少年と白蛇

らる鳥

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 狩ったばかりの山鳥はとても美味しい。味付けが塩だけでも充分過ぎる御馳走だ。
 ルリスさんとクーリさんも嬉しそうに鳥の肉を頬張っている。
 さて此処で問題となるのはヨルムにどうやって食べさせるかだが、普段なら僕が噛み切って与えるのだけど、流石に人前では難しい。
 なので今回は最初からヨルム用の一口サイズに切った鳥肉を、串に刺した物を用意してから焼いた。
 焼けた肉にヨルムがかぶり付いた所で、串を引いて肉から抜く。するとその肉をヨルムが丸呑みにして食べるのだ。
 何時もと違うヨルムの食事の仕方が、食べさせていて少し楽しい。
 自分の分の鳥肉も一口齧るが、うん、焼け具合も塩加減も良い感じだった。
 暫く僕とヨルムの食事を続けていると、何やらとても視線を感じるので、顔を上げる。
「…………どうしました? クーリさん」
 噛んでたお肉をごくりと飲み込み、目が合ったクーリさんに問う。
 もしかして量が足りなかったのだろうか。尤も足りなかったとしても出せるのはもう干し肉くらいしか出せ無いのだけれど。
 何だかとても言い出し辛そうな彼女だったが、少し躊躇ってからおずおずと欲求を口にした。
「えっと、あの。もし良かったら私も、その子に食べさせてみたいです」
 その子……、ヨルムか。食事の量が足りないとかじゃ無くて良かった。
 そんな事なら対処は簡単である。何せ元手がかからないのだ。
 ヨルムが嫌がるような相手なら兎も角、クーリさんや、今回は何も言って来てないがルリスさんなら、今まで見て来た感じだと多分問題は無いだろう。
 手招きをして、寄って来たクーリさんにヨルム用の肉串を渡す。
 僕の手に巻き付いたヨルムを、腕を伸ばしてクーリさんに近づけると、恐る恐るといった具合ではあるけれど鼻先に肉串が差し出された。

 そのうち次第に慣れて来たクーリさんとヨルムがじゃれてるのを眺めながら、僕は午後の予定を考える。
 主目的である解熱の薬草と天草の採取が未だ殆ど出来ていないので、其れをメインにこなさなければならないのは確定だ。
 だけど問題はその場所をどうするか。
 僕が知る最寄りの薬草の採取場所はさっき入った場所の付近なのだけど、実は昼食を取る為に森から出る前に、僕はあそこで二足歩行生物の足跡を発見していた。
 足跡の形や大きさから考えて、先ず間違いなくゴブリンで、数は多分3匹だろう。
 恐らくは群れから離れた彷徨えるゴブリン達だ。
 あの森は町に近い為、外周部に巣があったら発見され易く、直ぐに駆除依頼が出て冒険者がやって来る。
 だから足跡のゴブリン達は、森の奥深くの巣に居られなくなったハグレなのだろうと予測が出来た。 
 足跡は数時間前の物で、付近に気配は無かったが、かといって出くわす可能性が皆無とは言えない。
 ルリスさんとクーリさんには不安がらせないよう黙っていたが、どうするかは少し悩む。
 僕一人であったなら、寧ろ積極的に探し出して狩ろうとさえしただろう。
 巣を追われたゴブリンは新たな拠点となる場所と、繁殖の為の雌を求める。そしてその対象には人間をも含むのだ。
 後々の害を考えるなら、早めに処分するに越した事は無い。
 しかし今はルリスさんとクーリさん、二人の女性を連れていた。未だ冒険者になってない二人を。
 戦いになればゴブリン達は、僕よりも確実に二人を狙う筈だ。
 そんな二人を、戦わせてしまって良い物だろうかと、少し悩む。

 …………でもまあ良いや。
 考え込んでしまったが、依頼で預かってるとはいえ、冒険者になろうって人間を大切に仕舞い込んでも仕方が無い。
 冒険者稼業にリスクは付き物で、僕等はそのリスクを可能な限り低くする努力をして危険な町の外の日常と向き合ってるだから。
 僕が関与できる間に魔物との戦いを経験しておく事は、二人にとっては充分なメリットとなる筈だ。
 考えを纏めて立ち上がる。そろそろ休憩も終わりにしよう。
「二人とも、午後の採取の前にちょっと話しておく事があるんだ」
 即席の竈を蹴り壊して後始末をしながら、僕はルリスさんとクーリさんの二人にゴブリンと出くわす可能性を告げた。
 彼女達の存在は多分ゴブリンを引き付ける筈。根拠は薄いが、そんな予感がする。
 あまり良くない類の予感だから、此れはきっと当たるだろう。
 戦う最初の魔物が、繁殖への欲求を向けて来るゴブリンであるというちょっと嫌な事実を告げるのは、とても言い辛かったけれど。


 再び森へと入る。
 幸い二人はゴブリンと戦う事に拒否感は示さなかった。
 ゴブリンを放置すれば他の女性に危険が及ぶかもしれない話をしたからか、それともささやかではあるが討伐報酬が出る事を話したからか。
 どちらかは判らないが、やる気になってくれたのはとても助かる。
 ゴブリンの繁殖に関しての説明をする時に、クーリさんが顔を赤くして困ってて、その事でルリスさんに睨まれはしたけれど、まあ少し心が痛んだだけで問題は無い。無いったら無い。
 だが実際危険があるのも確かなのだ。
 二人の実力は知っているが、昨日見た通りの実力を発揮すれば二人掛かりでゴブリン一匹を相手に勝てる程度である。
 けれど殺し合いが初めてならば、向けられる情欲や殺意に実力が発揮し切れない可能性は考えられた。
 貧民街で育っているなら普通の町人よりは耐性があると信じたいが、僕は彼女達の詳しい状況を未だ知ってはいない。
 だからこそ迷ったのだが、でも今更やっぱり無しになんて出来やしないのだ。
 慎重に周囲の気配を探りながら、真っ直ぐに解熱の薬草の生えている場所を目指す。午前中とは違って寄り道はしない。
 一番面倒臭いのは、採取中の気配や音で魔物側に察知される事である。
 此方から先に、距離がある間に発見せねば、僕が得手とする弓を活かしにくいから。
 けれど採取の間はどうしても集中力を其方に割く必要があるので、移動中と比べれば周辺警戒能力は落ちてしまう。
 勿論僕とヨルムだけならば気配と音を殺しての採取も可能ではあるが、今回はルリスさんとクーリさんへの指導も目的の一つだ。
 コソコソしながら教えるのは僕には些か難しい。
 なので警戒に関しては、申し訳ないが少しヨルムの力をアテにしている。

 解熱の薬草は採取の難易度は然程に高くは無い。必要な物は葉のみであるし、干して乾燥させて使うので、葉を毟る際の細かな傷もそんなに大きな問題にはならないのだ。
 ただし葉の大きさが小さいので量を採るのは少し大変であった。
 こんな時、自分以外の人手はとても有り難い。3人掛かりで必要な量を集めて行く。
 この薬草は山菜として食べる事も出来るので、少し多めに集めても損は無い。
 もう一方の甘草だが、此方は根から取れる汁が甘い薬草だ。
 根を必要とするので採取には少し注意が必要となるが、特殊な物では無いので丁寧にやれば物をダメにしてしまうよう心配は必要無かった。
 甘草は他の薬草の効能を高める効果もあるし、何より甘味で薬を摂取し易くしてくれる。
 こちらも量を多めに採取すれば、料理や菓子作りといった他の使い道も色々だ。
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