半濁音の響く日々

強さと信頼は比例しない

　一年生は普段、上級生とは別室で練習をしている。
　上級生と同じ空間に集まるのは試合形式の練習の時と、ミーティングの時くらいである。
「神楽坂先輩ってさ、強いのかもしれないけど、勝手すぎねぇ？ 」
「それ思うわー。なんで他の先輩達は放置してんだろうな」
　深くコミュニケーションを取れていないことから、たまに見るときの様子だけで判断されるのは仕方ないことなのだろう。
「うちらにも何か言ってくるようになんのかね」
「ってもあの人試合にしか興味ないじゃん？俺ら試合させてもらえんのいつになるんだか」
「試合させてもらって勝てりゃ多少は意見聞いてくれると思うんだけどな」
「部長にでも直談判してみるか」
「全員試合するってのは難しいだろうから、神楽坂先輩と俺らの中で一番強いやつで試合させてもらおうぜ」
「となりゃ、優弥だな」
　一年生で一人、中学時代個人戦にて優勝経験のある者がいる。中条優弥。
「なぁ、優弥も神楽坂先輩のこと懲らしめてやりたくねぇ？ 」
「んー…別に。ただ、あの人がこの部内で一番強いのは間違いないだろうし、一度試合はしてみたい」
「お、じゃあ試合すること自体は乗り気なのな」
「うん。たまに見てるだけだけど、なんだか独特なんだよね、神楽坂先輩の打ち方って」
「よく見てんなー。俺なんか強いなーで終わりだわ」
「観察していると戦い方も見えてくるからさ」
「ふーん、まぁ試合するのは優弥だし、俺らは託すだけだわ」

　一年生の中で溜まっていた真琴への不満は、直接対決で凹ませてやろうという形でまとまったのであった。
　部長からも許しが出て、真琴に至ってはやっと挑戦者が来たかと迎え討つ気満々であった。

　後日、真琴と優弥の試合が行われる。