【完結】捨てられた双子のセカンドライフ

mazecco

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初夏編:田舎のポントワーブ

【362話】夢中になったら止まれない

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ダイアウルフを討伐した翌日から、カミーユたちと双子はまったりと田舎暮らしを楽しんだ。家でいるとき、カトリナは一人掛けのソファに座りレース編みをしており、ジルは難しそうな本を読んでいる。カミーユは葉巻を吸いながら書類になにか書きこんでいて、リアーナはプラム酒を飲みながら魔法の基礎練習をしていた。普段の彼らはいつもこんな風に休日を過ごしているのかと思いながら、アーサーとモニカはもくもくとエリクサー作りに勤しんだ。

「おいモニカ!」

「ん?」

スライムに回復魔法をかけているモニカの隣にリアーナがドスンと座った。

「それ、回復魔法かけてんだよな!あたしもやりたい!!」

「わ!やろうやろうー!!」

「おいおい。お前の回復魔法じゃエリクサーなんか作れねえだろ」

「んなこと分かってるよ!回復魔法の基礎練にちょうどいーなーって思ってさ!ほら、あたしもともと苦手だったのに魔物の血が濃くなったから余計使いにくくなっただろお?定期的に練習しとかねーと使えなくなっちまいそうでさ」

「リアーナって本当に基礎練習好きだよね」

「案外真面目なのよねェ」

「ったく。そんな深く考えなくていいっつってんだろ。今はエリクサーがあるんだからお前が回復魔法使えなくなったってかまわねーんだよ」

カミーユはハァ…とため息をつきながらリアーナの頭をポンポンと軽く叩いた。リアーナは泣きそうなムスっとしているような複雑な表情をしている。微妙な空気に耐えられず、モニカはいつも以上に明るい声を出した。

「あのね!ユーリのお店に置いてるポーション、いっつも在庫切れになっちゃって困ってるって言ってたの!!だからリアーナが少しでも作ってくれたらとっても助かるわ!きっとアーサーがリアーナの回復スライムにぴったりの調合をしてくれて、良いポーションができると思うの!」

「うん!僕、リアーナのために調合がんばるよ!ユーリもきっと助かるし、嬉しい!」

双子の笑顔と励ましに、リアーナはパッと笑顔になった。

「おう!アーサー!いいポーションに仕上げてくれよな!!」

「もちろん!」

それからリアーナは、モニカに教えてもらいながらスライムに回復魔法と時魔法をかけた。回復魔法はユーリに若干劣る程度だったが、時魔法はモニカよりずっと上手だった。単純作業が性に合うのか、リアーナは夢中になって回復液を量産していく。モニカが疲れて休憩している間もずっと続けていたので、その分の薬を調合しなければならないアーサーは内心焦っていた。

夕飯時になっても次々とスライムに回復魔法をかけていくリアーナにたまりかねて、アーサーはカミーユを外へ連れ出しヒソヒソと耳元で助けを求めた。

「カ、カミーユぅ!!リアーナどうしちゃったの?!朝からずーっとあの調子だよ?!繁殖しすぎて困ってたスライムが良い感じの数にまで減っちゃったよ!!」

「あー…。あいつ、夢中になるとやめられねえタチなんだよ。意外とモクモクと地味な作業してるのが好きらしくてな。休日はずーっと魔法の基礎練やってるくらいなんだ。基礎練しながらポーションまで作れちまうなんてあいつにとっちゃ楽しくてしょうがないんだよ。魔力量がバケモンだからタチ悪いよなあ。放っといたら朝までやるぞ」

「ひぃぃぃっ…」

「なんだアーサー。やめさせたいのか?」

「や、やめさせたいわけじゃないんだけど、薬調合が間に合わないんだ…。リアーナ、モニカよりペースがはやいし、モニカよりも作業時間長いからどんどん増えていっちゃって…」

「ねえ、アーサー」

「ひっ?!」

声がして振り返ると、玄関のドアからジルが覗いていた。

「そのことだけど、僕に良い案があるんだ」

「えっ?!僕たちの会話家の中まで聞こえちゃってた?!ヒソヒソ話してるのに…」

「ううん。僕にしか聞こえてないよ。僕はかなり耳がいいから」

「そ、そっか…」

ホッと胸を撫でおろしたアーサーに、ジルがあることを提案する。

「アーサー。リアーナの回復液に調合する薬のレシピはできた?」

「うん。レシピはできたよ。結構良い出来になった!」

「そう。良かった。あのさ、僕にそのレシピ教えてくれない?」

「え!手伝ってくれるの?!」

「うん。ずっと薬調合に興味があったんだ。パーティーに薬師がいると助かるでしょ。でもいちから勉強する時間はないから、せめてリアーナと僕でポーションを作られるようになればいいなって思って」

ジルの提案にアーサーは大喜びした。リアーナのポーション作りを手伝ってくれることもだが、なによりずっとお世話になっていたジルの役に立てることが一番嬉しかった。

「もちろんいいよ!!うれしい!!」

「よかった。調合なんてしたことないから教えるの大変だろうけど、よろしくね」

そんなことを言っていたのに、はじめてとは思えないほどジルは調合が上手だった。薬素材のすり潰しも丁寧で、調合量は少しのブレもなくぴったり合わせてくる。しかも調合速度も申し分ない。

「すごい…!ジル、本当にはじめてなの?!上手すぎるよ!」

「そうかな。アーサーに教えてもらったとおりにやってるだけなんだけど」

「それが難しいんだよ!なのにジルってば完璧なんだもん!」

「アーサーの教え方が上手なんだよ。丁寧に教えてくれるし、質問にも的確に答えてくれる。助かるよ」

ジルに褒められ、アーサーはポポポと頬を赤らめた。照れくさくて体をモゾモゾ動かしている。そんな彼を見てジルはクスっと笑い、薬調合に戻った。

モニカはリアーナと、アーサーはジルと一緒に作業をしていたため、普段以上にたくさんエリクサーを作ることができた。双子が作り終えても、リアーナがやめないのでジルもやめられない。相当な時間調合しているのに、ジルはしんどそうな顔ひとつせず薬をすり潰していた。

そんな彼らを眺めていたカトリナは、編み終えたレースをテーブルに置きプラム酒を飲んだ。向かいで葉巻を吸っているカミーユと目が合い、二人はフッと笑った。

「なんだか良いわねェ」

「リアーナとジルはこういう貪欲さが強みだよな。現状で満足しねえんだよいつまでも」

「相手が子どもであっても教えを乞えるの、素敵よね」

「あいつらにものを教えられる子どもがいるのが驚きだがな。まったく、とんでもねえぜアーサーとモニカは」

「私もアーサーに教えてもらおうかしら」

「何をだ?」

「カミーユのいびきを聞きながら熟睡する方法」

「ブッ!!」
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