少年と白蛇

らる鳥

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 門を離れれば、緊張から解放されたのかルリスさんとクーリさんの表情は柔らかい物になった。
 反動もあるのだろう。何事かを話し合い、時折笑みも深べている。
 二人の、普通の女の子らしい表情を見るのは、そういえばこれが初めてだ。
 とはいえずっとお話を楽しんでもらう訳にもいかない。
 別に道中なら良いのだけれど、森に入るとなれば話は別である。
 立ち止まり、手を上げて、二人の注意を集めてから、僕は人差し指を口の前に当てた。
「二人とも、此処から先は小声で。人間の喋り声を聞いたら大体の動物は離れて行くけど、魔物は逆に寄って来るから」
 町近くの森には、基本的に大した魔物は出ないとされてる。
 まあ時折他所から流れて来た強い魔物が棲み付いたりもするけれど、その場合の駆除も町が近いだけあって早い。
 けれどこの大した魔物で無いの基準は、戦闘訓練を積んだ兵士や冒険者にとってはの話だ。
 今のルリスさんやクーリさんには、例えばゴブリンだって十分な脅威となる。特にアイツ等は女性を狙って襲ったりするし。
 なので出来るだけリスクは低くするべきである。

 森の中の探索には慣れが必要だ。
 可能な限り通り易そうな場所を選んではいるけれど、それでも平坦な街の地面ばかりを歩いていた二人は歩みも遅いし、消耗も激しい。
 本来ならば採取する必要があるのは解熱の薬草と甘草のみだが、移動のペースを落とす為に敢えて色んな薬草の採取を行う事にする。
「この薬草は根に対毒の薬効があるから、丁寧に周りの土ごと採取する。群生してるけど根こそぎやっちゃダメ。間引く感じで、間の奴だけ」
 近寄ってきた二人に小声で説明をしながら採取した薬草の根の部分を布で包む。
 この根を噛めば毒に対する抵抗力が高まり、身体の解毒作用を手助けしてくれる。
 万一の時にこの薬草の存在を知っていたら、命を拾うケースだってあるかも知れない。
「これは打ち身とかの熱取りに使う。葉だけで良いから、適当に毟って良いよ。でも新鮮な葉だけを選んでね。スッとする匂いがする葉なら大丈夫」
 お世話になってるギルドの受付嬢、エミリアさんが言うには、採取依頼なんてつまらないとのたまう冒険者も多いそうだ。
 其れを聞いた時、僕はとても不思議に思った。
 だって薬草でも鉱石でも、お金が其処に落ちてる様な物なんだもの。
 僕はそう考えるから、採取依頼は割と好きだ。確かに地味で、冒険譚にはなら無いけれど、生きて行く為には役に立つ。
 なので薬効以外にも、ルリスさんとクーリさんにはどの位の量で幾らになるかを教えながら採取を行う。
 貧民街に暮らす二人には、やはり具体的な価値を添えると薬草への興味は跳ね上がった。
 無論薬草は採り過ぎたら次が生えて来なくなるので、程々に適量の採取をする様に注意する事も忘れない。

 けれどその時、不意にヨルムが耳元でシュルシュルと舌を鳴らす。
 ヨルムの合図に雰囲気を変えた事に疑問を感じたらしいクーリさんが口を開きかけるが、僕は人差し指を当てて黙らせた。
 慎重に気配を探れば、離れた場所に生えた木の上に、大きめの山鳥が居る。
 思いもかけぬ幸運だ。クーリさんは驚きに目を白黒させているが、取り敢えずさて置こう。
 今最も大事なのは、美味しいお肉を手に入れる事だった。
 手を離し、取り出した弓に矢を番えて、構える。
 距離は少し遠い。呼吸を整え、細く細く、更には鋭く。集中し、イメージし、……放つ。
 矢は木々の間を、空気を割いて飛び、狙い違わず山鳥の胸に突き刺さった。
 会心の一矢に、頬が緩む。大きく息を吐き、そして気付く。ルリスさんもクーリさんも、僕の突然の行動に固まりっぱなしであった事に。
「あ、ごめん。もう良いよ。でも小声で喋ってね。ちょっと仕留めた獲物を取って来るから」


 思わぬ獲物を手に入れた僕達は昼食の為に一旦森から離れ、開けた場所に陣取った。
 一人で弁当を食べる程度なら兎も角、この人数で食事を取るならちゃんとした物を用意したくなったのだ。
 勿論山鳥が手に入らなかったら保存食である干し肉を齧るのみだったけど。
「ねえユー、アンタってアタシ等と同じ位の年なのに、何でそんなに色々出来るのよ」
 そんな時に投げ掛けられたルリスさんの不意の質問に、僕は食事の準備の手を止めずに首を傾げる。
 石を組んで簡単な竈を作り、取って来た枯れ木と枯草で火を付けて、血抜きして羽を毟った山鳥を捌いて串に刺した物を焼く。
 味付けは塩のみだが、野外での食事にしては上等だと思う。他には黒パンも用意していた。
 確かに色々としているが、特に変わった事は一つもして無い。単なる食事の準備だ。
 それとも採取やら調薬やら弓やら剣やら格闘やらをさしての言葉だろうか?
 うーん、何故出来るのかと問われても、そんなの考えた事も無かったので答えに困る。
 でも、そう、敢えて言うなら……。
「生きて行くのに必要だから、かな? 僕ってほら、一応ソロになるし」
 採取や調薬を覚えなければ、村から出て来たばかりの僕は食い繋げない状況になってただろう。
 戦う術はそれこそ生死に直結だ。さっきの森でも、採取中に弱いとはいえ魔物と出くわしたりはするのだから。
 僕のソロ発言が心外だと言わんばかりにヨルムがべちべち尻尾で叩いて来るけれど、一応対外的にはソロって事になってるのだから許して欲しい。
 良い匂いを漂わせ始めた鶏肉をひっくり返し、裏面を火に当ててから、ヨルムを指でくすぐりご機嫌を取る。
 そう、必要だから覚えた。生きる為に必要だったから、必死で。
 必死にやろうとすれば、不格好でも意外となんとか、例え不完全でも出来たりするのだ。
 一度出来れば二度目も出来る。そうなれば後は慣れでしかない。
 勿論不完全なら失敗と言われれば、それもそうだなあとは思うけど、だったら慣れて行けばある日突然成功になるだろう。
「だからルリスさんも、……あ、勿論クーリさんも、必要な事はそのうち出来る様になるよ」
 僕の言葉に、ルリスさんは何かを言いたげにした後、でも唇をきつく結んで一つだけ頷いた。
 
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