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しおりを挟む「ユー君!」
カリッサさんの警告の声。
けれど僕もその時には、既に敵の動きを察知していた。
建造物の上から奇襲をかけようとした黒い大型の犬、ヘルハウンドに対し、僕は引き絞った弓で矢を放つ。
ヘルハウンドはギリギリで中位に届く実力を持つ犬型魔獣。
実際に近接戦闘となれば川熊の方に軍配が上がるだろうが、素早い動きや嗅覚、一度発見した獲物をどこまでも追いかけるしつこい性格、そして何よりも炎を吐く特殊な能力により中位の分類に属している。
でも言い換えるなら、耐久力は川熊以下なのだ。
僕の複合弓で放った矢の一撃は確実にヘルハウンドに大きなダメージを与えており、その動きを鈍らせた。
そして動きの鈍ったヘルハウンドは、カリッサさんの敵では無い。宙を割く巨大なグレートソードが、炎を吐く暇も与えずヘルハウンドの身体を真っ二つに叩き斬る。
ちょっとカリッサさん、その倒し方だと毛皮の価値下がっちゃう……。
中級以上の魔物は魔石も落とすので、数を狩る心算なら嵩張り、剥ぎ取りに手間のかかる毛皮は気にしなくて良いのだけれど、少し勿体無い。
まあ状態の良さそうな物だけ剥ぎ取れば良いか。
古ミズルガ、古代都市内は、僕が想像したよりも少しばかり危険な場所だった。
何せ先程の様な中位に属するランクの魔物が、実に気軽にホイホイ襲い掛かって来てくれるのだ。襲われる方は気軽どころか、堪った物では無いのだが。
けれどそれと同時に、想像したよりも僕はこの場所で通用している。
勿論カリッサさんが居てくれるからこそ、僕は自分の役割を集中して果たせているのだ。
仮に単独だったなら、さっきのヘルハウンドにだってもっと苦戦しただろう。調子に乗れば危険なのは重々承知していた。
それでもヘルハウンド位ならば苦戦はしても勝てる気がしてしまうのは、やっぱり少し浮かれているのだろうか?
古ミズルガ内に入ってから、既に何戦もこなしている。
連続した戦いで気分が高揚してしまっているのかも知れない。
「カリッサさん、少し、休憩したいです」
休憩を挟んで落ち着いた方が良いだろう。
気持ちが高揚している時は、疲れに気付かないままに限界が訪れたりして、思わぬミスをするものだ。
多分まだ少し余裕はある筈だが、中位の魔物との遭遇は普段以上に僕の体力を削っていると考えた方が良い。
「うん、そうだね。そうしよう。でも外じゃ休めないから、取り敢えずこの建物を探索してから休憩しようか」
そう言って、カリッサさんは先程ヘルハウンドが飛び降りて来た建物を指さした。
似たような建物はそこら中にある。多分古代期の民家だろう。僕はカリッサさんが指差す建物の、鍵と罠を調べ始める。
この都市が都会だったからだろうか?
恐らくこの建物は民家であるにも関わらず、入り口には鍵と連動した簡単な防犯用の罠が設置されていた。
でもそれは決して悪い事では無い。鍵も罠も解除されていないって事は、この建物が未探索である可能性が高いとの証左であるからだ。
勿論先に探索した人間が、態々鍵と罠を仕掛け直して行く捻くれ者とかだったなら話は別だけど。あまり考えにくい話だろう。
「でもユー君にそちら側の心得もあってくれて良かったよ。最初は罠も鍵も私が蹴破る心算だったしね」
……カリッサさんが無茶苦茶言ってる。
確かに頑丈な鎧に身を包み、治癒も解毒も自前で出来るカリッサさんならそういった解除法も不可能では無いのだろうけど、あまり無茶はやめて欲しい。
そんな無理矢理な方法が通用するような罠ばかりとは決して限らないのだから。
少し時間はかかったが、無事に鍵は解除出来た。鍵をキチンと解除しさえすれば、連動型の罠は発動しない。
建物内は闇に包まれ、光源は持ち込んだランタンのみだ。
僕等以外の気配は存在しなかった。顔を出したヨルムも何も言わないので、多分間違いない。
鍵開けの作業をしたせいか、場所が建物内になったせいか、少し気分が落ち着いたのだろう。僕は僅かな疲れを自覚していた。
けれど先ずは建物内の探索が優先である。
キチンと探索をして安全を確保してからでなければ、ゆっくりとした休憩は出来ないのだから。
されどやはり此処は単なる民家の様で、大した危険とも、そして収穫とも縁遠い。見つかったのは装飾品の類が数点のみだ。
装飾品でも何でも、魔力の籠った品なら当りなのだけど、僕に其れを感じ取れる素養は無い。
カリッサさんも其れは同様の様で、収穫物の価値の確認は新ミズルガに戻ってからのお楽しみになる。
もしこの先もこういった遺跡を探索する機会があるのなら、品物の目利きを覚えても損はないかな。
建物に据え付けられている用途のわからない物等も、もしかしたら持ち帰れば売れるのかも知れないけれど、大荷物を抱えて魔物の出る中を移動するのは厳しい。
まあ良いや、収穫が無い訳じゃ無いのだ。今は少しでも体力を回復させる事に勤めよう。
水筒に口を付け、喉を鳴らして水を飲む。
折角なので自賛した干し肉をナイフで削り、ヨルムにも与えながら食べていると、カリッサさんが僕の前にやって来て腰を下ろした。
……干し肉欲しいんだろうか?
疑問に思いながらもカリッサさんの為に干し肉を削ろうとすると、彼女は手でそれを制し、意を決したように口を開く。
「ユー君。此処は未探索の地域だった。だから、この場所には確実に私達しか居ないし、見聞きした事も私達だけの秘密だ」
カリッサさんはそう言うと、僅かに身を乗り出した。
ふわりと空気が動き、先程まで戦っていたからだろう。カリッサさんの汗の匂いが、僕の鼻腔をくすぐる。
え、何。ちょっとまって、カリッサさんは一体何を言っているの?
戸惑う僕にカリッサさんは指を……、でも違う、指差す先は僕じゃ無くてヨルムだ。
「だから私に教えて欲しい。ユー君。君がヨルムと呼ぶその子は一体何者なのか。君とその子が抱える秘密を」
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