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決戦編:裏S級との戦い
沈みゆく太陽
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ジルの墓はオーヴェルニュ家の庭に建てられた。薔薇園の前、カトリナの私室からよく見えるところ。
家族と冒険者たちだけで行われた、慎ましやかな葬儀がおこなわれた。一人一人が白いバラの花を一本ずつ献花する。
ジルの最期の時に意識を失っていたリアーナは、まだジルがいなくなったことを実感できていないようだった。
「なんか信じらんねえな。おいジル……お前、ほんとに死んじまったのかあ……? そこらへんでいるんじゃねえのか? いつもみてえにさ、物陰に隠れてコソコソあたしらの話盗み聞きしてんじゃねえの……?」
本当に生きているのなら、リアーナのこんな言葉を受けて黙っているジルではない。リアーナはぽけぇっと墓標の前に立ち、静かに涙を一粒流した。
「そっかあ。ほんとに死んじまったんだな……。ジルゥ……。寂しいぞ……。お前の長ったりぃ説教を聞くことがもうできないなんて……。ちょっと嬉しいけど、やっぱすっげー悲しい。戻ってこい。戻ってこいよぉ……」
ひぐ、ひぐ、と泣き出したリアーナの肩をカミーユが抱く。
「ジル。はじめ会った時はよぉ……お前、とんでもねえ厄介モンだったなあ。それがいつしか立派になりやがって……」
カミーユの涙がボトボトと地面に落ちる。肩を震わせ、顔をしわくちゃにして、カミーユはバラの花を置いた。
「誰がここまで立派になれって言った……っ。これじゃあ褒めてやることもできねえじゃねえか……」
涙をこすり深呼吸したカミーユは、墓標に書かれたジルの名を指でなぞる。
「俺があの世に行ったらよ、三日三晩酒飲み交わそうぜ。だから、そっちでうまい酒探しといてくれよな。で、生まれ変わっても俺らは同じパーティ組むんだ。分かったな。約束だぜ」
カミーユとリアーナのあとは、アーサーとモニカが花を添える。もうすでに泣き腫らして目が真っ赤の双子は、墓標の前でわんわん泣いた。
「ジル、大好きだよ。大好きだよ。これからもずっと、大好きだから」
「あのね、ジルはちょっとお父さんっぽくはなかったけど、でもやっぱり僕たちのお父さんだったよ」
「この七年間、ジルとの思い出でいっぱい。ほんとにたくさんあるの。忘れないから」
「毎日モニカとジルのお話するよ。モニカがひとつも忘れないように」
「ぎゅってしてよぉ……。ジル、いつもみたいにぎゅってしてぇ……。ふえっ、ふぇぇぇん……」
「ジルゥ……ジルゥゥ……。寂しいよぉ。いやだよお……。うわぁぁぁん……」
七年前、はじめて双子はジルと出会った。無口で仏頂面で、ちょっと近寄りがたかった。いつしか無表情で「かわいい」とボソッと呟くようになったジルに、双子は心を開き甘えるようになっていた。
三年前、アーサーとモニカがトロワの領土を手に入れるために父役になってくれたジル。身なりを整えたジルが思っていた以上に美しく、モニカはこっそりときめいた。
過保護なジルはそれからも、ちょっとしたことで双子を心配して過剰な反応をしていたものだ。
七年間無償の愛を注いでくれたジルとの別れは受け入れがたく、信じたくもないことだった。
それでも双子はジルを見送らなければならない。
「さようなら、ジル……」
「さようなら……」
最後に献花したのは、カトリナ、サンプソン、マデリア。
「ジル。私の一番大切な人」
カトリナはそう呟いただけだった。それ以外の言葉はない。それが彼女の想い全てだった。
サンプソンとマデリアは、彼の墓標の前で跪き、こうべを深く垂れ、最大限の敬意を払う。
「僕の命は君のものだ、ジル。僕は君の願いを叶えるため、この身を尽くすことを誓う」
「私もよ、ジル。私はあなたが大切にしてきたものを守るための盾となる」
日が暮れる。
沈みゆく太陽は、まるで永遠の眠りにつくジルの瞼が閉じゆくかたちをあらわしているようだった。
家族と冒険者たちだけで行われた、慎ましやかな葬儀がおこなわれた。一人一人が白いバラの花を一本ずつ献花する。
ジルの最期の時に意識を失っていたリアーナは、まだジルがいなくなったことを実感できていないようだった。
「なんか信じらんねえな。おいジル……お前、ほんとに死んじまったのかあ……? そこらへんでいるんじゃねえのか? いつもみてえにさ、物陰に隠れてコソコソあたしらの話盗み聞きしてんじゃねえの……?」
本当に生きているのなら、リアーナのこんな言葉を受けて黙っているジルではない。リアーナはぽけぇっと墓標の前に立ち、静かに涙を一粒流した。
「そっかあ。ほんとに死んじまったんだな……。ジルゥ……。寂しいぞ……。お前の長ったりぃ説教を聞くことがもうできないなんて……。ちょっと嬉しいけど、やっぱすっげー悲しい。戻ってこい。戻ってこいよぉ……」
ひぐ、ひぐ、と泣き出したリアーナの肩をカミーユが抱く。
「ジル。はじめ会った時はよぉ……お前、とんでもねえ厄介モンだったなあ。それがいつしか立派になりやがって……」
カミーユの涙がボトボトと地面に落ちる。肩を震わせ、顔をしわくちゃにして、カミーユはバラの花を置いた。
「誰がここまで立派になれって言った……っ。これじゃあ褒めてやることもできねえじゃねえか……」
涙をこすり深呼吸したカミーユは、墓標に書かれたジルの名を指でなぞる。
「俺があの世に行ったらよ、三日三晩酒飲み交わそうぜ。だから、そっちでうまい酒探しといてくれよな。で、生まれ変わっても俺らは同じパーティ組むんだ。分かったな。約束だぜ」
カミーユとリアーナのあとは、アーサーとモニカが花を添える。もうすでに泣き腫らして目が真っ赤の双子は、墓標の前でわんわん泣いた。
「ジル、大好きだよ。大好きだよ。これからもずっと、大好きだから」
「あのね、ジルはちょっとお父さんっぽくはなかったけど、でもやっぱり僕たちのお父さんだったよ」
「この七年間、ジルとの思い出でいっぱい。ほんとにたくさんあるの。忘れないから」
「毎日モニカとジルのお話するよ。モニカがひとつも忘れないように」
「ぎゅってしてよぉ……。ジル、いつもみたいにぎゅってしてぇ……。ふえっ、ふぇぇぇん……」
「ジルゥ……ジルゥゥ……。寂しいよぉ。いやだよお……。うわぁぁぁん……」
七年前、はじめて双子はジルと出会った。無口で仏頂面で、ちょっと近寄りがたかった。いつしか無表情で「かわいい」とボソッと呟くようになったジルに、双子は心を開き甘えるようになっていた。
三年前、アーサーとモニカがトロワの領土を手に入れるために父役になってくれたジル。身なりを整えたジルが思っていた以上に美しく、モニカはこっそりときめいた。
過保護なジルはそれからも、ちょっとしたことで双子を心配して過剰な反応をしていたものだ。
七年間無償の愛を注いでくれたジルとの別れは受け入れがたく、信じたくもないことだった。
それでも双子はジルを見送らなければならない。
「さようなら、ジル……」
「さようなら……」
最後に献花したのは、カトリナ、サンプソン、マデリア。
「ジル。私の一番大切な人」
カトリナはそう呟いただけだった。それ以外の言葉はない。それが彼女の想い全てだった。
サンプソンとマデリアは、彼の墓標の前で跪き、こうべを深く垂れ、最大限の敬意を払う。
「僕の命は君のものだ、ジル。僕は君の願いを叶えるため、この身を尽くすことを誓う」
「私もよ、ジル。私はあなたが大切にしてきたものを守るための盾となる」
日が暮れる。
沈みゆく太陽は、まるで永遠の眠りにつくジルの瞼が閉じゆくかたちをあらわしているようだった。
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