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決戦編:バンスティンダンジョン
マデリアからのクレーム
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「ちょっと! アーチャーたち!!」
遠く離れた場所で、マデリアが珍しく大声をあげた。
「どうしたのォ?」
「なんだい、マデリア」
そしてドラゴンの背後でカトリナが、真正面でサンプソンが、おっとりと返事をした。
「あなたもよ、アーサー!」
「えっ、僕も!?」
なんだか怒ってるみたいだ、とアーサーはマデリアの声色を聞いて首を傾げた。
「その矢を乱用するのはやめてくれないかしら!? 誰が着火してると思っているの!? 私よ!?」
「えっ! あれって勝手に発火してるんじゃなかったのぉ!?」
「当然でしょう! そんな便利なアイテムがあるわけないでしょう!」
だとしたら、マデリアは(当然だが)相当優秀な魔法使いだ、とアーサーは舌を巻いた。
彼女は、カトリナ、サンプソン、アーサー全員の矢じりに、完璧なタイミングで火魔法を放っていたことになる。
カトリナは四本同時を連続で射るし、サンプソンはアーサーでさえ目で追えない速度で矢を射る。アーサーなんて、先ほどやみくもに三十五本の矢を射たばかりだ。
「サンプソンだけならまだいいわ! やり慣れているから! カトリナも許すわ! ギリギリ二人なら私だってサポートできる! でもね! アーサーまで加わったら疲れるわ! だってこの子、加減ってものを知らないんだもの!」
「ご、ごめんなさいぃぃ!」
「アーサー、これは褒められているんだよ」
「ええ。良かったわねェ、アーサー」
マデリアからクレームが来たばかりだというのに、構わず矢を射続けるサンプソンとカトリナ。つられてアーサーも矢を射ると、それでもちゃんとマデリアは着火してくれた。
言うことを聞いてもらえないと悟ったマデリアがクルドに言いつける。
「クルド! 優秀なアーチャーなんて三人もいらないわ!! とっても疲れるんだもの!!」
「おう! がんばれよー」
「話にならない……。ミント! 手伝ってちょうだい!」
「ごめ~ん。みんなが怪我いっぱいするから手一杯~」
「近距離は近距離で魔法使いに頼りっきりね……。リアーナ! 手伝ってちょうだい!」
「お! いいぜー!」
「助かるわ……」
聖水入り爆発矢のおかげで、徐々に硬い鱗が剥がされていくる。傷ついた体に、カミーユ、クルド、ジル、ブルギーが追い打ちをかけ、とうとう足を切断することができた。
丸一日かけて、彼らはその地道な作業を繰り返す。
少しずつドラゴンが弱っていく。だが、それと同じくらいS級冒険者も疲弊していた。
「ギエェェ……」
羽をもがれた弱り切ったドラゴンが床に倒れこむ。冒険者たちはヘロヘロの体で、半日以上かけてドラゴンの首を切断した。
「だぁぁ……やっと……終わった……っ」
ドラゴンが息絶えたのを確認し、近距離のS級冒険者が地面に倒れこんだ。ミントとモニカのおかげで怪我はひとつも残っていないものの、一日半、休む暇もなく本気で武器を振り回して疲れ切っている。
魔法使いも……特にミントが、魔力をかなり消耗したようでげっそりしている。
「モニカ……大丈夫?」
矢を射続けて皮がめくれた手をさすりながら、アーサーがモニカに声をかけた。
「大丈夫! ミントがほとんどやってくれてたから……」
「そっか。でも、モニカもエリクサー飲んどいた方がいいよ」
「そうね。そうする」
「じゃあ、僕はみんなに疲労回復の薬飲ませてくるね」
「いってらっしゃい!」
アーサーは、ひとりひとりの体質に合わせて丁寧に薬を調合した。そして彼らの足や腕に、酢漬けのマリオーナ草をぺたぺたと貼り付ける。
クルドとカミーユは大の字になって寝たまま、アーサーになされるがままになっていた。
「いやあ……こんなに薬師の存在がでけえとはな……。分かっちゃいたけど……沁みるわ~……」
「まじでありがてえ。うちにはリアーナしかいねえから特に回復にかんしてはシビアなんだよなあ……」
「おいカミーユ! 聞こえてんぞぉ!!」
遠くでリアーナの大声が飛んでくる。あまりにもうるさかったので、クルドが力なく笑う。
「……あいつ、元気だな……」
「リアーナは回復魔法が下手くそな分、攻撃魔法ぶっぱなしてくれてるからな。今回はマデリアもいたから、楽できたんだろ……」
クルドとカミーユがそのまま眠ってしまったので、その日はドラゴンの死体の元で休憩をとることになった。
アーサーは、みなの目を盗んでこっそりドラゴンの血を指ですくって舐めてみた。あまりにおいしかったので、革袋にたっぷりと注ぎ、お腹がたぷたぷになるまで飲んだ。これでしばらくは吸血欲をおさえられそうだと内心ホッとした。
遠く離れた場所で、マデリアが珍しく大声をあげた。
「どうしたのォ?」
「なんだい、マデリア」
そしてドラゴンの背後でカトリナが、真正面でサンプソンが、おっとりと返事をした。
「あなたもよ、アーサー!」
「えっ、僕も!?」
なんだか怒ってるみたいだ、とアーサーはマデリアの声色を聞いて首を傾げた。
「その矢を乱用するのはやめてくれないかしら!? 誰が着火してると思っているの!? 私よ!?」
「えっ! あれって勝手に発火してるんじゃなかったのぉ!?」
「当然でしょう! そんな便利なアイテムがあるわけないでしょう!」
だとしたら、マデリアは(当然だが)相当優秀な魔法使いだ、とアーサーは舌を巻いた。
彼女は、カトリナ、サンプソン、アーサー全員の矢じりに、完璧なタイミングで火魔法を放っていたことになる。
カトリナは四本同時を連続で射るし、サンプソンはアーサーでさえ目で追えない速度で矢を射る。アーサーなんて、先ほどやみくもに三十五本の矢を射たばかりだ。
「サンプソンだけならまだいいわ! やり慣れているから! カトリナも許すわ! ギリギリ二人なら私だってサポートできる! でもね! アーサーまで加わったら疲れるわ! だってこの子、加減ってものを知らないんだもの!」
「ご、ごめんなさいぃぃ!」
「アーサー、これは褒められているんだよ」
「ええ。良かったわねェ、アーサー」
マデリアからクレームが来たばかりだというのに、構わず矢を射続けるサンプソンとカトリナ。つられてアーサーも矢を射ると、それでもちゃんとマデリアは着火してくれた。
言うことを聞いてもらえないと悟ったマデリアがクルドに言いつける。
「クルド! 優秀なアーチャーなんて三人もいらないわ!! とっても疲れるんだもの!!」
「おう! がんばれよー」
「話にならない……。ミント! 手伝ってちょうだい!」
「ごめ~ん。みんなが怪我いっぱいするから手一杯~」
「近距離は近距離で魔法使いに頼りっきりね……。リアーナ! 手伝ってちょうだい!」
「お! いいぜー!」
「助かるわ……」
聖水入り爆発矢のおかげで、徐々に硬い鱗が剥がされていくる。傷ついた体に、カミーユ、クルド、ジル、ブルギーが追い打ちをかけ、とうとう足を切断することができた。
丸一日かけて、彼らはその地道な作業を繰り返す。
少しずつドラゴンが弱っていく。だが、それと同じくらいS級冒険者も疲弊していた。
「ギエェェ……」
羽をもがれた弱り切ったドラゴンが床に倒れこむ。冒険者たちはヘロヘロの体で、半日以上かけてドラゴンの首を切断した。
「だぁぁ……やっと……終わった……っ」
ドラゴンが息絶えたのを確認し、近距離のS級冒険者が地面に倒れこんだ。ミントとモニカのおかげで怪我はひとつも残っていないものの、一日半、休む暇もなく本気で武器を振り回して疲れ切っている。
魔法使いも……特にミントが、魔力をかなり消耗したようでげっそりしている。
「モニカ……大丈夫?」
矢を射続けて皮がめくれた手をさすりながら、アーサーがモニカに声をかけた。
「大丈夫! ミントがほとんどやってくれてたから……」
「そっか。でも、モニカもエリクサー飲んどいた方がいいよ」
「そうね。そうする」
「じゃあ、僕はみんなに疲労回復の薬飲ませてくるね」
「いってらっしゃい!」
アーサーは、ひとりひとりの体質に合わせて丁寧に薬を調合した。そして彼らの足や腕に、酢漬けのマリオーナ草をぺたぺたと貼り付ける。
クルドとカミーユは大の字になって寝たまま、アーサーになされるがままになっていた。
「いやあ……こんなに薬師の存在がでけえとはな……。分かっちゃいたけど……沁みるわ~……」
「まじでありがてえ。うちにはリアーナしかいねえから特に回復にかんしてはシビアなんだよなあ……」
「おいカミーユ! 聞こえてんぞぉ!!」
遠くでリアーナの大声が飛んでくる。あまりにもうるさかったので、クルドが力なく笑う。
「……あいつ、元気だな……」
「リアーナは回復魔法が下手くそな分、攻撃魔法ぶっぱなしてくれてるからな。今回はマデリアもいたから、楽できたんだろ……」
クルドとカミーユがそのまま眠ってしまったので、その日はドラゴンの死体の元で休憩をとることになった。
アーサーは、みなの目を盗んでこっそりドラゴンの血を指ですくって舐めてみた。あまりにおいしかったので、革袋にたっぷりと注ぎ、お腹がたぷたぷになるまで飲んだ。これでしばらくは吸血欲をおさえられそうだと内心ホッとした。
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