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しおりを挟む朝、宿の手伝いを終えて回ってきた指名依頼を確認していた僕に、宿のおじさんが難しい顔をしながら近付いて来る。
「ユー、届け忘れがあったらしい。……此れもお前にだ」
ギルドの届け忘れも、おじさんのそんな顔も珍しい。
不審に思いながら渡された依頼書を開き、依頼主の欄を見て合点がいった。
貧民街にある口入れ屋の関係者からの依頼だったからだ。
恐らく冒険者ギルドも裏の確認に時間がかかった為、後から持って来たのだろう。
そして多分その際に宿のおじさんにも注意喚起をした筈。だからこそおじさんは難しい顔をしてるのだ。
口入れ屋とは、簡単に言えば人材斡旋業である。
けれど似たような事をしている冒険者ギルドとの一番の違いは、非合法である事。
彼等は貧民街で商売をしている為に税金を支払っていないし、娼婦の斡旋等も取り扱う。
金貸しもやっているし、質を売る故買屋や人身売買にも手を染めている。
この町の裏側と言えば彼等の事。
正確に言えば口入れ屋は、彼等、もといミステン公国盗賊ギルドの玄関口の一つであった。
では何故そんな裏のギルドである彼等が、表の冒険者ギルドを通して依頼を行うのかと言えば、大体は囮や偽装が目的だ。
以前に受けた町中の配達依頼で、町の兵士に呼び止められて荷の確認をされた事がある。
違法の品を運んでいると疑われたのだ。そんな情報を町の守備隊が掴んだらしい。
勿論冒険者ギルドを通しての荷運びであるから、直ぐに僕の無罪は証明できた。
荷も単なる玩具で、祖母から孫への誕生日の贈り物だったのだ。
けれどその配達を依頼したのは貧民街の口入れ屋で、つまりはそういう事である。
同じ町に住むとはいえ、足が悪くて孫の家に行くのが困難な祖母の悩みを、代理で冒険者ギルドに依頼した親切な第三者が口入れ屋の関係者。
その裏に居る盗賊ギルドは、たまたまそんな依頼がある事を知り、彼等の商売に利用したといった具合に。
受けた依頼自体に裏は無く、僕も困ってる老人を助けてやって欲しいと言われただけ。
「わかってるとは思うけどな。ユー、奴等に深入りしちゃならんぞ。常に客と商売人の関係で居ろ。いいな?」
心配してくれているのであろう宿のおじさんの言葉に、僕は指でOKのサインを作る。
何故名指しで口入れ屋からの指名依頼が来るのかといえば、一つは僕が口入れ屋からの依頼も何度もこなした事があるからだろう。
町中での雑用依頼の達成回数は、多分町の冒険者の誰にも僕は負けない。
……別に決して誇れた話では無いのだけれど。
後は僕がいちいち余計な詮索をしないからと、採取場所の情報を買う為に口入れ屋を利用した事があるからだと思う。
宿のおじさんの言う通り、深入りは禁物だ。碌な目に合わないのはわかってる。
でも彼等がどういった存在なのかを理解していれば、労力を売るにしろ情報等を買うにしろ、距離を置いての関係は有益だ。
実は罠の解除や鍵開けの技術も、あそこでお金を支払って習ったのだから。
部屋に戻って依頼書を見直す。
ヨルムもにょろにょろ上がって来て、一緒に依頼書を覗き込んでる。
字?
ヨルムは文字もちゃんと読めるよ。書けはしないけれど。
さて、口入れ屋からの依頼を合わせて、指名依頼は3件。少し売れっ子な気分だ。
一件は何時ものエルロー薬店からの薬草採取。今回は解熱に使う薬草と甘草だった。
この二つを必要とするって事は、子供用の解熱飴を作るのだろう。
幼い子供が病魔に侵されれば、体力の無さ故に死に至る事もある。
そんな時に僅だが手助けとなるのが、この解熱飴であった。
高熱を和らげ、体力の消耗を少しばかり防いでくれるのだ。甘草を混ぜる事で甘味を付けており、子供にも摂取し易い。
なのでこの採取は近日中に優先的に片付けよう。町の役に立つ事だし。
そしてもう一件、此方はマルゴットお婆さんの家の屋根の修理だった。
このお婆さんは昔から良く僕に雑用を依頼してくれている。
庭の草むしりに、家の掃除、更には大きな買い物の際の荷物持ちと、本当に些細な事でも僕を頼ってくれていた。
勿論依頼料は大した事が無いのだが、僕とヨルムの分まで食事を出してくれたりするので、とても有り難い依頼主だ。
あまり待たせるのも申し訳ないので、此方も早目に片付けたい。
そして最後に、例の口入れ屋からの依頼だ。
どうせ荷運びだろうと思ってたのだが、書いてある文は何故か違った。
冒険者志願の年若い子等を、2人程面倒を見てやって欲しいといった旨が書いてある。
意図が良く掴めない。
本当に書いてるままの依頼なら、寧ろもっとベテランの冒険者に頼むべき案件だと思うのだが、支払える依頼料の問題だろうか?
変に詮索はしない方が良いのは重々承知している。
例え盗賊ギルドが自分達の影響力の及ぶ冒険者を育てたいのだとしても、冒険者ギルドが依頼を受理した以上は了承済みなのだろうから、僕がどうこう考える事じゃない。
僕が考えるべきは受けるか否かのみ。
でもまあ、受ける方向で考えてみよう。もう少し詳しい話を聞いて、面倒を見るべき子を実際に確認して、嫌ならそれから断れば良いだけだ。
全て受けると決めてしまえば、後はどの順番でこなすかを決めるだけである。
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