少年と白蛇

らる鳥

文字の大きさ
42 / 113

42

しおりを挟む

「ユー君!」
 カリッサさんの警告の声。
 けれど僕もその時には、既に敵の動きを察知していた。
 建造物の上から奇襲をかけようとした黒い大型の犬、ヘルハウンドに対し、僕は引き絞った弓で矢を放つ。
 ヘルハウンドはギリギリで中位に届く実力を持つ犬型魔獣。
 実際に近接戦闘となれば川熊の方に軍配が上がるだろうが、素早い動きや嗅覚、一度発見した獲物をどこまでも追いかけるしつこい性格、そして何よりも炎を吐く特殊な能力により中位の分類に属している。
 でも言い換えるなら、耐久力は川熊以下なのだ。
 僕の複合弓で放った矢の一撃は確実にヘルハウンドに大きなダメージを与えており、その動きを鈍らせた。
 そして動きの鈍ったヘルハウンドは、カリッサさんの敵では無い。宙を割く巨大なグレートソードが、炎を吐く暇も与えずヘルハウンドの身体を真っ二つに叩き斬る。
 ちょっとカリッサさん、その倒し方だと毛皮の価値下がっちゃう……。
 中級以上の魔物は魔石も落とすので、数を狩る心算なら嵩張り、剥ぎ取りに手間のかかる毛皮は気にしなくて良いのだけれど、少し勿体無い。
 まあ状態の良さそうな物だけ剥ぎ取れば良いか。
 古ミズルガ、古代都市内は、僕が想像したよりも少しばかり危険な場所だった。
 何せ先程の様な中位に属するランクの魔物が、実に気軽にホイホイ襲い掛かって来てくれるのだ。襲われる方は気軽どころか、堪った物では無いのだが。
 けれどそれと同時に、想像したよりも僕はこの場所で通用している。
 勿論カリッサさんが居てくれるからこそ、僕は自分の役割を集中して果たせているのだ。
 仮に単独だったなら、さっきのヘルハウンドにだってもっと苦戦しただろう。調子に乗れば危険なのは重々承知していた。
 それでもヘルハウンド位ならば苦戦はしても勝てる気がしてしまうのは、やっぱり少し浮かれているのだろうか?
 古ミズルガ内に入ってから、既に何戦もこなしている。
 連続した戦いで気分が高揚してしまっているのかも知れない。
「カリッサさん、少し、休憩したいです」
 休憩を挟んで落ち着いた方が良いだろう。
 気持ちが高揚している時は、疲れに気付かないままに限界が訪れたりして、思わぬミスをするものだ。
 多分まだ少し余裕はある筈だが、中位の魔物との遭遇は普段以上に僕の体力を削っていると考えた方が良い。
「うん、そうだね。そうしよう。でも外じゃ休めないから、取り敢えずこの建物を探索してから休憩しようか」
 そう言って、カリッサさんは先程ヘルハウンドが飛び降りて来た建物を指さした。
 似たような建物はそこら中にある。多分古代期の民家だろう。僕はカリッサさんが指差す建物の、鍵と罠を調べ始める。
 この都市が都会だったからだろうか?
 恐らくこの建物は民家であるにも関わらず、入り口には鍵と連動した簡単な防犯用の罠が設置されていた。
 でもそれは決して悪い事では無い。鍵も罠も解除されていないって事は、この建物が未探索である可能性が高いとの証左であるからだ。
 勿論先に探索した人間が、態々鍵と罠を仕掛け直して行く捻くれ者とかだったなら話は別だけど。あまり考えにくい話だろう。
「でもユー君にそちら側の心得もあってくれて良かったよ。最初は罠も鍵も私が蹴破る心算だったしね」
 ……カリッサさんが無茶苦茶言ってる。
 確かに頑丈な鎧に身を包み、治癒も解毒も自前で出来るカリッサさんならそういった解除法も不可能では無いのだろうけど、あまり無茶はやめて欲しい。
 そんな無理矢理な方法が通用するような罠ばかりとは決して限らないのだから。
 少し時間はかかったが、無事に鍵は解除出来た。鍵をキチンと解除しさえすれば、連動型の罠は発動しない。

 建物内は闇に包まれ、光源は持ち込んだランタンのみだ。
 僕等以外の気配は存在しなかった。顔を出したヨルムも何も言わないので、多分間違いない。
 鍵開けの作業をしたせいか、場所が建物内になったせいか、少し気分が落ち着いたのだろう。僕は僅かな疲れを自覚していた。
 けれど先ずは建物内の探索が優先である。
 キチンと探索をして安全を確保してからでなければ、ゆっくりとした休憩は出来ないのだから。
 されどやはり此処は単なる民家の様で、大した危険とも、そして収穫とも縁遠い。見つかったのは装飾品の類が数点のみだ。
 装飾品でも何でも、魔力の籠った品なら当りなのだけど、僕に其れを感じ取れる素養は無い。
 カリッサさんも其れは同様の様で、収穫物の価値の確認は新ミズルガに戻ってからのお楽しみになる。
 もしこの先もこういった遺跡を探索する機会があるのなら、品物の目利きを覚えても損はないかな。
 建物に据え付けられている用途のわからない物等も、もしかしたら持ち帰れば売れるのかも知れないけれど、大荷物を抱えて魔物の出る中を移動するのは厳しい。
 まあ良いや、収穫が無い訳じゃ無いのだ。今は少しでも体力を回復させる事に勤めよう。
 水筒に口を付け、喉を鳴らして水を飲む。
 折角なので自賛した干し肉をナイフで削り、ヨルムにも与えながら食べていると、カリッサさんが僕の前にやって来て腰を下ろした。
 ……干し肉欲しいんだろうか?
 疑問に思いながらもカリッサさんの為に干し肉を削ろうとすると、彼女は手でそれを制し、意を決したように口を開く。
「ユー君。此処は未探索の地域だった。だから、この場所には確実に私達しか居ないし、見聞きした事も私達だけの秘密だ」
 カリッサさんはそう言うと、僅かに身を乗り出した。
 ふわりと空気が動き、先程まで戦っていたからだろう。カリッサさんの汗の匂いが、僕の鼻腔をくすぐる。
 え、何。ちょっとまって、カリッサさんは一体何を言っているの?
 戸惑う僕にカリッサさんは指を……、でも違う、指差す先は僕じゃ無くてヨルムだ。
「だから私に教えて欲しい。ユー君。君がヨルムと呼ぶその子は一体何者なのか。君とその子が抱える秘密を」
しおりを挟む
感想 11

あなたにおすすめの小説

死んだはずの貴族、内政スキルでひっくり返す〜辺境村から始める復讐譚〜

のらねこ吟醸
ファンタジー
帝国の粛清で家族を失い、“死んだことにされた”名門貴族の青年は、 偽りの名を与えられ、最果ての辺境村へと送り込まれた。 水も農具も未来もない、限界集落で彼が手にしたのは―― 古代遺跡の力と、“俺にだけ見える内政スキル”。 村を立て直し、仲間と絆を築きながら、 やがて帝国の陰謀に迫り、家を滅ぼした仇と対峙する。 辺境から始まる、ちょっぴりほのぼの(?)な村興しと、 静かに進む策略と復讐の物語。

クラス最底辺の俺、ステータス成長で資産も身長も筋力も伸びて逆転無双

四郎
ファンタジー
クラスで最底辺――。 「笑いもの」として過ごしてきた佐久間陽斗の人生は、ただの屈辱の連続だった。 教室では見下され、存在するだけで嘲笑の対象。 友達もなく、未来への希望もない。 そんな彼が、ある日を境にすべてを変えていく。 突如として芽生えた“成長システム”。 努力を積み重ねるたびに、陽斗のステータスは確実に伸びていく。 筋力、耐久、知力、魅力――そして、普通ならあり得ない「資産」までも。 昨日まで最底辺だったはずの少年が、今日には同級生を超え、やがて街でさえ無視できない存在へと変貌していく。 「なんであいつが……?」 「昨日まで笑いものだったはずだろ!」 周囲の態度は一変し、軽蔑から驚愕へ、やがて羨望と畏怖へ。 陽斗は努力と成長で、己の居場所を切り拓き、誰も予想できなかった逆転劇を現実にしていく。 だが、これはただのサクセスストーリーではない。 嫉妬、裏切り、友情、そして恋愛――。 陽斗の成長は、同級生や教師たちの思惑をも巻き込み、やがて学校という小さな舞台を飛び越え、社会そのものに波紋を広げていく。 「笑われ続けた俺が、全てを変える番だ。」 かつて底辺だった少年が掴むのは、力か、富か、それとも――。 最底辺から始まる、資産も未来も手にする逆転無双ストーリー。 物語は、まだ始まったばかりだ。

貧乏奨学生の子爵令嬢は、特許で稼ぐ夢を見る 〜レイシアは、今日も我が道つき進む!~

みちのあかり
ファンタジー
同じゼミに通う王子から、ありえないプロポーズを受ける貧乏奨学生のレイシア。 何でこんなことに? レイシアは今までの生き方を振り返り始めた。 第一部(領地でスローライフ) 5歳の誕生日。お父様とお母様にお祝いされ、教会で祝福を受ける。教会で孤児と一緒に勉強をはじめるレイシアは、その才能が開花し非常に優秀に育っていく。お母様が里帰り出産。生まれてくる弟のために、料理やメイド仕事を覚えようと必死に頑張るレイシア。 お母様も戻り、家族で幸せな生活を送るレイシア。 しかし、未曽有の災害が起こり、領地は借金を負うことに。 貧乏でも明るく生きるレイシアの、ハートフルコメディ。 第二部(学園無双) 貧乏なため、奨学生として貴族が通う学園に入学したレイシア。 貴族としての進学は奨学生では無理? 平民に落ちても生きていけるコースを選ぶ。 だが、様々な思惑により貴族のコースも受けなければいけないレイシア。お金持ちの貴族の女子には嫌われ相手にされない。 そんなことは気にもせず、お金儲け、特許取得を目指すレイシア。 ところが、いきなり王子からプロポーズを受け・・・ 学園無双の痛快コメディ カクヨムで240万PV頂いています。

おばちゃんダイバーは浅い層で頑張ります

きむらきむこ
ファンタジー
ダンジョンができて十年。年金の足しにダンジョンに通ってます。田中優子61歳

魅了の対価

しがついつか
ファンタジー
家庭事情により給金の高い職場を求めて転職したリンリーは、縁あってブラウンロード伯爵家の使用人になった。 彼女は伯爵家の第二子アッシュ・ブラウンロードの侍女を任された。 ブラウンロード伯爵家では、なぜか一家のみならず屋敷で働く使用人達のすべてがアッシュのことを嫌悪していた。 アッシュと顔を合わせてすぐにリンリーも「あ、私コイツ嫌いだわ」と感じたのだが、上級使用人を目指す彼女は私情を挟まずに職務に専念することにした。 淡々と世話をしてくれるリンリーに、アッシュは次第に心を開いていった。

靴屋の娘と三人のお兄様

こじまき
恋愛
靴屋の看板娘だったデイジーは、母親の再婚によってホークボロー伯爵令嬢になった。ホークボロー伯爵家の三兄弟、長男でいかにも堅物な軍人のアレン、次男でほとんど喋らない魔法使いのイーライ、三男でチャラい画家のカラバスはいずれ劣らぬキラッキラのイケメン揃い。平民出身のにわか伯爵令嬢とお兄様たちとのひとつ屋根の下生活。何も起こらないはずがない!? ※小説家になろうにも投稿しています。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

最難関ダンジョンをクリアした成功報酬は勇者パーティーの裏切りでした

新緑あらた
ファンタジー
最難関であるS級ダンジョン最深部の隠し部屋。金銀財宝を前に告げられた言葉は労いでも喜びでもなく、解雇通告だった。 「もうオマエはいらん」 勇者アレクサンダー、癒し手エリーゼ、赤魔道士フェルノに、自身の黒髪黒目を忌避しないことから期待していた俺は大きなショックを受ける。 ヤツらは俺の外見を受け入れていたわけじゃない。ただ仲間と思っていなかっただけ、眼中になかっただけなのだ。 転生者は曾祖父だけどチートは隔世遺伝した「俺」にも受け継がれています。 勇者達は大富豪スタートで貧民窟の住人がゴールです(笑)

処理中です...