【完結】捨てられた双子のセカンドライフ

mazecco

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魂魄編:ピュトア泉

本当のさよなら(アーサー)

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《アーサー、聞いてくれるかい》

《ん……》

《私は、本当に愛していた者を守れたことがなかった》

《……》

《ミモレスは、本当は王族に嫁ぎたくなどなかった。ピュトア泉で、私と共に過ごしたいと願っていた。だが、私にはどうすることもできなかったんだ。私は彼女を守ることができず、むしろ守られてしまった》

 ミモレスの記憶を持っているアーサーは、そのときのことを鮮明に思い出すことができた。

 今から約200年前、ピュトア泉で静かに暮らしていたミモレスとセルジュの元に、王族に仕える神官と、幼い王子が訪れた。彼らはミモレスとセルジュを脅して、無理矢理二人を引き離した。

 ミモレスには、フィールディング騎士である彼を、命を狙っているヴァランス国に差し出すと。
 そしてセルジュには、ミモレスが吸血鬼と愛を育んでいる、不貞な聖女であることを世間に広めると。

 二人は互いを守るため、離れ離れになることを選んだ。

 アーサーはその後のミモレスのことも知っていた。彼女は王族に嫁いだあとも、死ぬまでセルジュを愛していた。彼女にとって、セルジュが生きてくれているだけで幸せだった。

だが、セルジュにとっては、己のせいで王族に弱みを握られてしまったことを、彼女を失い約200年経った今でさえ、ひどく悔いているようだった。

《ロイは、生まれてから死ぬまで薄汚い貴族共に弄ばれた。そんな彼を甘やかすことでしか、愛情を表現することができなかった。私は彼を守ることができず、狂わせてしまった。そのせいで彼は命を落とした。すべて私の落ち度だ》

それはちがうよ、とアーサーは口は挟もうとしたが、セルジュがそっと彼の口を塞ぐ。

《だが私は、どうやら君のことを守ることができたようだ》

《先生……》

《200年かかってできなかったことを、まさか体を失ってからできるとは思わなかった。ありがとうアーサー。これで、私は心置きなく消えることができる。この生になんの悔いもない。そう思わせてくれたのは、君だよアーサー》

セルジュの頬に一筋の涙が伝う。だが、その表情は憑き物が落ちたようにすっきりとしていた。

《愛しているよアーサー。ミモレスの生まれ変わりだからではない。君自身を愛している。そんな君を、守らせてくれてありがとう》

そう言って、セルジュはアーサーの頬にキスをした。
体を離したアーサーは、照れくさそうにはにかんでいる。
そんな彼がかわいらしくて、セルジュはもう一度少年を抱きしめた。

何度か深呼吸をして冷静になってから、落ち着いた口調で少年を諭す。

《……アーサー、ひとまずは、私のことは忘れなさい。ミモレスの記憶によるところが大きいとはいえ、魔物の魂魄に恋をする青少年がいるかい? どうせなら可愛い女の子にしなさい。君の容姿と性格であれば引く手数多だろう。グレンダだって、君のことが好きだとロイが言っていたよ》

《ど、どうして今そんなこと言うのぉ……? た、確かにグレンダには告白されたけど、断ったよ。それに僕にはモニカがいるし》

《なるほど。叶わない相手だからこそ思う存分恋をできたというわけか。ふふ》

《わ、笑わないでよぉ》

意地悪ばかり言うセルジュにアーサーは頬を膨らませ、ぽかぽかと叩いた。セルジュは微笑むだけで止めようともしない。

ひとしきり叩かせたあと、彼は真剣な目をしてアーサーに言って聞かせる。

《言うまでもないが、モニカは君を守るために今回かなり身を削っていたよ。だから意識が戻ったときは、モニカをめいいっぱい大切にしてあげるんだよ》

《うん、約束する。……先生、僕、魔物に憑依されたときにモニカにひどいことしちゃった……》

《そんなことモニカは気にしていないさ。君が人として戻ってきてくれるだけで、彼女は喜ぶ。それだけでいい》

《うん……。それに、ロイも僕を守ってくれてたんでしょ? お礼言いたいなあ……》

《残念ながらロイはモニカのことで頭がいっぱいで、君と話す余裕はないみたいだよ》

《そっかあ。じゃあ、ロイが生まれ変わった時にお礼言わなきゃね》

《そうしてあげなさい》

アーサーは小さく頷き、最後にもう一度セルジュに腕をまわした。

《……先生。僕を守ってくれて、ありがとう》

《アーサー。私に守らせてくれて、ありがとう》

《だいすきだよ》

《私も愛しているよ》

《……さようなら、先生》

《さようなら、アーサー》

アーサーの体の中に、淡い光の雨が降り注ぐ。その雨が触れた場所は清められ、だんだんと視界が澄んでいく。

雨がセルジュの魂魄を濡らす。聞き覚えのある蒸発音と共に、徐々に魂魄が消えていく。

アーサーは最後まで、セルジュの魂魄を離さなかった。
魂魄が消えてもしばらくの間、なにもなくなってしまったものを、抱きしめていた。

◆◆◆
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