少年と白蛇

らる鳥

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 とは言え今やる事は乗馬の練習だった。
 馬は可愛いが、乗るとなると話は変わる。滅茶苦茶高くて怖い。
 頭では理解してるのだ。
 彼等は賢い生き物で、ちゃんと接すれば普通に乗せてくれるし、此方を気遣ってもくれたりするのだと。
 けれど高い場所で、しかも自分の足が地に付かないって事に対して不安にならないのは難しい。
 僕が不安になれば馬も不安になるそうだ。
 馬が不安になれば挙動が乱れ、僕はより恐怖を感じる負のスパイラル。
 それでも僕が振り落とされなかったのは、選んだ馬がとても優しい子だったからに他ならなかった。
 フィオさんの御勧めの栗毛の馬は、本当に素直で良い子だったのだ。
 僕の不甲斐なさで不安にさせてるのに、この子は其れを我慢してくれている。其れが申し訳なくて仕方が無い。
 詫びの意図を込めて撫でると、馬はやはりさっきと同じ様に僕の手に顔を擦り付けて来た。
 この子は僕を慰めてくれてるのだろう。ヨルムに意思を伝達して貰わなくてもそれ位はわかる。

「そう言えば大事な事を言い忘れてたね。この子の名前はミネリア、3歳の雌馬だよ。人で言えば少女かな」
 僕が馬を無心で撫でていると、練習をじっと見守っていたフィオさんがやって来てひらりと栗毛の馬、ミネリアの背に跨った。
 この子の名前を知れた事は嬉しいけれど、でも最後の一言いらないよね。
 何だか余計に乗り難くなった気がする。
「ユーディッド君はバランス感覚は良いし、姿勢も良い。優れた射手だから当然かも知れないけど、乗馬にも向いてる筈だよ」
 そう言いながらフィオさんは、ミネリアの首を優しく叩いて何事かを囁く。
 するとミネリアは其れに応じる様に、ぶるると嘶いて首を縦に振った。 
「問題は君の警戒心の強さだね。野生の獣を思わせる。勿論それはユーディッド君の良い所だよ。少なくとも私は好きだ。懐かせてみたくなる」
 フィオさんはそんな風に言って笑う。何だか少し怖い。
 彼女が僕が思うよりもずっと優しい人だとわかってるのに、そんな風に感じてしまうのは、やはり言われたとおりに警戒心が強いのだろうか。
 ミネリアが首を下げ、フィオさんは少し後ろに詰める。
「だから今の君に必要なのは良い形を体験して、慣れる事だと私は思う。と言う訳で、弓を持って来て此処に乗りたまえ」
 え、此処って、フィオさんの前の事?


 ……今、僕はとても恥ずかしい思いをしている。
 騎士団の人達もかなり此方を注目していた。半分位は微笑まし気に、そしてもう半分は羨まし気に。
 代わって欲しい人が居るなら是非代わってあげたいと思う。
 幾ら練習の為とは言え、馬を操るフィオさんの前に乗るのは照れ臭いどころじゃない。
 しかも安定の為に少し抱え込まれてるのだ。
 羞恥に首まで熱くなってるのが自分でもわかる。
 けれど恥ずかしがってる余裕があるのもそこまでだった。
「ユーディッド君、集中して。そろそろ少し速めて行くよ」
 フィオさんの声に、ミネリアの歩様が並足から速足に変わったのだ。
 突き上げる様な縦揺れが襲い掛かって来た。
 一瞬焦りかけるが、僕の背に身をくっつけたフィオさんが縦揺れの反動を上手く殺してくれる。
「固まらない。私とミネリアに体を預けてリズムを掴むんだ。ゆっくりで良いからこの速度に慣れようか」
 リズム。成る程、確かにリズムはほぼ一定だ。
 多分フィオさんとミネリアが一定にしてくれてるんだろう。
 縦揺れも来るタイミングがわかってるなら、揺れへの対処も行える。
 フォローもフィオさんがしてくれるのだから、失敗した所で落馬もしない。
 少しずつ、感覚の理解が頭の理解に追い付いて来た。今の状況は絶対に安全だと。
 安全だとわかれば余裕も出て来て、余裕が出れば感覚が広がり、感覚が広がればミネリアの動きが手にとる様に伝わって来る。
「次は駈歩」
 フィオさんの言葉にミネリアの速度は増すけれど、動きの予兆は感じ取れていたので特に問題なく付いて行けた。
 揺れの質が前後の揺れに変わったのには少し驚いたけど、ミネリアの動きが作るリズムに合わせて流す。
 上手く乗れないで不安だったり申し訳なかったりしたのが嘘の様に、今は楽しい。
 流れる景色、身が風を切る感覚、どちらもとても新鮮だ。

「的用意!」
 急にフィオさんが大声を出す。
 その声に見物していた騎士団員達が慌てて動き、練兵場に弓の的が立てられた。
「さてじゃあ最後はあの的を射貫いてみようか。ふふ、君ならもう出来るだろう?」
 何でフィオさんは僕を過大評価するのだろう。
 それでも一応挑戦はしてみるかと思い、揺れの合間に抱えていた弓を構える。
 構えて初めて気づいたけれど、左手で弓を構えると右側に向かって横には射れない。
 下半身が前を向いたまま固定されるから、身体を捻って射れる範囲は限られてるのか。
 覚えておくと何かの役に立ちそうだ。
 けれどまあ、それは今はさて置いて、そろそろ的を射るとしよう。
 風は強いし揺れるけど、風の強さも揺れのリズムも一定である。
 この身を切る風と揺れが射撃にどんな影響を及ぼすのか、僕の身に経験の蓄積が無いのでイマイチ読み難いが、過去の似た状況を思い起こしてイメージを形作って行く。
 集中だ。
 風に、リズムに、ミネリアの動きに、意識を集中して行くとある事に気付いた。
 それはミネリアも僕が射撃を行おうとしているとわかって、合わせようとしてくれている事。
 この子は特に協力的なのだろうけど、背に乗せてくれる馬は信頼して身を任せてしまって大丈夫なのだと。
 自分の得意な弓を構えてみて、初めてその事がストンと胸に落ちる。
 よし、早く射よう。手早く済ませて、ミネリアを一杯撫でて野菜を食べさせてあげるのだ。
 そんな気持ちで行った一射は、まあ真ん中には当たらなかった。風と揺れの影響が僕の想像以上だったから。
 けれど的の隅っこには当たっていて、僕はそれが遥か遠くの的に普通に当てるよりもずっと嬉しい。
 多分きっと何度か繰り返せば真ん中に当てれるだろうし、今ならフィオさんの補助なしでもミネリアにはきっと乗れる。
 フィオさんに補助無しで良いって言ったら、一寸複雑そうな顔をされたけど、でももう大丈夫だから。


 パオム商会の商隊がやって来るまでの数週間、僕は行為に甘えてかなりの時間を乗馬の練習に割いた。
 結局騎射はミネリアの背の上でしか行えなかったが、他の馬達にも一応は乗れるようにはなったので、フィオさんからも合格を貰う。
 乗馬の練習をして考えが変わった事が2つある。
 1つは折角覚えた乗馬の技術は錆び付かせない様に、機会があれば逃さず練習しようと思った事。
 だって乗馬はとても楽しかったから。まあ冒険者の身だと乗馬の機会には中々巡り合えないだろうけれども。
 そして2つ目が、何時かもう一度絶対にトルネアス国に来ようと考えてる事だった。
 闘技会とかはさて置いて、僕はもう一度ミネリアに乗りたい。
 乗馬の機会自体は、数少なくとも他国でだって無い事は無い筈だけど、ミネリアにはトルネアス国でしか会えないのだ。
 だから僕は、何時かまたこの国を訪れるだろう。
 それがどれだけ先になるかはまだ分からないけれど、何時か必ず。



 ユーディッド
 age13
 color hair 茶色 eye 緑色
 job 狩人/戦士 rank6(中級冒険者)
 skill
 片手剣5 盾4 格闘術4 弓7 短剣3 逆手武器2
 野外活動5 隠密5 気配察知6 罠3 鍵知識3 調薬2 乗馬1
 unknown 召喚術(ヨルム) 集中(new)(射撃精度上昇、精密作業時の精度上昇)
 所持武装 
 鋼のブロードソード(高) 鋼のショートソード×2(高) 複合弓(高) 
 革の小盾(高) 中位魔獣の毛皮マント(高) 革の部分鎧(高) デススパイダーシルクの手袋(最高)


 ヨルム
 age? rank8(上位相当)
 skill 縮小化 巨大化 硬化 再生 毒分泌 特殊感覚 脱皮
 unknown 契約(ユーディッド) 感覚共有(ユーディッド) skill共有(硬化・ユーディッド)



 訓練によりユーディッドがskill乗馬を習得しました。
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