60 / 71
6章
第59話 コンクールの余韻
しおりを挟む
◇◇◇
演奏を終えた部員は、舞台からはけて会場の外で集合写真を撮った。
海茅は全てを出し尽くして放心状態になっていた。演奏が終わっても、まだ森から抜け出せない。
何人かの部員は、まだ結果を聞いてもいないのに泣いていた。思うように演奏ができず、悔しいようだ。
部長が部員を集め、コンクール期間最後のミーティングを始めた。
「先生、よろしくお願いします」
部長の言葉に顧問が頷き、一歩前に出る。このときの顧問には、舞台で見せた笑顔なんてひとつもなく、いつものようにムスッとしている。
「おつかれさん」
顧問が一言話すだけで、叱られるのではないかと部員が体をビクつかせた。
部員たちも自覚していた。今回の演奏は、最高の演奏ではなかった。ミスもあったし、音程が合わず音が溶け込まないときもあった。
いくら練習でうまくいっても、本番でできなければ意味がない。圧倒的な練習不足だ。
顧問は縮こまっている部員を見渡し、小さくため息を吐く。
「改善点は分かったな。コンクールが過ぎても、その気持ちを忘れないように」
部員が泣きじゃくりながら返事をすると、顧問は無表情のまま言葉を続けた。
「……だが、悪くなかった。恐らく金賞は取れるんじゃないかと思う」
えっ、と顔を上げた部員に、顧問は苦笑いを浮かべる。
「だから言ったんだ」
そして顧問はポリポリと頬をかき、気恥ずかしそうに言った。
「お前たちの演奏を聴いて、俺は……感動した」
その言葉に、それまでこらえていた部員もわんわん泣いた。
それは今の彼女たちにとって、金賞を取るよりも嬉しいことだった。
顧問が予言した通り、侭白中学校の吹奏楽は金賞を受賞した。しかし上位大会には進出できない、いわゆるダメ金だった。
目指していた金賞を受賞できて、部員はワッと歓声を上げた。ダメ金でもなんでも、キラキラ輝く金賞だ。
今はそれでいい。明日から、今日得た悔しさを忘れずに練習すれば、もしかしたら来年は手が届くかもしれない。今日のダメ金は、その第一歩だ。
結果を聞いたあと、顧問は部員をファミリーレストランに連れて行った。
「好きなパフェを頼め。好きだろう、パフェ」
樋暮先輩いわく、コンクール後のパフェは毎年恒例らしい。
部員たちはメニューを取り合い、パフェを注文した。
ほとんどの部員が期間限定の一番値段が高いパフェを頼んでいた。顧問がボソッと「俺の小遣いが……」と呟いたが、幸いにも大はしゃぎしている部員の耳には入らなかった。
そして期間限定パフェをおいしそうに頬張る一人、海茅は、とろけそうな顔で優紀に話しかける。
「優紀ちゃん! パフェおいしいね!」
「うん! おいしい~最高~」
「優紀ちゃん、グロッケン成功してよかったね!」
「そうそう! 手が震えすぎて、逆に良い感じに鍵盤に当たったんだよね~! ラッキー!」
ケタケタと笑う海茅に、優紀がにっこり笑う。
「海茅ちゃんのシンバルも最高だったよ!」
「わー、ありがとう! 成功してよかったよ~。直前で頭真っ白になってさあ……」
そして海茅はちらっと段原先輩を見た。
視線に気付いた段原先輩が、抹茶パフェを食べながらこちらを見る。
「段原先輩のおかげでなんとかなったの!」
「え、俺なんかした?」
「はい! ありがとうございます!」
「何もしてないんだけど……。どういたしまして?」
コンクールを目指して部活に打ち込んだ五ヶ月間、楽しいこともあったが、ほとんどが辛くて苦しい時間だった。戻りたいかと聞かれたら、できたら二度と戻りたくない。
だが、海茅にとってこの五カ月間は、何にも代えがたい大切な経験と思い出になった。
こうして海茅の、しょっぱくて熱い夏が半分終わった。
演奏を終えた部員は、舞台からはけて会場の外で集合写真を撮った。
海茅は全てを出し尽くして放心状態になっていた。演奏が終わっても、まだ森から抜け出せない。
何人かの部員は、まだ結果を聞いてもいないのに泣いていた。思うように演奏ができず、悔しいようだ。
部長が部員を集め、コンクール期間最後のミーティングを始めた。
「先生、よろしくお願いします」
部長の言葉に顧問が頷き、一歩前に出る。このときの顧問には、舞台で見せた笑顔なんてひとつもなく、いつものようにムスッとしている。
「おつかれさん」
顧問が一言話すだけで、叱られるのではないかと部員が体をビクつかせた。
部員たちも自覚していた。今回の演奏は、最高の演奏ではなかった。ミスもあったし、音程が合わず音が溶け込まないときもあった。
いくら練習でうまくいっても、本番でできなければ意味がない。圧倒的な練習不足だ。
顧問は縮こまっている部員を見渡し、小さくため息を吐く。
「改善点は分かったな。コンクールが過ぎても、その気持ちを忘れないように」
部員が泣きじゃくりながら返事をすると、顧問は無表情のまま言葉を続けた。
「……だが、悪くなかった。恐らく金賞は取れるんじゃないかと思う」
えっ、と顔を上げた部員に、顧問は苦笑いを浮かべる。
「だから言ったんだ」
そして顧問はポリポリと頬をかき、気恥ずかしそうに言った。
「お前たちの演奏を聴いて、俺は……感動した」
その言葉に、それまでこらえていた部員もわんわん泣いた。
それは今の彼女たちにとって、金賞を取るよりも嬉しいことだった。
顧問が予言した通り、侭白中学校の吹奏楽は金賞を受賞した。しかし上位大会には進出できない、いわゆるダメ金だった。
目指していた金賞を受賞できて、部員はワッと歓声を上げた。ダメ金でもなんでも、キラキラ輝く金賞だ。
今はそれでいい。明日から、今日得た悔しさを忘れずに練習すれば、もしかしたら来年は手が届くかもしれない。今日のダメ金は、その第一歩だ。
結果を聞いたあと、顧問は部員をファミリーレストランに連れて行った。
「好きなパフェを頼め。好きだろう、パフェ」
樋暮先輩いわく、コンクール後のパフェは毎年恒例らしい。
部員たちはメニューを取り合い、パフェを注文した。
ほとんどの部員が期間限定の一番値段が高いパフェを頼んでいた。顧問がボソッと「俺の小遣いが……」と呟いたが、幸いにも大はしゃぎしている部員の耳には入らなかった。
そして期間限定パフェをおいしそうに頬張る一人、海茅は、とろけそうな顔で優紀に話しかける。
「優紀ちゃん! パフェおいしいね!」
「うん! おいしい~最高~」
「優紀ちゃん、グロッケン成功してよかったね!」
「そうそう! 手が震えすぎて、逆に良い感じに鍵盤に当たったんだよね~! ラッキー!」
ケタケタと笑う海茅に、優紀がにっこり笑う。
「海茅ちゃんのシンバルも最高だったよ!」
「わー、ありがとう! 成功してよかったよ~。直前で頭真っ白になってさあ……」
そして海茅はちらっと段原先輩を見た。
視線に気付いた段原先輩が、抹茶パフェを食べながらこちらを見る。
「段原先輩のおかげでなんとかなったの!」
「え、俺なんかした?」
「はい! ありがとうございます!」
「何もしてないんだけど……。どういたしまして?」
コンクールを目指して部活に打ち込んだ五ヶ月間、楽しいこともあったが、ほとんどが辛くて苦しい時間だった。戻りたいかと聞かれたら、できたら二度と戻りたくない。
だが、海茅にとってこの五カ月間は、何にも代えがたい大切な経験と思い出になった。
こうして海茅の、しょっぱくて熱い夏が半分終わった。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
23
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる