少年と白蛇

らる鳥

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 夕食後、僕がトーゾーさんに連れて来られた場所は、
「……トーゾーさん、此処歓楽街だよね。依頼の話じゃ無かったの?」
 そう、歓楽街にある一軒の娼館だった。
 何故か応接室のような場所に案内された僕は、豪華なソファーに腰を下ろしてる。
 トーゾーさんは向かいのソファーで若干寛いだ様子だ。
 そしてそれぞれの隣には、艶やかな布面積の小さな服、……ギリギリ服かな、を身に纏った綺麗なお姉さんが座っていた。
 お姉さんは飲み物を入れてくれるそうで、お酒を勧められたが、果汁を絞った物をお願いしておく。
 微笑み、果汁を絞る用意をしてくれるお姉さんの頭部には、猫の様な獣の耳が付いている。
 見れば、トーゾーさんの隣でお酒の用意をするお姉さんも同じく、種は違うが獣人だ。
 そういえば歓楽街に一軒だけ、亜人の女性ばかりが揃った娼館があるとは聞いた事があった。
 まさか自分が入る事になるとは思わなかったけど。
 まあ其れは別にどうでも良い。
 僕は他人を種族で判断する趣味はあまり無いし、そもそも信仰する森の女神様は獣人からも信仰者が多い神なのだ。
 無論風習が違う者同士が交わればトラブルが起きる物だし、其れに関しては多少思う所もあるのだけれど、少なくとも獣人に関しての隔意は無かった。
 でもそうじゃなく、遊びに来るなら遊びに来るって教えて欲しかっただけである。
 だって僕、依頼だって聞いたから武器も防具も旅装も、全部持って来ちゃったし。
 この場所でこの格好は、とても浮いてる気がして仕方ない。
 少し膨れてると、隣のお姉さんが笑顔でグラスに入った果汁を渡してくれたので、笑顔を返す。
 うん、悪いのはトーゾーさんで、綺麗なお姉さんに罪は無いのだ。
 胸元からヨルムも顔を出し、何か欲し気にしてるので、テーブルの上のおつまみは食べて良いのかを聞いてみる。
 ヨルムの出現に驚くお姉さんだったが、僕の質問には頷いてくれたので、細長い干し肉を摘まんで齧った。
 あ、美味しい。香辛料をふんだんに使った贅沢品だ。
 ヨルムにもあげようと口元に持って行けば、細長いので一飲みには出来なかったが、上を向いて何とか喉奥に流し込もうとしている。
 ……次にあげる時は千切ろう。
 その仕草が可笑しかったのか、ヨルムに驚いてたお姉さんにも笑顔が戻った。
 お姉さんの警戒心が消えた事が嬉しかったのだろうか、服から這い出て僕の腕に巻き付いたヨルムが、お姉さんに向かって首を上下させて挨拶をする。
 何だろう、ヨルムが妙にサービス精神旺盛だ。
 最近クーリさんやマーレさんにちやほやされて、女性に対しての愛想が良くなってきた気がする。
 そんな風に振る舞えば、喜んだ女性に何かを食べさせて貰えると知ったから。
 案の定、お姉さんが食べさせても良いかと聞いて来たので、半分に切るか丸めてあげて欲しいと頼んで置く。
 さて、お姉さんの相手はヨルムがするので、僕はトーゾーさんの相手をしよう。
 愛想の良いお姉さんに相手をして貰ってたから、何だかもう色々どうでも良くなって来たが、一応僕はトーゾーさんに怒っているのだ。
 僕の視線を受けたトーゾーさんは、ゴクリとグラスの酒を飲み干して口を開く。
「まあそう睨まんで欲しい。依頼の話ではあるのだよ。この娼館が依頼主でな……」
 隣のお姉さんにお酒を注いで貰い、その際に少し手を握って、トーゾーさんは言った。
 じゃあお酒を呑むのは如何なのかと突っ込みを入れたくなったけど、どう見てもトーゾーさんは遊ぶ気満々の雰囲気だけど、取り敢えず話は聞くとしよう。

 この娼館にはエルサローネと言う名前の、とても美しいエルフが居るらしい。
 エルサローネさんはその世界ではかなり有名な存在で、数十年、或いは百年近い時を異性を喜ばせる事に注いでおり、何か僕には良く判らないけど凄いそうだ。
 当然彼女の顧客と言う名のファンは多く、トーゾーさんもその一人なのだとか。
 しかし当然、何時までも美しく男性を喜ばせる技にも長けた彼女を、自分だけの物にしたいと思う人間は出て来る。それも強引な手段で。
 そして今回エルサローネさんを強引に自分の物にしようとしてるのは、三公国の一つ、シルバル公国の貴族だった。
 最初は彼も金銭を積む事で身請けをしようとしたが、エルサローネさんに断られてしまう。
 まあ何十年もこの仕事をしているのだから、金銭に困って居よう筈が無い。
 トーゾーさん曰く、多分エルサローネさんは本気でこの仕事が好きなのだろうとの事だった。
 けれどもその貴族は其処で諦めなかったのだ。
 自分の思い通りにならない出来事が許せない類の人種なのかも知れない。
 自国内であれば強権を振って召し上げようとしたのだろうが、このミステン公国はシルバル公国との関係があまり良くない国である。
 つまりシルバル公国の貴族とって立場は、この国の内部には影響を及ぼし難い。
 でもそれでも諦めずに彼の貴族が手を出した手段は、エルサローネさんに呪いをかける事だった。
 自分以外の客を少しでも取らせたくないとの思いから、人前に出られなくする類の呪いを呪術師にかけさせたのだ。
 ……多分この人前に出られなくする類の呪いとはエルサローネさんを気遣った言い方で、容姿を醜くする呪いなのだろう。
 そして呪いを解除して欲しければ自分の物になれと。
 そんな事をしても嫌われるだけだと思うのだけど、その貴族も妙な方向に思いを拗らせる人である。
 彼の貴族が雇った呪術師は腕が良かったらしく、この町の神官には呪いを解除できなかったらしい。
 公都に行けば呪いに打ち勝てる神官も居るそうだが、衆目に晒さないように移動させるには、公都は多少遠かった。
 ただでさえ心を痛めているエルサローネさんを思えば、出来るだけ人目に触れさせたくはないそうだ。
 娼館からは定期的に病払いの奇跡を施して貰う為の寄進を行っているのだが、それでも公都の大神官が態々呪い祓いに来てくれる程に深い結び付きは無い。
 その話を聞いてトーゾーさんが思い出したのが、呪いを遠ざけると言われる清き花の存在だったと言う。
 娼館から出される清き花の採取の依頼に、明日付き合って欲しいと言うのが、トーゾーさんが僕を此処に連れて来た理由だった。

 うん、成る程。大体は判ったし、心情的にも仕事を受けるのは吝かでない。
 いや、寧ろ受けて何とかしてあげたいと思う。だって隣に座るお姉さんも縋る様な目で見て来るし。
 それにそんなに綺麗と言われるエルフの女性なら、一体どれほど綺麗なのかも見てみたい気もする。
 でもそれでも、いや、だからこそ、僕はトーゾーさんに言わねばならなかった。
「うん、わかったよ。でもトーゾーさん、だからこそ言うけれど、この話はパラクスさんとカリッサさんにもするべきじゃない?」
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