44 / 113
44
しおりを挟む
古ミズルガ、古代都市で僕が不思議に思うのは、湧き出る魔物は自然発生の物の筈なのに、都市内の壁に区切られた区域を移動すれば出てくる魔物の顔ぶれも変わる事だ。
森に出現する魔物と、山に出現する魔物が違うのなら納得は行く。環境が大きく違うから。
でもこの都市内でなら、特に隣接する地域同士なら環境もそう変わらないだろうに、出現する魔物は変化する。
都市に満ちる魔力や方位によって帯びる力の属性が違うせいかも知れないが、専門外なので詳しい事は僕はわからない。
パラクスさんがお酒を飲みながら教えてくれたのは、都市の北は水、そして南は火の力が宿り易いって話だった。
勿論なんでそうなるのかは、僕は知らない。
もし此処にパラクスさんが居れば何かを教えてくれたのだろうか。
僕とカリッサさんの2人はここ数日の間に何度か、外層部でのみ活動しているが、割合に安定した稼ぎを得れている。
けれど今日迷い込んだこの地域は、外層部の他の地域に比べて少しばかり性質が悪かった。
「ユー君、そっちだ!!」
カリッサさんの声に咄嗟にその方向に弓を構えるが、ダメだ。間に合わない。
高速で突っ込んで来る鳥と人の合いの子みたいな有翼の妖魔、ハーピーの姿に、僕は咄嗟に弓を捨てて鞘から剣を引き抜いて振う。
血飛沫が舞った。
ダメージを負ったのは、僕とハーピーの双方だ。
ハーピーの鉤爪は僕の左肩を引き裂き、僕の剣はハーピーの右翼を切り落とす。
被害が大きいのはハーピーの方だろう。飛べないハーピーは、地上を移動する事にすら不自由するのだから。
けれど僕が負ったダメージも決して小さい物ではなく、左腕が全く動かない。
つまりは最も得意とする弓が使えなくなったのだ。
「今癒しをかけるから!」
僕の負った怪我に慌てるカリッサさんだが、其れはダメである。
敵はこのハーピーだけじゃない。特にカリッサさんの前には、人食い鬼とも呼ばれる厄介な妖魔、オーガが立ちはだかっているのだから。
アレの相手は僕には難しい。オーガにも力負けしないカリッサさんに任せる方が効率が良かった。
今の僕がすべきは、他の敵がカリッサさんの戦いの邪魔をしない様に引き付ける、そして可能ならば排除する事。
地に伏したハーピーの声に応じる様に、もう一匹空を舞う人影が此方に向かってやって来る。
偶然か否かはわからないけど、オーガとハーピーがまるで連携するかの如く襲って来るのは、本当に厄介極まりない。
這って逃げんとするハーピーに、背中から止めの一撃を突き刺した。
妖魔にかける慈悲は無いし、そもそも逃げた所で羽を失ったハーピーに生きる術もないだろう。
仲間を殺され怒りに震えるもう一匹のハーピーが突っ込んで来る。
だけどその攻撃で傷を負う愚を二度も犯したりはしない。別の個体だが、一度は見た攻撃なのだ。
先程とは違って対応する為の距離もあった。
壁を蹴り、飛び上がって振るう刃に、ハーピーの首が宙を舞う。
戦闘後、僕とカリッサさんは鍵を解除した建物内へと逃げ込んだ。
肩の傷は鍵の解除前に癒して貰ったが、疲労は体の芯まで染み込んでいる。
正直、色々と厳しい状況だった。
出て来るのは他の外層の地域と同じく中位に属する魔物なのだが、他の地域と違ってなぜか奴等は緩やかではあるが連携するのだ。
さっきのオーガとハーピーもそうであるが、同種ならば兎も角、別種の魔物同士が協力し合う何て事は滅多に無い。
妖魔は魔物の中でも比較的知恵の働く連中ではあるが、それでもこの地域の妖魔達は何かが可笑しかった。
「ユー君、大丈夫か? 少し休んだらこの地域から脱出しよう。此処も何時まで安全かわからない」
何時に無く余裕の無いカリッサさんの言葉に、僕も頷く。
他の地域の魔物、例えばヘルハウンド等なら、建物内に入って鍵を締めればある程度は安心出来た。
でもこの地域の妖魔達、特にオーガ辺りは僕等の存在を察知したら扉を蹴り開けて入って来ようとするだろう。
「もしかしたら、この地域の魔物は統率者でも居るのかな……」
水を口に含み、僕は呟く。
ふんわりとした考えだったのだけれど、言葉にしてみれば、そうとしか思えなくなって来た。
ある程度の知恵が働く妖魔達を、力で従えるボスがいるのなら、奴等の動きにも一応の納得は出来る。
しかしそれがわかった所で今の状況を解決する役には立たない。
結局の所、僕等に出来る事はこれ以上敵と遭遇しない様に迅速に区域からの脱出路を目指す事だけなのだ。
僕は深呼吸を繰り返し、少しでも身体の疲労を抜く事に努めた。
けれどこの後、僕はそれでも敵を、その知恵を甘く見積もっていたと思い知らされる羽目になる。
仮に自分をこの区域を縄張りにするボスだとしよう。
縄張りの中に侵入者がやって来て、手下と交戦した後の行方が分からない。
どこかで侵入者達を待ち伏せするとする。最も侵入者達が現れる可能性の高い場所はどこか。
其れは侵入者達が縄張りに侵入するのに使用した通路の前だろう。
勿論他の通路を使って縄張りの外に出て行く事もありえるだろうが、確実に知っている道を選ぶ可能性の方がより高い。
僕ならそう考える。
つまり此処の地域のボスは僕と同等、つまり人並みの知能を持っているのだ。
それだけの知能を持つからこそ、他の魔物を従わせられるボスとして振る舞えるのだろう。
状況は割と最悪に近い。
僕達を脱出路の前で待ち構えていたのは、牛頭人身の怪物。
「ミノタウロス……」
カリッサさんが思わず呟くその名前は、あまりに有名で強力な魔物の名前だった。
森に出現する魔物と、山に出現する魔物が違うのなら納得は行く。環境が大きく違うから。
でもこの都市内でなら、特に隣接する地域同士なら環境もそう変わらないだろうに、出現する魔物は変化する。
都市に満ちる魔力や方位によって帯びる力の属性が違うせいかも知れないが、専門外なので詳しい事は僕はわからない。
パラクスさんがお酒を飲みながら教えてくれたのは、都市の北は水、そして南は火の力が宿り易いって話だった。
勿論なんでそうなるのかは、僕は知らない。
もし此処にパラクスさんが居れば何かを教えてくれたのだろうか。
僕とカリッサさんの2人はここ数日の間に何度か、外層部でのみ活動しているが、割合に安定した稼ぎを得れている。
けれど今日迷い込んだこの地域は、外層部の他の地域に比べて少しばかり性質が悪かった。
「ユー君、そっちだ!!」
カリッサさんの声に咄嗟にその方向に弓を構えるが、ダメだ。間に合わない。
高速で突っ込んで来る鳥と人の合いの子みたいな有翼の妖魔、ハーピーの姿に、僕は咄嗟に弓を捨てて鞘から剣を引き抜いて振う。
血飛沫が舞った。
ダメージを負ったのは、僕とハーピーの双方だ。
ハーピーの鉤爪は僕の左肩を引き裂き、僕の剣はハーピーの右翼を切り落とす。
被害が大きいのはハーピーの方だろう。飛べないハーピーは、地上を移動する事にすら不自由するのだから。
けれど僕が負ったダメージも決して小さい物ではなく、左腕が全く動かない。
つまりは最も得意とする弓が使えなくなったのだ。
「今癒しをかけるから!」
僕の負った怪我に慌てるカリッサさんだが、其れはダメである。
敵はこのハーピーだけじゃない。特にカリッサさんの前には、人食い鬼とも呼ばれる厄介な妖魔、オーガが立ちはだかっているのだから。
アレの相手は僕には難しい。オーガにも力負けしないカリッサさんに任せる方が効率が良かった。
今の僕がすべきは、他の敵がカリッサさんの戦いの邪魔をしない様に引き付ける、そして可能ならば排除する事。
地に伏したハーピーの声に応じる様に、もう一匹空を舞う人影が此方に向かってやって来る。
偶然か否かはわからないけど、オーガとハーピーがまるで連携するかの如く襲って来るのは、本当に厄介極まりない。
這って逃げんとするハーピーに、背中から止めの一撃を突き刺した。
妖魔にかける慈悲は無いし、そもそも逃げた所で羽を失ったハーピーに生きる術もないだろう。
仲間を殺され怒りに震えるもう一匹のハーピーが突っ込んで来る。
だけどその攻撃で傷を負う愚を二度も犯したりはしない。別の個体だが、一度は見た攻撃なのだ。
先程とは違って対応する為の距離もあった。
壁を蹴り、飛び上がって振るう刃に、ハーピーの首が宙を舞う。
戦闘後、僕とカリッサさんは鍵を解除した建物内へと逃げ込んだ。
肩の傷は鍵の解除前に癒して貰ったが、疲労は体の芯まで染み込んでいる。
正直、色々と厳しい状況だった。
出て来るのは他の外層の地域と同じく中位に属する魔物なのだが、他の地域と違ってなぜか奴等は緩やかではあるが連携するのだ。
さっきのオーガとハーピーもそうであるが、同種ならば兎も角、別種の魔物同士が協力し合う何て事は滅多に無い。
妖魔は魔物の中でも比較的知恵の働く連中ではあるが、それでもこの地域の妖魔達は何かが可笑しかった。
「ユー君、大丈夫か? 少し休んだらこの地域から脱出しよう。此処も何時まで安全かわからない」
何時に無く余裕の無いカリッサさんの言葉に、僕も頷く。
他の地域の魔物、例えばヘルハウンド等なら、建物内に入って鍵を締めればある程度は安心出来た。
でもこの地域の妖魔達、特にオーガ辺りは僕等の存在を察知したら扉を蹴り開けて入って来ようとするだろう。
「もしかしたら、この地域の魔物は統率者でも居るのかな……」
水を口に含み、僕は呟く。
ふんわりとした考えだったのだけれど、言葉にしてみれば、そうとしか思えなくなって来た。
ある程度の知恵が働く妖魔達を、力で従えるボスがいるのなら、奴等の動きにも一応の納得は出来る。
しかしそれがわかった所で今の状況を解決する役には立たない。
結局の所、僕等に出来る事はこれ以上敵と遭遇しない様に迅速に区域からの脱出路を目指す事だけなのだ。
僕は深呼吸を繰り返し、少しでも身体の疲労を抜く事に努めた。
けれどこの後、僕はそれでも敵を、その知恵を甘く見積もっていたと思い知らされる羽目になる。
仮に自分をこの区域を縄張りにするボスだとしよう。
縄張りの中に侵入者がやって来て、手下と交戦した後の行方が分からない。
どこかで侵入者達を待ち伏せするとする。最も侵入者達が現れる可能性の高い場所はどこか。
其れは侵入者達が縄張りに侵入するのに使用した通路の前だろう。
勿論他の通路を使って縄張りの外に出て行く事もありえるだろうが、確実に知っている道を選ぶ可能性の方がより高い。
僕ならそう考える。
つまり此処の地域のボスは僕と同等、つまり人並みの知能を持っているのだ。
それだけの知能を持つからこそ、他の魔物を従わせられるボスとして振る舞えるのだろう。
状況は割と最悪に近い。
僕達を脱出路の前で待ち構えていたのは、牛頭人身の怪物。
「ミノタウロス……」
カリッサさんが思わず呟くその名前は、あまりに有名で強力な魔物の名前だった。
1
あなたにおすすめの小説
死んだはずの貴族、内政スキルでひっくり返す〜辺境村から始める復讐譚〜
のらねこ吟醸
ファンタジー
帝国の粛清で家族を失い、“死んだことにされた”名門貴族の青年は、
偽りの名を与えられ、最果ての辺境村へと送り込まれた。
水も農具も未来もない、限界集落で彼が手にしたのは――
古代遺跡の力と、“俺にだけ見える内政スキル”。
村を立て直し、仲間と絆を築きながら、
やがて帝国の陰謀に迫り、家を滅ぼした仇と対峙する。
辺境から始まる、ちょっぴりほのぼの(?)な村興しと、
静かに進む策略と復讐の物語。
クラス最底辺の俺、ステータス成長で資産も身長も筋力も伸びて逆転無双
四郎
ファンタジー
クラスで最底辺――。
「笑いもの」として過ごしてきた佐久間陽斗の人生は、ただの屈辱の連続だった。
教室では見下され、存在するだけで嘲笑の対象。
友達もなく、未来への希望もない。
そんな彼が、ある日を境にすべてを変えていく。
突如として芽生えた“成長システム”。
努力を積み重ねるたびに、陽斗のステータスは確実に伸びていく。
筋力、耐久、知力、魅力――そして、普通ならあり得ない「資産」までも。
昨日まで最底辺だったはずの少年が、今日には同級生を超え、やがて街でさえ無視できない存在へと変貌していく。
「なんであいつが……?」
「昨日まで笑いものだったはずだろ!」
周囲の態度は一変し、軽蔑から驚愕へ、やがて羨望と畏怖へ。
陽斗は努力と成長で、己の居場所を切り拓き、誰も予想できなかった逆転劇を現実にしていく。
だが、これはただのサクセスストーリーではない。
嫉妬、裏切り、友情、そして恋愛――。
陽斗の成長は、同級生や教師たちの思惑をも巻き込み、やがて学校という小さな舞台を飛び越え、社会そのものに波紋を広げていく。
「笑われ続けた俺が、全てを変える番だ。」
かつて底辺だった少年が掴むのは、力か、富か、それとも――。
最底辺から始まる、資産も未来も手にする逆転無双ストーリー。
物語は、まだ始まったばかりだ。
魅了の対価
しがついつか
ファンタジー
家庭事情により給金の高い職場を求めて転職したリンリーは、縁あってブラウンロード伯爵家の使用人になった。
彼女は伯爵家の第二子アッシュ・ブラウンロードの侍女を任された。
ブラウンロード伯爵家では、なぜか一家のみならず屋敷で働く使用人達のすべてがアッシュのことを嫌悪していた。
アッシュと顔を合わせてすぐにリンリーも「あ、私コイツ嫌いだわ」と感じたのだが、上級使用人を目指す彼女は私情を挟まずに職務に専念することにした。
淡々と世話をしてくれるリンリーに、アッシュは次第に心を開いていった。
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
靴屋の娘と三人のお兄様
こじまき
恋愛
靴屋の看板娘だったデイジーは、母親の再婚によってホークボロー伯爵令嬢になった。ホークボロー伯爵家の三兄弟、長男でいかにも堅物な軍人のアレン、次男でほとんど喋らない魔法使いのイーライ、三男でチャラい画家のカラバスはいずれ劣らぬキラッキラのイケメン揃い。平民出身のにわか伯爵令嬢とお兄様たちとのひとつ屋根の下生活。何も起こらないはずがない!?
※小説家になろうにも投稿しています。
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
最難関ダンジョンをクリアした成功報酬は勇者パーティーの裏切りでした
新緑あらた
ファンタジー
最難関であるS級ダンジョン最深部の隠し部屋。金銀財宝を前に告げられた言葉は労いでも喜びでもなく、解雇通告だった。
「もうオマエはいらん」
勇者アレクサンダー、癒し手エリーゼ、赤魔道士フェルノに、自身の黒髪黒目を忌避しないことから期待していた俺は大きなショックを受ける。
ヤツらは俺の外見を受け入れていたわけじゃない。ただ仲間と思っていなかっただけ、眼中になかっただけなのだ。
転生者は曾祖父だけどチートは隔世遺伝した「俺」にも受け継がれています。
勇者達は大富豪スタートで貧民窟の住人がゴールです(笑)
ガチャから始まる錬金ライフ
盾乃あに
ファンタジー
河地夜人は日雇い労働者だったが、スキルボールを手に入れた翌日にクビになってしまう。
手に入れたスキルボールは『ガチャ』そこから『鑑定』『錬金術』と手に入れて、今までダンジョンの宝箱しか出なかったポーションなどを冒険者御用達の『プライド』に売り、億万長者になっていく。
他にもS級冒険者と出会い、自らもS級に上り詰める。
どんどん仲間も増え、自らはダンジョンには行かず錬金術で飯を食う。
自身の本当のジョブが召喚士だったので、召喚した相棒のテンとまったり、時には冒険し成長していく。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる