【完結】捨てられた双子のセカンドライフ

mazecco

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初夏編:一家でトロワ訪問

【379話】なんでもない

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昼過ぎの食堂では、いつも子どもたちがエリクサーの薬素材とポーション作りに励んでいる。アビーとモニカが来たことを知り仕事をほったらかしにしたのか、テーブルには調合途中の薬素材や中途半端に魔法がかかったスライムがあった。たった二人、イチとポルだけが黙々と作業をしている。

子どもたちと双子が食堂に入って来たことに気付いた二人は顔を上げた。ポルは双子がアヴルから連れてきた子どもで、衝突はあったものの最終的にはアーサーにとても懐いていた。この日もアビーの姿を見るとそろそろと立ち上がり彼女の元へ近づいた。アビーはしゃがんで彼と目を合わせ、ニッコリ笑って挨拶をする。

「こんにちはポル。久しぶりね」

「おんなことばやめて」

「…久しぶり、ポル」

「…うん」

ポルはアーサーと亡くした父親を重ねていた。アビーではなくアーサーのことが好きなので、女言葉で話されるのをいやがり、二人っきりのときは男性の姿になることをおねだりされる。アビーがポルの頭を撫でると、照れくさそうに抱きついた。

「……」

「?」

一方イチは、二人が入ってきても調合をやめなかった。だがモニカがイチの隣に座り「イチ!久しぶり!」と声をかけると、めんどくさそうにモニカに顔を向けた。モニカの顔をやっと見たイチは、ぽかんと口をあけて間抜けな表情をした。

「どうしたの?」

「…なんかいつもとちがう」

「あ!分かったぁ?今日はお母さまにお化粧をしてもらったの!」

「……」

「ど、どう?似合ってる?」

「…いつものほうがいい」

「ええー!!うそぉ!」

「落ち着かない。その、なんていうか、…なんでもない」

「なになに?!気になる!!」

「なんでもない」

イチはそう言ってまた調合を再開したが、動揺しているのか素材が入った瓶の中身をテーブルにぶちまけてしまった。もとに戻すのをモニカも手伝っていたが、イチは顔を赤らめたまま一向に彼女から目を逸らしている。モニカはイチに違和感を抱き、しつこく声をかけた。

「ねぇー、今日のイチなんだか変じゃない?どうしたのー?」

「なんでもない」

「あれ?イチ顔赤いよ。風邪かなぁ?」

モニカがイチの両頬に手を添え、イチの額に自分の額を当てた。イチはびくりと体を強張らせていたが、それに気付かないモニカはぐりぐりと額を押し付けてくる。

「うーん、熱はないみたい。どうしてだろうー」

「……」

「うーん」

モニカはそのまま勝手に触診を始めてしまった。額に手を当てたり、イチの瞼の裏を確認したりとフリーズしていることを良いことにやりたい放題だ。口の中に指を差し込もうとしたとき、イチが珍しく大きな声をあげた。

「お、おまっ!おまっ!!やめろぉ!」

「えっ?あ、ごめん!手洗ってくるね!」

「ちっげぇぇぇ。そこじゃねぇぇぇ」

「あっ、そ、そうよねっ。ごめんなさい私気付かなくって…」

「…分かったならいいけどさ…」

「洗ってもバイキン完全には落ちないもんね。なにか棒で…」

「ちげぇぇぇ…」

イチは困り果ててアーサーに視線を送った。いつもであれば、こんなに近い距離で触れ合っていたらアーサーが飛んで止めにくるはずだ。だが残念なことにアーサーはポルを甘やかすことに夢中でこちらの様子に気付いていない。イチは仕方なくモニカの肩を掴んで引き離した。

「あれ?わたしもしかしてイチを怒らせちゃうようなことしちゃった…?」

強い力で引き離されたモニカは、不安げにイチに尋ねた。イチはため息をつきながら頭を掻く。

「ちがう。そんなんじゃない。ちょっと今日のおまえいつもと違うから、こんな近い距離でいられると変な感じするからやめて」

「変な感じ?変な感じってなあに?」

「はぁ…。自覚ないってこえぇ」

「自覚?なんの自覚?」

「なんでもない」

それからのイチは、モニカがなにを尋ねても「なんでもない」の一点張りだった。相手にしてもらえなくなったモニカはぷぅと頬を膨らませ、「お話してくれないなら他の子たちに魔法教えてこよーっと」と言って数歩離れた。振り返り彼の反応をうかがうと、イチはヒラヒラと手を振って「はやく行ってください」と返した。

「むぅぅ!イチのばかぁ!久しぶりに会えたんだからもっとお話してくれたっていいじゃない!むぅぅっ!!」

「その化粧落としたあとなら相手する」

「そんなにこのお化粧似合ってないのぉ?!すっごくかわいくなってると思うんだけどなあ…。もう、本当に行くからね!」

「はやく行ってください」

「ふん!!お風呂入ったあと、イチの部屋行くから!!」

「やめて。アーサーに殺される。食堂でならいいよ」

「やったー!じゃあ夜に食堂でお喋りね!約束ね!」

「分かったからはやく行ってください」

モニカはイチにベーっと舌を出してから、子どもたちに魔法を教えに行った。モニカが遠くへ行ったことを確認してからイチが立ちあがりアーサーに近づく。ポルをだっこしていたアーサーは、イチの顔を見て苦笑いをした。

「モニカのお化粧、そんなに似合ってないかなあ?」

「あ、聞こえてた?」

「途中からね。お化粧を落としたら話し相手になってあげるって君が言ってた当たりくらいから」

「ああ、そうなんだ」

「僕はあのお化粧かわいいと思うけどなあ。今日のモニカすっごくかわいいと思うけど…」

「俺もそう思う」

「えっ?!」

「かわいすぎて…落ち着かなかったから」

イチは口元に手を当ててモゴモゴと呟いた。アーサーは間抜けな顔をしたあと、嬉しそうに笑った。

「なあんだ!よかったー!!イチも今日のモニカのことかわいいと思ってくれてたんだねー!!」

「ちょ、おい!声でかい!」

「ドキドキしちゃったのー?分かる、僕も今日のモニカ見てたらドキドキするー!!」

「静かにしてくれない?!」

「いつものモニカもかわいいけど、今日のモニカはもっともっとかわいいもんね!!」

「わざと?!わざとしてるのそれ?!」

「ところで、夜は僕も一緒にお喋りしにいっていいー?」

「それは別にいいけど…」

「よかったー!!なんだか分からないけどモニカと君が夜に二人でおしゃべりするって聞いて胸がザワザワしちゃってたから安心したー」

「だから俺とモニカはそういうのじゃないって…」

「そういうのってどういうのぉ?」

このときイチが思ったことはひとつ。"自覚のない人めんどくせーーーー"。

イチは喉まで来ていた言葉を必死に飲み込み、唸るようにこう答えた。

「なんでもない…」

その日の夜、イチと双子はミルクを飲みながらゆっくりとお話をした。トロワの子どもたちがどんどんとポーション作りが上手になっていることを聞き双子はとても喜んだ。深夜にポルが食堂にやってきて、アーサーと一緒に寝たいと駄々をこねたので、その日はお開きとなった。
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