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北部編:懐かしい顔ぶれ

ユーリの服選び

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彼らはユーリのために、まずは服屋へ行くことにした。大人たちが見守る中、双子がユーリを着せ替え人形にして遊んでいる。ユーリもまんざらではないようで、彼らに差し出される服をテキパキと着ては二人の前で恥ずかしがりながらもポーズをとっていた。

「ユーリ! この服はどう~!? ダークブラウンのモコモコでね、ユーリの瞳の色に合うと思うのー!」

モニカが持ってきたのは、フレイムベアという魔物の毛皮で作られたコートだ。短く硬い毛は少し着心地が悪いが、羽織ると全身が温まるような気がした。

「わ、これいいね。すごくあったかい」

「フレイムベアは火魔法を操る魔物だからな。保温する上に、周りの温度を吸収して温めてくれる。おまけに火魔法耐性も付いてんだぜ」

「着心地はちょっと悪いけどね~。機能性を重視するなら、フレイムベアはかなりいいよ~」

モニカが選んだ服について、ブルギーとミントが説明した。
火魔法耐性なんて必要ないし、着心地は悪いが、温かいしモニカが選んでくれたものだしなあ、と内心考えながら、ユーリは二人の話を聞いていた。

そうしているうちにアーサーもコートを手に戻って来た。白くてふわふわの毛皮だ。

「ユーリ、これもいいと思うんだー! ふわふわできもちいいよ~!」

「ほんとだ、ふわふわ。気持ちいいね」

「これはスノウベアの毛皮だな。フレイムベアに比べて温かさには劣るが、軽い素材で着心地が良い」

「それに見た目も上品で女性に人気なの~。長くて細い毛が、白クジャクの羽みたいに繊細できれいでしょ?」

確かに、フレイムベアに比べて体はポカポカしないが、ほわほわした毛は触っているだけで癒される。
ユーリはスノウベアのコートを羽織ったまま、シャナの袖を引っ張った。

「母さん。僕、どっちも欲しいな」

「あら、欲張りさん」

「だってアーサーとモニカが選んでくれた服だもん」

「そうね。しばらくこの町で過ごすことになるし、二着買ってもいいと思うわよ。お金は足りる?」

「うん。今までたくさん貯めてたから、アーサーとモニカが着せてくれた服全部買えるよ」

「……全部買うつもりなの?」

「うん。だってアーサーとモニカが選んでくれた服だから……」

「……」

何と言おうか悩んでいると、ソワソワと近寄って来る双子がシャナの視界に入った。二人の手には、新たな服が持たれている。

(どうしましょう。ユーリはこの子たちのオススメを全て買わないと気が済まないみたい。そしてアーサーとモニカは、まだまだユーリに試着させたくてしょうがないって顔をしているわ。このままだとこの子のクローゼットが毛皮まみれに……)

《カミーユ、聞こえるかしら。さっきのユーリと私の会話は聞いていたわよね。アーサーとモニカを止めてちょうだい》

シャナは子どもたちに聞こえないよう、ほとんど声に出さず、微かに唇だけを動かして夫に助けを求めた。
カミーユは重大任務を任されたときのように、真剣な顔でこくりと頷く。そして、双子の肩に手を置いた。

「アーサー、モニカ。ユーリにばっか選んでねーで、自分の服も選んだらどうだ? お前らも服が足りてねえだろ」

(あら、カミーユ。あなたやるじゃないの。躱し方が上手)

シャナが感心しているのが伝わり、カミーユの表情が一瞬だけデレッと緩んだ。
しかし、相手はアーサーとモニカだ。一筋縄ではいかない。

「ううん! わたしたちのはあとでいいのー!」

「先にユーリに服を選んであげたいんだー!」

「もう充分選んでくれただろ。見てみろ、今までお前らが選んだ服だけで、二十着はあるぞ」

「もっと選びたいのー!」

「ユーリに似合いそうな服、まだまだいっぱいあるんだー!」

「だ、だがな、ユーリもそろそろ疲れてきてるし――」

必死に宥めようとしている父親の努力に気付かず、ユーリは満面の笑顔で首を横に振る。

「ううん。僕、もっとアーサーとモニカに服を選んでもらいたいな」

(おいユーリィィィィ……!! お、俺はお前のためを思って言ってるんだぞぉぉぉ……)

「だがユーリ、お前、ポントワーブで毛皮のコートはこんなにいらねえだろ……?」

「そうだけど……」

「せめて二着だけにしろ。な?」

「……うん……」

ユーリはしょんぼりと俯き、名残惜しそうに双子が選んだ二十着の服を撫でた。小さな声で「せっかくアーサーとモニカが僕のために選んでくれたのになあ……」と呟いたのが聞こえ、カミーユが「ん"っ……」と小さくダメージを負う。

彼にトドメを刺したのは、カミーユ一家を困らせていたと気付きうなだれている双子とユーリが、泣きそうな声で謝り合っていたことだった。

「ご、ごめんなさい……。僕たち、楽しくて、つい……」

「い、今すぐ全部戻してくるね。ごめんね、ユーリ。迷惑だったよね」

「ううん! 僕も楽しいよ! 僕の方こそごめんね、せっかく選んでくれたのに……」

「ふぐぅっ……!」

今にも血を吐きそうな苦し気な顔で、カミーユが膝をついた。
先ほどまであんなに楽しそうに笑い合っていたのに、カミーユが水を差したせいで、今や子どもたちの雰囲気は葬式のときのようだ。

(見てらんねえ……すまねえ、シャナ……)

カミーユはゆっくり立ち上がり、ユーリと双子が手に持っていた服を全て取り上げた。
子どもたちは反抗もせず、しょんぼりと店から出る。

彼らの元に戻って来たカミーユは、たくさんの紙袋を提げていた。

「父さん、それなに?」

「ああ? お前が欲しいっつったんだろうが。アーサーとモニカがお前のために選んだ服全部だよ」

「「「え?」」」

子どもたちがきょとんとしていると、呆れているシャナ、笑いを堪えているブルギー、微笑ましい家族愛にニコニコしているミントが店から出てくる。

「もう……。あなた、この子たちに甘すぎよ……。この服全部、あなたのクローゼットにしまうわよ」

「はあ……分かってるよ……」

カミーユのクローゼットは犠牲になったが、そのおかげでユーリはまた笑顔を取り戻した。
ありがとう、と抱きつかれたカミーユは、幸せそうにそっと目を瞑る。

しかし双子は、いらぬ気とお金を使わせてしまい狼狽えていた。

「カ、カミーユ! ごめんなさい。僕たちのせいでカミーユのお金とクローゼットが……」

「んだよ、気にすんな。それより、ユーリのために服選んでくれてありがとな。こいつが物を欲しがることなんかあんまりねえから、今まであげてなかった分までプレゼントできて助かった。また選んでやってくれよな」

がしがしと乱暴に頭を撫でられた双子も、やっと笑顔になった。

「「うん! ありがとう、カミーユ!!」」

その後も双子たちはイルネーヌ町を散策し、ミントおすすめの雑貨屋へ行ったり、ブルギーおすすめのおいしいレストランで食事をとったりした。
親友と、大好きな大人たちと楽しい時間を過ごせたアーサーとモニカは、久しぶりに憂いのない笑い声をあげた。
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