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しおりを挟む「ユーさんユーさん、そろそろランク昇格の条件を満たしそうですよ」
ギルドに依頼の報告を行いに来た僕に、冒険者ギルドで唯一名前を知ってる受付嬢、エミリアさんが嬉しそうに話しかけて来た。
エミリアさんは丁度僕が冒険者になった年に、ギルドに新人職員として入って来て、雑用依頼で食い繋ぐ僕を何かと気にかけてくれた人だ。
黒髪のショートボブの……、確か20歳位だっただろうか。
年上だけど美人というよりは可愛らしいという表現がしっくりくる女性。
流石に仕事の早さはまだベテラン職員に及ばないが、それでもしっかり者だし親身になってくれるので、中々に頼れる人である。
しかしランク昇格か……。嬉しいけれど、どうしよう。
冒険者は実力や実績により、冒険者ギルドからクラスとランクでの評価を受けている。
まずクラスが下級、中級、上級といった大別で、ランクは1~10までの細かい区別だ。
ランク1~3までが下級冒険者となり、4~6が中級、7以上が上級といった具合に。
僕はランクが2なので下級冒険者の分類に属していた。
まあ下級冒険者の中でも、ランク1と2と3では大分と扱いは違うのだ。
ランク1は冒険者になったばかりであり、実力もギルドからの信用もまだ持たない。
ランク2は受けた依頼をキチンと一定数達成し、ギルドからの信用を得た者が1から上がる。実力はまだ然程問われないのである。
けれどランク3になるのに必要なのは実力だ。
冒険者に期待される役割は魔物の駆除。その駆除を行える一人前の冒険者とギルドから評価された証がランク3と言えるだろう。
尤もその一人前から、更に一歩踏み込むランク4、つまりは中級に上がる為には厳しい壁があるのだけれども。
それはさて置き、僕は仕事を丁寧に頑張った結果、ランク2には結構早い段階で慣れたのだが、それから大分長い間ランク2のままだった。
魔物とあまり積極的には戦って来なかったのだから当然である。
最近は少し魔物との戦いにも慣れて来たが、どうしても所々でヨルムの手……、手は無いけど、助力を受けていた。
冒険者ギルドからの評価は僕一人の物とは言い難い。そんな状況でランク昇格をするのは、まだ早いんじゃないかと不安になる。
「エミリアさん、昇格条件を満たすって、どうすればいいんです?」
折角朗報を伝えに来てくれたのに、思い悩むのもエミリアさんに失礼かと思い、取り敢えず条件を聞いてみた。
昇格の条件を満たしそうなだけで、まだ満たした訳では無いのだから。
「えっとですね。ユーさんは討伐数が最近クリアして、依頼達成回数はもうずっと前に超えてるので、あとは実力証明だけになります」
エミリアさんは3本立てた指を一つずつ折って行き、最後の一本、人差し指を左右に振って見せる。
実力証明。其れこそ僕が不安に思っていた事だ。
僕にランク昇格に相応しい、一人前の冒険者とされるだけの実力があるのかどうか。
「実力証明は簡単で、単独でも下級同士ならパーティでも構わないので、ランク3の魔物を狩って来ればOKです。後はお金を支払えば試験官に対しての実力証明も受けれますが、正直此方を選ぶ人はあまり居ないですね」
……あ、それは良いかも。
反動は付けずに、ゆっくりと体の筋を伸ばして行く。
僕はエミリアさんがあまり選ばれないと言ってた、試験官に対しての実力証明を敢えて受ける事にした。
代金は銀貨五枚。結構高い。
魔物を狩れば御金が掛からず証明出来るし、パーティを組んでもOKなら難易度も下がる。
更に素材や討伐の金銭が手に入る事を考えたら、魔物討伐ばかりが選ばれるのも頷けた。
でも魔物の討伐はいざとなればヨルムに頼ってしまえるが、試験官に対して実力を証明するなら完全に僕一人の実力が測られるのだ。
胸を張ってランク昇格を受けるには、此方の方が都合が良い。
「よーし、ユーディッドだったな。お前が申請した試験は剣と弓だ。先ずは弓から実力を計測する。準備は良いか?」
ギルドの試験官……、確か始めて冒険者になろうとした時の講習で顔を見た事がある。実技講習の教官だった人だ。
残念ながら名前は知らないが、何も知らない子供だった僕を馬鹿にしないでキッチリと剣の振り方を教えてくれたの覚えてた。
「制限時間以内に此方が設置した十の的を射ろ。外した的は制限時間以内なら撃ち直して構わない」
教官の指が、並べられた十の的を示す。その後、頭上に上がって指を五本開いた。
カウントダウンだ。
僕は矢筒から矢を二本抜き、一本を口に咥え、もう一本を弓に番える。
緊張は、大丈夫。少し鼓動は早くなってるけれど、魔物と戦う時に比べたらずっと平常。
試験内容的には、弓を買い替える前で助かったと思う。僕の欲しい複合弓は今の弓より張りが強いから連射に劣る。
「始めッ」
教官の声に、放った矢は一番端の的のど真ん中を貫いた。
慌てる事は何も無い。咥えていた矢を弓に番え、二番目の的へ。
実戦の様に前衛と入り乱れず、キラータイガーの様に動きもせず、傭兵達の様に打ち返しても来ない。
尚且つ普段狙ってる獲物よりもずっと近い位置にあるのだ。これで外す方がおかしいと僕は思う。
矢筒の矢を抜き、放つ。後は此れの繰り返しだ。
制限時間も問題は無い。のんびりはしてられないが、慌てるまでもない程度だ。
「よし。……まあ判ってるだろうが合格だ。というかな、弓は中級に混じっても問題ないレベルに達してる」
矢は全ての的を射抜いている。
だから合格するだろうとは思っていたが、更に高い評価を得られたらしい。
撃ち方等も見られていたんだろうか?
内心飛び上がって喜びたい気分ではあるけれど、ぐっと抑えて平静を装う。
「次は剣だが、どうする? ランク3になるだけならさっきの弓で充分なんだが……」
教官の言葉に、僕は迷わず頷いた。
だって此れで終わったら払ったお金が勿体ない。其れにこの教官は剣の講師だ。
剣を見て貰ってこそ価値がある。
「そうこなくっちゃな。ユーディッド、あのひよっこだったお前がどれだけ出来る様になったのかを俺に見せてみろ」
どうやら、教官も講習を受けた僕の事は覚えててくれたらしい。
振り下ろされた木剣を盾で受け止める。
ギチギチと腕力で押し込んで来るけれど、押し合いは盾の方が安定して有利だ。
数合打ち合って分かった事だが、教官の攻撃は剣で受けない方が良い。
恐らく膂力と技量の違いで、簡単に押し込まれてしまう筈。
盾を活用すれば凌ぎ続ける事だけは可能だが、このまま亀の様に受けていてもは意味が無い。
此処は一つ無理矢理にでも状況を変えよう。
「~~~っ。せいッ!」
渾身の力で盾を押し、勢いのままに教官の膝に蹴りを放つ。
蹴りは咄嗟に後ろに下がって避けられたが、狙い通りに距離が開いた。
僕はその場に居付く事なく教官目掛けて走り出す。
近接戦闘に於いて、僕に最も欠けているのは膂力だと訓練を見てくれる熟練冒険者のガジルさんに指摘を受けた。
手足の長さを含む骨格自体がまだ成長し切ってないからだ。
近接戦闘に於いてそれは大きな欠点となる。
技術は膂力の足りなさを補ってくれるが、それは相手を技量で圧倒できた場合のみだ。
同等や格上の相手と戦う場合、膂力の無さを突かれれば其処から崩される事は避けられない。
だからガジルさんは、僕に近接戦闘をするなと言った。
走る勢いのままに教官に木剣を叩きつける。教官は木剣を翳して僕の攻撃を受けるけど、勢いを加算した一撃は鍔迫り合いに持ち込む余裕を与えない。
そして、僕はもう一度蹴りと共に距離を離す。
その場には留まらない。居付かずに走る。
近接距離では無く、中距離で戦う。武器のリーチで中距離戦を行うのではなく、足、速度で相対距離をコントロールするのだ。
膂力は兎も角素早さでなら、僕は大人に劣らない。
足を止めようと正面から押し込んで来る教官の剣を、僕は受け止めるのではなく盾で叩いて弾く。
弾いたら、即座に動いて回り込む。そして放った横っ面に叩きつける様な一撃は、遂にこれまで剣一本しか使ってなかった教官に盾を使わせる事に成功した。
それは勿論、ずっと加減をしていた教官の本気を少しばかり引き出したって事であり、此処からの打ち合いが一層厳しくなる事を示すのだけれど。
暫く後、僕は地面に転がされて喉元に木剣を突き付けられていた。
地面に転がったまま、呼吸を整えようとするが上手く行かない。
完全にスタミナが切れていた。足で相対距離をコントロールしながら戦うには、当然相手の何倍も動く必要がある。
山歩きに慣れた僕は持久力にも相応の自信があったのだが、それでも格上相手にあんな戦い方をしていればスタミナが切れるのも無理は無い。
「あー、結構疲れたな。何も出来なかったひよっこが随分腕を上げたじゃないか。今のお前に足りない物は、まあ自分で判ってるだろうからまあ良いか」
僕の喉元から木剣が離れる。
でも動けなかった。身体が熱を持っていて熱い。
そんな僕に、教官は水に浸した布を投げて寄越す。
けれどのろのろとしか動かない僕の腕はその布を受け止め損ねて、べしゃりと冷たい布が顔にぶつかる。
教官はそんな僕に笑いながら、
「剣もまあ合格だ。総合的に見てもランク3としてやっていくには充分過ぎる。お前なら遠からず中級にも上がれるさ。ちゃんとこのまま精進しろよ」
そう、言ってくれた。
僕は冷たい布で顔を拭き、服の上からヨルムが体内に居る時に浮かび上がる紋様を撫でる。
ヨルム、やったよ。自分の力で合格だ。此れで少しは君に近づけたのかな。
ユーディッド
age13
color hair 茶色 eye 緑色
job 狩人/戦士 rank3(↑)(下級冒険者)
skill 片手剣3 盾2 格闘術2(↑) 弓4 野外活動2 隠密1 気配察知3 罠1 鍵知識1 調薬1
unknown 召喚術(ヨルム)
所持武装 鋼のブロードソード(高) 鋼のショートソード(高) 革の小盾(高) 弓(並) 中位魔獣の毛皮マント(高) 革の部分鎧(高)
ヨルム
age? rank6(↑)(中位相当)
skill 縮小化 巨大化 硬化 再生 毒分泌 特殊感覚
unknown 契約(ユーディッド)
冒険者ギルドからの評価によりrankが上昇しました。また此れまでの経験と訓練により格闘術が上昇しました。
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