少年と白蛇

らる鳥

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 地に落ちた枯れ葉をわけ、地に付いた足跡を詳しく確認する。
「……うーん、猪か」
 手の土を払いながら立ち上がって僕は溜息を一つ吐いた。
 猪革や肉も決して悪い物では無いのだけれど、今回の目当てはそうじゃない。
 まあ足跡のサイズで鹿か猪である事はわかっていたのだけれども、念の為の確認だった。
 ヨルムが耳元に上がり、シュルシュルと声を発するので、その喉を指で撫でる。
「うん、ヨルムは猪食べたいんだね。じゃあ今度狩るよ。でも今回は揃いのマントを2枚仕立てたいんだ」
 そう、今日の狙いはもっと大物だ。
 つい先日の事であるが、見習いだったルリスさんとクーリさんが正式に冒険者の資格を習得した。
 僕も依頼とはいえ、半月程の期間を彼女達と一緒に、仮ではあるがチームとして過ごしたのだし、資格収得のお祝い位はしても良い仲じゃないかなって思う。
 ……うん、嫌がられないと良いな。まあ、きっと大丈夫。
 そこで考えたのだが、冒険者に贈り物をするならやはり実用品が良いのではないだろうか?
 されどスタイルの違う二人なだけに、……勿論スタイルと言っても体形では無く戦闘スタイルの事である。なだけに、大きく差を付けずに品物を考えるのはかなり難儀した。
 鞘だと短剣二本を使うルリスさんだけ2つになるし、盾はクーリさんしか使わない。
 武器は信頼出来る物を自分で選ぶべきだから、贈り物には向かないし、……と考えぬいた末に辿り着いたのが揃いのマントを用意する事だった。
 やっぱりどうせなら、二人の身を守ってくれる物が良いと思う。
 幸い皮革職人のマーレンお爺さんの所へは、ルリスさんとクーリさんを伴って皮を売りに行った事があるので、お爺さんに頼めば彼女達に合わせてばっちりマントを仕立ててくれるそうだ。
 どんな物になるのかはプロにお任せするとして、僕が用意するのはマントを二枚作れるだけの皮である。
 あの二人はとても仲が良いのだから、どうせなら揃いの皮を鞣して作った革のマントが好ましい。
 となると、僕に心当たりは一つしかなかった。
 以前北山を目指している最中に偶然見かけた川熊。青の毛皮に水の魔力を宿すって話の下位魔獣を、僕は今度は自分から探しているのだ。

 勿論既にどこかの誰かに狩られてしまっている可能性だって無くは無い。
 以前に川熊を見かけた川付近の林に踏み入っては見た物の、未だに熊の残した痕跡は発見出来てなかった。
 元より見つけれたら良いな程度の期待しかしていないので、駄目なら改めで鹿を2頭ばかり狩るだけの事である。
 けれどそもそもこの辺りは川熊の縄張りでは無かった様だ。
 例え既に狩られているとしても、木々に残している筈の爪や、背中を擦り付けたマーキングの痕なんかはそんなに直ぐに消える物じゃない。
 僕は林での探索を諦めて川辺に戻ると決める。
 一応、あの川熊が居そうな場所の心当たりは他にもあった。
 ただ気配を殺して弓での先制攻撃を狙う僕の戦闘スタイル上、出来れば障害物の多い林の中で戦いたかったので彼方を先に探索していたのだけれど、でも痕跡すら見つからないなら仕方が無い。
 居ないものをいくら探しても時間を無駄にするだけだろう。
 さてこの川、ライサ川はこの辺りでは最も危ない地域である北ライサ山の源流から流れ出している。
 だが僕は別に今から北山に登ろうって訳では無い。其れは単なる自殺行為だ。
 それに下級魔獣の中では強者である川熊であろうと、あの山の中で生きるには少々役者が足りないだろう。
 ライサ川はかなり水量の豊富な川で、実は源流以外にも幾つかの支流が合流していた。
 川熊の毛皮には水の魔力が宿ると言われる程なのだから、水に近しい場所を生息場所としてる可能性は高い筈。
 故に僕はライサ川に流れ込む支流の一本を辿って行けば、川熊の痕跡が発見出来る場所に近づけると考えたのだ。


 けれど一口に支流を遡ると言っても、其れは口で言う程に簡単な事では無い。
 この辺りの地図は冒険者ギルドで借りて大雑把に頭に入れてあるけれど、その地図にはこの支流が何処から来ているのかは書いてなかった。
 無論書く程に大きくも長くも無いからこそ省かれているのだろうけど、自分の行った事が無い場所を情報無しで探索するのは神経を削る作業である。
 足を止め、僕は最近新たに買ったばかりの複合弓を構えて少し引く。サイズに見合わぬ張りの強さが頼もしい。
 此れなら魔獣が相手でも充分に殺傷力のある矢を放てるだろう。
 以前の弓との感覚の違いはそれなりにあるけれど、威力の大きさはそれを補って余りあるメリットだ。
 新しい装備の慣熟訓練も勿論充分に行っている。
 僕は前回の依頼で、冒険者にとって弱い事は罪なのだと再確認させられた。
 もっと強ければ、村長も、死んだ冒険者達も、僕の話にもっと真剣に耳を傾けただろう。もっと強ければ、そもそも僕が解決出来たかも知れない。
 過ぎた事を考えても無意味ではあるけれど、でも強くなる事にはきっと大きな意味がある。
 勿論弓一つでそこまで大きく変わった訳じゃ無いけれど、此れを切っ掛けにしようと思ってる。
 複合弓に絡み付こうとするヨルムを指先でつついて止める。購入以来ずっとヨルムはこの弓に興味深げだ。
 何せ弦を外すと逆に反ったりするのだから、僕も最初に見た時はとても驚いた。
 でも今はあんまり遊んでいる余裕は無い。
 川熊は下級魔獣ではあるけれど、僕にとっては強敵だ。此れを満足に狩れたなら、きっと一歩強くなれる。 
 僕は周囲への警戒心を更に強め、再び探索を再開した。
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