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しおりを挟むトーゾーさんが何故僕にだけこの依頼を持って来たかは何となくわかる。
清き花が咲くのは、この辺りだと北ライサ山の上の方だ。トーゾーさんの実力なら単に登山をするだけなら一人でも問題は無い。
出る魔物はオーガやハーピー等の妖魔種が主で、トーゾーさんは人型の相手にめっぽう強いのだから。
でも清き花を見つける為には、僕の助けは必要だろう。
だから最低限僕の手助けは必要だった。
エルサローネさんの気持ちを考えれば、この件は知る人が少ないに越した事は無い。
そしてトーゾーさんも娼館からの依頼だと言えば、パラクスさんに溜息の一つも吐かれたりもする。
だから必要である僕にだけ、他には内緒とこの依頼を持って来たのだ。
けれどトーゾーさんは少し勘違いをしていた。
「僕とトーゾーさんなら花を取って来る事は出来ると思うけど、でもあの花に呪いを払う力はありません」
僕の言葉に、トーゾーさんの隣に座ったお姉さんの表情が悲しげに曇る。
……罪悪感が胸を刺す。
しかし此れは大事な話だ。最後まで全て、言わねばならない。
「近くに置けば呪いを遠ざけるのは事実です。でも其れは呪いに対する抵抗力を上げる、かかり難くするだけなんです」
進行性の呪いなら、進行を防いだりは出来るのだろう。
でも呪いを打ち破る力を与えてくれる訳じゃ無いのだ。
寧ろ呪いに掛かったままなら、その花を近くに置くのも苦痛を感じてしまう筈。呪いに侵されたその身が、穢れとして遠ざけられてしまうから。
「それにとても枯れ易いので、呪い避けのお守りにする為にも錬金術での加工が要ります」
此れがパラクスさんに話す必要がある理由である。
エルロー薬店でも加工はしてくれると思うけど、どうせ事情を知るならより深いトーゾーさんの関係者であるパラクスさんの方が良いだろう。
呪いを一度解いてしまえば、呪い避けのお守りは確実に役に立つ筈だ。
「あと、トーゾーさん忘れてるみたいだけど、この町の神官よりもカリッサさんの方が階位は上の神聖魔法の使い手だよ?」
僕の言葉に、トーゾーさんが『あっ』って感じの顔になる。
そう、カリッサさんは実は本当に凄い神官なのだ。
大食いだったり、大きな剣を怪力で振り回してる印象ばかりが強いけど、彼女が何より優れたるはその信仰心であった。
まあ内緒だから言えないけれど、神様に会ったって位だから、信仰心が強いのは寧ろ当然なのかも知れない。
それにカリッサさんなら寄進の額に関わらず、呪いの解除には本気になってくれるだろう。
トーゾーさんの隣に座るお姉さんと、僕の隣に座るお姉さんに、告げる。
「大丈夫です。僕は兎も角、トーゾーさんも、トーゾーさんの仲間も凄い人達ばかりですから。きっとなんとかなりますよ」
精一杯、トーゾーさんを持ち上げて置こう。
だって、うん。こんな風に人を助けようとする、下心はあっても、優しいトーゾーさんの事は大好きだ。
だから帰るよトーゾーさん。ほら立って、直ぐ帰るよ。名残惜しそうにしないの。ヨルムまで名残惜しそうにしない。
僕だって本当はあの耳とか尻尾とか触ってみたいんだから。
早く呪い解いてあげたいでしょ。二人には今日中に説明した方が良いからね。
冬が近いこの時期、北ライサ山は一足先に既に寒い。
けれども魔物達はそんな寒さを物ともせずに、とても元気である。
「散」
突っ込んで来るオーガ達に対し、トーゾーさんの指示に従い僕は後ろへと飛び退いた。
冷たい空気を裂く剣閃。勿論一緒に、トーゾーさんの刀は一匹のオーガの首も裂いている。
鎧袖一触、相手にならないって意味のテンショー皇国の諺は、まさにトーゾーさんの為にあるのだろう。
1つ1つの単語の意味は良く判らないけど、言葉の響きはとても格好良い。
トーゾーさんなら一人でも充分なのはわかっているけど、僕も弓を引き、そして放つ。
矢は狙い違わずトーゾーさんを殴ろうとしていたオーガの喉首を貫き、その動きを一瞬止めた。
そしてその一瞬の間に、トーゾーさんの刀はオーガの心臓に差し込まれていて、一瞬の停滞は永遠に変わる。
以前にトーゾーさんと話していた時、僕がオーガに対しては傷付けるのが精一杯だと言った所、彼は傷付けれるのは殺せるのと同じと言っていた。
成る程、確かにそうかも知れない。
あれほどスマートには行かなくても、急所を一つずつ丁寧に潰せば勝つ事も不可能じゃなさそうだ。
首、手首、肘の内側、太腿、心臓、腹部、其々に小さいが筋肉に隠されない急所があった。
トーゾーさんのあの戦い方は、僕に見せる為に敢えてああしているのだろう。
ドワーフ製の刀とトーゾーさんの腕なら、オーガを真っ二つにする事だって本当は容易い筈だから。
「ユー殿、次にオーガが単独で出れば、代わって貰って構わんか?」
ほら来た。僕が理解した事を察したのだろう。
試す機会を、トーゾーさんからのお願いと言う形で与えてくれる。
まあでもその前に、向こうから羽ばたく妖魔がやって来た。3体のハーピーだ。
血の匂いを嗅ぎつけて来たのだろうか。けれどもこの場所でのハーピーは、古ミズルガの時と違って良い的でしかない。
あの時は周囲に建造物が沢山あって射線が確保し難かったが、この広い山道でなら向こうが辿り着く前に全てが落とせた。
精密に狙う必要も特には無いのだ。あの大きな羽のどこかに当てれば、後は自然に落下する。
羽を傷付けられたハーピーは、例え落下後生きていたとしても、此方を襲いに来る事は出来ない。
勿論此方も素材の回収は不可能となるが、それはまあ仕方ないだろう。
オーガの魔石だけでもそれなりの収入にはなるのだから、贅沢は言うべきでは無かった。だって本来の目的は呪いを遠ざける清き花の採取なのだから。
結局、北ライサ山には僕とトーゾーさんだけで来ている。
別にパラクスさんとカリッサさんに依頼の話をしなかった訳じゃ無い。二人には町でしか出来ない事があるから、採取は僕等だけで来ているだけの事だ。
パラクスさんは花を保存出来る様に加工する為の霊薬を作っているし、カリッサさんは呪いを払う為の祭壇と聖域を娼館の中に設置している。
依頼の話をしたら、二人は件の貴族と、そしてこっそり動こうとしたトーゾーさんに怒ってた。
うん、どう考えてもトーゾーさんが悪いから仕方ない。
最初は清き花も少しだけの採取予定だったが、他の娼婦を呪う可能性もあるからと、パラクスさんに10本以上は確保してくるように指示される。
娼館中に多めに配置する事で、中で働く人達を皆守ろうと言うのがパラクスさんの意見だった。
それ以外にも、彼の貴族がどんな手段に出て来るかわからない為、呪いが解けても暫くの間は僕とカリッサさんで娼館の用心棒をやる事になるらしい。
その間にパラクスさんはトーゾーさんと動いて、此れ以上貴族からの干渉が無いように『何とかする』そうだ。
どう何とかするのかは怖くて聞けなかったけれど、パラクスさんが何とかするって言うなら、多分何とかなるのだろう。
カリッサさんは同じ女性として、その呪いには思う所があったらしく、手っ取り早く殴り込もうとか言い出したので止めるのに難儀した。
殴り込みは一生懸命説得して諦めて貰ったが、その分のエネルギーは呪いの解除にぶつけてくれるそうだ。
食神の権能の一つは食により身体を全き状態に近づける事。聖餅を食させて呪いを弱める等、その手の悪しき影響の排除は得意分野になるらしい。
……食神って思ったより凄いなぁ。呪いが解けたら、今度お礼とお祈りしてみよう。何か獲物を狩って捧げてみたら、喜んで貰えるだろうか?
でも、うん。娼館のお姉さんにも言ったけど、仲間達は皆、本当に頼りになる凄い人ばかりである。
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