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決戦編:バンスティンダンジョン
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◇◇◇
双子とS級冒険者がダンジョンへ旅立ったあと、取り残されたシャナとユーリ、そしてベニートパーティは、クルドのアジトに留まり反乱の準備を進めていた。
「……」
アジト内の空気は重い。陽気な集団だったS級冒険者と双子がいなくなったので、彼らに打ち消されていた焦りや緊張、そして不安がだんだんと膨らんでいく。
十一人分のアイテムボックスに、千本ずつエリクサーを詰めるアデーレの表情は険しい。ベニートは彼女の隣にそっと立ち、声をかける。
「どうした、アデーレ」
「……アイテムボックス、十一人分も用意してるけど……必要、あるのかな……」
「……」
「そもそもこんな鞄を用意してたって、彼らが帰ってこなかったら……反乱なんてできないわ」
ベニートはため息を吐き、アイテムボックスにエリクサーを詰めるのを手伝った。
「彼らが全員生きて帰ってくると信じろなんて言うほど、俺は夢見がちな人間じゃないさ」
そんな二人の肩に、イェルドがガシッと腕を乗せる。
「たとえ誰も帰ってこなくたって、俺は反乱を起こすぞ!」
「おいおい、アホなこと言うなよイェルド……」
「本当によ。無駄死にもいいところ」
その時、玄関のドアからノックの音が聞こえた。すぐにシャナが外を窺い、警戒したままドアを少し開ける。
「……まだなにかご用かしら」
そこに立っていたのはダフだった。まわりには誰もいない。どうやら一人だけでの来訪のようだ。
ダフはニカッと笑い、目礼する。
「シャナさん! こんにちは!」
「こんにちは」
「殿下からの命令で来ました!」
「……」
「シャナさんとユーリを、直ちにフォントメウに連れていけと」
「……どういうこと?」
眉をひそめるシャナに、ダフは少しばかり得意げに理由を話す。
「殿下は、アーサーに〝ユーリに手を出さない〟と約束しました! なので、ユーリが万が一にも危ない目に遭わないよう、魔の手がほぼ及ばないフォントメウに避難させるよう、俺に指示しました。さあ、シャナさんもご一緒に」
シャナは未だ戸惑っているようだ。
「つまり、ここは危険だと?」
「はい、あなたとユーリにとっては」
「……」
「殿下からのお話にもあったように、バンスティンダンジョンにはシルヴェストル……あなたとユーリを狙うヒト型魔物が棲息しています。万が一……アーサーたちが戻ってこなかった場合……つまりシルヴェストル討伐に失敗した場合、間違いなくあなたとユーリを襲いにここへ来ます」
「……そうね」
「殿下は……万が一そうなったときに備え……、あなたたちにフォントメウに行くよう指示しています」
ダフは、未だ警戒しているシャナの手を握り、祈るように彼女の手を額に当てる。
「殿下はアーサーとの約束を守りたいんです。殿下は、本当は優しい人なんです。信じてください」
ダフの目は嘘をついていないとシャナには分かった。
「……ベニートたちを置いて行って大丈夫かしら。あの子たちは立派な冒険者だけれど、やっぱりまだ心もとないわ……。かといってフォントメウが彼らを受け入れるとは思えないし」
「任せてください!!」
ダフはドンッと自身の胸に拳を打ち付ける。
「アデーレ姉さんたちは俺が守ります!! 約束します!!」
あなたの方が心のもとないけれど、と心の中で呟き、シャナはクスクスと笑った。
しかし、どうやらヴィクス側にベニートたちを襲う意図はなさそうだ。彼の側近であるダフがこんなに張り切って〝守る〟と言っているのだから、きっとそうだろう。
「分かったわ。ひとまずベニートたちと相談させてくれるかしら」
「もちろんです!!」
ダフの申し出に、ベニートたちは即答で賛成した。彼らもシャナとユーリの身をずっと案じていたそうだ。
「俺たちがもっと強かったらよかったんですけど。守り切れる気がしなかったんで、そっちの方がいいと俺も思います」
「いろいろなことに巻き込んでごめんなさいね……。あなたたちも、気を付けて」
その日のうちに、シャナとユーリは馬車に乗りフォントメウに向かった。ボディーガードだと言って、ダフもフォントメウの入り口まで同行した。
イルネーヌ町からフォントメウまでは、片道二日の道のりだ。ダフは二人にフォントメウの話を聞き目を輝かせ、ユーリとシャナは、ダフに双子の話をたくさん聞いた。
何事にも真っすぐなダフは誰とでも仲良くなれるし、誰にでも好かれる。シャナとユーリもすっかり彼のことが大好きになった。
フォントメウはダフの目には映らない。彼には、月明りに照らされた滝に向かって歩いていくシャナとユーリが、まるで天国にのぼっていくように見えた。ダフは慌てて自身の両頬をペチペチと叩き、馬車に乗り込んだ。
双子とS級冒険者がダンジョンへ旅立ったあと、取り残されたシャナとユーリ、そしてベニートパーティは、クルドのアジトに留まり反乱の準備を進めていた。
「……」
アジト内の空気は重い。陽気な集団だったS級冒険者と双子がいなくなったので、彼らに打ち消されていた焦りや緊張、そして不安がだんだんと膨らんでいく。
十一人分のアイテムボックスに、千本ずつエリクサーを詰めるアデーレの表情は険しい。ベニートは彼女の隣にそっと立ち、声をかける。
「どうした、アデーレ」
「……アイテムボックス、十一人分も用意してるけど……必要、あるのかな……」
「……」
「そもそもこんな鞄を用意してたって、彼らが帰ってこなかったら……反乱なんてできないわ」
ベニートはため息を吐き、アイテムボックスにエリクサーを詰めるのを手伝った。
「彼らが全員生きて帰ってくると信じろなんて言うほど、俺は夢見がちな人間じゃないさ」
そんな二人の肩に、イェルドがガシッと腕を乗せる。
「たとえ誰も帰ってこなくたって、俺は反乱を起こすぞ!」
「おいおい、アホなこと言うなよイェルド……」
「本当によ。無駄死にもいいところ」
その時、玄関のドアからノックの音が聞こえた。すぐにシャナが外を窺い、警戒したままドアを少し開ける。
「……まだなにかご用かしら」
そこに立っていたのはダフだった。まわりには誰もいない。どうやら一人だけでの来訪のようだ。
ダフはニカッと笑い、目礼する。
「シャナさん! こんにちは!」
「こんにちは」
「殿下からの命令で来ました!」
「……」
「シャナさんとユーリを、直ちにフォントメウに連れていけと」
「……どういうこと?」
眉をひそめるシャナに、ダフは少しばかり得意げに理由を話す。
「殿下は、アーサーに〝ユーリに手を出さない〟と約束しました! なので、ユーリが万が一にも危ない目に遭わないよう、魔の手がほぼ及ばないフォントメウに避難させるよう、俺に指示しました。さあ、シャナさんもご一緒に」
シャナは未だ戸惑っているようだ。
「つまり、ここは危険だと?」
「はい、あなたとユーリにとっては」
「……」
「殿下からのお話にもあったように、バンスティンダンジョンにはシルヴェストル……あなたとユーリを狙うヒト型魔物が棲息しています。万が一……アーサーたちが戻ってこなかった場合……つまりシルヴェストル討伐に失敗した場合、間違いなくあなたとユーリを襲いにここへ来ます」
「……そうね」
「殿下は……万が一そうなったときに備え……、あなたたちにフォントメウに行くよう指示しています」
ダフは、未だ警戒しているシャナの手を握り、祈るように彼女の手を額に当てる。
「殿下はアーサーとの約束を守りたいんです。殿下は、本当は優しい人なんです。信じてください」
ダフの目は嘘をついていないとシャナには分かった。
「……ベニートたちを置いて行って大丈夫かしら。あの子たちは立派な冒険者だけれど、やっぱりまだ心もとないわ……。かといってフォントメウが彼らを受け入れるとは思えないし」
「任せてください!!」
ダフはドンッと自身の胸に拳を打ち付ける。
「アデーレ姉さんたちは俺が守ります!! 約束します!!」
あなたの方が心のもとないけれど、と心の中で呟き、シャナはクスクスと笑った。
しかし、どうやらヴィクス側にベニートたちを襲う意図はなさそうだ。彼の側近であるダフがこんなに張り切って〝守る〟と言っているのだから、きっとそうだろう。
「分かったわ。ひとまずベニートたちと相談させてくれるかしら」
「もちろんです!!」
ダフの申し出に、ベニートたちは即答で賛成した。彼らもシャナとユーリの身をずっと案じていたそうだ。
「俺たちがもっと強かったらよかったんですけど。守り切れる気がしなかったんで、そっちの方がいいと俺も思います」
「いろいろなことに巻き込んでごめんなさいね……。あなたたちも、気を付けて」
その日のうちに、シャナとユーリは馬車に乗りフォントメウに向かった。ボディーガードだと言って、ダフもフォントメウの入り口まで同行した。
イルネーヌ町からフォントメウまでは、片道二日の道のりだ。ダフは二人にフォントメウの話を聞き目を輝かせ、ユーリとシャナは、ダフに双子の話をたくさん聞いた。
何事にも真っすぐなダフは誰とでも仲良くなれるし、誰にでも好かれる。シャナとユーリもすっかり彼のことが大好きになった。
フォントメウはダフの目には映らない。彼には、月明りに照らされた滝に向かって歩いていくシャナとユーリが、まるで天国にのぼっていくように見えた。ダフは慌てて自身の両頬をペチペチと叩き、馬車に乗り込んだ。
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連載時、HOT 1位ありがとうございました!
その他、多数投稿しています。
こちらもよろしくお願いします!
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