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古ミズルガ、古代都市で僕が不思議に思うのは、湧き出る魔物は自然発生の物の筈なのに、都市内の壁に区切られた区域を移動すれば出てくる魔物の顔ぶれも変わる事だ。
森に出現する魔物と、山に出現する魔物が違うのなら納得は行く。環境が大きく違うから。
でもこの都市内でなら、特に隣接する地域同士なら環境もそう変わらないだろうに、出現する魔物は変化する。
都市に満ちる魔力や方位によって帯びる力の属性が違うせいかも知れないが、専門外なので詳しい事は僕はわからない。
パラクスさんがお酒を飲みながら教えてくれたのは、都市の北は水、そして南は火の力が宿り易いって話だった。
勿論なんでそうなるのかは、僕は知らない。
もし此処にパラクスさんが居れば何かを教えてくれたのだろうか。
僕とカリッサさんの2人はここ数日の間に何度か、外層部でのみ活動しているが、割合に安定した稼ぎを得れている。
けれど今日迷い込んだこの地域は、外層部の他の地域に比べて少しばかり性質が悪かった。
「ユー君、そっちだ!!」
カリッサさんの声に咄嗟にその方向に弓を構えるが、ダメだ。間に合わない。
高速で突っ込んで来る鳥と人の合いの子みたいな有翼の妖魔、ハーピーの姿に、僕は咄嗟に弓を捨てて鞘から剣を引き抜いて振う。
血飛沫が舞った。
ダメージを負ったのは、僕とハーピーの双方だ。
ハーピーの鉤爪は僕の左肩を引き裂き、僕の剣はハーピーの右翼を切り落とす。
被害が大きいのはハーピーの方だろう。飛べないハーピーは、地上を移動する事にすら不自由するのだから。
けれど僕が負ったダメージも決して小さい物ではなく、左腕が全く動かない。
つまりは最も得意とする弓が使えなくなったのだ。
「今癒しをかけるから!」
僕の負った怪我に慌てるカリッサさんだが、其れはダメである。
敵はこのハーピーだけじゃない。特にカリッサさんの前には、人食い鬼とも呼ばれる厄介な妖魔、オーガが立ちはだかっているのだから。
アレの相手は僕には難しい。オーガにも力負けしないカリッサさんに任せる方が効率が良かった。
今の僕がすべきは、他の敵がカリッサさんの戦いの邪魔をしない様に引き付ける、そして可能ならば排除する事。
地に伏したハーピーの声に応じる様に、もう一匹空を舞う人影が此方に向かってやって来る。
偶然か否かはわからないけど、オーガとハーピーがまるで連携するかの如く襲って来るのは、本当に厄介極まりない。
這って逃げんとするハーピーに、背中から止めの一撃を突き刺した。
妖魔にかける慈悲は無いし、そもそも逃げた所で羽を失ったハーピーに生きる術もないだろう。
仲間を殺され怒りに震えるもう一匹のハーピーが突っ込んで来る。
だけどその攻撃で傷を負う愚を二度も犯したりはしない。別の個体だが、一度は見た攻撃なのだ。
先程とは違って対応する為の距離もあった。
壁を蹴り、飛び上がって振るう刃に、ハーピーの首が宙を舞う。
戦闘後、僕とカリッサさんは鍵を解除した建物内へと逃げ込んだ。
肩の傷は鍵の解除前に癒して貰ったが、疲労は体の芯まで染み込んでいる。
正直、色々と厳しい状況だった。
出て来るのは他の外層の地域と同じく中位に属する魔物なのだが、他の地域と違ってなぜか奴等は緩やかではあるが連携するのだ。
さっきのオーガとハーピーもそうであるが、同種ならば兎も角、別種の魔物同士が協力し合う何て事は滅多に無い。
妖魔は魔物の中でも比較的知恵の働く連中ではあるが、それでもこの地域の妖魔達は何かが可笑しかった。
「ユー君、大丈夫か? 少し休んだらこの地域から脱出しよう。此処も何時まで安全かわからない」
何時に無く余裕の無いカリッサさんの言葉に、僕も頷く。
他の地域の魔物、例えばヘルハウンド等なら、建物内に入って鍵を締めればある程度は安心出来た。
でもこの地域の妖魔達、特にオーガ辺りは僕等の存在を察知したら扉を蹴り開けて入って来ようとするだろう。
「もしかしたら、この地域の魔物は統率者でも居るのかな……」
水を口に含み、僕は呟く。
ふんわりとした考えだったのだけれど、言葉にしてみれば、そうとしか思えなくなって来た。
ある程度の知恵が働く妖魔達を、力で従えるボスがいるのなら、奴等の動きにも一応の納得は出来る。
しかしそれがわかった所で今の状況を解決する役には立たない。
結局の所、僕等に出来る事はこれ以上敵と遭遇しない様に迅速に区域からの脱出路を目指す事だけなのだ。
僕は深呼吸を繰り返し、少しでも身体の疲労を抜く事に努めた。
けれどこの後、僕はそれでも敵を、その知恵を甘く見積もっていたと思い知らされる羽目になる。
仮に自分をこの区域を縄張りにするボスだとしよう。
縄張りの中に侵入者がやって来て、手下と交戦した後の行方が分からない。
どこかで侵入者達を待ち伏せするとする。最も侵入者達が現れる可能性の高い場所はどこか。
其れは侵入者達が縄張りに侵入するのに使用した通路の前だろう。
勿論他の通路を使って縄張りの外に出て行く事もありえるだろうが、確実に知っている道を選ぶ可能性の方がより高い。
僕ならそう考える。
つまり此処の地域のボスは僕と同等、つまり人並みの知能を持っているのだ。
それだけの知能を持つからこそ、他の魔物を従わせられるボスとして振る舞えるのだろう。
状況は割と最悪に近い。
僕達を脱出路の前で待ち構えていたのは、牛頭人身の怪物。
「ミノタウロス……」
カリッサさんが思わず呟くその名前は、あまりに有名で強力な魔物の名前だった。
森に出現する魔物と、山に出現する魔物が違うのなら納得は行く。環境が大きく違うから。
でもこの都市内でなら、特に隣接する地域同士なら環境もそう変わらないだろうに、出現する魔物は変化する。
都市に満ちる魔力や方位によって帯びる力の属性が違うせいかも知れないが、専門外なので詳しい事は僕はわからない。
パラクスさんがお酒を飲みながら教えてくれたのは、都市の北は水、そして南は火の力が宿り易いって話だった。
勿論なんでそうなるのかは、僕は知らない。
もし此処にパラクスさんが居れば何かを教えてくれたのだろうか。
僕とカリッサさんの2人はここ数日の間に何度か、外層部でのみ活動しているが、割合に安定した稼ぎを得れている。
けれど今日迷い込んだこの地域は、外層部の他の地域に比べて少しばかり性質が悪かった。
「ユー君、そっちだ!!」
カリッサさんの声に咄嗟にその方向に弓を構えるが、ダメだ。間に合わない。
高速で突っ込んで来る鳥と人の合いの子みたいな有翼の妖魔、ハーピーの姿に、僕は咄嗟に弓を捨てて鞘から剣を引き抜いて振う。
血飛沫が舞った。
ダメージを負ったのは、僕とハーピーの双方だ。
ハーピーの鉤爪は僕の左肩を引き裂き、僕の剣はハーピーの右翼を切り落とす。
被害が大きいのはハーピーの方だろう。飛べないハーピーは、地上を移動する事にすら不自由するのだから。
けれど僕が負ったダメージも決して小さい物ではなく、左腕が全く動かない。
つまりは最も得意とする弓が使えなくなったのだ。
「今癒しをかけるから!」
僕の負った怪我に慌てるカリッサさんだが、其れはダメである。
敵はこのハーピーだけじゃない。特にカリッサさんの前には、人食い鬼とも呼ばれる厄介な妖魔、オーガが立ちはだかっているのだから。
アレの相手は僕には難しい。オーガにも力負けしないカリッサさんに任せる方が効率が良かった。
今の僕がすべきは、他の敵がカリッサさんの戦いの邪魔をしない様に引き付ける、そして可能ならば排除する事。
地に伏したハーピーの声に応じる様に、もう一匹空を舞う人影が此方に向かってやって来る。
偶然か否かはわからないけど、オーガとハーピーがまるで連携するかの如く襲って来るのは、本当に厄介極まりない。
這って逃げんとするハーピーに、背中から止めの一撃を突き刺した。
妖魔にかける慈悲は無いし、そもそも逃げた所で羽を失ったハーピーに生きる術もないだろう。
仲間を殺され怒りに震えるもう一匹のハーピーが突っ込んで来る。
だけどその攻撃で傷を負う愚を二度も犯したりはしない。別の個体だが、一度は見た攻撃なのだ。
先程とは違って対応する為の距離もあった。
壁を蹴り、飛び上がって振るう刃に、ハーピーの首が宙を舞う。
戦闘後、僕とカリッサさんは鍵を解除した建物内へと逃げ込んだ。
肩の傷は鍵の解除前に癒して貰ったが、疲労は体の芯まで染み込んでいる。
正直、色々と厳しい状況だった。
出て来るのは他の外層の地域と同じく中位に属する魔物なのだが、他の地域と違ってなぜか奴等は緩やかではあるが連携するのだ。
さっきのオーガとハーピーもそうであるが、同種ならば兎も角、別種の魔物同士が協力し合う何て事は滅多に無い。
妖魔は魔物の中でも比較的知恵の働く連中ではあるが、それでもこの地域の妖魔達は何かが可笑しかった。
「ユー君、大丈夫か? 少し休んだらこの地域から脱出しよう。此処も何時まで安全かわからない」
何時に無く余裕の無いカリッサさんの言葉に、僕も頷く。
他の地域の魔物、例えばヘルハウンド等なら、建物内に入って鍵を締めればある程度は安心出来た。
でもこの地域の妖魔達、特にオーガ辺りは僕等の存在を察知したら扉を蹴り開けて入って来ようとするだろう。
「もしかしたら、この地域の魔物は統率者でも居るのかな……」
水を口に含み、僕は呟く。
ふんわりとした考えだったのだけれど、言葉にしてみれば、そうとしか思えなくなって来た。
ある程度の知恵が働く妖魔達を、力で従えるボスがいるのなら、奴等の動きにも一応の納得は出来る。
しかしそれがわかった所で今の状況を解決する役には立たない。
結局の所、僕等に出来る事はこれ以上敵と遭遇しない様に迅速に区域からの脱出路を目指す事だけなのだ。
僕は深呼吸を繰り返し、少しでも身体の疲労を抜く事に努めた。
けれどこの後、僕はそれでも敵を、その知恵を甘く見積もっていたと思い知らされる羽目になる。
仮に自分をこの区域を縄張りにするボスだとしよう。
縄張りの中に侵入者がやって来て、手下と交戦した後の行方が分からない。
どこかで侵入者達を待ち伏せするとする。最も侵入者達が現れる可能性の高い場所はどこか。
其れは侵入者達が縄張りに侵入するのに使用した通路の前だろう。
勿論他の通路を使って縄張りの外に出て行く事もありえるだろうが、確実に知っている道を選ぶ可能性の方がより高い。
僕ならそう考える。
つまり此処の地域のボスは僕と同等、つまり人並みの知能を持っているのだ。
それだけの知能を持つからこそ、他の魔物を従わせられるボスとして振る舞えるのだろう。
状況は割と最悪に近い。
僕達を脱出路の前で待ち構えていたのは、牛頭人身の怪物。
「ミノタウロス……」
カリッサさんが思わず呟くその名前は、あまりに有名で強力な魔物の名前だった。
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