少年と白蛇

らる鳥

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 宿の部屋に入ると、直ぐに胸元からヨルムが首を出す。
 この国に入った時からそうだったのだが、何故だかヨルムがそわそわと落ち着かない様子なのだ。
 警戒しているのとは様子が違うし、伝わって来る感情は、まるで何かを懐かしがっている様でもあった。
 もしかして、ヨルムは以前にもこの国に来た事があるのだろうか?
 問うた所できっとまだ答えてはくれないだろうから、敢えて聞きはしないけれど……。
 泊まる宿は、カリッサさんが見つけた宿を僕が可否を判断して決めた。
 色んな所を旅して旅慣れているのはカリッサさんだが、宿を見て良し悪しを判断する目は間違いなく僕の方があるのだ。
 カリッサさんの希望は食事の美味しい宿だったので、選ぶのは少し難しかったけど、貰って来た食事を見る限りはちゃんと当りを引けた気がする。
「ヨルム、ご飯食べるよ。こっちに来て」
 食べさせやすいよう、ヨルムには左腕に移動して貰う。
 個室を借りたのでヨルムとの食事にもあまり気を使わなくて良いので楽である。
 旅の初めにカリッサさんが相部屋とか言い出した時は、ちょっと困ったけれど、そこはちゃんと別にして貰った。
 別に警戒されたい訳じゃないけど、余りに無警戒なのも子供扱いされてる様で少し嫌なのだ。
「ん、これ何の肉だろう。……うん、癖はあるけど美味しいや。でも食べた事ないな。ホントに何だろう」
 夕食のシチューに入ってる肉は、食べた事の無い物だった。
 ヨルムも平気で食べていたので、別に悪い物じゃないのだろうけど、遠くに旅をすると食べ物までが驚きだ。
 もしかしたら食べれる魔物の肉かも知れない。
 城壁を越えた古ミズルガには魔物がうようよと居るそうだし、魔物の肉の方が安易に手に入ったりするのかも。
 まあ何にせよ害が無くて美味しいなら問題は無いのだ。
 多分明日は城壁の内部の探索に出るのだろうし、湯で身体を洗って旅の疲れを拭き取ったら今日は早めに寝るとしよう。


 次の朝、僕等はこの新ミズルガの冒険者ギルドを訪れていた。
 何でも城壁内への侵入はギルドの許可が必要らしい。入場料は要らないらしいけれど。
 多分古ミズルガ内で得られる収益の一部を、取りはぐれる事なく徴収する為だろうと思う。
 ライサの宿のおじさんに教えられて、その時は理解出来なかったけれど、ルリスさんとクーリさんに教える為に再度学んだので知っているのだ。
 冒険者ギルドがあるって事は、ギルド自身の取り分である手数料と、国に納める為の税金を冒険者から徴収する必要がある。
 無償でサービスだけを提供してくれるなんて筈がある訳が無い。
 他の町なら、斡旋する依頼料を最初から一部を引いておく事で、それを手数料と税金にしていた。
 けれどこの町の場合は古ミズルガ探索が冒険者の活動の主であり、依頼はあまり重視されないだろう。
 だから他のやり方、恐らくは古ミズルガ内への出入りを完全に管理し、冒険者が持ち帰った成果を手数料と税金を引いた金額で買い取るのだ。
 そしてギルドから他へと販売する事で、差額をギルドの取り分と税金にしているのだと、僕は思う。
 冒険者としても重たい成果はなるべく早く売り払いたいだろうから、ギルドでの買取を利用する事はメリットがあるので普通は素直にそれを利用する。
 勿論見つけた古代のアイテムを自分で使用したい人もいるだろうから、持ち出しが完全に不可能な訳じゃ無いかな。
 でも多分新ミズルガ内で冒険者から直接魔物素材等を買い取ろうとする業者なんかはマークされて、冒険者ギルドから徹底的に攻撃を受ける筈……。
 多分、きっとこんな感じ?
 手元の情報からの想像だけど、多分大きく間違っては無いだろう。
 その他には、勿論古ミズルガ内の情報の売買や、下級冒険者のみでの城壁内侵入の禁止等もやってるらしい。
 成程。探索許可を得に来た冒険者に一生懸命売込みをしているのは、自分達だけでは城壁内に入れない下級冒険者達か。
 よし、対応はカリッサさんに任せて、僕は目を合わせないようにしておこう。
 絡まれても面倒臭い。僕と組むなら自分達ともって言って来る人は、多分間違いなく居るだろうから。

「さて、いよいよ探索開始だけれど、ユー君は準備は良いかい?」
 カリッサさんの言葉に、僕は教えられた古ミズルガの情報を反芻しながら頷いた。
 古ミズルガ内は外側から、外層、中層、内層とわかれており、内部に行くほど富裕層が暮らしていたと推測されてる。
 まあ一番真ん中には城があるのだろうし、現代の城塞都市でも中心部付近の方にお金持ちの住まいや重要施設があるのは同じだから、多分間違っては無いのだろう。
 古ミズルガ内は区域毎に壁で覆われているそうだ。
 特に外層部と中層部、中層部と内層部の間は巨大で高い壁に区切られており、壁を越えるには幾つかある地下通路を通る必要があるらしい。
 地下通路は地上よりも魔物、或いは守護者たる魔導生物の数が多いとの事なので、壁を越えての区域の移動は困難が伴う。
 特に層を越えてのより内部への侵入はとても難易度が高い。
 外層は中級冒険者を中心としたグループでの探索を推奨、中層は上級冒険者を中心としたグループでの探索を推奨だとか。
 まあ僕とカリッサさんなら、間違いなく外層部のみでの活動になるだろう。
 近くで見た古代都市ミズルガを覆う城壁には、太い何かが描かれていた。
 僕は思わず服の上から、ヨルムを撫でる。うん、多分、きっと間違いない。
 この城壁に描かれているのは、大きな蛇。都市を取り囲む様に、守る様に、巨大な蛇が描かれているのだ。
 長い年月で落ちたその色は判別しにくいが、きっと昔は白かったのだろう。
 首を振り、僕は一旦考える事はやめて、城壁内へ侵入する地下通路への入り口、正確には其処に設けられた検問所へと向かった。
 例えこの城壁に掛かれているのが僕の想像通りだったとしても、今の僕、そしてヨルムにも関係は無いし、関係出来ない。
 今は其れよりも出来る事を懸命に行えば良いのだ。
 余計な事を考えている余裕は、今から古ミズルガ内の探索を行う僕には全くないのだから。

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