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第12話 苦悩
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「ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい」
私は、リビングの床に頭を付けて、泣きながら謝った。
「あなたに嫌な思いをさせたくなくて。あなたが、協力してくれって言ったから。ごめんなさい。ごめんなさい」
「里美、泣いて、ごめんなさいでは分からない。教えてくれ。君が僕を裏切るなんて僕自身が信じられないんだ」
夫もリビングに直接座った。私の目の前にいる。
「温泉旅行に行った時、いきなり、口と鼻を塞がれて………。犯されていても体が動かなくて、声も出なくて。終わったら、また口と鼻を塞がれて、気を失って。気が付いたら、部屋に戻っていて。………体も綺麗にされていて」
土田は僕と一緒に釣りに行っている。あの時のウィンクは、この合図だったのか。犯したのは、黒田。里美の体を綺麗にしたのは、洋子か。
怒りが込み上げて来た。あの後も何も知らない顔をして一年近く俺の側に居たとは。
「黒田の件は」
「パーティの時、黒田から夫に内緒で家庭内インタビューを人事課長と一緒にすると言われたの。あなたが、出張の日に呼び出された。その時、あなたの課長職考査が不利で、相手方有利だ。プロジェクトも失敗すれば、左遷になると。
始めは断ったの。でも、その後、プロジェクトが上手く行かない。あなたから協力して欲しいと言われて。最初は一回だけだからと言われたのだけど、その行為をビデオに撮られて、脅された。断れば、左遷だと」
だから、あの時、プロジェクトのメンバや土田の動きがおかしかったのか。
土田は、以前から黒田と組んでいたということか。
……だから、里美は、転職の事をほのめかしたのか。もっと聞いていれば。
協力の意味だって………。
里美が、リビングの床に頭を付けたまま、大声で泣いている。
僕の所為も有るのか。しかし、どうすれば。
会社の事もある。人事課長にも事情を話して謝らないと。
里美は、涙が尽きたのか。声を出さなくなった。でも頭は床につけたままだ。
僕はどうすればいいか、全く分からなかった。里美を追い出すか。なぜ。
里美が、自分の意思で行為をしたのか。違うだろう。
だが、このまま、何も無かったように一緒に暮らすのは、無理だ。
冷却期間を設けよう。そうすれば、冷静に考えられる。
里美を家から出すわけにはいかない。僕が出よう。
「里美、頭を上げなさい」
ゆっくりと、恐る恐るという感じで頭を上げて来た。
泣きはらした顔がかわいそうな気もする。
「里美、考えたい。旅行の時は、被害者だ。でも黒田の時は、お前の意思も入っている。少し、考えたい」
「えっ、えっ。いや、いやー。別れるなんていや。浩一を愛している。お願い。私を捨てないで。浩一が居なければ生きていけない」
また、床に頭を付けて泣き始めた。
「……里美。別れるなんて言っていない。だけど、知ってしまった以上、何も無かった様に、今までと同じように一緒に暮らすのは、無理だ。少し、冷却期間を設けよう。
里美は、ここにいなさい。僕が出て行く」
「やー。やだ。やだ。一緒にいたい。居たいよー。………お願い。玄関でも洗面所でもいい。私が、あなたの視線に入らない様にするから、一緒に居て。お願いー」
「里美。いい子だ。少し、冷静になりたい。長くはかからないから」
「どの位。一日、二日………。」
「最低でも一ヶ月。必ず戻るから。ここで待っていて」
夫は、旅行鞄に必要なスーツ類や靴関係と仕事で使う鞄などを持って出て行った。
何処に行くのかは、教えてくれなかった。
僕は、シティホテルを拠点に、一ヶ月の間に今回の件で遅延しているプロジェクトを元のスケジュールに戻す事。
人事課長に妻との事を話し、一か月間はホテルから通う事。
土田や黒田への慰謝料の請求手続きなどを弁護士を通じて里美と連絡しながら行った。
後一つ、どうしても残っていることが有った。
強化ガラスの向こうに土田がいる。
「元気そうだな」
「まあな」
「土田。教えてくれ。どうして俺の妻にあんなことをした。文句あるなら僕にすればよかっただろ」
「ふっ、そんな事も分からないのか。お前が、憎かったんだよ。同期で入って、どんどん出世していくお前がな。
俺は二つ年上だが、どんなに頑張ってもお前の足元にも及ばなかった。そんな時だ。温泉旅行を黒田に申請した時、『柏木の妻を抱かせてくれれば、次の課長職考査に乗せる』と言われてな。始めはふざけるなと思ったが、洋子に話したら、乗り気だったんだよ。
綺麗で、スタイルが良くて、出世コースまっしぐらの夫を持つ妻が、どんな顔して、喘ぐのか見たかったんだと。
お前の女房が、黒田に犯されて尻を振って喘いでいる時は凄かったらしいぞ。黒田のものを咥えて、あれを嬉しそうに飲み込んだらしい。
洋子は、ずっとそばでそれを見ていたんだ。自分もあそこまで喘がないと言っていた。さぞや凄かったんだろう。メス豚ビッチだと言っていた」
「なんだとー!」
目の前の強化ガラスを思い切り殴った。割れる事はない。僕の拳から血が出ただけだ。
「今後は、せいぜい凌辱された妻の体を楽しむんだな。あばよ」
怒りだけしか残らなかった。………そして里美がかわいそうに思った。
§ 里美サイド §
夫が家を出て行った一週間が経った。一人でこの家にいるのは、寂しい。でも待っていれば、必ず帰って来てくれる。前の様な生活が戻る。
そう思っていた。でも、
「あっ、あっ、うーっ」
内腿に自分の熱いものが流れ出るのが分かった。寂しい。体が、欲している。
夫が居た時は、少なくても二日に一度は、抱いてくれた。
もう二週間になる。明日電話してみよう。
『ツー、ツー。この電話は。電波の………。』
通じなかった。何度かけても通じない。
寂しい。リビングにある夫の写真を見ると自然と手があそこに行ってしまった。
「うっ、うーっ」
どうすればいいの。理性ではいけないと分かっている。でもこの体の疼きは抑えられない。でも夫とは連絡が取れない。
夫が帰って来るまで、後二週間ある。もし連絡が取れたら………。黙っていれば、分からない。いま、保釈されているらしいから。
『もしもし、黒田ですが』
『柏木です』
まだ、帰れる。でも体が欲求していた。どうしようも無かった。
「宜しいのですか」
「はい」
「あーっ、この感覚。もっと、もっと」
里美と約束した冷却期間の一ヶ月間まで、残り一週間になっていた。
………家に帰るか。
僕は、タクシーでホテルから家に戻ろうとした時だった。自分の目を疑った。
会社を解雇された黒田と、自分が良く知っている見知った女性が、腕に寄りかかりながら嬉しそうにホテルに入って来るのを。
「里美!」
「あなた!」
それから、一か月後、妻とは正式に離婚した。
―――――
最低―!!!
夫の苦悩も知らずに浮気に励む里美。さすがに許せません!!!
ビッチは嫌いだー!!
次回をお楽しみに。
面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価頂けると投稿意欲が沸きます。
感想や、誤字脱字のご指摘待っています。
宜しくお願いします。
私は、リビングの床に頭を付けて、泣きながら謝った。
「あなたに嫌な思いをさせたくなくて。あなたが、協力してくれって言ったから。ごめんなさい。ごめんなさい」
「里美、泣いて、ごめんなさいでは分からない。教えてくれ。君が僕を裏切るなんて僕自身が信じられないんだ」
夫もリビングに直接座った。私の目の前にいる。
「温泉旅行に行った時、いきなり、口と鼻を塞がれて………。犯されていても体が動かなくて、声も出なくて。終わったら、また口と鼻を塞がれて、気を失って。気が付いたら、部屋に戻っていて。………体も綺麗にされていて」
土田は僕と一緒に釣りに行っている。あの時のウィンクは、この合図だったのか。犯したのは、黒田。里美の体を綺麗にしたのは、洋子か。
怒りが込み上げて来た。あの後も何も知らない顔をして一年近く俺の側に居たとは。
「黒田の件は」
「パーティの時、黒田から夫に内緒で家庭内インタビューを人事課長と一緒にすると言われたの。あなたが、出張の日に呼び出された。その時、あなたの課長職考査が不利で、相手方有利だ。プロジェクトも失敗すれば、左遷になると。
始めは断ったの。でも、その後、プロジェクトが上手く行かない。あなたから協力して欲しいと言われて。最初は一回だけだからと言われたのだけど、その行為をビデオに撮られて、脅された。断れば、左遷だと」
だから、あの時、プロジェクトのメンバや土田の動きがおかしかったのか。
土田は、以前から黒田と組んでいたということか。
……だから、里美は、転職の事をほのめかしたのか。もっと聞いていれば。
協力の意味だって………。
里美が、リビングの床に頭を付けたまま、大声で泣いている。
僕の所為も有るのか。しかし、どうすれば。
会社の事もある。人事課長にも事情を話して謝らないと。
里美は、涙が尽きたのか。声を出さなくなった。でも頭は床につけたままだ。
僕はどうすればいいか、全く分からなかった。里美を追い出すか。なぜ。
里美が、自分の意思で行為をしたのか。違うだろう。
だが、このまま、何も無かったように一緒に暮らすのは、無理だ。
冷却期間を設けよう。そうすれば、冷静に考えられる。
里美を家から出すわけにはいかない。僕が出よう。
「里美、頭を上げなさい」
ゆっくりと、恐る恐るという感じで頭を上げて来た。
泣きはらした顔がかわいそうな気もする。
「里美、考えたい。旅行の時は、被害者だ。でも黒田の時は、お前の意思も入っている。少し、考えたい」
「えっ、えっ。いや、いやー。別れるなんていや。浩一を愛している。お願い。私を捨てないで。浩一が居なければ生きていけない」
また、床に頭を付けて泣き始めた。
「……里美。別れるなんて言っていない。だけど、知ってしまった以上、何も無かった様に、今までと同じように一緒に暮らすのは、無理だ。少し、冷却期間を設けよう。
里美は、ここにいなさい。僕が出て行く」
「やー。やだ。やだ。一緒にいたい。居たいよー。………お願い。玄関でも洗面所でもいい。私が、あなたの視線に入らない様にするから、一緒に居て。お願いー」
「里美。いい子だ。少し、冷静になりたい。長くはかからないから」
「どの位。一日、二日………。」
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夫は、旅行鞄に必要なスーツ類や靴関係と仕事で使う鞄などを持って出て行った。
何処に行くのかは、教えてくれなかった。
僕は、シティホテルを拠点に、一ヶ月の間に今回の件で遅延しているプロジェクトを元のスケジュールに戻す事。
人事課長に妻との事を話し、一か月間はホテルから通う事。
土田や黒田への慰謝料の請求手続きなどを弁護士を通じて里美と連絡しながら行った。
後一つ、どうしても残っていることが有った。
強化ガラスの向こうに土田がいる。
「元気そうだな」
「まあな」
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お前の女房が、黒田に犯されて尻を振って喘いでいる時は凄かったらしいぞ。黒田のものを咥えて、あれを嬉しそうに飲み込んだらしい。
洋子は、ずっとそばでそれを見ていたんだ。自分もあそこまで喘がないと言っていた。さぞや凄かったんだろう。メス豚ビッチだと言っていた」
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そう思っていた。でも、
「あっ、あっ、うーっ」
内腿に自分の熱いものが流れ出るのが分かった。寂しい。体が、欲している。
夫が居た時は、少なくても二日に一度は、抱いてくれた。
もう二週間になる。明日電話してみよう。
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夫が帰って来るまで、後二週間ある。もし連絡が取れたら………。黙っていれば、分からない。いま、保釈されているらしいから。
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『柏木です』
まだ、帰れる。でも体が欲求していた。どうしようも無かった。
「宜しいのですか」
「はい」
「あーっ、この感覚。もっと、もっと」
里美と約束した冷却期間の一ヶ月間まで、残り一週間になっていた。
………家に帰るか。
僕は、タクシーでホテルから家に戻ろうとした時だった。自分の目を疑った。
会社を解雇された黒田と、自分が良く知っている見知った女性が、腕に寄りかかりながら嬉しそうにホテルに入って来るのを。
「里美!」
「あなた!」
それから、一か月後、妻とは正式に離婚した。
―――――
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