【完結】捨てられた双子のセカンドライフ

mazecco

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異国編:ジッピン後編:別れ

【306話】朝霧の声

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あやかしを目に映せるようになったアーサーは、持ち前の人懐っこさでレンゲとムクゲに話しかけていた。キラキラした目でぐいぐい話しかけられることに慣れていない座敷童は、はじめはなんとか受け答えしていたものの、少しずつあとずさりして最終的にモニカの後ろに隠れてしまった。

「あら。どうしたの?」

「きらきらまぶしい」

「喋るの疲れた」

それを聞いたモニカとキヨハルはクスクス笑った。アーサーは「あ!喋りすぎた?!ごめん!!」とあわあわしている。

「ごめんね。アーサーってみんなにあんな感じなの。悪気はないのよ」

「分かってる…」

「アーサー、気にしなくていいよ。この子たちは普段私や薄雪としか関わらないからね。少し驚いてしまったようだ」

「ごめんね…。ちょっとテンション上がっちゃって…」

「まったくよ。初対面であんなグイグイ来られたら誰だって驚いちゃうわ」

「うぅぅ…。ごめんなさい…」

「それにしても、蓮華と蕣はモニカによほど懐いているようだね」

「モニカは心地いい」

「ヌシサマみたいに清らかで」

「やわらかい」

レンゲとムクゲはそう言って、モニカの腕にそっと抱きついた。くんくんと匂いを嗅ぎ、腕に頬ずりをして心地よさそうに目を瞑る。

「やっと触れられた」

「ヌシサマに似た匂い」

「優しい匂い」

「分かるー!モニカっていい匂いするよねー!!僕もモニカの匂いだいすきなんだぁ」

「アーサー…、この子たちの言っている"匂い"は君の言う"匂い"と少し違うんだが…。まあ、確かにどちらの"匂い"も良いよねモニカは」

「な、なんだか照れちゃうよぉ…」

匂いを褒められたモニカはだんだんと恥ずかしくなってきた。匂いをくんくん嗅いでいる座敷童を引きはがし、頬を赤らめながらアーサーのうしろに隠れる。

「そ、それを言ったらアーサーだって良い匂いするよ!…今は血なまぐさいけどっ!いつもは良い匂いだよ!!」

「えっ!僕そんなに血なまぐさい?!」

「アーサーもいい匂い」

「モニカとはちがう匂い」

「悲しくなるほど綺麗で」

「美しい」

「えー、照れるなあ」

アーサーはにへらと笑い頭をかいた。モニカがじゃれてアーサーの頭に鼻をくっつけクンクンと嗅ぐ。「ん~!今は汗のにおいするー!!」「やめてよモニカぁ!…ちょっとお風呂入って来る!」と笑っていると、キヨハルが目じりを下げながら扇子をパチンと閉じた。双子と座敷童は体をびくつかせ、談笑を止めて彼を見る。

「アーサー、お風呂はこれが終わってから入りなさい。さて、では最後に朝霧の声を聞けるようにしてあげよう。モニカ、もしよければ君にも」

「ワーイ!!」

「やったぁ!!」

「…言っておくが、朝霧はとても騒がしいよ。生活に支障をきたすくらい…」

《おいぃ!!喜代春てめぇいらんこと言うんじゃねえよ!!さっさとこいつらに俺の声聞こえるようにしやがれクソがぁぁぁっ!》

「朝霧うるさい」

「声が大きい」

《うっせぇガキどもがよぉ!!》

ぎゃーぎゃーと騒いでいる朝霧に、あやかしたちは疲れたため息をついた。だが双子は朝霧の声が早く聞きたいようでソワソワしている。キヨハルはまたレンゲに煙管を吸わせてもらい、扇子に煙を吹きかけた。

「後悔しても知らないよ」

「っ…」

扇子の風がアーサーとモニカを撫でる。煙が彼らを包み、すぐに消える。消えた瞬間、双子は押し寄せる騒音に耳を両手で塞いだ。

《…ケコラ喜代春てめぇ後悔ってなんだよクソがよぉぉ!!》

「きゃっ」

「わぁっ!」

「…聞こえたかい?」

「うん…耳が痛い…」

《なんだとガキぃ!!俺様の声が聞こえるかモニカぁぁぁ!!》

「聞こえるからもう少し小さな声で話してぇ…」

《なんだとぉぉぉ?!俺の声がうるせぇってかぁ?!あぁん?!》

「わぁぁ…モニカに乗り移った時と同じで口が悪いよお…」

「朝霧。アーサーとモニカが困っている。そんな口をきいていたら嫌われてまた捨てられてしまうよ」

《なっ》

「捨てられる」

「愛想尽かされて」

《ぐぅぅっ…》

キヨハルの言葉(と座敷童の追い打ち)が効いたのか、朝霧がうめき声を漏らし押し黙った。そこにキヨハルがニヤニヤしながら追い打ちをかける。扇子で口元を隠しているが、眉の動きと目で表情が丸わかりだ。

「君が必死にモニカを助けようとしていたところから見て、随分彼女を気に入っているようじゃないか。もう大切なモノに手放されたくないだろう。だったら大人しくしていなさい。あとアーサーのことをガキと呼ぶのをやめなさい」

「そうよアサギリ!アーサーのことはちゃんとアーサーって呼んで!私のたいせつなお兄ちゃんなの!」

「僕は別に気にしてないけど…」

「だめよ!ほらアサギリ。アーサーのことちゃあんとアーサーって呼んで?」

《チッ…クソがぁ…》

「アサギリ?」

《…アーサー…》

「うん!えらいえらい!」

モニカはにっこり笑いアサギリを撫でた。子ども扱いされて気に入らないのか《ふぐぅぅぅ…》と呻いているが、ちゃんと褒められたことがなかったのか少し照れくさそうでもあった。

モニカはアサギリを鞘から抜いて改めて自己紹介をした。

「アサギリ!私モニカ!これからよろしくね!」

「僕アーサーだよ!よろしくね」

《…朝霧だ》

「えへへ。アサギリとお話できて嬉しいねアーサー」

「うん!この前はモニカの声だったから分からなかったけど、アサギリってそんな声をしてたんだね!かっこいい声だね!」

「うん!杖とはまた違った良い声をしているわ。この綺麗なワキザシにぴったりな声ね」

「うんうん!」

《…なんなんだこいつらはぁ…。調子狂うぜクソぉ…》

「ふふ。罵倒する理由が見当たらなくて戸惑っているね」

「朝霧褒められたことない」

「冷たくあしらわれてた」

「だから嬉しい」

「照れてる」

《うっせぇぞオメェら!!そんなんじゃねぇやい!!》

◇◇◇

「これで私からの礼は渡し終えたかな。お金は明日にでもよろず屋へ行って受け取りに行っておいで」

「はい!」

「私は当分屋敷から出られない。君たちに助けてもらったとはいえまだ弱っているからね」

「アルジサマ…」

「…お香と煙管の煙がないと」

「姿がヒトの目に」

「蓮華、蕣。余計なことは言わないように」

「?」

《……》

モニカには座敷童の言っている意味が分からなかったが、朝霧はすぐに分かった。あやかしであるキヨハルがヒトの目に映るには相当な妖力を必要とするようだ。今いる部屋では香と煙管の煙、床に敷き詰められたムクゲの桜の花びらでかろうじて映っていたが、一歩外に出ると画家たちやノリスケの目には映らなくなってしまうのだろう。

《はん。やっぱりおめぇは薄雪より格下だな》

「彼と比べないでくれ。アレは別格なんだから」

「…やっぱりキヨハルさんって…」

「ん?」

「ううん、なんでもない!」

座敷童のことば、朝霧とキヨハルの会話を聞き、アーサーは確信した。キヨハルにはあやかしの血が流れている。今の状態では普通のヒトの目に姿が映らないのだと。

(…でも、あやかしの血が流れてたってキヨハルさんはキヨハルさんだし。別にこんなこと聞く必要ない)

ちらりとアーサーがキヨハルに目をやると、彼はアーサーのことをじっと見ていた。アーサーはビクっとして慌ててキヨハルから目を逸らす。キヨハルはしばらくアーサーの様子を伺い、くすりと笑った。

「君は本当にかしこいね、アーサー」

「え?」

「なんでもないよ。…アーサー、モニカ。くれぐれもカユボティとヴァジー、ノリスケに蓮華と蕣の存在を話さないように。あやかしを目に映すことができないヒトがあやかしと関わるとろくなことにならないからね。私は彼らを危険な目にあわせたくないんだ。だから、頼んだよ」

「ワカッタ!」

「うん!」

「いい子だね。ではそろそろ自分たちの部屋に戻りなさい。きっとカユボティとヴァジーが心配しているだろうから。私のことは2日ほど寝込むと伝えておいて」

「うん」

アーサーとモニカが立ちあがり部屋を出ようとしたとき、キヨハルが小さな声で二人の名前を呼んだ。

「アーサー、モニカ」

「ん?」

「助けてくれてありがとう。この恩は忘れないよ」

「ウウン!!」

「それより早く元気になってねキヨハルさん!」

「マタ イッショニ オデカケ シヨ!」

「ふふ。そうだね」

「そのときはレンゲとムクゲもね!」

「!」

「カユボティとヴァジーにバレないように、こっそりね!」

「…うん」

「楽しみ」
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