宮廷魔術師のお仕事日誌

らる鳥

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15歳の章

ダンジョンの湧いた男爵領、後編2

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 盗賊のチャリクル、神官戦士のキール、この二人の腕は流石に確かだ。
 彼等が他と固定を組まずに二人だけで冒険している理由は知らないが、個々の実力は間違いなく高位クラスだろう。
 腕のある戦士と魔術師をパーティに加えればさぞや有名なパーティになる筈だ。そうしない理由をいちいち聞いたりはしないけど。
 腕だけで無く彼等は人柄も信頼できる。それで十分だ。
 陽気なチャリクルと寡黙なキール、二人のタイプは違うけど、冒険を真剣に楽しんでいる態度は安心感を持てた。
 先頭を竜牙戦士のドグラが進み、ほぼ並び立つ感じで灯りを持ったチャリクルが前方警戒にあたる。
 次いでマップを記しながら僕が行き、最後尾をキールが守るのだ。
 このメンバーなら並のダンジョンの低層で苦戦する事はまずあり得ない。
 勿論スライムの不意打ち以外だ。油断だけはしてはいけない。

「拙いな。このダンジョンかなりきびしーぜ。それに1Fであんな階層ボスとかありえねえし、今の何だ?」
 しかし階層ボス討伐を果たした後に呻く様に愚痴を零したチャリクルに、僕も完全に同意せざるを得なかった。
 入り口から此処までの道中に出てきた魔物や魔獣も、ヘルハウンド、オウルベアー、タートルスネークと中位クラスに届いたモノが何体も出たのだ。
 1階層から中位の魔獣がポコポコ出るなんて本当にあり得ない。
 それに輪をかけてあり得なかったのが階層ボスだ。
「ヒューマンスコルピオですね。かなり珍しいと言うか、僕も実物は初めて見ました。此処下手をしなくても他所の5層並じゃないです?」
 逞しい人間の上半身が大きなサソリから生えた魔物で、上半身は魔法と武器で、下半身は大きなハサミと毒の滴る尻尾で攻撃してくる強敵だった。
 体感だが高位クラスには届かないが、中位ではかなり上の方に入るんじゃないだろうか?
 間違っても最初の階層で出てくるようなボスでは無い。
「毒持ちも多い。ダンジョンの公開前に各種ポーションの販売所も用意すべきだ」
 珍しく喋ったキールの言葉にも異論はない。
 解毒の奇跡が使えるキールや、そもそも毒が効かないドグラが居るこのパーティは問題ないが、普通はそうはいかない。
 その辺りの手配も忘れずにするとしても、問題はゴートレック男爵領で発見されたダンジョンが完全に初心者お断りの難易度だった事だ。
 しかし、これはかえって良かったかも知れない。
 収益だけを考えるなら、様々な層を受け入れられるダンジョンが望ましい。
 初級者は浅い階層で、上級者は深い階層でとどちらも棲み分けが出来るから。
 一人当たりの落とす金額は、上級者と初級者では比べ物にならないが、人口は初級者の方が断然に多いので彼等からの利益も決して馬鹿には出来ないのだ。 
 でも冒険に慣れて来て万能感に囚われ始めた、所謂英雄病患者や、上にあがれずに腐り始めた中級者なんかは一般の人に迷惑をかける確率も高い。
 上級者になるまで生き残っている者になれば世間もある程度判っているし、わざわざ一般人と揉め様とする者はあまり居ないのである。
 男爵領の人達にとってはこのダンジョンが難易度高めのダンジョンである事は決して悪い事では無い風に思えた。
 それに最初から難易度が高いと言う事は、上級者にとっては面倒な浅い階層を通る手間が省けるので便利である。
 初めから高難易度を謳い文句にしておけばチャレンジブルな連中には受けるだろう。

「考え事はおすみかい? んで、どーするよ。降りても推定10階層並なら、アンタ等が居てくれたらなんとでもなるとは思うが」
 ボス部屋の隅っこにある下への階段を親指で示しながら、チャリクルが問うて来る。
 どうやら僕の思案をのんびり待っててくれたらしい。実に気遣いの出来る冒険者だ。何で冒険者やってるんだろ。
 そう、1階層で他の5層程度なら、2階層に降りれば他の10層程度になる可能性は確かにある。或いは6層程度になる可能性もあるけれど。
 その辺を確かめておきたいのは確かなのだが……。
「んー、でも帰りましょうか。報酬は5層クリア相当でチェックしときます。此処から下の階層情報は公開後に買い取り式ですね」
 しかしここは引き上げるとしよう。此処までのマッピングは完璧だ。帰り道に不安は無い。
 買い取り式とは、例えば出現魔物やボスの情報を証拠のドロップと共に提出する事で報奨金を支払うシステムだ。
 これで虚偽の情報を出す事は他の冒険者を危険にする事なので普通やらないし、虚偽だと確認が取れたらギルドを通しての罰則もある。
 当然、僕にも自身で先を見たい気持ちはある。例えこの下が10層どころかもう少し深い階層相当でも、どうにかできる自信だって無くはない。
 でも、だからこそ。
「折角の高難易度ダンジョンですし、未知を発見する冒険の喜びは冒険者に譲ります。それより日をあけて1階層ボスに何回かアタックしましょう」
 僕等の仕事は1階層の情報を完全にする事までと線引きだ。
 一番美味しい所は現役に譲ろう。それはとてもとてもとてもとても、口惜しいけど、下調べで食い散らかして良い物じゃないと思ったのだ。
 整備道具は持って来てるが、ドグラにあまり無理ばかりさせたくもないし。
 それにこの1階層が他所の5階層相当だと判断するなら、階層ボスの種類が1種類だけとは限らない。
「はー、階層ボスが複数種類はこのダンジョンならあり得なくもねー話だな。でも俺等は冒険者なんだけど、よ?」
 未練がましくチャリクルは階段を見つめる。そうですね、貴方は冒険者です。
 そしてその気持ちはキールとて同じなのだろう。此処にも冒険者が一人いますね。
 それ故に僕は笑顔を浮かべる。ダンジョンに嵌って男爵領を栄えさせてくれる有り難いお客様だ。
「じゃあ、ダンジョン公開後に二人のチャレンジをお待ちしてますね。臨時のメンバー、知り合いの戦士と魔術師に紹介状書きましょうか?」
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