少年と白蛇

らる鳥

文字の大きさ
29 / 113

29

しおりを挟む


 今日の予定は、近くの森で解熱の薬草と天草の採取だ。この採取に見習いの形になるルリスさんとクーリさんを連れて行く。
 まだ正式な冒険者になって居ない二人は依頼を受けれないので、先ずはどんな事をするのかだけでも見て貰おうと思ってる。
 昨日はいきなり随分キツめになったので、今日は少し気楽な内容が良いかと考えたのだ。
 ルリスさんとクーリさんもあまり町の外に出る機会は無かっただろうから、近くの森とはいえ新鮮な経験になるだろう。
 それに解熱の薬草と天草から作る解熱飴は彼女等にとっても身近な筈だし、その必要性もわかり易いから。
 うん、とても都合が良い依頼である。
 尤も近日中に二人にも正式な冒険者になって貰う必要はあった。
 何故なら、そうしないとルリスさんとクーリさんに依頼報酬が出ないから。
 彼女達がどうやって生活をしているのかは知らないが、貧民街に暮らす以上はあまり余裕は無い筈。
 冒険者になる為の手続きは然程難しくは無い。
 何せ農村から出て来たばかりで何も知ら無かった僕でも何とかなったくらいなのだ。
 文字も読めなかったし、一般常識に欠けていたし、剣も振った事がなかったけど、冒険者ギルドの職員さん達はそんな僕に色々と手助けをしてくれた。
 なので仮にも町育ちであるルリスさんとクーリさんなら、僕よりずっとスムーズに冒険者になれるだろう。
 この町の盗賊ギルドの支部長であるクルスト・オルタスは、冒険者ギルドも今回の件は承知だと言っていた。
 もしかしたらどちらかのギルドが、何らかの便宜も図ってくれるかも知れない。
 まあでも今日は良いや。あまり詰め込んでもしんどいし。

 シュルシュル舌を鳴らすヨルムを服の上から撫でながら、指定された待ち合わせ場所を目指す。
 結局ルリスさんとクーリさんの二人には、ヨルムは隠さない事にした。
 ヨルムも二人に対しての印象は悪い物では無かったようだし、変に隠さない方が良いと考えたのだ。
 最初から知っていれば蛇を飼ってる妙な冒険者と思われる程度で済むだろうと。
 待ち合わせ場所に辿り着き、待つ事暫く。貧民街の方角から、ルリスさんとクーリさんの二人がやって来た。
 間に合わせの中古品と思わしき武器防具を身に着けた彼女達は、……うん、駆け出し冒険者くらいには充分に見える。
 人は見かけじゃないと言うけれど、時と場合に合わせた見かけは、本当はとても大事だ。
 もしルリスさんやクーリさんのが冒険者に見えない格好で町の外に出ようとしたならば、門の守衛さんは必ず止めて来るだろう。
「おはようございます。二人とも、身体の方は大丈夫?」
 痛め付けたのは僕なので、其れを聞くのも実は心苦しいのだが、でもその日の体調は町から出るなら重要な要素だ。
 確認しておく必要はある。
「正直未だ痛いわよ。でもアタシが悪かったんだもの。アンタの事、あの後でクルストさんにちゃんと聞いたわ。昨日はごめんなさい」
「だ、大丈夫です。あの、お薬ありがとうございました」
 ルリスさんは正直に、そしてクーリさんは遠慮して、昨日の痛みが残っているかを告げた。
 そして謝罪にお礼。何と言うか、二人は本当に対照的である。
 動きを見る限り、ぎこちなさは無い様だけど無理はさせないようにしよう。
「大丈夫、誰だって僕位の年齢の冒険者が指南役に来たら不安に思うよ。こっちこそごめんね。あと薬は手製だから気にしないで。今度作り方も教えるから」
 どうやら二人は、無事に僕を指導役として認めてくれたみたいに思えた。
 こういう状況を表す、トーゾーさんの国のことわざがあった筈。
 確か、雨が降ったらその後は地面が固くなる。だったかな?
 揉めた方が後でより仲良くなれるって意味らしい。雨が降れば地面はぬかるむと思うんだけど、でもまあ良いや。
「今日は近くの森で採取をするので見てて下さい。町の外での活動だけど、無理させる気は無いから、あんまり緊張しないでついて来てね」
 予定を告げ、一呼吸待つ。二人から質問が出なかった事を確認して、僕は町の外を目指して歩き始めた。
 ルリスさんとクーリさんは僕の後ろからついて来る。
 並んで歩けるようになるには、まだまだ時間がかかるだろう。
 別にそれを寂しがった訳じゃ無いのだけど、胸元からヨルムがするりと顔を出し、僕の頬に頭をこすりつけて来た。
 慰めようとしてるのだろうか。指でヨルムの下顎をくすぐる様に撫でてると、急に姿を見せた白蛇に二人が何だか驚いてる。
 けれど説明は面倒くさいので、聞かれない限りは何も言わない。
 蛇を飼ってる妙な冒険者って印象は、ちゃんと植え付けれた筈だ


 門で手続きを済ませ、町の外へと出る。
 門番をしていた守衛さんに対する、ルリスさんとクーリさんの緊張具合が面白かった。
 貧民街に住んで居れば、守衛って存在に警戒と緊張を抱くのも無理はない。
 本来ならば町の出入りは厳しく検査を受ける。
 町の住民であるなら、名前と住んで居る場所の確認位になるけれど、貧民街に住む人は正式な町の住人とは認められないのだ。
 だって税金支払ってないしね。
 けれど冒険者に関しては、依頼中はギルドが身分の保証をしてくれる。依頼料から一部が差し引かれて税金になっているからだ。
 なので依頼遂行の為であるならば、町の外に出る際に確認さえるのは名前と、依頼中である事の証明くらいである。
 そして町を出た記録が残ってれば、入る時も名前と人数の確認と、簡易な荷物検査のみで済む。
 彼女達も僕が臨時に雇った荷物持ちの形にしたので、確認内容も大差は無い。
 クルストが冒険者を便利だと言ったのはこうした扱いを含めての事だと思う。
しおりを挟む
感想 11

あなたにおすすめの小説

死んだはずの貴族、内政スキルでひっくり返す〜辺境村から始める復讐譚〜

のらねこ吟醸
ファンタジー
帝国の粛清で家族を失い、“死んだことにされた”名門貴族の青年は、 偽りの名を与えられ、最果ての辺境村へと送り込まれた。 水も農具も未来もない、限界集落で彼が手にしたのは―― 古代遺跡の力と、“俺にだけ見える内政スキル”。 村を立て直し、仲間と絆を築きながら、 やがて帝国の陰謀に迫り、家を滅ぼした仇と対峙する。 辺境から始まる、ちょっぴりほのぼの(?)な村興しと、 静かに進む策略と復讐の物語。

クラス最底辺の俺、ステータス成長で資産も身長も筋力も伸びて逆転無双

四郎
ファンタジー
クラスで最底辺――。 「笑いもの」として過ごしてきた佐久間陽斗の人生は、ただの屈辱の連続だった。 教室では見下され、存在するだけで嘲笑の対象。 友達もなく、未来への希望もない。 そんな彼が、ある日を境にすべてを変えていく。 突如として芽生えた“成長システム”。 努力を積み重ねるたびに、陽斗のステータスは確実に伸びていく。 筋力、耐久、知力、魅力――そして、普通ならあり得ない「資産」までも。 昨日まで最底辺だったはずの少年が、今日には同級生を超え、やがて街でさえ無視できない存在へと変貌していく。 「なんであいつが……?」 「昨日まで笑いものだったはずだろ!」 周囲の態度は一変し、軽蔑から驚愕へ、やがて羨望と畏怖へ。 陽斗は努力と成長で、己の居場所を切り拓き、誰も予想できなかった逆転劇を現実にしていく。 だが、これはただのサクセスストーリーではない。 嫉妬、裏切り、友情、そして恋愛――。 陽斗の成長は、同級生や教師たちの思惑をも巻き込み、やがて学校という小さな舞台を飛び越え、社会そのものに波紋を広げていく。 「笑われ続けた俺が、全てを変える番だ。」 かつて底辺だった少年が掴むのは、力か、富か、それとも――。 最底辺から始まる、資産も未来も手にする逆転無双ストーリー。 物語は、まだ始まったばかりだ。

貧乏奨学生の子爵令嬢は、特許で稼ぐ夢を見る 〜レイシアは、今日も我が道つき進む!~

みちのあかり
ファンタジー
同じゼミに通う王子から、ありえないプロポーズを受ける貧乏奨学生のレイシア。 何でこんなことに? レイシアは今までの生き方を振り返り始めた。 第一部(領地でスローライフ) 5歳の誕生日。お父様とお母様にお祝いされ、教会で祝福を受ける。教会で孤児と一緒に勉強をはじめるレイシアは、その才能が開花し非常に優秀に育っていく。お母様が里帰り出産。生まれてくる弟のために、料理やメイド仕事を覚えようと必死に頑張るレイシア。 お母様も戻り、家族で幸せな生活を送るレイシア。 しかし、未曽有の災害が起こり、領地は借金を負うことに。 貧乏でも明るく生きるレイシアの、ハートフルコメディ。 第二部(学園無双) 貧乏なため、奨学生として貴族が通う学園に入学したレイシア。 貴族としての進学は奨学生では無理? 平民に落ちても生きていけるコースを選ぶ。 だが、様々な思惑により貴族のコースも受けなければいけないレイシア。お金持ちの貴族の女子には嫌われ相手にされない。 そんなことは気にもせず、お金儲け、特許取得を目指すレイシア。 ところが、いきなり王子からプロポーズを受け・・・ 学園無双の痛快コメディ カクヨムで240万PV頂いています。

おばちゃんダイバーは浅い層で頑張ります

きむらきむこ
ファンタジー
ダンジョンができて十年。年金の足しにダンジョンに通ってます。田中優子61歳

魅了の対価

しがついつか
ファンタジー
家庭事情により給金の高い職場を求めて転職したリンリーは、縁あってブラウンロード伯爵家の使用人になった。 彼女は伯爵家の第二子アッシュ・ブラウンロードの侍女を任された。 ブラウンロード伯爵家では、なぜか一家のみならず屋敷で働く使用人達のすべてがアッシュのことを嫌悪していた。 アッシュと顔を合わせてすぐにリンリーも「あ、私コイツ嫌いだわ」と感じたのだが、上級使用人を目指す彼女は私情を挟まずに職務に専念することにした。 淡々と世話をしてくれるリンリーに、アッシュは次第に心を開いていった。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

最難関ダンジョンをクリアした成功報酬は勇者パーティーの裏切りでした

新緑あらた
ファンタジー
最難関であるS級ダンジョン最深部の隠し部屋。金銀財宝を前に告げられた言葉は労いでも喜びでもなく、解雇通告だった。 「もうオマエはいらん」 勇者アレクサンダー、癒し手エリーゼ、赤魔道士フェルノに、自身の黒髪黒目を忌避しないことから期待していた俺は大きなショックを受ける。 ヤツらは俺の外見を受け入れていたわけじゃない。ただ仲間と思っていなかっただけ、眼中になかっただけなのだ。 転生者は曾祖父だけどチートは隔世遺伝した「俺」にも受け継がれています。 勇者達は大富豪スタートで貧民窟の住人がゴールです(笑)

処理中です...