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しおりを挟む今日の予定は、近くの森で解熱の薬草と天草の採取だ。この採取に見習いの形になるルリスさんとクーリさんを連れて行く。
まだ正式な冒険者になって居ない二人は依頼を受けれないので、先ずはどんな事をするのかだけでも見て貰おうと思ってる。
昨日はいきなり随分キツめになったので、今日は少し気楽な内容が良いかと考えたのだ。
ルリスさんとクーリさんもあまり町の外に出る機会は無かっただろうから、近くの森とはいえ新鮮な経験になるだろう。
それに解熱の薬草と天草から作る解熱飴は彼女等にとっても身近な筈だし、その必要性もわかり易いから。
うん、とても都合が良い依頼である。
尤も近日中に二人にも正式な冒険者になって貰う必要はあった。
何故なら、そうしないとルリスさんとクーリさんに依頼報酬が出ないから。
彼女達がどうやって生活をしているのかは知らないが、貧民街に暮らす以上はあまり余裕は無い筈。
冒険者になる為の手続きは然程難しくは無い。
何せ農村から出て来たばかりで何も知ら無かった僕でも何とかなったくらいなのだ。
文字も読めなかったし、一般常識に欠けていたし、剣も振った事がなかったけど、冒険者ギルドの職員さん達はそんな僕に色々と手助けをしてくれた。
なので仮にも町育ちであるルリスさんとクーリさんなら、僕よりずっとスムーズに冒険者になれるだろう。
この町の盗賊ギルドの支部長であるクルスト・オルタスは、冒険者ギルドも今回の件は承知だと言っていた。
もしかしたらどちらかのギルドが、何らかの便宜も図ってくれるかも知れない。
まあでも今日は良いや。あまり詰め込んでもしんどいし。
シュルシュル舌を鳴らすヨルムを服の上から撫でながら、指定された待ち合わせ場所を目指す。
結局ルリスさんとクーリさんの二人には、ヨルムは隠さない事にした。
ヨルムも二人に対しての印象は悪い物では無かったようだし、変に隠さない方が良いと考えたのだ。
最初から知っていれば蛇を飼ってる妙な冒険者と思われる程度で済むだろうと。
待ち合わせ場所に辿り着き、待つ事暫く。貧民街の方角から、ルリスさんとクーリさんの二人がやって来た。
間に合わせの中古品と思わしき武器防具を身に着けた彼女達は、……うん、駆け出し冒険者くらいには充分に見える。
人は見かけじゃないと言うけれど、時と場合に合わせた見かけは、本当はとても大事だ。
もしルリスさんやクーリさんのが冒険者に見えない格好で町の外に出ようとしたならば、門の守衛さんは必ず止めて来るだろう。
「おはようございます。二人とも、身体の方は大丈夫?」
痛め付けたのは僕なので、其れを聞くのも実は心苦しいのだが、でもその日の体調は町から出るなら重要な要素だ。
確認しておく必要はある。
「正直未だ痛いわよ。でもアタシが悪かったんだもの。アンタの事、あの後でクルストさんにちゃんと聞いたわ。昨日はごめんなさい」
「だ、大丈夫です。あの、お薬ありがとうございました」
ルリスさんは正直に、そしてクーリさんは遠慮して、昨日の痛みが残っているかを告げた。
そして謝罪にお礼。何と言うか、二人は本当に対照的である。
動きを見る限り、ぎこちなさは無い様だけど無理はさせないようにしよう。
「大丈夫、誰だって僕位の年齢の冒険者が指南役に来たら不安に思うよ。こっちこそごめんね。あと薬は手製だから気にしないで。今度作り方も教えるから」
どうやら二人は、無事に僕を指導役として認めてくれたみたいに思えた。
こういう状況を表す、トーゾーさんの国のことわざがあった筈。
確か、雨が降ったらその後は地面が固くなる。だったかな?
揉めた方が後でより仲良くなれるって意味らしい。雨が降れば地面はぬかるむと思うんだけど、でもまあ良いや。
「今日は近くの森で採取をするので見てて下さい。町の外での活動だけど、無理させる気は無いから、あんまり緊張しないでついて来てね」
予定を告げ、一呼吸待つ。二人から質問が出なかった事を確認して、僕は町の外を目指して歩き始めた。
ルリスさんとクーリさんは僕の後ろからついて来る。
並んで歩けるようになるには、まだまだ時間がかかるだろう。
別にそれを寂しがった訳じゃ無いのだけど、胸元からヨルムがするりと顔を出し、僕の頬に頭をこすりつけて来た。
慰めようとしてるのだろうか。指でヨルムの下顎をくすぐる様に撫でてると、急に姿を見せた白蛇に二人が何だか驚いてる。
けれど説明は面倒くさいので、聞かれない限りは何も言わない。
蛇を飼ってる妙な冒険者って印象は、ちゃんと植え付けれた筈だ
門で手続きを済ませ、町の外へと出る。
門番をしていた守衛さんに対する、ルリスさんとクーリさんの緊張具合が面白かった。
貧民街に住んで居れば、守衛って存在に警戒と緊張を抱くのも無理はない。
本来ならば町の出入りは厳しく検査を受ける。
町の住民であるなら、名前と住んで居る場所の確認位になるけれど、貧民街に住む人は正式な町の住人とは認められないのだ。
だって税金支払ってないしね。
けれど冒険者に関しては、依頼中はギルドが身分の保証をしてくれる。依頼料から一部が差し引かれて税金になっているからだ。
なので依頼遂行の為であるならば、町の外に出る際に確認さえるのは名前と、依頼中である事の証明くらいである。
そして町を出た記録が残ってれば、入る時も名前と人数の確認と、簡易な荷物検査のみで済む。
彼女達も僕が臨時に雇った荷物持ちの形にしたので、確認内容も大差は無い。
クルストが冒険者を便利だと言ったのはこうした扱いを含めての事だと思う。
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