この世界は私の物

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出会い

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 毎日同じことの繰り返しで嫌になる。学生時代のように毎日が楽しくて希望に満ち溢れていた日々は、社会人になってからというものの仕事に追われるだけになっている。
 正社員として働きだしてもう二年。業務には慣れてきたものの、自由な時間が減っている現実にはまだ喪失感が上回っているのが現状だ。
 学生時代はやりたいことに沢山の時間を割けた。学業、遊び、アルバイト。
 そして何よりも大好きだったバンド。軽音楽部で趣味の合うもの同士集まってバンドを組んでライブして。プロになるとかそれで生計を建てるとかそんなレベルではなくって、ただただ趣味の延長みたいな活動だったけど、バンド活動があったからあの日々の輝きがあったことだけは確かだ。
 残念ながらそんな趣味のような集まりのバンドだったこともあって、就職を期にバンドは解散。大学卒業後はたまに集まって仕事の愚痴を言い合ったり思い出話をしたりはするけれど、再度楽器を掻き鳴らそうという話は全く上がらない。
 勿論、そうやって語らう集まりができるだけで有難いものだというのはわかってるし、実際集まっている間は楽しいと思っている。この集まりがあるから仕事ばかりの日々も乗り越えられているんだけれど、たまにはギターを思う存分弾き晴らしたい。
 
 今日も仕事。営業職で歩き回る仕事はオフィスで缶詰になってるよりは外の空気を感じられる分気が晴れる。
 ひとまず今日回る分は回りきったから会社に戻るのだけどもう少し時間を潰してからがいいな。そんなことを思いながら河川敷を横目に普段よりもゆっくりとした足取りで進む。
 よく通る道。河川敷には色んな人がいる。キャッチボールをしている少年達。釣りをしている中年男性。夏にはバーベキューやキャンプを楽しむ人たちもいたりする。
 ぽーっと河を眺めながら歩いているとギターの音が聴こえてきた。たまにここで練習をしている人がいたりする。趣味でありながらも楽器を嗜んでいた身としては自然と耳を傾けてしまう。大概はギターを弾き始めて一年未満といった人がここで練習してから、駅のロータリーなんかで弾き語りをしに行くような流れがあるので、まだ発展途上だなぁと思う演奏が多い。偉そうに言ってるがこれでも高校から七年はしっかりやっていたから初心者よりは上手い自信がある。
 ただ、この日聴こえてきた演奏は違った。たまに上手い人が演奏していたりすることはあるのだけど、今日のはそれとは違う。ただ上手いのではなく、心惹かれる演奏。このギターを弾いているのはどんな人なのか。確認せずにいられない。
 音のする方へ視線を向けてみると一人の女性がいた。
 短髪でTシャツにデニムといったシンプルな着こなし。町中で見かけたとしても目立たずに印象にも残らなさそうなのに。その演奏を聴いているからか目が離せなくなった。
 気が付いたら傍によって演奏に聴き入っていた。
 「えっと…どうしました?」
 どうやら傍に寄り過ぎていたみたいでいつの間にか演奏は止まっていた。
 話しかけられてどう返していいか戸惑っていると、女性は片付けを始めてしまった。
 「あ、あの! ギターすごい上手でした!」
 「ありがとうございます…」
 「突然なんですけど、私と一緒にバンド組みませんか⁈」
 「え…?」
 「あー…ごめんなさい!一人で盛り上がっちゃって。あなたの演奏を聴いていたらまた音楽がやりたいって気持ちがおさえられなくなっちゃって。名乗りもしないですみません。私は雛川多佳子と申します」
 「ははっ…褒めてくださって光栄です。上田真実といいます」
 「上田さんですね!今はちょっと仕事中で時間がないのでまた日を改めて話をしたいんですけど、連絡先とか教えてもらってもだいじょうぶですか?」
 「んと…さすがに連絡先を教えるのはまだ怖いです…。今度の日曜にでもまたここでギターを弾いてると思うのでその時に来てくださればお話くらいなら…」
 「そ、そうですよね、いきなりすみませんでした。そしたら日曜にまた会いに来ます!」
 そういって私はその場を去っていった。振り返ることはしなかったけど、またギターの音色が聴こえてきた。片付けをしていたのは帰るためではなく場所を変えようとでもしていたのだろうな。
 少しだけ申し訳ないことをしたなと思う反面、今日の出会いは運命的な出会いだと心底喜んでいる自分がいる。真実と出会えたことで日々がまた輝きだすと思っている。
 我ながら暴走気味だったけれど、真実と音楽をやりたいというのは本心だったので後悔はしていない。仕事を始めてから忘れていたことだったけど、何事も楽しんで後悔しない生き方をするという自身の決め事を思い出した。
 今度の日曜にあの河川敷で。かなり一方的で約束ともいえるか微妙なものではあったけど、その約束を糧に今週の勤務を乗り切ろうと決めた。
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