…お願い」
「うん…っ」
「無理させてごめんね。もしオークが襲ってきたらすぐに逃げて」
「うん。アデーレも…ベニートのところへ行くにはオークの近くを通らないといけない。毒で弱ってるとはいえ、危険なことには変わりないから…。アデーレ、死なないでね…お願い…」
「死なないわ。アーサーこそ死なないでよね?」
「僕は死なないよ…っ。だって…ベニートと約束したし…。それになにより…モニカが僕の帰りを待ってるんだもん…っ!」
全身ボロボロガタガタのアーサーがニカっと笑う。アデーレもニッと笑い、倒れている仲間の元へ駆けだした。
気を失っていたアーサーがハッと目を覚ます。体中が痛み意識が朦朧とする。ぐらぐら揺らぐ視界に、オークが投げる石を走って避けているベニートの姿が映った。
「ベニート!!…がふっ…」
立ち上がろうとしたアーサーの口から大量の血が吐き出される。アーサーはそのまま血だまりに倒れこんだ。
(内臓がいくつか破裂してる…。オークに振り払われたときに衝撃でやられちゃったみたいだ…。だめだ、左脚が折れてる…。頭も強く打ち付けたのかな…くそ…体が動かないっ…)
だが、アーサーは自分の損傷が急激な速さで回復していることに気付いた。首にかけているリンクスの指輪が熱くなっている。
(リンクスさんの指輪…っ!はやく…はやく治して…!!じゃないと…!)
「ぐぁぁっ!!」
「っ!」
ベニートのうめき声のあと、ばたりと倒れる音が耳に届く。オークの汚い笑い声がアーサーの頭にガンガンと響いた。そして聞こえる、アデーレの弱々しい声。
「あ…あ…いや…いやぁ…っ」
アーサーはガクガクと震える腕で上体を起こした。
「…めろ…やめろ…僕の…大切な人たちを…」
まだ立ちあがることができない。アーサーはそばに落ちていた弓を掴んだ。矢をかけ弓を引こうとするが、今の弱々しい力ではオークの皮膚を貫くことすら難しいだろう。その時アーサーは思い出した。アイテムボックスの中にモニカの火魔法液が入っていることを。がさがさとアイテムボックスまさぐり火魔法液を取り出したアーサーは、藁にも縋る思いで矢じりにたっぷりとそれをつけて再び弓を引いた。
「モニカ…!お願いっ…僕たちを助けて…!!」
ひょろひょろと矢が弧を描いてオークの体にコツンと当たる。その瞬間、爆発音と共にオークの体が吹き飛んだ。
「…へ?」
「…グォォォォォ?!グァァァッ!!ガァッ…グアゥゥゥ…ッ!!」
予想以上の威力にアーサーはぽかんとしてしまう。オークが吹き飛ばされた弾みに口から吐き落とされたアデーレも、横腹が欠損して悶えているオークを見て口をあんぐり開けていた。ゆっくりと振り返りアーサーを見る。
「…アーサー…」
「はっ!だめだまだ終わってない!」
「!!」
王様オークがよろよろと立ち上がる。ぎろりとアーサーを睨み、怒りに満ちた声で唸っている。ぼたぼた緑色の血を流しながらアーサーめがけて走り出した。
「アーサー危ない!!」
襲い掛かるオークに、アーサーはもう一度弓を引いた。次は見切られたが、愚かなオークはその矢を掴んだ。再び爆発が起きてオークの手が吹き飛ぶ。爆風に巻き込まれたアーサーも遠くへ吹っ飛んでしまった。勢いよく地面に体を打ち付け全身に痛みが走る。
「ぐぁっ!」
(だめだ!威力が強すぎる…!火魔法はもう使わない方がいい。だったら…!)
肘から下を失ったオークは怒り狂い再びアーサーに襲い掛かってくる。アーサーは剣を握り、それに毒魔法液をドバドバとかけた。指輪のおかげで徐々に回復していたアーサーは、まだ完全には骨がくっついていない足でなんとか立ちあがり剣を構える。腕を大きく振りかぶったオークと間合いを詰め、足首を狙って剣を叩きつける。弱っているアーサーでは皮膚を破るだけでやっとで、剣は骨に届きすらしなかった。
「ぐっ…!」
「グォォァァア!!!」
「がぁっ…!」
アーサーは蹴り上げられ空高く飛ばされた。治りかけていた内臓がまたも損傷する。アーサーは咄嗟に毒魔法液の瓶をオークへ投げた。オークの額に直撃した瓶は割れ、毒魔法液が顔に飛び散った。目に入ったのかオークは「ギェァァァァ!!」と叫びながら目を手で覆っている。
落下する彼をアデーレが体で受け止めた。二人は地面に倒れこみぜぇぜぇと苦しい息遣いをしていた。アーサーは吐血しながら立ち上がる。
「アーサー!だめ!あなたひどい怪我よ!!これ以上動いちゃ…」
「アデーレ見て…っ、ガフっ…、オーク…毒効いてる…っ。はぁっ…はぁっ…」
「え…?」
アーサーが指さす先には、倒れこんでガタガタ震えながら吐血しているオークがいた。
「ギィィッ…グォァッ…グォォォ…ッ」
「さすが…モニカだよ…どこまで僕を助けてくれるんだろう…っ」
「オークが…弱ってる…」
「アデーレ…、イェルドとベニートにエリクサーを飲ませてあげて…。僕はここから弓でオークに毒を打ち込んで追い打ちをかけるから…」
「いいえ。撤退よ。あなただってひどい怪我なんだから」
「僕はもう大丈夫だよ…。指輪のおかげで破損した内臓もほとんど治った…。今もずっと回復してる…。だから大丈夫…。撤退するにしても、まずは応急処置をしなきゃ…。応急処置ができたらすぐにここから出よう。二人はきっと重症だから…。それまでは僕がここで足止めする…。その間にもいつオークが襲ってくるか分からないからね…。大丈夫。遠くからしか攻撃しないよ。危険じゃないから…」
「……」
アデーレはアーサーをじっと見た。確かに彼の傷は徐々に癒えている。それにアーサーの言う通り、一刻も早くイェルドとベニートに応急処置をしなければいけない。アデーレは頷いた。
「できるだけ早く処置するわ。それまで…お願い」
「うん…っ」
「無理させてごめんね。もしオークが襲ってきたらすぐに逃げて」
「うん。アデーレも…ベニートのところへ行くにはオークの近くを通らないといけない。毒で弱ってるとはいえ、危険なことには変わりないから…。アデーレ、死なないでね…お願い…」
「死なないわ。アーサーこそ死なないでよね?」
「僕は死なないよ…っ。だって…ベニートと約束したし…。それになにより…モニカが僕の帰りを待ってるんだもん…っ!」
全身ボロボロガタガタのアーサーがニカっと笑う。アデーレもニッと笑い、倒れている仲間の元へ駆けだした。
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