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しおりを挟む馬を落ち着け、全てが終わった後になっても、皆からはまだ何処か茫然としている。
あの何事にも動じないトーゾーさんでさえもがそうなのだ。
多分ドラゴン何て、一生に一度も目にせず人生を終える人が大半だと思う。
それほどの物を目撃してしまったのだからしょうが無い。
しょうがないのだけど、このまま此処で茫然としていても何にもならないのも確かだった。
暫く後には、さっきのアレは僕等には関与の出来ない世界の出来事だったのだと割り切って、商隊は再び動き出す。
さっき見た事をそのまま誰かに話しても、きっと信じやしないだろう。
茫然としてる最中に魔物に襲われて居たら、もしかしたら荷馬車に被害が出たかも知れないが、幸いと言うべきかどうかはわからないけど、さっきの竜の威圧感に魔物どころか獣や鳥さえも息を潜めて気配を殺してる。
恐らく暫くの間はこの周囲は静かなままの筈。
僕は気分を変える為に荷物を漁り、盗賊技術を訓練する為の細工箱を取り出した。
5つ預かった細工箱の内、4つは既に解除済みだ。
けれど5つ目に関しては、まだ全く解除の見込みが立ってない。
暇を見つけてちょこちょこと弄ってはいるのだが、流石に最後の1つだけあって中の機構が複雑怪奇過ぎる。
ミステン公国に戻ったならば、この細工箱は盗賊ギルドに返却する予定になっていた。
別に旅の間の訓練用なので、解除出来なかったからどうだって事は無い。
ライサの町につけば細工箱相手じゃ無く、直接盗賊ギルドから技術を教わる事も出来るのだし。
でもミステン公国盗賊ギルドのライサ支部長、クルスト・オルタス。あの男に解除出来ていない箱を返却するのは、正直少し不愉快である。
『なんだい、ユーの字。最後の一個は無理だったか。いやいや、仕方ねえよな。割と難易度高いし、お前だって他にやる事あっただろうし、まあ出来るとは思ってたんだがなぁ』
みたいな事をニヤニヤしながら言われると思う。
なので別に最優先と言う訳では決してないけれど、出来ればミステンに辿り着く前には解除をしてしまいたい。
それに馬車の停車時は兎も角、移動中に出来る作業等は他にあまり無いのだ。
カチャカチャと細工箱を弄りながら、思考を巡らす。
罠と鍵へ対処するのに必要なのは、知識と指先の感覚、そして悪意だろう。
魔術的な罠は兎も角として、仕掛けが作動して発動するタイプの罠は機構がある程度決まっている。
例えば毒針を射出する罠があるならば、射出口や発射機構、そして罠の作動条件が必ず存在するのだ。
開こうとする扉や箱が自らの意思を持って毒針を吹く訳では決してない。
だから作動条件さえ満たさなければ、或いは射出口を塞いでやれば、もっと言えば飛び出す毒針に当たらない位置から仕掛けを作動させてやれば、その罠は何ら脅威とはならない筈である。
無論罠の製作者は、そんな簡単に無効化されない様に悪意を持って罠を仕掛けるだろう。
鍵穴を覗いて内部の機構を確認しようとした際に、小さな毒針を鍵穴から飛ばす、なんてのは良くある手らしい。
僕も罠猟の時は狙う獲物の習性の裏をかく様に罠を仕掛ける。
どんな罠が仕掛けられているのかを判断するには、数多くの仕掛けの種類を知り、更に罠の製作者の悪意を理解する必要があるのだ。
正直、その時の僕が些か集中力を欠いていたことは否めない。
ドラゴンを目の当たりにした衝撃も抜けきらぬままに、気分を変えようと手にとった作業だった。
そもそも僕はイマイチこの鍵開けや罠解除に集中すると言うのが苦手でもある。
射撃なら、弓を構えれば、矢を手にとれば、或いは射ると決めた瞬間から集中出来るだろう。
何処まで入り込むかは必要に応じてその時々だが、少なくとも集中し切れないなんて事は絶対に無い。
獲物と僕、そしてそれをイメージで結ぶ線にだけ集中すれば良いのだ。直射だろうが曲射だろうが其れは変わらず、風や木々等の障害は線をイメージする時に予め組み込んでしまうし。
しかしこの鍵開けや罠解除と言う行為は、何に対して集中をして良いのか未だに今一掴めて居なかった。
指先の感覚、視覚で感じる違和感、機構構成の把握、内部構造のイメージ、作成者の悪意の想像、すべき事が多過ぎる。
時々、深く集中出来る事はあるのだ。4つ目の箱を開けれた時がそうだ。
指で触れれば内部構造の予想が出来たし、仕掛けられた罠を気配として感じ、罠も鍵も導かれる様に外せた。
でもどうやってそんな風に集中できたのか、再びその状態になるにはどうしたら良いのかはさっぱりわからない。
ごく単純に経験不足だからと言うのもあるとは思う。もっと沢山の罠や鍵を相手にして行けば、何時かは自然に最適な形での集中を行えるようにはきっとなる。
けれど何時かでは、この5つ目の細工箱を開けるには遅いのだ。
中々進展しない解除作業に、僕は焦りはしてないにしても、多少なりとも苛立ちはしていたと思う。
だからだろうか、ふと指先に引っかかった微かな感触に、無警戒なまま仕掛けを押し込んでしまったのは。
小さな小さな、ほんの僅かなカチリと言う音と共に、僕の指に向かって細工箱から細い針が飛び出して来た。
「うわっち?!」
思わず変な声が口から洩れて箱を手から取り落とす。
僕の奇声と荷台の床を転がった細工箱に、仲間達の視線が此方を向く。
「どうしたユー君。怪我をしたのか? 見せなさい」
立ち上がって此方にやって来るカリッサさんに、僕は思わず手を背に回して隠してしまう。
僕が奇声を発したのは細工箱から針が飛び出して来たから驚いたのも勿論あるが、それよりも更に驚いた事がもう1つあるのだ。
カリッサさんは僕の様子に不審げに首を傾げたが、腕を掴んで引っ張り出し、其れを確認して眉を顰めた。
彼女の手に掴まれた僕の手には、白い鱗がびっしりと生えている。
細工箱から飛び出た針が手に突き刺さると思った瞬間に、この鱗が突然湧いて出て針を弾いたのだ。
こんな事が出来るのは一人……、いや、一匹しかいない。考えるまでも無くヨルムの仕業だろうと思う。
僕とカリッサさんの視線が胸元から顔を出したヨルムに集まった。ヨルムは、何だか得意気な顔をしている。
そんな顔しても僕以外には多分伝わらないのに。
「ん、大した事は無さそうだね。ユー君、一応癒しの術はかけたから、次からは気を付けて」
カリッサさんは僕が誤魔化したかった理由を察した様で、治癒を施した事にしてくれた。
仲間達には、特にヨルムの事を知らないアーチェットさんには、カリッサさんの背中越しで僕の手は見えてなかっただろう。
騒ぎにしたくは無かったのでとても有り難い。
床に落ちた細工箱を広い、座り直して確認すると、その時には既に手の鱗は消えていた。
褒めろと言わんばかりに僕の顔を覗き込んで来るヨルムを、指で突っつく。
とても凄いとは思うのだけど、でも驚いたのだ。
此れもヨルムの目を借りるみたいに、鱗を借りたって事なのだろうか。
戦う際のヨルムの鱗は凄く硬くて、それこそ鉄の鎧よりもずっと頼りになるだろう。でも安易に人前で使うと変な目立ち方をしそうで怖い。
いざって時だけ出せる様に、少し練習する必要があった。
喉を撫でてると、機嫌を良くしたヨルムが続きを促すように細工箱に向かってシュルシュルと舌を鳴らす。
色々と驚かされたからそんな気分は吹き飛んでいたのだけど、ヨルムからのリクエストであるならばと僕は箱を開く作業を再開する。
一度気分をリセットしたからだろうか、不思議と作業に対して集中して取り組めた。
やがて程無く細工箱は口を開く。けれど僕の心を占めるのは、達成感よりも腹立たしさだ。
何故なら中の構造を確認してわかったのだけど、この細工箱は一度先程の罠を発動しないとどうやっても開けない仕組みになっていたから。
性格が悪いにも程があると思う。慎重な、そこそこの腕の持ち主には開く事が出来ないのだ。
仕組みと罠の種類を見抜いて、わざと安全な形で罠を作動させる凄腕の盗賊か、或いは中途半端な腕でうっかり罠を作動させてしまった愚か者にしか開けない細工箱。
そして僕は後者に分類されてしまった。
最初から正解は無かったのだろう。最後の細工箱を開けても、開けなくても、どちらにせよクルストにはニヤニヤ笑いを浮かべられるのだと思うと、本当に腹が立つ。
僕は荷物袋に用済みとなった細工箱を放り込むと、大きく欠伸を1つする。
流石に眠る訳には行かないけれど、気持ちは切り替えた方が健全だ。ミステンまではまだまだ遠い。
其処で僕はふとある事を思い出す。
冬の終わり、春の手前、ああそうだ。確か今日は、僕の14歳の誕生日。
ユーディッド
age14(↑)
color hair 茶色 eye 緑色
job 狩人/戦士 rank6(中級冒険者)
skill
片手剣5 盾4 格闘術4 弓7 短剣3 逆手武器2
野外活動5 隠密5 気配察知6 罠4(↑) 鍵知識3 調薬2 乗馬1
unknown 召喚術(ヨルム) 集中(射撃精度上昇、精密作業時の精度上昇)
所持武装
鋼のブロードソード(高) 鋼のショートソード×2(高) ドワーフ製の複合弓(最高)
革の小盾(高) 中位魔獣の毛皮マント(高) 革の部分鎧(高) デススパイダーシルクの手袋(最高)
ヨルム
age? rank8(上位相当)
skill 縮小化 巨大化 硬化 再生 毒分泌 特殊感覚 脱皮
unknown 契約(ユーディッド) 感覚共有(ユーディッド) skill共有(硬化・ユーディッド)
此れまでの訓練と経験によりユーディッドの罠が上昇しました。
ユーディッドの装備が更新されました。
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