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魂魄編:闇オークション
白金貨の殴り合い
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「亡命後、フィールディング騎士がどうなったのかは分かりませんわ。ですが突然ひょっこり、こちらのペンダントが現れました。魔物の魂魄を調べた結果、確かにこの魂魄は、非常に強力な吸血鬼の魂魄であり、200年もの間生きていたことが分かりました。200年前から生きている強力な吸血鬼なんて、フィールディング元騎士以外で考えられません」
なんて説得力に乏しいんだろう、とロイアーサーは感じたが、闇オークションではこの特定方法で充分らしい。観客は、もう説明はいいから早く競りを始めてくれと言いたげに、体をソワソワ揺さぶらせている。
彼らを見て、ロイアーサーは苦笑いをした。
「騙されてるとか思わないのかな、彼らは」
「ルリンの家は、魔物魂魄に関してはかなり信頼度が高いからな。今まで出品してきた魂魄の実績も、闇系の貴族の中で群を抜いてる」
タールが応えると、ロイアーサーは「ふーん」と無関心な相槌を打った。
「貴族なんてやめて魂魄屋さんにでもなればいいのに」
◇◇◇
ペンダントの競りが始まった。始まりの値は、白金貨700枚。ハーフエルフの少女よりも200枚高い値だ。
平民では到底出せない金額なのは当然だが、貴族にとってもなかなか勇気のいる値だったようで、競りのペースが遅い。観客はみな、うんうん唸りながらじわじわと値をあげていった。
「な、710枚」
「……」
「715枚」
「720枚」
「……」
「725枚」
「……」
「730枚」
「おいモニカ」
「はぇ!?」
競りをオロオロと眺めていたモニカにタールが声をかけた。
「競り、参加しないと落とせないぞ」
「だ、だって、こんなことしたことないんだもん……」
「お前がおろおろしてる間にも、どんどん値が上がってるぞ。ほら、もう白金貨1000枚になった」
「ひぃぃ……」
タールはニッとして、モニカの耳元で囁く。
「モニカ、こういうときはドカッと金額を上げて、他のやつらをビビらせるといいぞ」
彼のアドバイスにモニカは頷き、意を決して手を上げた。
「い……1万枚!!」
「はあ!?」
そこまで上げろなんて言ってねえよ!とタールがドン引きしている。
観客もルリンも、あんぐりと口を開けて静まり返った。
「1万枚……?」
「誰? 国王陛下?」
「いや、子どもの声だったような……」
「なんだ、冷やかしか?」
「あ……あれ……?」
会場の空気が凍り付いたのを感じて、モニカはオロオロしながら手を引っ込めた。そんな彼女に、タールが耳元で喚き散らす。
「おぉぉぉいい!! お、おま、おまえっ、後先考えないやつだなっ! ど、ど、どど、どうすんだよこのあと! っていうかちゃんと持ってんだろうな!? 白金貨1万枚!?」
「う、うん……。白金貨10万枚は持ってるけど……」
「はああああ!?」
「だめだったかな……?」
モニカの所持金に、タールは目が飛び出そうなほど驚いている。
本当は、トロワに施設を建てるためにアーサーと二人で貯めていたお金だ。
だが、今はそんなことを言っていられない。
(所持金がスッカラカンになったって、絶対にペンダントを取り返す……!)
非常識なまでに急激に引き上げられた値に静まり返る会場。
だが、ひとりの男性が手を上げる。
「1万1000枚」
再びどよめく客席。手を上げた男性とは、当然ながら国王だった。
「国王陛下がとうとう競りにご参加なさった……」
「1000枚上乗せなんて……。容赦なしね」
観客が囁き合う中、モニカは国王をキッと睨みつける。
(絶対に……わたしが競り落としてやるんだから!)
「い、1万2000枚!」
手を上げたモニカと国王の目が合った気がした。2階に座っている国王は、モニカを一瞥して無表情で再び手を上げる。
「1万5000枚」
「に……2万枚!」
どんどん金額が上がっていく。
始めの方は、他の貴族も競りに参加していたが、白金貨5万枚を超えてからは、モニカと国王の一騎打ちになった。
「モニカ……。白金貨10万枚あったって、さすがに国王には勝ち目がないんじゃないのか?」
タールの言葉にモニカは言葉に詰まる。だんだんと苦しくなっていく値に、モニカは参っているようだ。
「モニカさん。不安になってる余裕なんてないよ。このまま黙っていたら落札されてしまう。とにかく、ちびちび金額を上げて時間稼ぎをしよう」
ロイアーサーが、元気づけるようにモニカの背中をさすった。モニカは頷き、どうしたらいいのか分からないまま、値を上げる。だが、国王は易々とそれより上の値をつけた。
「は……8万枚……!」
「8万5000枚」
「ひぅ……。8万6000枚……っ」
「9万枚」
「ひぃぃん……9万1000枚……」
「9万5000枚」
いよいよモニカの所持金に届いてしまいそうだ。モニカは半泣きになりながら「9万6000枚」と手を上げるが、すぐに国王が「10万枚」の値を付けた。
「あああ……だめ……。これ以上は無理だわ……ど、どうしようロイぃぃ……」
とうとうモニカが手を上げられない金額まで来てしまった。ロイアーサーも額から汗を流している。
「うーん。まずいね。いよいよここにいるアパンを全員殺すしか方法がなくなってきたな……」
「だ、だめに決まってるでしょお!?」
「でも……そうでもしないと国王にお父さまを競り落とされちゃうよ」
「そんなのいやあ!」
モニカとロイアーサーの会話を聞いていたタールが、大きなため息をついた。
「はあー……。仕方ないな。俺の金も使っていい。って言っても、俺が出せるのは3万枚くらいだけど。つまり、焼け石に水だ」
「ありがとう……タール……」
「その代わり、ロイにこう言ってくれ。これで時間稼ぎしてる間に、いい方法考えろって。もちろん殺しはなしにしてくれよ」
「分かった! 聞こえてたよね? ロイ」
「はあ……。分かったよ。タールがここまで頑張ってくれるなら、僕も少しは考えないとね」
なんて説得力に乏しいんだろう、とロイアーサーは感じたが、闇オークションではこの特定方法で充分らしい。観客は、もう説明はいいから早く競りを始めてくれと言いたげに、体をソワソワ揺さぶらせている。
彼らを見て、ロイアーサーは苦笑いをした。
「騙されてるとか思わないのかな、彼らは」
「ルリンの家は、魔物魂魄に関してはかなり信頼度が高いからな。今まで出品してきた魂魄の実績も、闇系の貴族の中で群を抜いてる」
タールが応えると、ロイアーサーは「ふーん」と無関心な相槌を打った。
「貴族なんてやめて魂魄屋さんにでもなればいいのに」
◇◇◇
ペンダントの競りが始まった。始まりの値は、白金貨700枚。ハーフエルフの少女よりも200枚高い値だ。
平民では到底出せない金額なのは当然だが、貴族にとってもなかなか勇気のいる値だったようで、競りのペースが遅い。観客はみな、うんうん唸りながらじわじわと値をあげていった。
「な、710枚」
「……」
「715枚」
「720枚」
「……」
「725枚」
「……」
「730枚」
「おいモニカ」
「はぇ!?」
競りをオロオロと眺めていたモニカにタールが声をかけた。
「競り、参加しないと落とせないぞ」
「だ、だって、こんなことしたことないんだもん……」
「お前がおろおろしてる間にも、どんどん値が上がってるぞ。ほら、もう白金貨1000枚になった」
「ひぃぃ……」
タールはニッとして、モニカの耳元で囁く。
「モニカ、こういうときはドカッと金額を上げて、他のやつらをビビらせるといいぞ」
彼のアドバイスにモニカは頷き、意を決して手を上げた。
「い……1万枚!!」
「はあ!?」
そこまで上げろなんて言ってねえよ!とタールがドン引きしている。
観客もルリンも、あんぐりと口を開けて静まり返った。
「1万枚……?」
「誰? 国王陛下?」
「いや、子どもの声だったような……」
「なんだ、冷やかしか?」
「あ……あれ……?」
会場の空気が凍り付いたのを感じて、モニカはオロオロしながら手を引っ込めた。そんな彼女に、タールが耳元で喚き散らす。
「おぉぉぉいい!! お、おま、おまえっ、後先考えないやつだなっ! ど、ど、どど、どうすんだよこのあと! っていうかちゃんと持ってんだろうな!? 白金貨1万枚!?」
「う、うん……。白金貨10万枚は持ってるけど……」
「はああああ!?」
「だめだったかな……?」
モニカの所持金に、タールは目が飛び出そうなほど驚いている。
本当は、トロワに施設を建てるためにアーサーと二人で貯めていたお金だ。
だが、今はそんなことを言っていられない。
(所持金がスッカラカンになったって、絶対にペンダントを取り返す……!)
非常識なまでに急激に引き上げられた値に静まり返る会場。
だが、ひとりの男性が手を上げる。
「1万1000枚」
再びどよめく客席。手を上げた男性とは、当然ながら国王だった。
「国王陛下がとうとう競りにご参加なさった……」
「1000枚上乗せなんて……。容赦なしね」
観客が囁き合う中、モニカは国王をキッと睨みつける。
(絶対に……わたしが競り落としてやるんだから!)
「い、1万2000枚!」
手を上げたモニカと国王の目が合った気がした。2階に座っている国王は、モニカを一瞥して無表情で再び手を上げる。
「1万5000枚」
「に……2万枚!」
どんどん金額が上がっていく。
始めの方は、他の貴族も競りに参加していたが、白金貨5万枚を超えてからは、モニカと国王の一騎打ちになった。
「モニカ……。白金貨10万枚あったって、さすがに国王には勝ち目がないんじゃないのか?」
タールの言葉にモニカは言葉に詰まる。だんだんと苦しくなっていく値に、モニカは参っているようだ。
「モニカさん。不安になってる余裕なんてないよ。このまま黙っていたら落札されてしまう。とにかく、ちびちび金額を上げて時間稼ぎをしよう」
ロイアーサーが、元気づけるようにモニカの背中をさすった。モニカは頷き、どうしたらいいのか分からないまま、値を上げる。だが、国王は易々とそれより上の値をつけた。
「は……8万枚……!」
「8万5000枚」
「ひぅ……。8万6000枚……っ」
「9万枚」
「ひぃぃん……9万1000枚……」
「9万5000枚」
いよいよモニカの所持金に届いてしまいそうだ。モニカは半泣きになりながら「9万6000枚」と手を上げるが、すぐに国王が「10万枚」の値を付けた。
「あああ……だめ……。これ以上は無理だわ……ど、どうしようロイぃぃ……」
とうとうモニカが手を上げられない金額まで来てしまった。ロイアーサーも額から汗を流している。
「うーん。まずいね。いよいよここにいるアパンを全員殺すしか方法がなくなってきたな……」
「だ、だめに決まってるでしょお!?」
「でも……そうでもしないと国王にお父さまを競り落とされちゃうよ」
「そんなのいやあ!」
モニカとロイアーサーの会話を聞いていたタールが、大きなため息をついた。
「はあー……。仕方ないな。俺の金も使っていい。って言っても、俺が出せるのは3万枚くらいだけど。つまり、焼け石に水だ」
「ありがとう……タール……」
「その代わり、ロイにこう言ってくれ。これで時間稼ぎしてる間に、いい方法考えろって。もちろん殺しはなしにしてくれよ」
「分かった! 聞こえてたよね? ロイ」
「はあ……。分かったよ。タールがここまで頑張ってくれるなら、僕も少しは考えないとね」
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