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決戦編:裏S級との戦い
ミントの悩み
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くったりしているアーサーとモニカに、ミントがあたたかい紅茶を持ってきてくれた。
「はい、どうぞ~」
「ミント、ありがとう~」
「おいしい……」
ホーッと気持ちよさそうにため息を吐く双子を見て、ミントが目尻を下げた。彼女も紅茶を飲み、二人のそばの壁にもたれる。
「ちょっとうんざりするくらい疲れたね~」
「ミントでもそう思うの?」
「思う思う~。早く帰りたいもん~」
ミントの言葉に、モニカは何度も頷いた。
「ゆっくりお風呂に浸かりたいよぉー」
「うんうん。お風呂に浸かった後に、ふかふかのベッドで眠りたいね~」
「うんー……。もうかたくてもいい……岩よりも絶対やわらかいもん……」
「あはは。確かに~」
間延びするおっとりとした口調に、さっそくモニカの目がトロンと落ちる。ミントの声を聞くと、どうしても眠くなってしまうのが最近のモニカの悩みだった。
アーサーはこっそりモニカの横腹をつまみ、目を無理矢理開けさせた。
ミントはお茶を飲みながら、二人に悩みを打ち明けた。
「二人とも聞いてくれる~?」
「うん、どうしたの?」
「きっとこのダンジョンで、裏S級と戦うじゃない~?」
「……うん」
アーサーとモニカはげっそりした顔で頷いた。こんなヘロヘロの状態で裏S級と戦わないといけないなんて、考えただけでゾッとする。
「で、裏S級には私の両親を殺した人がいるのよね~……」
「あ……ジルのお兄さん……だよね……?」
「うんうん、そうなの~」
重い話になりそうだなぁ……とアーサーは少し身構えた。
しかしミントは、まるで晩ごはんのレシピの相談をしているくらいの軽さで話す。
「ねえ、アーサーとモニカはどう思う~? 私、両親を殺した人にしたいことがあったのに……ジルのお兄さんだって言うじゃない~? 私、どうしたらいいの~?」
アーサーは、彼女の語り口調と話の内容が噛み合っていなくて顔を引き攣らせた。
「ジルはね、殺していいよって言ってたんだけど~……。でもなあ~」
彼女の悩みに、ぼんやり聞いていたモニカが反応する。
「指定依頼は十割殲滅だから、依頼を完了するには倒さないといけない相手だけど……。あんなにジルとそっくりじゃ、戦うのいやだなあ。仮にもジルの家族だし……」
「う~ん。悩んじゃうよね~」
こんな殺伐とした女子トークはいやだなあ、とアーサーは紅茶をすすりながら苦笑いした。
結局、ミントの悩みが解決することはなかったが、彼女は気にしていないようだった。もとより解決させる気なんてなかったようにも見えたし、もう彼女の中では答えが決まっているようにも見えた。
その後も女子トークは続き、アーサーはぼうっとそれを聞いているだけだった。
「ねえ、モニカは攻撃魔法と回復魔法、どっちも使えるよね~? どっちの方が好き?」
「んー。スッキリするのは攻撃魔法だけど、使えて良かったなーって思うのは回復魔法!」
「そうよね~。回復魔法は大切だもん」
「うんうん。アーサーは特に、回復魔法しないといけないことばっかりするし……」
「あはは! でも、クルドパーティもそうだよ~。回復魔法使いがいるからって無茶ばっかりするの~」
「ねー! クルドパーティだけじゃないよ、カミーユたちもひどいわ」
「途中から私たちの魔力を気遣ってくれるようになったけど……それでもあの人数を二人でサポートするのは大変よね~」
ほんとにねーとミントとモニカは虚ろな笑い声をあげた。
(疲れてるけど……すっごく疲れてるけど……。ここ最近で一番モニカ楽しそう。よかったぁ)
アーサーが二人の会話に微笑んでいたのも束の間のことだった。
「ねえ、ミントはどうして回復魔法使いになったの?」
モニカに尋ねられ、ミントは照れくさそうにモジモジする。
「えっとね~。回復魔法適正が高かったからっていうのもあるけど~。好きなの、ケガを治すときが」
「分かる! 傷口がしゅわーって塞がっていくの、見てて楽しいよねー」
「あっ、ううん。違うの~。傷が塞がる前の、傷からこぼれる血を見るのが好きなの~」
「……ん?」
笑っていたモニカの表情がひくついた。アーサーも、微笑みを浮かべたまま眉を寄せる。
「実は、私……血が大好きで~。冒険者になったのも、魔物の血とか……あわよくば仲間の血とか、たくさん見れるからなの~」
「そ、そうなんだー……?」
「両親が殺されたときにはじめて気付いたのよね~。両親が死んじゃって悲しいのに、床一面に広がってる血に……ゾクゾクしちゃって。気付けばずっと笑ってた~。両親の死体を抱きかかえて……泣きながら、血だまりに寝転がって笑ってたの」
「……」
言葉を失っている双子にも構わず、ミントはにへらと笑って言葉を続けた。
「あの日から血が好きになっちゃった~。血を見るたびに、両親と会えた気持ちになる。防具に魔物の血が沁み込んで真っ赤になると、両親に抱きしめられてる気持ちになるの~」
アーサーとモニカはこっそり目を合わせた。
双子の頭の中に、ブルギーと交わした会話が思い浮かぶ。
《俺はな、クルドパーティの中でも一番まともなヤツだといわれているし、実際そうだ》
《そうだね! ブルギーとミントはまともだと思う!》
《ぶはっ。ミントがまとも? じゃあ、お前らはミントのことも知らねえな》
《そうなの?》
《ああ。ま、それはミントと話せば分かるさ。つまり、俺がまともだ。一番まとも》
《そっかー!》
ミントがまとも? とんでもない。
彼女は……クルドパーティの中で一番、〝まとも〟ではない。
魔物の部位を移植されたマデリアよりも、壊れてしまっていた。
「だから、ジルのお兄さんに両親を返してもらうの。いっぱいいっぱい彼の血を見たいわ~。殺さなきゃいけないのが残念ね。死んだらもう、血が増えないんだもの。でも……ジルのお兄さんだって言うし、すぱっと殺してあげないと、可哀想よね~」
「はい、どうぞ~」
「ミント、ありがとう~」
「おいしい……」
ホーッと気持ちよさそうにため息を吐く双子を見て、ミントが目尻を下げた。彼女も紅茶を飲み、二人のそばの壁にもたれる。
「ちょっとうんざりするくらい疲れたね~」
「ミントでもそう思うの?」
「思う思う~。早く帰りたいもん~」
ミントの言葉に、モニカは何度も頷いた。
「ゆっくりお風呂に浸かりたいよぉー」
「うんうん。お風呂に浸かった後に、ふかふかのベッドで眠りたいね~」
「うんー……。もうかたくてもいい……岩よりも絶対やわらかいもん……」
「あはは。確かに~」
間延びするおっとりとした口調に、さっそくモニカの目がトロンと落ちる。ミントの声を聞くと、どうしても眠くなってしまうのが最近のモニカの悩みだった。
アーサーはこっそりモニカの横腹をつまみ、目を無理矢理開けさせた。
ミントはお茶を飲みながら、二人に悩みを打ち明けた。
「二人とも聞いてくれる~?」
「うん、どうしたの?」
「きっとこのダンジョンで、裏S級と戦うじゃない~?」
「……うん」
アーサーとモニカはげっそりした顔で頷いた。こんなヘロヘロの状態で裏S級と戦わないといけないなんて、考えただけでゾッとする。
「で、裏S級には私の両親を殺した人がいるのよね~……」
「あ……ジルのお兄さん……だよね……?」
「うんうん、そうなの~」
重い話になりそうだなぁ……とアーサーは少し身構えた。
しかしミントは、まるで晩ごはんのレシピの相談をしているくらいの軽さで話す。
「ねえ、アーサーとモニカはどう思う~? 私、両親を殺した人にしたいことがあったのに……ジルのお兄さんだって言うじゃない~? 私、どうしたらいいの~?」
アーサーは、彼女の語り口調と話の内容が噛み合っていなくて顔を引き攣らせた。
「ジルはね、殺していいよって言ってたんだけど~……。でもなあ~」
彼女の悩みに、ぼんやり聞いていたモニカが反応する。
「指定依頼は十割殲滅だから、依頼を完了するには倒さないといけない相手だけど……。あんなにジルとそっくりじゃ、戦うのいやだなあ。仮にもジルの家族だし……」
「う~ん。悩んじゃうよね~」
こんな殺伐とした女子トークはいやだなあ、とアーサーは紅茶をすすりながら苦笑いした。
結局、ミントの悩みが解決することはなかったが、彼女は気にしていないようだった。もとより解決させる気なんてなかったようにも見えたし、もう彼女の中では答えが決まっているようにも見えた。
その後も女子トークは続き、アーサーはぼうっとそれを聞いているだけだった。
「ねえ、モニカは攻撃魔法と回復魔法、どっちも使えるよね~? どっちの方が好き?」
「んー。スッキリするのは攻撃魔法だけど、使えて良かったなーって思うのは回復魔法!」
「そうよね~。回復魔法は大切だもん」
「うんうん。アーサーは特に、回復魔法しないといけないことばっかりするし……」
「あはは! でも、クルドパーティもそうだよ~。回復魔法使いがいるからって無茶ばっかりするの~」
「ねー! クルドパーティだけじゃないよ、カミーユたちもひどいわ」
「途中から私たちの魔力を気遣ってくれるようになったけど……それでもあの人数を二人でサポートするのは大変よね~」
ほんとにねーとミントとモニカは虚ろな笑い声をあげた。
(疲れてるけど……すっごく疲れてるけど……。ここ最近で一番モニカ楽しそう。よかったぁ)
アーサーが二人の会話に微笑んでいたのも束の間のことだった。
「ねえ、ミントはどうして回復魔法使いになったの?」
モニカに尋ねられ、ミントは照れくさそうにモジモジする。
「えっとね~。回復魔法適正が高かったからっていうのもあるけど~。好きなの、ケガを治すときが」
「分かる! 傷口がしゅわーって塞がっていくの、見てて楽しいよねー」
「あっ、ううん。違うの~。傷が塞がる前の、傷からこぼれる血を見るのが好きなの~」
「……ん?」
笑っていたモニカの表情がひくついた。アーサーも、微笑みを浮かべたまま眉を寄せる。
「実は、私……血が大好きで~。冒険者になったのも、魔物の血とか……あわよくば仲間の血とか、たくさん見れるからなの~」
「そ、そうなんだー……?」
「両親が殺されたときにはじめて気付いたのよね~。両親が死んじゃって悲しいのに、床一面に広がってる血に……ゾクゾクしちゃって。気付けばずっと笑ってた~。両親の死体を抱きかかえて……泣きながら、血だまりに寝転がって笑ってたの」
「……」
言葉を失っている双子にも構わず、ミントはにへらと笑って言葉を続けた。
「あの日から血が好きになっちゃった~。血を見るたびに、両親と会えた気持ちになる。防具に魔物の血が沁み込んで真っ赤になると、両親に抱きしめられてる気持ちになるの~」
アーサーとモニカはこっそり目を合わせた。
双子の頭の中に、ブルギーと交わした会話が思い浮かぶ。
《俺はな、クルドパーティの中でも一番まともなヤツだといわれているし、実際そうだ》
《そうだね! ブルギーとミントはまともだと思う!》
《ぶはっ。ミントがまとも? じゃあ、お前らはミントのことも知らねえな》
《そうなの?》
《ああ。ま、それはミントと話せば分かるさ。つまり、俺がまともだ。一番まとも》
《そっかー!》
ミントがまとも? とんでもない。
彼女は……クルドパーティの中で一番、〝まとも〟ではない。
魔物の部位を移植されたマデリアよりも、壊れてしまっていた。
「だから、ジルのお兄さんに両親を返してもらうの。いっぱいいっぱい彼の血を見たいわ~。殺さなきゃいけないのが残念ね。死んだらもう、血が増えないんだもの。でも……ジルのお兄さんだって言うし、すぱっと殺してあげないと、可哀想よね~」
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