【完結】またたく星空の下

mazecco

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6章

第59話 コンクールの余韻

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 ◇◇◇

 演奏を終えた部員は、舞台からはけて会場の外で集合写真を撮った。
 海茅は全てを出し尽くして放心状態になっていた。演奏が終わっても、まだ森から抜け出せない。
 何人かの部員は、まだ結果を聞いてもいないのに泣いていた。思うように演奏ができず、悔しいようだ。
 部長が部員を集め、コンクール期間最後のミーティングを始めた。

「先生、よろしくお願いします」

 部長の言葉に顧問が頷き、一歩前に出る。このときの顧問には、舞台で見せた笑顔なんてひとつもなく、いつものようにムスッとしている。

「おつかれさん」

 顧問が一言話すだけで、叱られるのではないかと部員が体をビクつかせた。
 部員たちも自覚していた。今回の演奏は、最高の演奏ではなかった。ミスもあったし、音程が合わず音が溶け込まないときもあった。
 いくら練習でうまくいっても、本番でできなければ意味がない。圧倒的な練習不足だ。
 顧問は縮こまっている部員を見渡し、小さくため息を吐く。

「改善点は分かったな。コンクールが過ぎても、その気持ちを忘れないように」

 部員が泣きじゃくりながら返事をすると、顧問は無表情のまま言葉を続けた。

「……だが、悪くなかった。恐らく金賞は取れるんじゃないかと思う」

 えっ、と顔を上げた部員に、顧問は苦笑いを浮かべる。

「だから言ったんだ」

 そして顧問はポリポリと頬をかき、気恥ずかしそうに言った。

「お前たちの演奏を聴いて、俺は……感動した」

 その言葉に、それまでこらえていた部員もわんわん泣いた。
 それは今の彼女たちにとって、金賞を取るよりも嬉しいことだった。


 顧問が予言した通り、侭白中学校の吹奏楽は金賞を受賞した。しかし上位大会には進出できない、いわゆるダメ金だった。
 目指していた金賞を受賞できて、部員はワッと歓声を上げた。ダメ金でもなんでも、キラキラ輝く金賞だ。
 今はそれでいい。明日から、今日得た悔しさを忘れずに練習すれば、もしかしたら来年は手が届くかもしれない。今日のダメ金は、その第一歩だ。


 結果を聞いたあと、顧問は部員をファミリーレストランに連れて行った。

「好きなパフェを頼め。好きだろう、パフェ」

 樋暮先輩いわく、コンクール後のパフェは毎年恒例らしい。
 部員たちはメニューを取り合い、パフェを注文した。
 ほとんどの部員が期間限定の一番値段が高いパフェを頼んでいた。顧問がボソッと「俺の小遣いが……」と呟いたが、幸いにも大はしゃぎしている部員の耳には入らなかった。
 そして期間限定パフェをおいしそうに頬張る一人、海茅は、とろけそうな顔で優紀に話しかける。

「優紀ちゃん! パフェおいしいね!」
「うん! おいしい~最高~」
「優紀ちゃん、グロッケン成功してよかったね!」
「そうそう! 手が震えすぎて、逆に良い感じに鍵盤に当たったんだよね~! ラッキー!」

 ケタケタと笑う海茅に、優紀がにっこり笑う。

「海茅ちゃんのシンバルも最高だったよ!」
「わー、ありがとう! 成功してよかったよ~。直前で頭真っ白になってさあ……」

 そして海茅はちらっと段原先輩を見た。
 視線に気付いた段原先輩が、抹茶パフェを食べながらこちらを見る。

「段原先輩のおかげでなんとかなったの!」
「え、俺なんかした?」
「はい! ありがとうございます!」
「何もしてないんだけど……。どういたしまして?」

 コンクールを目指して部活に打ち込んだ五ヶ月間、楽しいこともあったが、ほとんどが辛くて苦しい時間だった。戻りたいかと聞かれたら、できたら二度と戻りたくない。
 だが、海茅にとってこの五カ月間は、何にも代えがたい大切な経験と思い出になった。
 こうして海茅の、しょっぱくて熱い夏が半分終わった。
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