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決戦編:カトリナ
殺したがりのジルくん
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「そういえば、昨晩あのあと、ジルが僕を暗殺しに来たよ」
「えっ!?」
「大丈夫。あの子はまだ僕より弱いから、縄で縛ってカミーユに返したよ」
「まあ……ごめんなさい……」
「ふふ。彼、本当に君のことが大切なんだね」
「私のことを親鳥だと思っているだけよ」
「それはどうかな」
「それ以上は言わないであげて。あの子は必死に隠そうとしているんだから」
「そうか。……カトリナは、ジルには気がないの?」
サンプソンの質問に、カトリナはジトッとした目をして彼を睨んだ。
「まあ。そんなことを聞くの?」
「ごめんごめん」
「……ジルは、私の一番守りたい人よ」
「大切なんだね」
「ええ。ある意味あなたよりも大切よ。私、あなたには守られたいもの」
「母性というやつかな。なら、僕はジルには敵わないね」
「ええ。あなたは逆立ちしたってジルには勝てないわ」
クスクスと笑い合ったあと、サンプソンがカトリナの鼻を突く。
「ごめん。少し嘘をついた」
「え?」
「昨晩あのあと、ジルが僕のところに来たのは、暗殺のためじゃないんだ」
「まあ。なんてひどい嘘なの」
「まあ最後まで聞いて。それでね、ジルはなんて言ったと思う?」
「想像がつかないわねェ……」
「『明日にでもカトリナと結婚しろ』って言われた」
「はぁ……ジルったら……」
「僕は断ったんだ。だって、僕は君に結婚を申し込めるような立場じゃないしね」
「……」
「だから僕はジルに『カトリナのことを頼んだよ』って言ったんだ」
「そしたら?」
「殺されそうになった」
「なるほどね」
「ずいぶんと罵られたよ。意気地なしとか、罪を償えとか、なんとかかんとか。彼、あんな大声出せるんだね」
「……ごめんなさいねェ……」
「ううん。彼のおかげで決心がついたんだ。だから今こうして君と話している。だから彼に感謝してるよ」
「そう……」
「フラれちゃったけどね」
はは、とサンプソンは笑い、立ち上がった。
「さて、帰ろうかカトリナ」
「ええ」
「明日から僕たちは、ただのS級冒険者仲間だよ」
「……ええ」
「でも、ピンチになったらいつでも呼んでね。僕が君を守るよ」
「ありがとう」
「そして君は、ジルを守ってあげて」
「もちろんよ」
サンプソンは歩き出したカトリナの腕を引き、立ち止まらせる。そして彼女の唇にちゅ、とキスをした。
顔を真っ赤にしているカトリナの頭を撫で、サンプソンが目尻を下げる。
「君を忘れる努力はしないよ。君に僕を忘れさせる努力もしない。むしろ忘れさせない努力をする」
「まあ。なんて意地悪な人なの」
「君を忘れるためにしていた女遊びはやめないよ。でもこれからは君を忘れるためじゃなくて、君にヤキモチを妬かせるためにするからね」
「ひどい人ねェ……」
「いやなら僕と結婚するんだね」
「子どもみたいな人だわァ」
宣言通り、サンプソンは、北部で〝彼に口説かれて惚れなかった女性はいない〟という噂が広まるほど、持ち前の色気を使ってたくさんの女性と遊び倒した。
その上カトリナの前でもこれ見よがしに他の女性を口説くようになり、カトリナは青筋を立てつつ必死に冷静を保っていたそうだ。その度にジルはこっそり夜中にサンプソンの寝ている部屋に忍び込み、暗殺を試みていた。
実は、双子の特訓合宿の時や、今回のアジトの生活でサンプソンがシャナと一緒に寝たいと言った時も、双子がぐっすり眠っている夜中に、サンプソンとジルは壮絶な戦いを繰り広げていた。
「他の女性にうつつを抜かしてないで、さっさとカトリナと結婚すれば」
「バカだなあジル。僕は誰のものにもならないよ。だってこんなに色男なんだから」
「じゃあさっさと死んで」
「うーん、君は僕のことが大嫌いなんだねえ」
「大嫌いとかそんなレベルじゃない。一番殺したい人ランキング一位だよおめでとう」
「ありがとう。でもジル、君の抱いている感情はね、憎悪じゃなくて嫉妬だよ」
「自分の感情に興味がないからどうでもいい。カトリナを苦しめないでよ」
「……僕だって、彼女と幸せになりたいよ」
「なに。声が小さすぎて聞こえない」
「なんでもないよ。仕方ないなあ。そんなにやり合いたいなら早くするよ」
いつしかサンプソンは、ジルのことを弟のように可愛く思っていた。大好きな姉を取られそうになりヤキモチをやいているように見えて、思わずニヤニヤしてしまう。
「カトリナと結ばれないのは残念だけど、今のこの関係性も楽しいから悪くないかもね」
「なに。声が小さいんだよ君」
「君のことが可愛くて仕方ないって言ったんだよ」
「は? なにそれ。うざい。きもい。殺す」
「はいはい。かかっておいで」
「いつまで子ども扱いするの。むかつく」
そしてしばらくしたら、半殺しにされたどちらかを、カトリナとマデリアが回収しにくるのだった。
「えっ!?」
「大丈夫。あの子はまだ僕より弱いから、縄で縛ってカミーユに返したよ」
「まあ……ごめんなさい……」
「ふふ。彼、本当に君のことが大切なんだね」
「私のことを親鳥だと思っているだけよ」
「それはどうかな」
「それ以上は言わないであげて。あの子は必死に隠そうとしているんだから」
「そうか。……カトリナは、ジルには気がないの?」
サンプソンの質問に、カトリナはジトッとした目をして彼を睨んだ。
「まあ。そんなことを聞くの?」
「ごめんごめん」
「……ジルは、私の一番守りたい人よ」
「大切なんだね」
「ええ。ある意味あなたよりも大切よ。私、あなたには守られたいもの」
「母性というやつかな。なら、僕はジルには敵わないね」
「ええ。あなたは逆立ちしたってジルには勝てないわ」
クスクスと笑い合ったあと、サンプソンがカトリナの鼻を突く。
「ごめん。少し嘘をついた」
「え?」
「昨晩あのあと、ジルが僕のところに来たのは、暗殺のためじゃないんだ」
「まあ。なんてひどい嘘なの」
「まあ最後まで聞いて。それでね、ジルはなんて言ったと思う?」
「想像がつかないわねェ……」
「『明日にでもカトリナと結婚しろ』って言われた」
「はぁ……ジルったら……」
「僕は断ったんだ。だって、僕は君に結婚を申し込めるような立場じゃないしね」
「……」
「だから僕はジルに『カトリナのことを頼んだよ』って言ったんだ」
「そしたら?」
「殺されそうになった」
「なるほどね」
「ずいぶんと罵られたよ。意気地なしとか、罪を償えとか、なんとかかんとか。彼、あんな大声出せるんだね」
「……ごめんなさいねェ……」
「ううん。彼のおかげで決心がついたんだ。だから今こうして君と話している。だから彼に感謝してるよ」
「そう……」
「フラれちゃったけどね」
はは、とサンプソンは笑い、立ち上がった。
「さて、帰ろうかカトリナ」
「ええ」
「明日から僕たちは、ただのS級冒険者仲間だよ」
「……ええ」
「でも、ピンチになったらいつでも呼んでね。僕が君を守るよ」
「ありがとう」
「そして君は、ジルを守ってあげて」
「もちろんよ」
サンプソンは歩き出したカトリナの腕を引き、立ち止まらせる。そして彼女の唇にちゅ、とキスをした。
顔を真っ赤にしているカトリナの頭を撫で、サンプソンが目尻を下げる。
「君を忘れる努力はしないよ。君に僕を忘れさせる努力もしない。むしろ忘れさせない努力をする」
「まあ。なんて意地悪な人なの」
「君を忘れるためにしていた女遊びはやめないよ。でもこれからは君を忘れるためじゃなくて、君にヤキモチを妬かせるためにするからね」
「ひどい人ねェ……」
「いやなら僕と結婚するんだね」
「子どもみたいな人だわァ」
宣言通り、サンプソンは、北部で〝彼に口説かれて惚れなかった女性はいない〟という噂が広まるほど、持ち前の色気を使ってたくさんの女性と遊び倒した。
その上カトリナの前でもこれ見よがしに他の女性を口説くようになり、カトリナは青筋を立てつつ必死に冷静を保っていたそうだ。その度にジルはこっそり夜中にサンプソンの寝ている部屋に忍び込み、暗殺を試みていた。
実は、双子の特訓合宿の時や、今回のアジトの生活でサンプソンがシャナと一緒に寝たいと言った時も、双子がぐっすり眠っている夜中に、サンプソンとジルは壮絶な戦いを繰り広げていた。
「他の女性にうつつを抜かしてないで、さっさとカトリナと結婚すれば」
「バカだなあジル。僕は誰のものにもならないよ。だってこんなに色男なんだから」
「じゃあさっさと死んで」
「うーん、君は僕のことが大嫌いなんだねえ」
「大嫌いとかそんなレベルじゃない。一番殺したい人ランキング一位だよおめでとう」
「ありがとう。でもジル、君の抱いている感情はね、憎悪じゃなくて嫉妬だよ」
「自分の感情に興味がないからどうでもいい。カトリナを苦しめないでよ」
「……僕だって、彼女と幸せになりたいよ」
「なに。声が小さすぎて聞こえない」
「なんでもないよ。仕方ないなあ。そんなにやり合いたいなら早くするよ」
いつしかサンプソンは、ジルのことを弟のように可愛く思っていた。大好きな姉を取られそうになりヤキモチをやいているように見えて、思わずニヤニヤしてしまう。
「カトリナと結ばれないのは残念だけど、今のこの関係性も楽しいから悪くないかもね」
「なに。声が小さいんだよ君」
「君のことが可愛くて仕方ないって言ったんだよ」
「は? なにそれ。うざい。きもい。殺す」
「はいはい。かかっておいで」
「いつまで子ども扱いするの。むかつく」
そしてしばらくしたら、半殺しにされたどちらかを、カトリナとマデリアが回収しにくるのだった。
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