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北部編:イルネーヌ町

クルドパーティの役割

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一方マデリアとモニカは、オーガに睡眠魔法をかけて眠らせていた。途中で起きてしまわないよう、たっぷりと魔力を込めて魔法を放つ。

「へえ、あなたの睡眠魔法、かなり質がいいのね。オーガにも通用するなんて」

「えへへー」

 魔法を褒められて、モニカがへにゃんと笑顔になる。
 マデリアはそんな彼女をちらりと見て、微かに口角を上げる。

「少しは、私たちのことが怖くなくなった?」

「……うん。ごめんね。良い人たちだっていうのは分かってるんだよ。でも」

「ええ。私も、分かっているわよ。怖い目に遭うとね、誰も信じられなくなるのよ」

「……」

「特にあなたは、一番信頼していたカミーユパーティに不信感を抱いてしまった。そりゃ、誰のことも信じられなくなるわ」

 モニカは肩を落として、昨日と同じ質問をする。

「……マデリア。本当に、あの人はジルじゃないの?」

「ジルじゃないわ。でもそれは本人の口から聞きなさい。きっとジルも、自分で話したいだろうから」

「うん……」

 オーガ十五体に睡眠魔法をかけ終え、マデリアが杖を下ろす。そして、モニカの背中をぽんぽんと叩き、彼女の短くなった髪を指で梳く。

「モニカ」

「ん?」

「あなたの知られたくない過去を、私は知っているわ」

「……」

「だから、私も人に知られたくないことをあなたに見せる」

 しゃがんでモニカと視線を合わせたマデリアは、長い前髪で隠していた右目を見せた。

「あ……」

 彼女の右目は、黄色の左目とは違い、赤い瞳をしていた。違うところは瞳の色だけではなかった。瞳孔が、猫のように細い。その上、髪に隠れていた右側の、頬骨から額にかけての肌の色がやや濃く、ところどころに縫い目があった。
 どう反応して良いか分からないモニカは、彼女の右目をじっと見つめることしかできなかった。

「びっくりしたでしょう? 実はここだけじゃないの。体中にこういった傷があるの、私。手もね、ほら」

 マデリアが左の手袋を外すと、鋭い爪を持つ青白い手があらわになった。そして手首にも縫い傷がある。

「マデリア……これは……?」

「私が子どもの頃、あまりに美しい容姿のせいで人さらいにあったの。闇オークションに出された私は、白金貨七千枚で大貴族に買われたわ。そして私を買ったそいつらは……私を散々慰めものにした挙句、実験台にしたの」

「……」

「あなたたちには及ばないけど、私も生まれながらにして基礎能力値と魔法能力が格段に高かった。だから、何をされても死ななかった。目玉をくり抜かれて魔物の目玉に入れ替えられても、手首を切断されて魔女の手をくっつけられても、ね」

 マデリアの恐ろしい過去に、モニカはブルブルと震えた。

「そ……そんな、ひどいことを……。そんなこと、わたしたちでもされたこと……」

「モニカ、こんなことをされている子どもたちは、実はかなり多いのよ。私は運良くその地獄から抜け出せたけど、死ぬまでおもちゃにされる子が大半」

「マデリアは、どうやって抜け出せたの……?」

「サンプソンが助けてくれたの。彼、女好きでちゃらんぽらんに見えるけど、誰よりも正義感が強くて、優しく、〝闇〟系に手を出す貴族を憎んでいるわ」

「サンプソンが……」

 正直に言うと、モニカはクルドパーティの中で、軽薄そうで腹の内が見えないサンプソンが、一番信用できないと思っていた。彼女は泣きそうな顔で、マデリアの青白い手を握る。

「マデリア。見せたくないものを、私に見せてくれてありがとう。マデリアもたくさん辛い思いをしてきたんだね」

「私がS級冒険者になった理由はね、私のような目に遭っている人たちを一人でも減らすためよ。私たちが貴族専門のS級冒険者をしているのは、指定依頼を受けて彼らの屋敷内に入りこみ、おもちゃがいないか確認するためでもあるの。おもちゃがいたら、お金の代わりに報酬としてその子たちをもらい、私たちが運営している養護施設で生活をさせているの。これは、私とサンプソンの我儘に、クルドたちが賛同してくれてやっていること」

「そうだったんだね。ごめんね。わたし、あなたたちのことを勘違いしてたよ……」

「いいの。勘違いをさせていた方が都合が良いもの。カミーユは庶民を守るため、私たちは貴族の〝闇〟を払うため、S級冒険者として不本意ながらも国王に仕えているの。……少しは、私たちとカミーユたちのことを信用してもらえたかしら?」

「うん……っ。うんっ。マデリア、ごめんね。ごめんね」

 ぐすぐす泣きながら抱きついくモニカに、マデリアは困ったように小さく笑う。

「ふふ、どうしてあなたが謝るのかしら」
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