少年と白蛇

らる鳥

文字の大きさ
59 / 113

59

しおりを挟む

 トーゾーさんが何故僕にだけこの依頼を持って来たかは何となくわかる。
 清き花が咲くのは、この辺りだと北ライサ山の上の方だ。トーゾーさんの実力なら単に登山をするだけなら一人でも問題は無い。
 出る魔物はオーガやハーピー等の妖魔種が主で、トーゾーさんは人型の相手にめっぽう強いのだから。
 でも清き花を見つける為には、僕の助けは必要だろう。
 だから最低限僕の手助けは必要だった。
 エルサローネさんの気持ちを考えれば、この件は知る人が少ないに越した事は無い。
 そしてトーゾーさんも娼館からの依頼だと言えば、パラクスさんに溜息の一つも吐かれたりもする。
 だから必要である僕にだけ、他には内緒とこの依頼を持って来たのだ。
 けれどトーゾーさんは少し勘違いをしていた。
「僕とトーゾーさんなら花を取って来る事は出来ると思うけど、でもあの花に呪いを払う力はありません」
 僕の言葉に、トーゾーさんの隣に座ったお姉さんの表情が悲しげに曇る。
 ……罪悪感が胸を刺す。
 しかし此れは大事な話だ。最後まで全て、言わねばならない。
「近くに置けば呪いを遠ざけるのは事実です。でも其れは呪いに対する抵抗力を上げる、かかり難くするだけなんです」
 進行性の呪いなら、進行を防いだりは出来るのだろう。
 でも呪いを打ち破る力を与えてくれる訳じゃ無いのだ。
 寧ろ呪いに掛かったままなら、その花を近くに置くのも苦痛を感じてしまう筈。呪いに侵されたその身が、穢れとして遠ざけられてしまうから。
「それにとても枯れ易いので、呪い避けのお守りにする為にも錬金術での加工が要ります」
 此れがパラクスさんに話す必要がある理由である。
 エルロー薬店でも加工はしてくれると思うけど、どうせ事情を知るならより深いトーゾーさんの関係者であるパラクスさんの方が良いだろう。
 呪いを一度解いてしまえば、呪い避けのお守りは確実に役に立つ筈だ。
「あと、トーゾーさん忘れてるみたいだけど、この町の神官よりもカリッサさんの方が階位は上の神聖魔法の使い手だよ?」
 僕の言葉に、トーゾーさんが『あっ』って感じの顔になる。
 そう、カリッサさんは実は本当に凄い神官なのだ。
 大食いだったり、大きな剣を怪力で振り回してる印象ばかりが強いけど、彼女が何より優れたるはその信仰心であった。
 まあ内緒だから言えないけれど、神様に会ったって位だから、信仰心が強いのは寧ろ当然なのかも知れない。
 それにカリッサさんなら寄進の額に関わらず、呪いの解除には本気になってくれるだろう。
 トーゾーさんの隣に座るお姉さんと、僕の隣に座るお姉さんに、告げる。
「大丈夫です。僕は兎も角、トーゾーさんも、トーゾーさんの仲間も凄い人達ばかりですから。きっとなんとかなりますよ」
 精一杯、トーゾーさんを持ち上げて置こう。
 だって、うん。こんな風に人を助けようとする、下心はあっても、優しいトーゾーさんの事は大好きだ。
 だから帰るよトーゾーさん。ほら立って、直ぐ帰るよ。名残惜しそうにしないの。ヨルムまで名残惜しそうにしない。
 僕だって本当はあの耳とか尻尾とか触ってみたいんだから。
 早く呪い解いてあげたいでしょ。二人には今日中に説明した方が良いからね。


 冬が近いこの時期、北ライサ山は一足先に既に寒い。
 けれども魔物達はそんな寒さを物ともせずに、とても元気である。
「散」
 突っ込んで来るオーガ達に対し、トーゾーさんの指示に従い僕は後ろへと飛び退いた。
 冷たい空気を裂く剣閃。勿論一緒に、トーゾーさんの刀は一匹のオーガの首も裂いている。
 鎧袖一触、相手にならないって意味のテンショー皇国の諺は、まさにトーゾーさんの為にあるのだろう。
 1つ1つの単語の意味は良く判らないけど、言葉の響きはとても格好良い。
 トーゾーさんなら一人でも充分なのはわかっているけど、僕も弓を引き、そして放つ。
 矢は狙い違わずトーゾーさんを殴ろうとしていたオーガの喉首を貫き、その動きを一瞬止めた。
 そしてその一瞬の間に、トーゾーさんの刀はオーガの心臓に差し込まれていて、一瞬の停滞は永遠に変わる。
 以前にトーゾーさんと話していた時、僕がオーガに対しては傷付けるのが精一杯だと言った所、彼は傷付けれるのは殺せるのと同じと言っていた。
 成る程、確かにそうかも知れない。
 あれほどスマートには行かなくても、急所を一つずつ丁寧に潰せば勝つ事も不可能じゃなさそうだ。
 首、手首、肘の内側、太腿、心臓、腹部、其々に小さいが筋肉に隠されない急所があった。
 トーゾーさんのあの戦い方は、僕に見せる為に敢えてああしているのだろう。
 ドワーフ製の刀とトーゾーさんの腕なら、オーガを真っ二つにする事だって本当は容易い筈だから。
「ユー殿、次にオーガが単独で出れば、代わって貰って構わんか?」
 ほら来た。僕が理解した事を察したのだろう。
 試す機会を、トーゾーさんからのお願いと言う形で与えてくれる。
 まあでもその前に、向こうから羽ばたく妖魔がやって来た。3体のハーピーだ。
 血の匂いを嗅ぎつけて来たのだろうか。けれどもこの場所でのハーピーは、古ミズルガの時と違って良い的でしかない。
 あの時は周囲に建造物が沢山あって射線が確保し難かったが、この広い山道でなら向こうが辿り着く前に全てが落とせた。
 精密に狙う必要も特には無いのだ。あの大きな羽のどこかに当てれば、後は自然に落下する。
 羽を傷付けられたハーピーは、例え落下後生きていたとしても、此方を襲いに来る事は出来ない。
 勿論此方も素材の回収は不可能となるが、それはまあ仕方ないだろう。
 オーガの魔石だけでもそれなりの収入にはなるのだから、贅沢は言うべきでは無かった。だって本来の目的は呪いを遠ざける清き花の採取なのだから。

 結局、北ライサ山には僕とトーゾーさんだけで来ている。
 別にパラクスさんとカリッサさんに依頼の話をしなかった訳じゃ無い。二人には町でしか出来ない事があるから、採取は僕等だけで来ているだけの事だ。
 パラクスさんは花を保存出来る様に加工する為の霊薬を作っているし、カリッサさんは呪いを払う為の祭壇と聖域を娼館の中に設置している。
 依頼の話をしたら、二人は件の貴族と、そしてこっそり動こうとしたトーゾーさんに怒ってた。
 うん、どう考えてもトーゾーさんが悪いから仕方ない。
 最初は清き花も少しだけの採取予定だったが、他の娼婦を呪う可能性もあるからと、パラクスさんに10本以上は確保してくるように指示される。
 娼館中に多めに配置する事で、中で働く人達を皆守ろうと言うのがパラクスさんの意見だった。
 それ以外にも、彼の貴族がどんな手段に出て来るかわからない為、呪いが解けても暫くの間は僕とカリッサさんで娼館の用心棒をやる事になるらしい。
 その間にパラクスさんはトーゾーさんと動いて、此れ以上貴族からの干渉が無いように『何とかする』そうだ。
 どう何とかするのかは怖くて聞けなかったけれど、パラクスさんが何とかするって言うなら、多分何とかなるのだろう。
 カリッサさんは同じ女性として、その呪いには思う所があったらしく、手っ取り早く殴り込もうとか言い出したので止めるのに難儀した。
 殴り込みは一生懸命説得して諦めて貰ったが、その分のエネルギーは呪いの解除にぶつけてくれるそうだ。
 食神の権能の一つは食により身体を全き状態に近づける事。聖餅を食させて呪いを弱める等、その手の悪しき影響の排除は得意分野になるらしい。
 ……食神って思ったより凄いなぁ。呪いが解けたら、今度お礼とお祈りしてみよう。何か獲物を狩って捧げてみたら、喜んで貰えるだろうか?
 でも、うん。娼館のお姉さんにも言ったけど、仲間達は皆、本当に頼りになる凄い人ばかりである。
しおりを挟む
感想 11

あなたにおすすめの小説

死んだはずの貴族、内政スキルでひっくり返す〜辺境村から始める復讐譚〜

のらねこ吟醸
ファンタジー
帝国の粛清で家族を失い、“死んだことにされた”名門貴族の青年は、 偽りの名を与えられ、最果ての辺境村へと送り込まれた。 水も農具も未来もない、限界集落で彼が手にしたのは―― 古代遺跡の力と、“俺にだけ見える内政スキル”。 村を立て直し、仲間と絆を築きながら、 やがて帝国の陰謀に迫り、家を滅ぼした仇と対峙する。 辺境から始まる、ちょっぴりほのぼの(?)な村興しと、 静かに進む策略と復讐の物語。

クラス最底辺の俺、ステータス成長で資産も身長も筋力も伸びて逆転無双

四郎
ファンタジー
クラスで最底辺――。 「笑いもの」として過ごしてきた佐久間陽斗の人生は、ただの屈辱の連続だった。 教室では見下され、存在するだけで嘲笑の対象。 友達もなく、未来への希望もない。 そんな彼が、ある日を境にすべてを変えていく。 突如として芽生えた“成長システム”。 努力を積み重ねるたびに、陽斗のステータスは確実に伸びていく。 筋力、耐久、知力、魅力――そして、普通ならあり得ない「資産」までも。 昨日まで最底辺だったはずの少年が、今日には同級生を超え、やがて街でさえ無視できない存在へと変貌していく。 「なんであいつが……?」 「昨日まで笑いものだったはずだろ!」 周囲の態度は一変し、軽蔑から驚愕へ、やがて羨望と畏怖へ。 陽斗は努力と成長で、己の居場所を切り拓き、誰も予想できなかった逆転劇を現実にしていく。 だが、これはただのサクセスストーリーではない。 嫉妬、裏切り、友情、そして恋愛――。 陽斗の成長は、同級生や教師たちの思惑をも巻き込み、やがて学校という小さな舞台を飛び越え、社会そのものに波紋を広げていく。 「笑われ続けた俺が、全てを変える番だ。」 かつて底辺だった少年が掴むのは、力か、富か、それとも――。 最底辺から始まる、資産も未来も手にする逆転無双ストーリー。 物語は、まだ始まったばかりだ。

貧乏奨学生の子爵令嬢は、特許で稼ぐ夢を見る 〜レイシアは、今日も我が道つき進む!~

みちのあかり
ファンタジー
同じゼミに通う王子から、ありえないプロポーズを受ける貧乏奨学生のレイシア。 何でこんなことに? レイシアは今までの生き方を振り返り始めた。 第一部(領地でスローライフ) 5歳の誕生日。お父様とお母様にお祝いされ、教会で祝福を受ける。教会で孤児と一緒に勉強をはじめるレイシアは、その才能が開花し非常に優秀に育っていく。お母様が里帰り出産。生まれてくる弟のために、料理やメイド仕事を覚えようと必死に頑張るレイシア。 お母様も戻り、家族で幸せな生活を送るレイシア。 しかし、未曽有の災害が起こり、領地は借金を負うことに。 貧乏でも明るく生きるレイシアの、ハートフルコメディ。 第二部(学園無双) 貧乏なため、奨学生として貴族が通う学園に入学したレイシア。 貴族としての進学は奨学生では無理? 平民に落ちても生きていけるコースを選ぶ。 だが、様々な思惑により貴族のコースも受けなければいけないレイシア。お金持ちの貴族の女子には嫌われ相手にされない。 そんなことは気にもせず、お金儲け、特許取得を目指すレイシア。 ところが、いきなり王子からプロポーズを受け・・・ 学園無双の痛快コメディ カクヨムで240万PV頂いています。

おばちゃんダイバーは浅い層で頑張ります

きむらきむこ
ファンタジー
ダンジョンができて十年。年金の足しにダンジョンに通ってます。田中優子61歳

魅了の対価

しがついつか
ファンタジー
家庭事情により給金の高い職場を求めて転職したリンリーは、縁あってブラウンロード伯爵家の使用人になった。 彼女は伯爵家の第二子アッシュ・ブラウンロードの侍女を任された。 ブラウンロード伯爵家では、なぜか一家のみならず屋敷で働く使用人達のすべてがアッシュのことを嫌悪していた。 アッシュと顔を合わせてすぐにリンリーも「あ、私コイツ嫌いだわ」と感じたのだが、上級使用人を目指す彼女は私情を挟まずに職務に専念することにした。 淡々と世話をしてくれるリンリーに、アッシュは次第に心を開いていった。

最難関ダンジョンをクリアした成功報酬は勇者パーティーの裏切りでした

新緑あらた
ファンタジー
最難関であるS級ダンジョン最深部の隠し部屋。金銀財宝を前に告げられた言葉は労いでも喜びでもなく、解雇通告だった。 「もうオマエはいらん」 勇者アレクサンダー、癒し手エリーゼ、赤魔道士フェルノに、自身の黒髪黒目を忌避しないことから期待していた俺は大きなショックを受ける。 ヤツらは俺の外見を受け入れていたわけじゃない。ただ仲間と思っていなかっただけ、眼中になかっただけなのだ。 転生者は曾祖父だけどチートは隔世遺伝した「俺」にも受け継がれています。 勇者達は大富豪スタートで貧民窟の住人がゴールです(笑)

ガチャから始まる錬金ライフ

盾乃あに
ファンタジー
河地夜人は日雇い労働者だったが、スキルボールを手に入れた翌日にクビになってしまう。 手に入れたスキルボールは『ガチャ』そこから『鑑定』『錬金術』と手に入れて、今までダンジョンの宝箱しか出なかったポーションなどを冒険者御用達の『プライド』に売り、億万長者になっていく。 他にもS級冒険者と出会い、自らもS級に上り詰める。 どんどん仲間も増え、自らはダンジョンには行かず錬金術で飯を食う。 自身の本当のジョブが召喚士だったので、召喚した相棒のテンとまったり、時には冒険し成長していく。

酒好きおじさんの異世界酒造スローライフ

天野 恵
ファンタジー
酒井健一(51歳)は大の酒好きで、酒類マスターの称号を持ち世界各国を飛び回っていたほどの実力だった。 ある日、深酒して帰宅途中に事故に遭い、気がついたら異世界に転生していた。転移した際に一つの“スキル”を授かった。 そのスキルというのは【酒聖(しゅせい)】という名のスキル。 よくわからないスキルのせいで見捨てられてしまう。 そんな時、修道院シスターのアリアと出会う。 こうして、2人は異世界で仲間と出会い、お酒作りや飲み歩きスローライフが始まる。

処理中です...