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しおりを挟む結局僕達は、やって来たパオム商会の商隊に合流してミステン公国へと帰還する事を決めた。
けれどそれは別に今にもアイアス公国が攻めて来そうな気配があるから、と言う訳では無い。
寧ろ状況はその真逆であり、だからこそ怪しいのだと商隊からの話を聞いたパラクスさんは言ってる。
3つの公国、ミステン、アイアス、シルバルの総合的な国力は大体似た様な物だ。
ただし兵数や兵士個々の実力は、確実にミステンが頭一つ飛び抜けていた。
その理由は単純で、国内に危険地域である魔の森を抱えているから。
国内の魔物に対抗する為、ミステン公国は同規模の小国に比べれば軍備を充実させている方らしい。
尤もその多くは危険地域であるミステン北部に配備されており、ライサやオリガの近辺では其れを実感する事は難しいそうだ。
冒険者に関しても公都には魔の森を活動場所としている上級冒険者が僅かながら存在する。
勿論北部の兵士達も上級冒険者も、魔の森に対する備えであるが故に気軽には動かせないだろう。
けれど確実にアイアスよりもミステンの方が、国内で保持する戦力は高い。
まあその分総人口は危険地域の近いミステンは3公国の中で最も少ないらしいけど。
それはさて置き、つまりアイアスは戦争を行う心算があるのなら、傭兵なり他国の援軍なりの戦力を掻き集める必要が絶対にあるのだ。
しかし今のアイアス公国にはその様子が全くないどころか、逆にミステン以外の国の国境も完全に封鎖して孤立した。
とてもおかしな話である。
普通なら考え難い事だけど、でも僕達は知っていた。あの国には邪神の影がある事を。
理から外れた神を崇める者達の影響を受けているなら、物事の道理、或いは損得勘定でも図り切れない目論見があってもおかしくは無い。
なので僕等はミステン公国への帰路についた。
アーチェットさんにはオリガの町で起きた事件や、戦争が起きる可能性が極めて高い事なども全て話したけれど、それでも彼女は今回のミステン行きを選んだ。
トルネアス国に残った場合、ミステン公国に行った場合、その他の国に行く場合の全ての可能性を考慮してアーチェットさんが自分で決めたのだから、僕等はその選択を歓迎する。
彼女的には見ず知らずの他国よりも、例え戦乱に巻き込まれようと僕等の居る国が良いらしい。
そう言ってくれるアーチェットさんの気持ちはとても嬉しいので、ミステンまでの旅の合間はみっちり剣の練習に付き合おうと思う。
あとヨルムも冬の寒さも大分和らいで来たからか、最近少しずつ元気になって来た。
朝はやっぱり動きが鈍いけど、昼間は陽光に当たる為に外に出てる時も割とある。
まだアーチェットさんにはヨルムが幻獣である事は話てないけれど、只の蛇にしては賢過ぎるとは多分思われている筈だ。
トルネアス国で関わった人は然程多くは無かったけど、ギルドの受付セレネラさん、諜報員のワイダリさん、弓姫のフィオさん、軍馬のミネリア等は別れを惜しんだり健闘を祈ったりしてくれた。
特にフィオさんからは、見送りが出来ないからと餞別に新しい弓を譲り受けてる。
あの人程に僕の弓の腕を評価して、好いてくれた人は初めてだ。
この国に来て置いて良かったと本当に思う。
また遊びに来るためにも、ミステン公国での戦争を無事に乗り切らねばならない。
そんな風にトルネアス国で過ごした一ヶ月を思い出しながら、馬車に揺られてのんびりとしていた時だった。
「少年君、少年君! 見て見て、飛竜!」
アーチェットさんの声に空を見ると、確かに遥か向こうの上空を行く3つの影。
飛竜はワイバーンと呼ばれる亜竜の一種で、魔物の中でもかなり手強い部類の存在だ。
もしあの3頭が僕等を獲物と見定めたなら、この商隊は馬車を捨てて近くの森の中に駆け込むしかないだろう。
トーゾーさんにパラクスさん、カリッサさんが居ても3頭ものワイバーンが空から来れば多分どうにもならない。
でも僕等は特に慌てずにのんびりとワイバーンを眺めていた。
奴等は大空を行く存在で、あんな高い場所から小さな商隊を襲う為に態々下りて来る事など殆どないからである。
町や村等の集落規模になると餌場と認識される可能性があるので、ワイバーンの巣が近くに出来てしまえば移住か、或いは軍や冒険者に対処を頼む必要はあるけれど。
ワイバーンは空からやって来ればどうにもし難い恐ろしい相手だけれど、巣に居る間に、つまり地上で強襲すれば、亜竜の中では比較的討伐が可能な部類だ。
大国の中には魔物を調教する秘術を使う人材を抱えて、ワイバーンに騎乗する騎士隊を極少数だが組織してる国もあるらしい。
まあそう言った例外はあるにせよ、基本的に亜竜は天災の様な物である。
ぶつかれば命を失うが、頭を低くして隠れて居れば態々向こうから小さな人間を踏み潰しに来る事も滅多には無い、縁遠い脅威だろう。
けれどそんな珍しい物を見た位の気持ちで、万一此方に来た場合はさっさと逃げれる様に、飛竜を眺めて居た僕達とは裏腹に、ヨルムは随分と真剣な様子で彼方を見て居た。
「ヨルム、どうしたの?」
尋ねる僕に、頭を此方に向けたヨルムの瞳が、僕の瞳を覗き込む。
ヨルムは短く『竜、来る』と伝え、視線を空に戻す。
竜が来る?
あの飛竜達が此方にやって来ると言う事だろうか。
僕が疑問に思いながらも一応弓に手を伸ばした時、不意にワイバーン達が飛ぶ更に上空、雲の中から何か巨大な物が下りて来た。
飛竜なんて問題じゃない位大きくて、この距離からでもその雄大さがはっきりとわかる、本物の竜、ドラゴンが。
おとぎ話にしか聞いた事の無い強大な存在の発する威圧感に、馬車を引く馬達が恐れ慄きパニックに陥ってるが、けれど其れは人間達も同じ事。
馬を宥めに行く事すら思い付かずに、遥か向こうの空の上での出来事を、呆けた様に見つめ続ける。
ぐしゃりと、一頭のワイバーンを上から降りて来たドラゴンの爪が握り潰す。
そして竜の口がギパッと開かれ、次の瞬間、空を雷が薙いだ。
一瞬の出来事だった。3頭のワイバーンは、潰され肉塊に、或いは痕跡すら残さずに消滅してしまう。
雷のブレスを吐くと言う事は、あの竜はストームドラゴンかサンダードラゴンなのだろうか。どちらにせよ雲の中に棲み、大空を支配すると言う伝説の存在である。
ドラゴンは大きく羽ばたき、再び雲の中へと戻って行く。
何事も無かったかのように空には平穏が戻り、我に返った人達が慌てて馬を宥めに走った。
でも僕は確かに見たのだ。
あのドラゴンが雲の中に戻って行く直前に、じっと此方を見ていたのを。
「……もしかして、お知り合い?」
まだ僕の中からは、竜を見た興奮が去ってない。
だからだろうか、随分と間の抜けた質問の仕方になってしまったけど、けれどヨルムは頭を上下に振った。
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