転生したら何も無い廃れた村の長になりました。

松宮砂糖

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村との出会いと初仕事

街に行くしかない

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 早速動き始めた。ドレイアズ達住居担当は、家の材料集めへと森へ向かった。シャーロリが指示する声が僅かに耳に届くあたり、そう遠い訳では無いらしい。
 イーデリック達食糧担当と、衣服担当は、その場でどうしようかと頭を悩ませていた。
 「…街に行くしかない。」
 シャーロリの僅かに響いた声が耳を刺す静かな時間の中で、ぼそりと呟いたのは、マリアだった。マリアの方を覗くと、何故か表情がとても暗い。周りを見渡すと、マリアに負けず劣らずといった様子で、大変暗かった。何も知らない僕は、空の容器が、不安という液体で満たされていくのを感じていた。
 「街ってそんなにヤバいの…?」
 周りに聞こえるほどの声でそう言うと、下を向いた視線は全てこちらに向いた。え?と焦りを隠せずにいると、ザッと地面を蹴る音を鳴らしながら、イーデリックが立ち上がった。
 「俺様が居るからには大丈夫だろ!前みたいにはならねぇって!」
 無理な笑顔を作りながら、ぽん、と胸を叩く。僕は、その言葉に格好良さというものを感じたのだが、どうやら周りは違ったらしい。周りの人々の表情は、より一層暗く重い空気になった。
 「ごめん…僕状況が掴めないんだけど…街って何があったの……?」
 僕が不安げに呟き、周りを見渡す。皆は視線を逸らし、誰が言うのかという言葉をアイコンタクトで争っていた。
 「…街の人々からの風当たりは容赦ないのです。……人々は我々を酷く嫌います。この村は、王国への税を納められない状態にあり、税を納められない我々とは、まさに底辺の存在。それも、底辺中の底辺。他の集落は、何かしらの利点があり、税となる物、或いは税の代わりとなる物を納めている為、堂々と街を歩けるのですが…我々は…」
 「そんな…」
 コレラの説明を聞き、何も知らない僕らは、この村の悲惨な状態を知らされることとなってしまった。この村には、金がなければ物資もない。王国と呼ばれた場所に納める物が何一つなかった。そんな状態では、絶望の未来しか目の前に見い出すことは出来なかった。
 「でも、今回はいるよ?おばさんが」
 「だ、だからおばさんじゃないって…!」
 「歳上だからおばさんっ!」
 ニーレは何を言い出したかと思えば、僕がいるから大丈夫。と言いたそうな言葉だ。なんだその信頼。
 「おばさんがこの村に来たときのオーラを、街のひとらに見せようよっ!」
 手を大きく広げ、僕が纏っていたらしいオーラを表現してた。アルヴァデウスは、それだ。と言いたげに二ーレの方を指さし、マリアは小さく3度頷いた。コレラとイーデリックが、何故か悔しそうな顔をしている気がするが、恐らく気の所為であろう。
 「おばさんじゃないけど…まぁ、何がともあれ、村の人が蔑まれるのなら僕だけで行ってみるよ。僕には…一応死神の加護もあるし、なんとかなると思う!」
 なるべくぎこちなく、落ち着いて、笑顔を作る。他人の体だからか、得意な作り笑顔も上手くできていない気がして仕方がない。けれども、村の人々は手を叩いて応援してくれた。勢いで言っちゃったけど仕方がない。行くしかないんだ……。

***

 「行ってきます。」
 僕が、小さく口を開く。村の人々は、手を振って送ってくれた。
 僕は仮にも、異界の者。元々ここにいた訳では無いが故に、王国になにやら申請をしなければいけないんだとか。面倒だが、仕方ない。僕にはマリアとオリエンスがついている。
 今回、僕が道に迷わないようにと、村の人々はマリアを連れていくようにと頼まれた。マリアは、王国の申請の経験者だから、というのもあるらしい。多分気の所為だけど、少し嬉しそうだった。…自意識過剰すぎかもしれない。
 「マリア、どこか行きたいところある?」
 折角着いてきてもらったというのに、何もなしとはまた失礼な話だと感じ、聞いてみると、彼女は、僕の指に小さな指を絡め、手を握って下を俯いた。
 「…星の研究所。アルタイルさんって方に会いたい。」
 そう言うと、こちらに視線を向けてきた。驚いて、1つ瞬きをした。その刹那──。

***

 『…あれ?えっ……?』

 視界は、真っ白な空間「無限空間」へと移り変わった。何が起きたのか分からず、一先ず、モニターに写るマリアを見ることにした。
 「マリア、そこは少し遠いから、駄目だよ。他に行きたい場所はある?」
 僕の、声だ。僕の声。僕の姿。僕の口。僕の視界。全てを奪われ、そいつは僕に完全になりすました。
 (すみません、ソルティア様。星の研究所に行かせる訳には行かないのです。貴女にはまだ早い事なのです。)
 無限空間に響く、もう1人の僕の声。その正体は、考えずともすぐに分かるものだった。
 『勝手に僕の体を乗っ取らないでよ!オリエンス!』
 (僕の体…?何をおっしゃいますか。これは私の体です。私の姿を借りただけの存在が、何を言っているのでしょうか。)
 『っ……!』
 返す言葉が見つからない。ただ脳裏を駆け抜けた言葉は、「様子がおかしい」の1つだった。
 オリエンスは決してそういう事を抜かすような者ではなく、弱々しい馬鹿という印象しかなかった。否、実際そうだった。だがしかし、今の言葉はどうだろう。弱々しさなど一つもない、まるで下等な生き物に言い放つかのような言い方。
 (貴女が真実を知るのはまだ早い。まだ先のことです。街の事はどうか私に任せ、ソルティア様は眠ってくださいませ。お疲れでしょう?さぁ、おやすみなさいませ。)
 その言葉が、僕の記憶に残る最後の言葉。続きも話していたように感じたが、突然の眠気に、僕はその場で大きな音を立て、気絶するように眠りについた。
 (目覚めた頃には、全て終わっていますよ。)

***

 ──アッハハハハハハッ!

 僕の夢の始まりは、頭痛がする様な甲高い笑い声だった。重く閉ざされた瞼を開けば、そこに広がるは燃え盛る家達と泣き喚く人々の合唱祭だった。

 ──馬鹿な事はやめろ!

 左耳に届く、若い女性の怒号。そちらの方に目をやれば、ジト目の女性が、険しい表情をしていた。端々が焦げたセーラー服を身に付けた、歳の近そうな人だった。長い薄紫の髪を揺らしながら、一歩、また一歩と前へと歩いている姿が目に入った。

 ──そ、そうです…!やめるのです……!
 
 今度は優しい声だった。声色からして、弱気な少女なのだろうと、見ずとも想像できた。

 上手く目を開けられず、全身が痛く、熱い。もうすぐ自分は死ぬんだ。そんな事くらいは、深く考えずともわかる、簡単な事だった。だが、これは夢の中。夢の中で死んだところで、というものだ。

 ──なんで?どうして?私には理解できないわ。こんな楽しいこと、貴女達はやめろと言うの?否定するの?楽しみを求めることの何がいけないの!つまらない。楽しくない。つまらないつまらないつまらない!何がいいの?人間の悩みを聞いて何になると言うの?人間を助けて楽しい?私は楽しくないわ。イライラするだけ。私のストレスが溜まるだけ。これは溜まりに溜まった私のストレス。人間の憎しみ、怒り、嫌悪、憎悪、悲しみ。私が聞いた人間の悪感情その全ての具現化なのよ。うふふ…貴方たちも何れはこうなるのよ?

 楽しそうに、愉しそうに、だがどこか辛そうに、2人の少女に語りかける女性の声。その声は徐々に冷静さを取り戻したような声色へと移り変わるも、話している内容は暗くなる一方だった。僕はなんの事かわからずに、聞きたいくらいだったが、何故か声が出ない。声帯がないかのように。

 ──ねぇ。█████、███。

***

 名前は聞き取れなかった。僕の意識は、そこで途絶えた。
 『酷い悪夢…』
 「無限空間」の中で、ぽつりと呟く。
 『でも、あの声、聞き覚えがある気がする…。』
 僕は、1つ違和感を覚えた。聞き覚えがある、では無く、聞き覚えしかないと言い替えた方が正しいくらいだ。夢の中に出てきたあの声の主のうちの1人が、

 どれだけ考えても、オリエンスの声にしか聞こえなかったからだった。
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