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しおりを挟む「おーい、ユーディッド」
防壁の守備を終え、割り当てられた家に帰ろうとした僕は、名を呼ぶ声に足を止めた。
オリガの住人の多くが避難した後の空き家が、町を守りに来た兵士や冒険者達に貸し出されている。
その代わりといっては何だが、オリガの町から避難する民には国より避難手当が支給されたらしい。
さて置き、徹夜で防壁の守備をして居た為に少し眠い僕を呼び止めたのは見知った顔。
「あー、クレンだ。久しぶり。どうかした?」
クレン・ライシルト。
公都を活動拠点にしている冒険者で、中級への昇格試験を一緒に受けた、……僕個人としては友人と思ってる相手だ。
向こうがどう思ってるかは良く知らない。ライバルみたいな事は言われたが、ライバルは友人のカテゴリーに入れても大丈夫だろうか?
その手に携えた槍の穂先は、鋼とは違った輝きを放ってる。
表情を見ても眠気がある風には見えないし、成る程、恐らく彼は突撃隊に属しているのだろう。
クレンの実力を思えば、その配置にも納得が行く。
「いや守備隊に若いのに凄腕の射手が居るって噂を聞いたから、きっとユーディッドの事だろうと思ってさ」
つまり噂を頼りにわざわざ僕を探してくれたのか。
少し照れくさいが、その倍ほどに嬉しい。
でもクレンが一体どんな噂を聞いたのかは、あまり聞きたくなかった。
「凄腕は大袈裟だけど、クレンに会えたのは嬉しいかな。いい加減な噂も少しは役に立つんだね。そっちは突撃隊?」
問えば、誇らしげにクレンは手に持った槍を翳す。
祝福された銀の武器は其れなりに値が張るので、少し羨ましい気がしなくもない。
銀の武器が欲しければ突撃隊に所属すれば良いだけの話ではあるけれど、アンデッドとの斬り合いは初戦の日に散々やったのでもうお腹一杯なのだ。
未だに損耗したマントや短剣の補充も出来てないし……。
折角だから、次に買う短剣は対アンデッド用の銀の短剣にしても良い。
以前にトルネアスでの闘技会の際に賭けで儲けたお金があるので、装備の新調にも特に問題は無いのである。
積もる話は沢山あるが、まあそれはさて置き、僕は一つクレンにどうしても言わなきゃならない事があった。
「ねぇクレン。取り敢えず、公衆浴場にでも行かない? ……結構匂うよ」
突撃隊はその名の通りにアンデッドの群れの中に突撃して行く部隊なので、飛び散る肉片やら腐汁等をまともに浴びるので匂いが移るのだ。
僕が突撃隊への所属を嫌がったもう一つの理由でもある。
噎せ返るほどの熱と湿気に、滝の様に汗が流れ出る。
充分に体が温まったら、この汗と共に汚れや垢を布でこそぎ落とす。
そして最後に水を被って汗を流すのがミステン公国の一般的な公衆浴場だ。
貴族の屋敷や、前に護衛の仕事で泊まり込んだ娼館等には湯に浸かる種類の浴場があったけど、そちらは一般人には中々手の届かない贅沢である。
蜷局を巻いたヨルムを頭にのせて、僕はクレンと浴場の熱気を楽しむ。
周囲の人は頭のヨルムを見ると一瞬ぎょっとした顔をするけれど、特に何かを言われたりはしない。
「へえ、じゃあユーディッドのチームがアンデッドナイトの討伐をしたのか」
クレンは驚いたように、けれども納得したように頷いた。
彼もうちのチーム、トーゾーさんやカリッサさん、パラクスさんの実力は知っているので、素直に納得したのだろう。
でもちょっと声が大きい。
周囲の注意が、クレンの言葉で此方を向いたのを感じる。
兵士であろうと冒険者であろうと、生き残らんとするなら状況把握、情報収集は大切だ。
しかしだからこそ誤解の生まれそうな認識は正して置く必要があった。
「うちだけじゃなくて、ガジルさん、多分突撃隊に居ると思うけど、斧使いの戦士。あの人のチームも一緒にね。後、僕は囮をやったから直接アンデッドナイトとの対峙はしてないよ」
もし仮に、僕が自分達でアンデッドナイトを倒したと吹聴してるなんて噂が立てば、其れを聞いたガジルさんのチームメンバーは勿論良い気はしないだろう。
些細な事だが、防戦が続く状況では耐える人達の心には強い負荷がかかってる。
何が切っ掛けで揉め事が起きるかはわからないので、言動には注意が必要なのだ。
「あぁ、居る居る。さっきの突撃でガストを斧で真っ二つにしてたよ。あの人もライサの冒険者なのか」
頷くクレンの言葉に、けれど驚いたのが僕だった。
ガジルさんの事じゃ無く、ガストまで出現しているって事実にだけど。
ガストとは、食屍鬼の名を持つグールの上位種になるアンデッドだ。
グールはゾンビよりも動きが素早く、尚且つ爪や歯での攻撃に生物を麻痺させる効果があるので、下位のアンデッドとしては厄介な存在になる。
ただその別名の通りに屍肉を喰らう習性からか、ゾンビの多い今回の侵攻軍には当初は混じって居なかった。
にも拘わらず先程の戦闘ではその上位種であるガストが出たと言うのなら、敵軍の編成に変化が出始めているって事だ。
後でパラクスさんに伝えて置こう。僕は心の中でメモを取る。
チームの仲間の面々とは、僕は配置を異にしていた。
トーゾーさんは当然突撃隊で、カリッサさんは突撃隊と救護班の兼任、パラクスさんは突撃隊支援や本部勤めとバラバラだ。
けれども夕食、……僕は今から寝て、起きてからの最初のご飯だから朝食だろうか?
まあ呼び方は何でも良いけど、一日一食だけは全員で集まって取っていた。
何故なら配給食を食べるよりも、カリッサさんに調理して貰って食べる方がずっと美味しいからである。
戦場となってる街での食材調達は其れなりに困難ではあるけれど、蛇の道は蛇だ。
僕だって其れなりの心得はあるのだし、美味しい食事の為なら多少の骨折り位は何でも無い。
そして当然、チームの仲間達が集まれば情報交換はちゃんと行ってる。
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