少年と白蛇

らる鳥

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 ズンッと大きな地響きと共に、アイアスの公都を囲む防壁がヨルムの巨体に押し潰された。
 巨大化したヨルムは、前回大きくなった時よりも更にサイズを増している。
 頭部が物見の塔を打ち壊し、尻尾が石畳を叩き割り、ヨルムの蛇身はアイアス公都を破壊して行く。
 行った事は単純だ。
 僕がヨルムを矢にのせて放ち、ヨルムは公都の上空で巨大化しただけ。
 後はヨルムの巨体が地に引かれて落下すれば、巨大な質量が公都の防壁を破壊したと言う訳だ。
 巨大化したヨルムの頑健さを持ってすれば、あの程度の高さからの落下は大した痛みも無い様で、落下後も元気に暴れて公都を破壊している。
 とても単純な手だったけど、思った以上に効果は大きい。僕とヨルムだからこそ行える破壊工作。
 しかもこの手段が使えるのは一発限りでは無いのだ。
 陽光に耐えれるアンデッドが、大慌てで迎撃に飛び出して来る。
 無論あんな低位のアンデッド如きにヨルムの相手が務まろう筈は無いのだが、一々律儀に相手をする意味は無い。
 死者の相手は軍に任せれば良いのだ。防壁さえ徹底的に破壊しておけば、人類側の連合軍の公都攻めも容易な物になるだろうし。
「ヨルム、帰還」
 アンデッドが接触する直前、ヨルムが僕の意思に応えて姿を消す。
 もっと正確に言うならば、ヨルムはあの場から、直接僕の体内に帰還したのだ。
 僕とヨルムの間にある契約は召喚契約である。常に一緒に居るから使う機会はあまり無いが、離れた場所から呼び戻す位は実は容易い。
 ヨルムが小さい状態で僕の身体から這い出て再び矢に巻き付いたら、弓を引き絞って第二射を放つ。
 そして矢が空を舞えば、次の瞬間に再び巨大な姿を空に登場させたヨルムが、先程とは別の場所の防壁を押し潰した。
 さぁ、ユルクト・マイアスは僕の存在に気付く前に、後何射行えるだろうか?


 五射目を放ち、ヨルムが防壁を押し潰して破壊した時、一瞬だが僕の背筋を怖気が走る。
 さっきの五射目で、射撃地点を確認されたのだろう。
 怖気を感じたのは余りに一瞬で、気配を感じたってよりは単純に嫌な予感がしただけと言うのが正しい。
 でも僕は自分の勘を信じ、すぐさまヨルムを呼び戻して撤退に移った。
 此処からが僕にとっての勝負処だ。
 防壁の破壊も充分だろう。
 あれだけ派手に壊しておけば、単純な労働は出来ても知恵を持たないアンデッドには直せない。
 周辺諸国連合による公都攻めまで、精々人を意思無き使い捨ての道具に変えてしまった事を悔めば良いのだ。

 地を蹴り、走る。
 恐らくだが、ユルクト・マイアスは前回と違って絶対に逃げる僕を諦めないだろう。
 あの時僕はヨルムを隠したが、今回は見せた。
 明確に脅威となる形で、その存在を知らしめたのだ。
 仮に此処で僕を逃がせば、次の被害が防壁だけでは済まないのは確実である。
 具体的には、もし今回逃げれたならば次は壊れた防壁から入り込んで、射程内に捉えた公都の城に対してヨルムに同じ事をして貰う心算だった。
 故に僕を逃がせば、ユルクト・マイアスは公都を離れる事が出来なくなるだろう。
 あんな常識外の破壊工作に対応出来そうなのが彼しかいない以上、そうせざる得ない筈だ。
 ユルクト・マイアスは確かに単独で戦況に影響を与えかねない驚異的な人物だが、それでも一人で行える事の数には絶対に限りがあった。
 どんなに力を持っていようと、人は一人じゃ不完全な生き物だと宿のおじさんが言っていた。
 昔はその言葉の意味は解らなかったけど、今じゃ僕もそう思う。
 勿論邪教団が彼以上の人材を隠し持っているのなら、話の前提は大分変わってしまうけれども。
 まあ其れは今更考えても仕方のない話である。
 
 不意に、今は僕に巻き付いて居るヨルムが警告の声を発した。
 僕は咄嗟にマントを翻し、飛来した黒い艶消しの投げナイフを絡め取って弾く。
 大商人であるメルトロさんが用意してくれたこのマントは、飛竜が空を舞う際に身体を支える皮膜で出来ている。
 如何に鋭くてもまともに受けさえしなければ、ナイフ如きの刃に傷付くような代物では無いのだ。
 されど、流石にナイフの処理をすれば駆ける足は少し鈍った。
「厄介な物を着込みよって、ふん、坊、随分とやってくれたの」
 聞こえてきた声は、真横から。
 いつの間にか僕と並走していた青年は、相変わらず年寄り臭い口調で僕に語り掛けながら、強烈な回し蹴りを放った。
 僕が咄嗟にその蹴りを盾で受け止められたのは、逃走を開始した直後から盾の準備をしてたからだ。
 それでも、蹴りを盾で受け止めたにも拘らず、僕の身体は軽々と宙を浮く。
 人間離れした膂力だった。下手をすれば中位魔獣にも匹敵しかねない。
 まあ僕はカリッサさんで慣れているから、蹴りで宙を浮かされる位では動揺はしないけれども。
 追撃に飛んで来た投げナイフを、僕は腰の剣を抜いて払い落す。
 未だもう少し逃げなきゃならないが、防戦一方だと少し持ちそうにない。
 剣を抜いたのは体術での攻撃を躊躇わせる為だが、果たして目の前の強敵にはどれ程の効果があるだろうか。
「巨大な蛇に飛竜の防具、そして今度はアーティファクトか。坊は色々用意して来たようじゃの。ようやった褒美に降伏して儂の弟子になるか、死ぬかを選ばせてやろうぞ」
 相手の言葉を待たずに、僕は腰の革袋を投げつけて、ユルクト・マイアスが身を反らした隙に更に逃げる。
 革袋の中身は単なる小麦を挽いた粉だが、手で叩き落とそうとしたりナイフで切り払ってくれれば、目潰し位にはなっただろうに、やはり相手に油断は無い。
 でも今は其れが有り難かった。
 彼は此方の手札を警戒してる。だから確実に仕留める為に、体力と手札を削る様に圧力をかけて来るのだ。
 僕は体力と手札を消費しながらも、少しでも駆けて距離を稼ぐ。


「そろそろ限界と言った所かの。反撃も単調になっておるぞ。此れで最後じゃ、降伏か死かを選べい」
 確かに、逃げるのも限界が近かった。
 彼の言う通り、小細工の種も尽きている。
 でも此れも計算通りだ。最後の仕事を果たすとしよう。
 僕は、盾を構え、剣の切っ先を彼に向けた。
「いいえ、死ぬのは貴方だ。アイアス盗賊ギルド先代マスター、ユルクト・マイアス。この戦争は人が勝利します」
 僕の言葉を強がりと受け取ったのか、彼の顔に嘲笑が浮かぶ。
 次の瞬間、バチリと雷光が宙を走り、咄嗟に身を翻そうとした彼、ユルクト・マイアスの片腕を焼いた。



 ユーディッド
 age14
 color hair 茶色 eye 緑色
 job 狩人/戦士 rank6(中級冒険者)
 skill
 片手剣6 盾5(↑) 格闘術5(↑) 弓7 短剣4 逆手武器3
 野外活動7(↑) 隠密7(↑) 気配察知7 罠4 鍵知識3 調薬2 乗馬1
 unknown 召喚術(ヨルム) 集中(射撃精度上昇、精密作業時の精度上昇)
 所持武装 
 ロングソード『白牙』(アーティファクト) ドワーフ製の複合弓(最高)
 鋼の短剣(最高) ミスリルの短剣(最高) 飛竜の鱗の盾(最高)
 飛竜の皮膜のマント(最高) 高位魔獣革の部分鎧(最高) デススパイダーシルクの手袋(最高)


 ヨルム
 age? rank9(↑)(上位相当)
 skill 縮小化 巨大化 硬化 再生 毒分泌 特殊感覚 脱皮
 unknown 契約(ユーディッド) 感覚共有(ユーディッド) skill共有(硬化+再生・ユーディッド)


 カリッサ・クラム(guest)
 age19 
 color hair 赤色 eye 赤色 (skin 褐色)
 job 神官(食神)/戦士 rank6(中級冒険者)
 skill 両手剣7 片手剣4 槌鉾5 格闘術5 神聖魔法7 野外活動2 気配察知2 調理5 乗馬3 その他
 unknown 食神の祝福(身体能力上昇、食料消費3倍) 食神の加護(身体能力上昇、発動時は体力消耗)
 所持武装 鋼のグレートソード(高) 鋼の槌鉾(高) 鋼のコートオブプレート(高)


 朽多 藤蔵(guest)
 age26 
 color hair 黒色 eye 黒色
 job 侍 rank7(中級冒険者)
 skill 朽多派一刀流9(10/8) 片手剣4 柔術7 野外活動3 気配察知6 その他
 unknown 闘気・中(発動時に体力消耗。身体能力、攻撃力、防御力を中上昇)
 所持武装 ドワーフ製の刀(最高) 高位魔獣の革鎧(最高)


 パラクス(guest)
 age25 
 color hair 金色 eye 緑色
 job 魔術師/錬金術師 rank6(中級冒険者)
 skill 術式魔術7 術式研究7 錬金術5 野外活動4 気配察知4 雑学知識5 その他
 unknown なし
 所持武装 ミスリルスタッフ(最高) 魔術師のローブ(並)



 此れまでの訓練と経験により、ユーディッドの盾、格闘術、野外活動、隠密が上昇しました。
 ヨルムのrankが上昇しました。skill共有の種類が増加しました。
 またカリッサ・クラム、朽多 藤蔵、パラクスのステータスが更新されています。
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