61 / 113
61
しおりを挟む娼館での用心棒の仕事は、正直とても楽だった。
楽しいか楽しくないかで言えば、楽しい仕事だと思うのだけど、身体が鈍りそうなのが困る。
パラクスさん曰くおよそ3週間程は解決にかかるだろうとの事だったので、用心棒の仕事だけをしてたら確実に鈍るだろう。
なので僕とカリッサさんは1日交代で日中は外に出ると決めた。
勿論依頼遂行中なので別に他の依頼を受けるのではなく、冒険者ギルドの訓練所とかで自己鍛錬等に当てる為だ。
夜は僕もカリッサさんも揃って、娼館の中で手伝いをしている。
ボーイさんの格好をし、御客さんの案内をしたり、食事を運んだり、待機中のお姉さんとお喋りしたり、御菓子を貰って食べたりしていた。
此処のお菓子はとても美味しい。食事もそうだが、おおよその物が上質なのだ。
といってもあくまで本分は用心棒なので剣は腰に吊ってるから、偶にお客さんには驚かれてしまう。
僕は腰に吊ってるだけだが、カリッサさんなんて両手剣背負ってるしね。ボーイの恰好とのミスマッチで威圧感は逆に増してる。
此処のは割とお高いお店らしくてお客さんの層も品が良いけど、それでもカリッサさんは剣を背負ってなかったら少しはちょっかいを出されてたんじゃないだろうか。
カリッサさんって美人だし。
娼館のお姉さん達にも随分良くして貰っていた。
特に仲良くしてくれているのが、初日にこの娼館に来た時、僕の隣に座ったお姉さんで、名前はシャーネさん。
白い髪に赤い瞳、そして白猫の様な耳と尻尾で白が多めだ。性格もとても明るく、良く話しかけてくれるし、笑顔も見せてくれる。
この仕事を始めて3年程で、割と人気はある方なんだよと自慢してた。
彼女の笑顔を見てたら、人気があるのは当然だと思う。だって美人だし、話してたら元気くれる気がするしね。
一度試してみないかと誘われたが、丁重にお断りをする。
依頼中だからってのもあったけど、どう見ても子供扱いして揶揄って来てるし、なんかちょっとそれも悔しいから。
シャーネさん程じゃないけれど、あの日トーゾーさんの隣に居た人ともそれなりに仲が良い。
パロンさんって名前の、犬の獣人で、黒い髪に黒い瞳、黒い耳に黒いフサフサの尻尾と、黒尽くめのお姉さんだ。
仕事中以外は物静かなであまり喋らない人だけど、嬉しい時は尻尾が動くので判り易く、何だか可愛い人である。
あの尻尾はとても触りたい。
他には、何故かお客さんとも仲良くなった。
メルトロさんって名のお客さんなのだが、部屋に案内する際に何で帯剣してるのかを問われたのが切っ掛けだ。
依頼で用心棒として雇われてる冒険者だからと説明したのだが、あまり納得行かない様子でランクも問われる。
中級でランク4だと伝えたら大層な驚き様で、それからは顔を合わせる度に色々と話をする仲になった。
先日はご飯の相手も付き合ったしね。
多分冒険者目線での町の話を聞きたかったのだろうと思う。ご飯はメルトロさんの奢りだったので、話位は別に良いのだけれど。
メルトロさんはこの町の中央通りに商店を構える、結構大手の商人らしい。
とはいえ此処ではそんな肩書も関係ないし、僕にとっては気さくな助平のおじさんだ。
一度誰が可愛いかって話になったので、シャーネさんを推しておいた。
娼館と言う場所は、外の世界とは別世界だと思う。
お客さんは、別世界に夢を見に来ているのだろうからそれで良いが、用心棒として泊まり込む場合は、何というか少し落ち着かない。
だって泊まる部屋も一々豪華なんだもの。ああでも、気軽にお風呂が借りれるのはとても嬉しい贅沢だ。
ヨルムも凄く嬉しそうだし、こうやってお風呂に入るのが癖になったらどうしようって少し思う。
そんな風に少し楽しく穏やかにのんびりとした日々を過ごしていたけれど、僕が此処にいるのはあくまで用心棒の為で、念の為の備えだった。
そして万が一の念の為の備えって、割と備えのままには終わってくれなかったりする物である。
僕達が娼館の用心棒をする様になって2週間ほどたったある日の夕方、2人の男が娼館に押し込んで来たのだ。
とても運の悪い人達だった。
もう少し早い時間ならカリッサさんは出掛けていたのに。
まあもしカリッサさんが居なかったとしても、結果に大きく違いは出なかったかも知れないが。
エルサローネさんを出せと押し込んで来た2人は、運悪く入り口近くに居た店の女性、シャーネを人質に取ろうと手を伸ばすが、その顔に襲い掛かったのは僕の投げ付けたヨルムだ。
勿論人前なので大きくなったりは出来ないが、僕が蛇のヨルムを連れ歩いてる事自体は店の人達も知ってるから。
大口を開いて飛んで来たヨルムに、彼等が怯んだのは一瞬だった。でも一瞬あれば十分だ。
自分達を驚かしたヨルムに怒り、叩き切ろうとした男の首に、僕の剣が僅かに刺さる。
シャーネさんを人質に取ろうとした事、ヨルムを切ろうとした事、そして何より僕にヨルムを投げさせた事。
彼の罪を考えれば、僕が剣を止める理由は無かったが、でも此処で血を流す訳には行かなかった。
何故ならこの場所にはこの後少ししたらお客さん達がやって来るからだ。
正直パラクスさんが貴族は何とかすると言ってる以上、彼等の生死はどちらでも良いのだが、此処に来るお客さんは夢を見に来る。
そんな場所に血生臭い流血は似合わないと思う。
剣を突き付けた男は何かごちゃごちゃ言ってたけど、無視して残る片割れに告げる。
武器を捨てるか、この人を見捨てるかのどちらかを選べと。
選択を迫られた男は迷うような素振りを見せながらもチラチラと此方の隙を伺うが、その動きにカリッサさんが大剣を真上に掲げて見せると、蒼褪めた顔で武器を放り捨てた。
まああんなので殴られたら普通に死ぬしね。仕方ないと思う。
娼館を開ける時間が近かったので、大急ぎで拘束して個室へと運ぶ。
尋問の結果は雇われの傭兵だったので、町の守兵に突き出す事にした。暫く牢屋に入れて置いてくれるそうだ。
此れが私兵だったのなら、もっと利用方法を考えたのだけど、使い捨ての傭兵が相手では何かをするだけ無駄だろう。
その後はより警戒を密にし、いざって時は娼館内での流血も是との許可も得る。
けれど再度の襲撃が来る前に約束の3週間は無事に過ぎ、そしてパラクスさんとトーゾーさんの2人がライサの町に帰還した。
つまりパラクスさん曰く『何とかした』との事だそうだ。
後日口入れ屋、つまりはミステン公国盗賊ギルドライサ支部からパラクスさん宛に手紙が届いていたので、多分そちらの伝手で何かをしたのだろうとは思う。
でもパラクスさんがわざとぼかして言うのなら、聞くべきではないのだろうから、好奇心には蓋をする。
兎に角大事なのは、此れでこの娼館の人達が何時も通りの日々に戻れるって事なのだ。
そして僕等の用心棒生活もこれで終わり。
少しだけ寂しい気もするけれど、特にお菓子とお風呂が惜しいけど、それよりも冒険者らしく動きたかった。
動けなかった期間に色々すべき事が溜まっている。
さあ頑張るとしよう。
1
あなたにおすすめの小説
死んだはずの貴族、内政スキルでひっくり返す〜辺境村から始める復讐譚〜
のらねこ吟醸
ファンタジー
帝国の粛清で家族を失い、“死んだことにされた”名門貴族の青年は、
偽りの名を与えられ、最果ての辺境村へと送り込まれた。
水も農具も未来もない、限界集落で彼が手にしたのは――
古代遺跡の力と、“俺にだけ見える内政スキル”。
村を立て直し、仲間と絆を築きながら、
やがて帝国の陰謀に迫り、家を滅ぼした仇と対峙する。
辺境から始まる、ちょっぴりほのぼの(?)な村興しと、
静かに進む策略と復讐の物語。
魅了の対価
しがついつか
ファンタジー
家庭事情により給金の高い職場を求めて転職したリンリーは、縁あってブラウンロード伯爵家の使用人になった。
彼女は伯爵家の第二子アッシュ・ブラウンロードの侍女を任された。
ブラウンロード伯爵家では、なぜか一家のみならず屋敷で働く使用人達のすべてがアッシュのことを嫌悪していた。
アッシュと顔を合わせてすぐにリンリーも「あ、私コイツ嫌いだわ」と感じたのだが、上級使用人を目指す彼女は私情を挟まずに職務に専念することにした。
淡々と世話をしてくれるリンリーに、アッシュは次第に心を開いていった。
クラス最底辺の俺、ステータス成長で資産も身長も筋力も伸びて逆転無双
四郎
ファンタジー
クラスで最底辺――。
「笑いもの」として過ごしてきた佐久間陽斗の人生は、ただの屈辱の連続だった。
教室では見下され、存在するだけで嘲笑の対象。
友達もなく、未来への希望もない。
そんな彼が、ある日を境にすべてを変えていく。
突如として芽生えた“成長システム”。
努力を積み重ねるたびに、陽斗のステータスは確実に伸びていく。
筋力、耐久、知力、魅力――そして、普通ならあり得ない「資産」までも。
昨日まで最底辺だったはずの少年が、今日には同級生を超え、やがて街でさえ無視できない存在へと変貌していく。
「なんであいつが……?」
「昨日まで笑いものだったはずだろ!」
周囲の態度は一変し、軽蔑から驚愕へ、やがて羨望と畏怖へ。
陽斗は努力と成長で、己の居場所を切り拓き、誰も予想できなかった逆転劇を現実にしていく。
だが、これはただのサクセスストーリーではない。
嫉妬、裏切り、友情、そして恋愛――。
陽斗の成長は、同級生や教師たちの思惑をも巻き込み、やがて学校という小さな舞台を飛び越え、社会そのものに波紋を広げていく。
「笑われ続けた俺が、全てを変える番だ。」
かつて底辺だった少年が掴むのは、力か、富か、それとも――。
最底辺から始まる、資産も未来も手にする逆転無双ストーリー。
物語は、まだ始まったばかりだ。
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
靴屋の娘と三人のお兄様
こじまき
恋愛
靴屋の看板娘だったデイジーは、母親の再婚によってホークボロー伯爵令嬢になった。ホークボロー伯爵家の三兄弟、長男でいかにも堅物な軍人のアレン、次男でほとんど喋らない魔法使いのイーライ、三男でチャラい画家のカラバスはいずれ劣らぬキラッキラのイケメン揃い。平民出身のにわか伯爵令嬢とお兄様たちとのひとつ屋根の下生活。何も起こらないはずがない!?
※小説家になろうにも投稿しています。
最難関ダンジョンをクリアした成功報酬は勇者パーティーの裏切りでした
新緑あらた
ファンタジー
最難関であるS級ダンジョン最深部の隠し部屋。金銀財宝を前に告げられた言葉は労いでも喜びでもなく、解雇通告だった。
「もうオマエはいらん」
勇者アレクサンダー、癒し手エリーゼ、赤魔道士フェルノに、自身の黒髪黒目を忌避しないことから期待していた俺は大きなショックを受ける。
ヤツらは俺の外見を受け入れていたわけじゃない。ただ仲間と思っていなかっただけ、眼中になかっただけなのだ。
転生者は曾祖父だけどチートは隔世遺伝した「俺」にも受け継がれています。
勇者達は大富豪スタートで貧民窟の住人がゴールです(笑)
酒好きおじさんの異世界酒造スローライフ
天野 恵
ファンタジー
酒井健一(51歳)は大の酒好きで、酒類マスターの称号を持ち世界各国を飛び回っていたほどの実力だった。
ある日、深酒して帰宅途中に事故に遭い、気がついたら異世界に転生していた。転移した際に一つの“スキル”を授かった。
そのスキルというのは【酒聖(しゅせい)】という名のスキル。
よくわからないスキルのせいで見捨てられてしまう。
そんな時、修道院シスターのアリアと出会う。
こうして、2人は異世界で仲間と出会い、お酒作りや飲み歩きスローライフが始まる。
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる