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エピローグ
エピローグ
しおりを挟む僕がゴートレック男爵領で王都からの連絡を受けたあの日から1年と少しが過ぎた。
宮廷魔術師になった時は15歳になったばかりだった僕も、もうじき18歳の誕生日だ。
旧貴族派との争いは半年近く続いたが、結末は想定通りに王家派の勝利に終わる。
そもそもが王家派に勢力が有利に傾きすぎた為に起きた争いである。争いの内容は戦いよりも鎮圧に近い。
如何に被害を小さく、如何に他国に隙を見せぬ様に旧貴族派の首根っこを捕まえるか。
そんな争いだったので、王家派は宮廷魔術師長や、もしくは王が暗殺でもされない限りは勝利が揺らぐ事は無い。
だが宮廷魔術師の過半数が本気になって敷いた防衛網は鉄壁で、足掻く旧貴族派に逆転の目は無くその勢力は大きく減じた。
おおよそは当主の代替わり程度の処置で済ませたのは、慈悲では無く小規模であっても国内に旧貴族派を残しておきたいと言う判断からだ。
王国は歴史ある大国で、国を維持するだけならば苦労は少ない。
正確には国を維持していけるだけの構造が既に組み上がっているのだ。だから安寧の時を過ごせば、内部は徐々に腐敗していく。
その腐敗を防ぐ簡単な方法は目に見える敵を用意する事である。旧貴族派が居たからこそ、王家派は強く纏まれた。
王国は共和国と争い続けているし、魔物の被害も変わらず多いが、国の中心である王都からはそれらの脅威は見え難い。
距離や強固な城壁でそれらの脅威から区切られているから。豊かさや国の強大さばかりに目が行き易いのだろう。
だからこそ、旧貴族派と言う国内の敵はトドメを刺さずに生かしておく必要があったのだ。
僕は馬車に揺られて小国家群のとある国を目指している。
そのとある国、ベージャー国とスワテラ国は今誰も望まぬ戦いの真っ最中だ。
彼の二国はかつて一つの国だった。100年程前の事だが、小国家群の中では比較的大きな国として周辺の纏め役すら担っていたらしい。
だが長子たる王太子が原因不明の病に倒れ、失意の国王が跡継の指名をせずに気が触れて仕舞った為に、国は跡目争いで大混乱が起きる。
まだ幼い次子を擁立した貴族と、長年補佐役だった王の弟の間で起きた争いに決着は付かず、結局は二つの国に分裂すると言う結果に終わった。
成り立ちからしてそんな事情である為、二国間の関係は非常に悪い。
感情的な問題だけでは無く、領土問題が複雑すぎて解決できないのだ。今回の件も国境での些細な諍いに端を発した争いである。
けれど両国は長年続く争いに随分と疲弊しており、また周辺国も両国の関係には頭を悩ませていた。
小国家群は外敵に対しては纏まって抵抗する事が多いが、その際には当然ベージャー国とスワテラ国も連合に参加する。
すると連合の盟主となった国はこの両国の扱いに対して多大な配慮を強いられるのだ。
両者を近づけてもいけないし、無論扱いに差が付いてもいけないから片側だけに戦功をあげられるのも困る。
外敵に独力で対処するのが困難であるから小国同士で纏まろうと言うのに、一事が万事その調子では存在が大きな隙となってしまう。
ベージャー国もスワテラ国も本音を言えばこの無意味に疲弊するだけの関係は終わりにしたい。
だが譲歩は相手の国の正統性を自ら認める事になりかねないので、互いに自分から譲歩するのは不可能だ。
相手の国の正統性を認めれば、それは即ち自国に正統性が無いと認めるも同然になってしまうから。
そこで必要なのが、両国にとって逆らう事の許されない国力差のある大国、王国からの仲裁であった。
相手に譲歩したのでは無く、王国の面子を立てる為に仲裁に従ったと言う形こそが、彼等が面目を潰さず行える唯一の和解手段なのだろう。
とても面倒臭い話ではあるが、この仲裁は王国にとっても一応のメリットが存在する。
そのメリットとは王国の影響力の誇示。
もう少し噛み砕いて言えば、王国の力は小国家群にも及ぶ、小国家群は頼るべき相手に王国を選んだ、王国と小国家群の関係は良好だと、周辺に見せつける事だ。
王国と小国家群の関係が親密であれば、それは例えば共和国へのプレッシャーとなるだろう。
僕の役割は王国からの仲裁の使者だった。
ベージャー国とスワテラ国は、本音では和解を望んでいる。彼等から仲裁を打診してきたのだから此れは間違いが無い。
けれど両国の言い分の調整はとても厄介な物になるだろう。何せ過去に遡っての権利の主張だ。
丸っきり無視する訳にはいかないが、其れを重視し過ぎても此れからの両国の関係にしこりを残す。
新たな秩序を王国が押し付ける形になる位で丁度良いのかも知れない。
そして障害は両国の関係だけじゃない。両国も、周辺の小国家も、今回の和解を望んで居るだろう。
しかし例えば共和国は確実に今回の仲裁は邪魔をしたい筈である。実際に共和国からの働きかけがあった事も確認済みだ。
両国内にも共和国からの影響を受けた抵抗派はいると考えた方が良い。
手っ取り早く僕を消す事で王国との関係を拗らせる事を狙う者とて居ないとは言い切れなかった。
でも僕には護衛の騎士達と、何よりも信頼出来る竜牙戦士のドグラがついてる。
もうすぐ僕は18歳だ。18にもなればもう誰からも大人として扱われるだろう。
王都では僕の結婚相手をどうするかと言う話も出ているらしい。
其れは未だ少し早いと思うのだけれど、兎に角一人前の年齢だ。僕は一人の男になれるだろうか?
宮廷魔術師としての仕事も、他国の争いの仲裁が出来れば一人前を自信を持って名乗れる気がする。
まだ新しい後輩は入って来ないけど、それでも新人期間は終わったと言っても良い筈。
そうしたら、先ずは親友のアイツと酒を飲もう。
僕は此れだけの事を成したよ、そっちはどうだった、と。
馬の嘶きが聞こえ、馬車が停止する。どうやら目的地に到着した様子。
宮廷魔術師としての僕の人生はまだまだ続くが、此処からは新人では無く一人前として、先ずは目の前の仕事に集中しよう。
僕はフレッド・セレンディル。魔術を志す多くの者にとっての憧れである、宮廷魔術師の第七席を務める者だ。
本日のお仕事自己評価:いちにんまえなのでこれにておわり。
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