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15歳の章
海洋伯領への出張・海都の薄闇1
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何処までも広がる青い海から、潮を含んだ風が吹いてくる。
此処は王国南部。南部辺境伯こと海洋伯の治める街。海を越えた先にある国々との交易で栄えた、通称『海都』と呼ばれる場所だ。
市には異国の品々が溢れ、行き交う人々の表情は活気に充ち溢れている。
そして海都は商業だけの街じゃない。食の街としても有名なのだ。
まず何より目玉となるのが海魚である。海魚は川魚と違い泥臭さが無い。けれど痛ませずに内陸部へ輸送するのが困難な為、王都でも口にする事は難しい。
しかし此処では海魚は小山の様に、しかも毎日水揚げされて、人々の食卓に格安で並ぶのだ。
他にも異国の果物や香辛料等、酒等も珍しい物が手に入る、まさに美食の街と言えよう。
更にはこの潮の香は女性を開放的にする効果もある。日に焼けた褐色の肌は、乾いた心を癒すだろう。
凡そ人が喜ぶあらゆる要素を貪欲に取り揃えた、王国民の一度は行ってみたい町、それがこの海都なのだ。
ってうたい文句のこの街に、やって来た僕はフレッド・セレンディルです。宮廷魔術師をやってます。
海はテンションを上げてくれますか? いいえ僕は別に上がりません。
だって何時も通りの出張ですもの。今回の任務も厄介事感バリバリです。
それに僕海が初めてな田舎者じゃないですし。冒険者時代に何回も来ましたし。海賊とか海スキュラとかも倒しましたし。
開放的な女の人も僕じゃからかわれるだけですし、あと魚の目って怖いですよね。
取り敢えず果物ですかね。食べ過ぎると口の中イガイガしますけど。
今回僕がはるばる遠い海洋伯領に来る事になったのは、王都近辺で兵士団が行った流れの野盗団退治が切っ掛けだ。
当初、高々十数名の野盗団は補足さえしてしまえば大した敵にもならぬと思われていた。
王国民に危害を加えた愚か者に鉄槌をと、必死の捜索の上で拠点を発見した兵士団は、しかし襲撃の際に苦戦を強いられて多数の犠牲を出してしまう。
「で、その原因となったのがこのカースドポーションですか……」
渡されたポーションは野盗団から押収した物。これを服用した野盗は人に倍する膂力と、まるでトロールを思わせる再生能力を発揮したらしい。
けれどそれだけではカースドポーションとは呼ばない。このポーションの問題点は、服用した者の理性が薄れて暴力的になったりする事と、暴れる際の全能感や多幸感故に強い依存症や中毒性があるだろうと言う事。
カースドポーションの存在に危機感を覚えた国が捜査を行った所、少しずつ国内に流通し始めていた事が発覚したらしい。
調薬の達人である宮廷魔術師第四席『ドクター』が解析を行った所、原材料の一部が国内では入手不可能である事が確認された。
つまりこのポーションは国外から密かに持ち込まれた可能性が高いのだ。
まず考えられたのは王国と不仲である共和国の関与。彼の国には以前の王国改革の際に亡命した貴族が多く、ずっと敵対関係にある。
東方辺境伯領では共和国との小競り合いも珍しくはない。何時かはぶつかる事になると、誰もが予感をしている。
故にその手の案件では真っ先に共和国の関与が疑われるのだ。
しかし比較的王国に近しい気候の共和国では、やはりその入手不可能な原材料は採取出来ない可能性が高いらしい。
するとこの手の物品が一番入り込みやすいのは南部の海からだと推定された。
一応他の西部、北部、東部の3辺境伯領にもこの手の案件に対するエキスパートが派遣されるらしいが、最も可能性の高い南部を僕に担当して欲しいとの打診があったのだ。
ちょっと待って、僕って一体どういう扱いになってるの。宮廷魔術師ってエージェントか何かだっけ……?
後で五席、宮廷魔術師の先輩であるエレクシアさんが答えを教えてくれました。
「宮廷魔術師は、っていうよりアンタは便利屋よ。危なくなる前に他の人に頼りなさい。怪我無く帰ってくるのよ」
って。げ、解せぬ。
心配するなら一緒に来てくれたら良いのにと言ったら、日焼けはしたくないそうです。
でも良く考えたら便利屋扱いは冒険者時代と変わりません。
僕が適任だと思われてるなら、出来る限りは頑張ってみましょう。
海鳥の鳴き声に耳を傾けながら銀色の前髪を弄繰り回す。紅い瞳を閉じて、これからの行動を思索する。
うん、この果物絞ったジュースすっごい美味しい。王都でも飲めたら良いのに。
まず海洋伯に協力を要請するか否かだが、これは此方からの接触はやめておく事にする。
下手に会いに行って持て成されたりしても、動きが鈍くなって仕方ない。僕はあちらからすれば会えば持て成さない訳にもいかない相手なのだ。
ドグラを連れ歩いてるので判るだろうし、必要があるなら向こうから接触を図って来ると思うので、取り敢えず海洋伯は良いや。
ちなみにシティアドベンチャーになりそうだが、カーロは王都に置いて来た。安定の連絡係である。
何より海鳥って意外と狂暴だからカラスとか連れてると危ないしね。
次に港を必要としない目立たない小船で、人気のない海岸から運び込まれてるパターンも今は除外する。此れをされてたら僕にはどうしようもない。
海洋モンスター等に襲われるリスクが格段に高くなるので普通は取らない方法だが、それ故に人目を避ける効果は絶大だ。
他で見つからない場合、此れをされてると仮定して人手を大量に導入して探すって手段を取る事になるが、後回しで良いだろう。
それに此方の場合は海洋伯の海賊警戒網に引っかかる場合もある。
ならば僕がまず調べるべきは港を利用する大型の船で、検査を逃れてこっそり持ち込んでいるパターンだ。
所謂密輸と言う奴だ。此れだったら楽で良いなあ……。人がいる場所でのモノの流れは、どうやっても隠し切れないものだから。
取り敢えず街をうろつこう。他にも美味しい物は沢山あるのだし。
此処は王国南部。南部辺境伯こと海洋伯の治める街。海を越えた先にある国々との交易で栄えた、通称『海都』と呼ばれる場所だ。
市には異国の品々が溢れ、行き交う人々の表情は活気に充ち溢れている。
そして海都は商業だけの街じゃない。食の街としても有名なのだ。
まず何より目玉となるのが海魚である。海魚は川魚と違い泥臭さが無い。けれど痛ませずに内陸部へ輸送するのが困難な為、王都でも口にする事は難しい。
しかし此処では海魚は小山の様に、しかも毎日水揚げされて、人々の食卓に格安で並ぶのだ。
他にも異国の果物や香辛料等、酒等も珍しい物が手に入る、まさに美食の街と言えよう。
更にはこの潮の香は女性を開放的にする効果もある。日に焼けた褐色の肌は、乾いた心を癒すだろう。
凡そ人が喜ぶあらゆる要素を貪欲に取り揃えた、王国民の一度は行ってみたい町、それがこの海都なのだ。
ってうたい文句のこの街に、やって来た僕はフレッド・セレンディルです。宮廷魔術師をやってます。
海はテンションを上げてくれますか? いいえ僕は別に上がりません。
だって何時も通りの出張ですもの。今回の任務も厄介事感バリバリです。
それに僕海が初めてな田舎者じゃないですし。冒険者時代に何回も来ましたし。海賊とか海スキュラとかも倒しましたし。
開放的な女の人も僕じゃからかわれるだけですし、あと魚の目って怖いですよね。
取り敢えず果物ですかね。食べ過ぎると口の中イガイガしますけど。
今回僕がはるばる遠い海洋伯領に来る事になったのは、王都近辺で兵士団が行った流れの野盗団退治が切っ掛けだ。
当初、高々十数名の野盗団は補足さえしてしまえば大した敵にもならぬと思われていた。
王国民に危害を加えた愚か者に鉄槌をと、必死の捜索の上で拠点を発見した兵士団は、しかし襲撃の際に苦戦を強いられて多数の犠牲を出してしまう。
「で、その原因となったのがこのカースドポーションですか……」
渡されたポーションは野盗団から押収した物。これを服用した野盗は人に倍する膂力と、まるでトロールを思わせる再生能力を発揮したらしい。
けれどそれだけではカースドポーションとは呼ばない。このポーションの問題点は、服用した者の理性が薄れて暴力的になったりする事と、暴れる際の全能感や多幸感故に強い依存症や中毒性があるだろうと言う事。
カースドポーションの存在に危機感を覚えた国が捜査を行った所、少しずつ国内に流通し始めていた事が発覚したらしい。
調薬の達人である宮廷魔術師第四席『ドクター』が解析を行った所、原材料の一部が国内では入手不可能である事が確認された。
つまりこのポーションは国外から密かに持ち込まれた可能性が高いのだ。
まず考えられたのは王国と不仲である共和国の関与。彼の国には以前の王国改革の際に亡命した貴族が多く、ずっと敵対関係にある。
東方辺境伯領では共和国との小競り合いも珍しくはない。何時かはぶつかる事になると、誰もが予感をしている。
故にその手の案件では真っ先に共和国の関与が疑われるのだ。
しかし比較的王国に近しい気候の共和国では、やはりその入手不可能な原材料は採取出来ない可能性が高いらしい。
するとこの手の物品が一番入り込みやすいのは南部の海からだと推定された。
一応他の西部、北部、東部の3辺境伯領にもこの手の案件に対するエキスパートが派遣されるらしいが、最も可能性の高い南部を僕に担当して欲しいとの打診があったのだ。
ちょっと待って、僕って一体どういう扱いになってるの。宮廷魔術師ってエージェントか何かだっけ……?
後で五席、宮廷魔術師の先輩であるエレクシアさんが答えを教えてくれました。
「宮廷魔術師は、っていうよりアンタは便利屋よ。危なくなる前に他の人に頼りなさい。怪我無く帰ってくるのよ」
って。げ、解せぬ。
心配するなら一緒に来てくれたら良いのにと言ったら、日焼けはしたくないそうです。
でも良く考えたら便利屋扱いは冒険者時代と変わりません。
僕が適任だと思われてるなら、出来る限りは頑張ってみましょう。
海鳥の鳴き声に耳を傾けながら銀色の前髪を弄繰り回す。紅い瞳を閉じて、これからの行動を思索する。
うん、この果物絞ったジュースすっごい美味しい。王都でも飲めたら良いのに。
まず海洋伯に協力を要請するか否かだが、これは此方からの接触はやめておく事にする。
下手に会いに行って持て成されたりしても、動きが鈍くなって仕方ない。僕はあちらからすれば会えば持て成さない訳にもいかない相手なのだ。
ドグラを連れ歩いてるので判るだろうし、必要があるなら向こうから接触を図って来ると思うので、取り敢えず海洋伯は良いや。
ちなみにシティアドベンチャーになりそうだが、カーロは王都に置いて来た。安定の連絡係である。
何より海鳥って意外と狂暴だからカラスとか連れてると危ないしね。
次に港を必要としない目立たない小船で、人気のない海岸から運び込まれてるパターンも今は除外する。此れをされてたら僕にはどうしようもない。
海洋モンスター等に襲われるリスクが格段に高くなるので普通は取らない方法だが、それ故に人目を避ける効果は絶大だ。
他で見つからない場合、此れをされてると仮定して人手を大量に導入して探すって手段を取る事になるが、後回しで良いだろう。
それに此方の場合は海洋伯の海賊警戒網に引っかかる場合もある。
ならば僕がまず調べるべきは港を利用する大型の船で、検査を逃れてこっそり持ち込んでいるパターンだ。
所謂密輸と言う奴だ。此れだったら楽で良いなあ……。人がいる場所でのモノの流れは、どうやっても隠し切れないものだから。
取り敢えず街をうろつこう。他にも美味しい物は沢山あるのだし。
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