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しおりを挟む河原で、ほんの軽くだけ弓を引いて心を落ち着ける。
今日持って来た弓は、最近使ってる複合弓じゃなくて、それ以前に使っていた木の弓だ。
あの複合弓はとても良い弓なのだけど、威力が強すぎるので一寸した遊びには不向きだから。
そう、今日は遊びの日であった。
ヨルムが顔を上げ、舌で頬をチロチロと舐めて来るので、頬を膨らませて押し返す。
河原の空気は少し冷えるが、日差しは暖かい。もう少ししたら、寒さの方が強くなり、河原の傍に居るのが辛い時期になって来るだろう。
辺りはとても穏やかだ。心を平らに、呼吸を細く、存在を消して、穏やかさの中に溶け込む。
……そろそろかな。もう少しだけ、弓を引く。
風の音、川の流れの音、そして川の魚が跳ねた水音。
その瞬間、放った矢は宙を舞った川魚を貫き、向こう岸の地面に突き刺さった。
「おー、獲れたねー」
ゆっくり立ち上がり、足場になりそうな石の上を跳ねながら、向こう岸へと渡る。
ヨルムが称賛するかの様にぺチぺチと巻き付けた尻尾の先で僕の腕を叩く。
ちょっと嬉しい。矢と魚を回収し、魚は軽く処理をした後に袋に入れた。
複合弓を使わないのは、あの弓の威力では川魚が射撃の衝撃でバラバラに砕ける可能性が高いから。
さて場所を変えよう。射撃は兎も角、回収の為に川を渡ったので魚達の警戒が増してる。もう少し上流に行こうかな。
勿論川魚は小さいので、こんなやり方で幾ら獲った所で大した量にはなりはしない。
本気で狩りの成果を求めるのなら、森に入って獣を追った方が遥かに量を稼げるだろう。
だから気楽な遊びなのだ。
昨日の晩の事だけど、トーゾーさんが魚を油で揚げた物を食べたいと、お酒を飲みながら少し残念そうにしていた。
それがどんな料理なのかを僕は知らなかったが、カリッサさんは食べた事があるので作れるらしい。
異国の料理も、交易のある港町でなら、作れる料理人が稀にいるそうだ。
カリッサさんが料理を作るなら、魚の確保は僕の役割だった。
僕もカリッサさんも、トーゾーさんには少し剣の技を教わっていたから、そのお礼には丁度良い。
中級冒険者への昇格の際にはお祝いの宴会もして貰ったので、うん、お礼は大事だ。
その際に、パラクスさんには以前手に入れたデススパイダーの糸で作った手袋も貰ってる。
頑丈なのに、着用しても指先の感覚が変わらないので、弓を扱う際には重宝するだろう。
同時に昇格した槍使いのクレンは、公都に戻った。
固定では無いが、時折組む仲間が、……多分この前の依頼で一緒だった人達だと思うけど、居るらしいので今後を相談するらしい。
上昇志向の強いクレンとは意見が合わず、昇格審査を受けるのもまだ早いと反対されてたとか言ってたが、大丈夫なんだろうか。
何やら公都の冒険者には偉くクレンを悪し様に言う人もいたし、色々複雑そうである。
まあ僕が口を出す事では無いのだけれど、折角中級冒険者にもなれたのだし、見直して貰えてると良いなと思う。
と、のんびり考え事をしていると魚が跳ねる気配がしたので、矢を放つ。
少しずつだが、コツが掴めて射撃の精度も増してる風に感じれて、楽しい。
魚を回収して処理し、再びもう少し上流へ。
……何だっけな。そう、クレンだ。
出会いはあまり良くなかったけど、話して見ると結構良い奴だと思う。
中級昇格祝いの宴会の時に、お祝いに来てくれたルリスさんやクーリさん、そしてマーレさん等の3人に囲まれて、顔を赤くしながらも嬉しそうだったのが印象に残る。
気質の近いルリスさんとは特に話が合う様だった。二人とも出合いの時に僕に喧嘩を売って来たのも同じだしね。
残念ながらクーリさんやマーレさんには、クレンよりもヨルムの方がモテていた。
ヨルム、そう、ヨルムだ。
最近、ヨルムとの繋がりが強くなったように感じる。
そしてそう感じた辺りから、僕の感覚が少し鋭くなった風にも思う。
ある時はヨルムの見た物、聞いた音、感じた気配を、僕も同じ様に見て、聞いて、感じた。
そしてまたある時は、今まで見えなかったものが見えたり感じ取れたのだ。
昇格審査の時のアースゴーレムの核や、今しがたの魚が跳ねる予兆の様な気配の様に。
問うても、ヨルムは嬉しそうにするだけではっきりとした答えはくれない。でも多分そうなのだと思う。
……そして、魚の跳ねる予兆を感じたので矢を放つ。
気付けば魚を包む為に用意した布切れが尽きていた。袋の中もかなりの量の魚で一杯だ。
のんびりと考え事をしながら魚を射るのは思った以上に楽しくて、ついつい獲り過ぎてしまった気がする。
まさかこんなに獲れるとは予想もしていなかったが、どうせカリッサさんが居るのだから残って無駄になる事は無いだろう。
ヨルムが、何だか少しつまみ食いをしたそうにしているけど、……生だよ?
帰ったらカリッサさんが揚げてくれるからまた後でね。
うん、ヨルムの感覚って少し不思議。感覚の共有が本当に出来ているのだとしても、味覚は共有しなくて良いかな。
魚は何だか良く判らないけど卵や小麦の粉に浸けられた後に油で揚げられ、外側のサクッとした不思議な食べ物に変化する。
凄く変な食べ物だったけど、とても美味しいと思う。
トーゾーさんも大喜びしてくれて、お酒を飲みながら食べていた。
パラクスさんもそんなトーゾーさんを見て嬉しそうに、お酒の相手をする。
そういえば、やはりあのアースゴーレムはパラクスさんの造ったゴーレムだったそうだ。
「難易度の高い方が合格した時嬉しいだろう? 今のユーディッドには普通の中級審査じゃ物足りなかっただろうしね」
なんて風に言っていた。此れも信頼なのだろうか。
パラクスさん曰く、僕は長めの下積みを真面目にこなした分の成果が、今花開いてるのだそうだ。
本当にそうならとても嬉しい。
二人の食べる様子に、宿の他の客等も魚の揚げ物を欲しがったので、結局皆に振る舞われる事になる。
その結果、カリッサさんが食べる分が殆ど残らず、彼女は少し不機嫌だ。
また暇を見つけたら魚を取りに行こうと思う。寒さが増すと魚の動きも悪くなるので、成るべく早く近い間に……。
ユーディッド
age13
color hair 茶色 eye 緑色
job 狩人/戦士 rank4(中級冒険者)
skill 片手剣4 盾3 格闘術3 弓6(↑) 野外活動5 隠密4(↑) 気配察知5(↑) 罠3 鍵知識2 調薬1
unknown 召喚術(ヨルム)
所持武装
鋼のブロードソード(高) 鋼のショートソード(高) 複合弓(高)
革の小盾(高) 中位魔獣の毛皮マント(高) 革の部分鎧(高) デススパイダーシルクの手袋(最高)
ヨルム
age? rank7(上位相当)
skill 縮小化 巨大化 硬化 再生 毒分泌 特殊感覚
unknown 契約(ユーディッド) 感覚共有(ユーディッド)
此れまでの経験と訓練により、ユーディッドの弓、隠密、気配察知が上昇しました。
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