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北部編:懐かしい顔ぶれ
シャナとユーリとの再会
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「アーサー! モニカ!」
その五日後、シャナとユーリがクルドのアジトへ到着した。元気そうにしている双子を見て、彼女たちは泣きながら彼らを抱きしめる。特にユーリがずっと泣いていて、言葉すら出てこないようだった。
「無事で良かった……! どうして私を頼ってくれなかったの……!」
シャナは喜び半分、怒り半分といった様子だ。
「ごめんなさい……。教会のときみたいに、シャナになにかあったらいやだったから……」
モニカが震える声でそう答えると、シャナは頬を膨らませて彼女の額を指で突く。
「おばかさん。ほんとにおばかさんだわ。モニカ、あなたは私の過去を知っているでしょう? 私は、もうこれ以上家族を失いたくないの。私にとってあなたたちは、我が子同然なんだから。あなたたちが傷つくことは、自分が傷つくよりも辛いことなのよ」
「……ごめんなさい……」
「お願い。これからは頼ってちょうだい。守りたいの。守らせてちょうだい」
「……シャナァ……」
モニカはシャナにしがみつき、わんわんと泣いた。
そしてその隣では、ユーリがアーサーに抱きついてただただ泣いている。
「……ユーリ。心配かけてごめんね」
「……ほんとだよ。ほんとにそう。アーサーのばか」
「ごめん。ごめんね」
「……僕は母さんやモニカみたいにすごい魔法使いでもないし、君や父さんみたいに剣技が優れてるわけでもない。それでも……それでも、君たちが大変なことになってる時、気付かず、何もできなかったのが……すごく、悔しいんだ」
「ユーリ……」
「頼りがいのない友だちでごめんね……。何もできなくて、ごめんね……」
「ううん。ユーリ。君はモニカを助けてくれたことがあるじゃないか。君は頼りがいのない友だちなんかじゃないよ。そんなに思いつめないで」
アーサーはユーリの頬を両手で包む。涙で濡れる金色の睫毛の隙間から、宝石のような瞳がアーサーの彼を見つめる。アーサーは涙を指で拭い、そっと微笑んだ。
「こうして僕たちのために泣いてくれる友だちがいてくれるなんて、僕はなんてしあわせ者なんだろう」
「泣くに決まってるよ。だって君は、僕の弟みたいなものなんだから」
「……君の方が年下なんだけどなあ」
と言いながら、アーサーはユーリを見上げている。気付けば彼らの身長差は、十五センチ以上にもなっていた。
頬を包むアーサーの手を握り、ユーリは目を瞑る。
「アーサー。ハーフエルフである僕は、ヒトよりも成長が早いけど、二十歳を過ぎたら成長はほとんどしなくなると思う。それからの月日の流れ方は、ヒトの何百倍もゆっくりで、いつの間にか君は僕よりずっと大人になってるだろう。君がおじいちゃんになったときも、僕はきっと今と見た目がほとんど変わらない。そして君が寿命も全うしたあとも、何百年と生きるんだ」
「……うん」
「君とモニカとは、いつか別れがやってくる。それは分かってるよ。でも、それが今なのはいやだ。僕はもっと君たちと共に過ごしたい。君たちともっと遊んで、楽しんで、思い出をたくさん作りたいんだ」
「うん。僕も」
「これから何百年と続く人生がある僕の、初めてできた友だちなんだ。家族のように大切な友だちなんだ。だから君たちを失ったと思ってすごく辛かった」
「ごめんね、ユーリ」
「……ごめん。自分でも何を言ってるのか分からなくなってきた。……とにかく、また会えて嬉しいよ」
「僕も」
彼らの会話を聞いていたシャナとカミーユは、こっそり目尻に指を当てた。
アーサーとモニカが無事だったこと。
息子にとってかけがえのない友人が無事だったこと。
かつて死を望んだアーサーが、一部が魔物となってしまっても前を向いて生きようとしていること。
教会に誘拐され、死ぬよりも辛い思いをしたユーリが、今は何の疑問もなく生きることを受け入れていること。
彼らの生きてきた道を知っているシャナとカミーユにとって、ただ生きようとしてくれているだけのことが、涙が出るほど嬉しかった。
(お前らは、俺らが守ってやるからな)
(アーサーとモニカ、そしてユーリが、これからもずっと三人で人生を楽しめるように。何の不安もなく、ただ平穏に生きていけるように)
この三人の子どもが平穏に生きていくことがどれほど難しいことか、その場にいる大人全員が分かっていた。
その五日後、シャナとユーリがクルドのアジトへ到着した。元気そうにしている双子を見て、彼女たちは泣きながら彼らを抱きしめる。特にユーリがずっと泣いていて、言葉すら出てこないようだった。
「無事で良かった……! どうして私を頼ってくれなかったの……!」
シャナは喜び半分、怒り半分といった様子だ。
「ごめんなさい……。教会のときみたいに、シャナになにかあったらいやだったから……」
モニカが震える声でそう答えると、シャナは頬を膨らませて彼女の額を指で突く。
「おばかさん。ほんとにおばかさんだわ。モニカ、あなたは私の過去を知っているでしょう? 私は、もうこれ以上家族を失いたくないの。私にとってあなたたちは、我が子同然なんだから。あなたたちが傷つくことは、自分が傷つくよりも辛いことなのよ」
「……ごめんなさい……」
「お願い。これからは頼ってちょうだい。守りたいの。守らせてちょうだい」
「……シャナァ……」
モニカはシャナにしがみつき、わんわんと泣いた。
そしてその隣では、ユーリがアーサーに抱きついてただただ泣いている。
「……ユーリ。心配かけてごめんね」
「……ほんとだよ。ほんとにそう。アーサーのばか」
「ごめん。ごめんね」
「……僕は母さんやモニカみたいにすごい魔法使いでもないし、君や父さんみたいに剣技が優れてるわけでもない。それでも……それでも、君たちが大変なことになってる時、気付かず、何もできなかったのが……すごく、悔しいんだ」
「ユーリ……」
「頼りがいのない友だちでごめんね……。何もできなくて、ごめんね……」
「ううん。ユーリ。君はモニカを助けてくれたことがあるじゃないか。君は頼りがいのない友だちなんかじゃないよ。そんなに思いつめないで」
アーサーはユーリの頬を両手で包む。涙で濡れる金色の睫毛の隙間から、宝石のような瞳がアーサーの彼を見つめる。アーサーは涙を指で拭い、そっと微笑んだ。
「こうして僕たちのために泣いてくれる友だちがいてくれるなんて、僕はなんてしあわせ者なんだろう」
「泣くに決まってるよ。だって君は、僕の弟みたいなものなんだから」
「……君の方が年下なんだけどなあ」
と言いながら、アーサーはユーリを見上げている。気付けば彼らの身長差は、十五センチ以上にもなっていた。
頬を包むアーサーの手を握り、ユーリは目を瞑る。
「アーサー。ハーフエルフである僕は、ヒトよりも成長が早いけど、二十歳を過ぎたら成長はほとんどしなくなると思う。それからの月日の流れ方は、ヒトの何百倍もゆっくりで、いつの間にか君は僕よりずっと大人になってるだろう。君がおじいちゃんになったときも、僕はきっと今と見た目がほとんど変わらない。そして君が寿命も全うしたあとも、何百年と生きるんだ」
「……うん」
「君とモニカとは、いつか別れがやってくる。それは分かってるよ。でも、それが今なのはいやだ。僕はもっと君たちと共に過ごしたい。君たちともっと遊んで、楽しんで、思い出をたくさん作りたいんだ」
「うん。僕も」
「これから何百年と続く人生がある僕の、初めてできた友だちなんだ。家族のように大切な友だちなんだ。だから君たちを失ったと思ってすごく辛かった」
「ごめんね、ユーリ」
「……ごめん。自分でも何を言ってるのか分からなくなってきた。……とにかく、また会えて嬉しいよ」
「僕も」
彼らの会話を聞いていたシャナとカミーユは、こっそり目尻に指を当てた。
アーサーとモニカが無事だったこと。
息子にとってかけがえのない友人が無事だったこと。
かつて死を望んだアーサーが、一部が魔物となってしまっても前を向いて生きようとしていること。
教会に誘拐され、死ぬよりも辛い思いをしたユーリが、今は何の疑問もなく生きることを受け入れていること。
彼らの生きてきた道を知っているシャナとカミーユにとって、ただ生きようとしてくれているだけのことが、涙が出るほど嬉しかった。
(お前らは、俺らが守ってやるからな)
(アーサーとモニカ、そしてユーリが、これからもずっと三人で人生を楽しめるように。何の不安もなく、ただ平穏に生きていけるように)
この三人の子どもが平穏に生きていくことがどれほど難しいことか、その場にいる大人全員が分かっていた。
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