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しおりを挟む気が付けば、見知らぬ空間に僕は居た。
思わず刺された筈の胸に手を当てれば、痛みは無いのに、穴はちゃんと開いてる様子。
とても気持ち悪くて不安がこみ上げて来る。
此処は一体何処で、自分は如何なってしまったのか。
そして僕の仲間達は無事なのだろうかと。
でもその時、僕の目の前に一人の見知らぬ少女が現れた。
何も無かった筈の其処に、ふわりと、突然に。
その少女と目が合った瞬間、僕の不安はどこかに消えて、代わりに苦笑に口の端が上がる。
髪は白く眼の赤い彼女の姿は、でも何処かカリッサさんに、そしてエミリアさんやマーレさん、ルリスさんにもクーリさんにも、フィオさんやアーチェットさんや、兎に角僕の知ってる女性達に何処か少しずつ似ていた。
姿もそうだけど、少女の目は僕を知っている、とても親しい人間を見る目だ。
「何やってるのヨルム。似合ってないよ?」
故に目の前に居るのはヨルム以外にありえない。
ヨルムが居るなら、僕は大丈夫。胸に穴が開こうが、例え此処が死後の世界であろうが不安は無く、僕は僕で居られる。
僕の言葉に、ヨルムは一瞬驚きの表情を浮かべた後、不本意だと言わんばかりに頬をぷくぅと膨らませた。
後になって考えれば、似合って無いって言葉はひどかった様にも思う。
ヨルムが少女の姿を取ったのは、人の言葉を発する為には、人の姿を借りるのが一番スムーズだったからだ。
でも僕は其処に思い至る暇を与えられずに、ヨルムに選択を突き付けられた。
「ぼくはえらばなければならない。しぬか、いきるかを」
少女の姿で、ヨルムは言う。
言葉を発する事を好まず、思念のやり取りでさえ短く済ませるヨルムがだ。
そして響くのは言葉だけで、何時も感じてるヨルムの想いが、今の僕には少しも感じられない。
恐らくはその死ぬか生きるかの選択に、ヨルムの感情が影響を及ぼさないようにするかの如く。
「生きる事を選べるの? こんな胸に穴の開いた状態で?」
自らの胸に手を当てて、僕は問う。
痛みこそ無いが、相変わらずそこには大きな穴が開いていて、もっとはっきり表現すればこの傷は確実に心臓にまで届いてる。
当たり前の事だが、心臓に刃物を抉り込ませられて、生きてられる人間は居ない。
「ぼくがぼくとおなじになればいきられる。そしてぼくとおなじくしななくなる」
最初にヨルムと森で会った時、死にそうだって言ってたような気がするけれど……。
疑問を込めて見詰めると、スッと目を逸らされたので触れない方が良いらしい。
まあ何事にも例外はあるって事だろう。
取り敢えずヨルムの想いは変わらず遮断されてるが、僕の方からは伝わってる様子なので良しとする。
「とわのせいはぼくにとってはくるしみとなろう。じょうみょうのものとのわかれがえいえんにつづく」
……今のぼくは、僕を指しての様に聞こえたが、でもそれはきっとヨルムだって同じ事を味わって来たからこそ出た言葉じゃないだろうか。
そもそも想いや感情を遮断した程度で僕にヨルムが何を望んでいるのかを察せれないと考えてるなら、少し侮り過ぎだと思う。
ヨルムが僕の事も、そして自分の事もぼくと呼ぶのと同じだ。
僕だってヨルムと同じ望みを持っている。
「ひとはしによって……」
「別に良いよ。それで大丈夫。ヨルム、一緒に生きよう」
言葉を遮り、僕は告げた。
此れがとても大きな選択である事は、未だ老いや死をあまり意識していない年齢の僕にだってわかってる。
まあ死の縁に居るのに、死を意識してないって言うのも間抜けな話ではあるのだけれども。
何時かこの選択を後悔する時が来るとしても、そんな物はその時の話だ。
大きく目を見開くヨルムに、僕は手を伸ばす。
「行くよ。早く。長く生きるにしても、どうせ暫くはお世話になるんだし、皆の所に戻らなくちゃ」
繋いだ手から、ヨルムは蛇に戻って腕を這いあがり、まるで開いた穴を埋める様に僕の胸に潜り込む。
途端に遮断されていたヨルムの感情が僕の中に溢れ出した。
強い安堵と喜び。そしてそれらに比べればずっと小さいが、僕をこんな目に合わせたユルクト・マイアスへの怒りだ。
正直刺されたのは油断した僕が間抜けなだけで、戦ってたのだから仕方は無いのだけれど、それでもやっぱり負ける訳には行かない。
目を開く。
僕としてはパチリと開いたつもりだが、もし他の人が見てたらギョロリと開いたように見えたかも知れない。
身体は未だ指一つ動かせやしなかった。
心臓を破壊され、体中が死の概念に侵されているせいだろう。
だから僕は、此れを捨てる。
やり方はもう知っていた。ヨルムの知識の一部が僕に流れ込んだからだ。
死に浸されて使い物にならなくなった身体、人としての僕を、ズルリと脱ぎ捨て脱皮を果たす。
僕が自身を己、ユーディッドだと認識するなら、僕は僕のままである。
しかしそれでも、人としてのユーディッドは今確かに完全に死に絶えた。
今の僕は『世界蛇』たるヨルムの同体である幻獣だ。
倒れてから、幸いまだ然程の時は立ってなかった様子で、未だユルクト・マイアスと仲間達の戦いは続いている。
起き上がった僕の気配に、仲間達に、そしてユルクト・マイアスにも強い動揺が走った。
まあ心臓を抉った相手が平然と立ち上がったなら、僕だってきっと吃驚するだろう。
心の赴くままに、ヨルムから伝わった戦い方の知識のままに、僕はユルクト・マイアスに向かって飛び掛かる。
投擲されたナイフが生やした鱗を突き破って体に刺さるが、無視だ。
この程度のナイフで幻獣を殺す事は出来ないし、塗られたヒュドラの毒も、そもそもヨルムの知識によればヒュドラ自体が蛇型幻獣を劣化模倣して生まれた魔物なのだから、そんな物の毒が今の僕にとって致命となる筈が無い。
振るう右手の剣『白牙』が、受け止めようとしたユルクト・マイアスのナイフをその右腕ごと断つ。
勿論首を刎ねられても立ち上がった彼が、右腕を失った程度で止まる筈は無く、今度は残る左手のナイフが再び僕の胸に突き刺さった。
けれど僕は胸を抉られつつも勢いを止めずに、ユルクト・マイアスの喉笛に己が牙を突き立てる。
そして流し込むは毒だ。
僕の毒の殺傷力は、神であろうと致命となる毒を出せる全盛期のヨルムには程遠い。
でも『惑乱と犠牲の邪神』から、老いと死を惑わされているだけに過ぎない彼を滅ぼす程度の事ならば、僕の毒でも充分だった。
「なぁ、坊。教えてくれんか? 何故殺した筈のお前は死なずに、神より若さと不老不死を授かった筈の儂が死のうとしている?」
体中に毒が回り、動けず地に伏したままのユルクト・マイアスが僕に問う。
戦いの決着は既についた。程無く、彼の存在は消えて失せる。
けれど其れでも知りたいのであれば、答えるべきだと僕は思った。
確かに裏の世界に生きた彼は、決して褒められた人間じゃないだろう。そして更には祖国を、多くの人を裏切って己の為に邪神に捧げた忌むべき相手だ。
でも其れでも尚、僕は彼程に極みに昇った人を見た事が無い。
そんな人が邪神に騙されたままに消えるのは、僕には少しばかり口惜しかった。
「ユルクト・マイアス、それは貴方が最初から死んでいるからです。邪神は貴方に若さと不老不死を与えたんじゃない」
神は確かに不死の存在だ。
しかしそれを他者にもと望むのなら、己の身体を裂いて分け与える必要がある。
そんな事をすれば例え神であろうとも己の存在を傷付け弱め、或いは危うくさえさせるだろう。
故にどんなに功績を上げようと、邪神が信徒如きにそんな褒美を与える事は無い。
ユルクト・マイアスは手足の先から、少しずつ灰になって行く。
「貴方は邪神に殺され、老いと死を惑わされてアンデッドになっただけ。だから今貴方の身に起きているのは、死じゃ無く消滅です」
要するに彼は最初から騙されていたのだ。
僕が言葉を語り終えると、ユルクト・マイアスの顔は納得した様に、そして悔しそうに灰になって崩れ去った。
邪神に身を委ねた彼に同情する余地は全く無い。
だけど多分彼は、本当は自分の技を残したかっただけなんだろうとも思う。
何にせよ、僕等の戦いは此れで終わりだ。
未だ驚きの消えぬまま、其れでも喜びながら駆け寄ってくる仲間達に、僕は笑みを浮かべて手を振った。
ユーディッド
age14
color hair 茶色→白色 eye 緑色→赤色
job 狩人/戦士 rank6(中級冒険者)
skill
片手剣6 盾5 格闘術5 弓7 短剣4 逆手武器3
野外活動7 隠密7 気配察知7 罠4 鍵知識3 調薬2 乗馬1
unknown 白蛇の幻獣(new) 召喚術(ヨルム) 集中(射撃精度上昇、精密作業時の精度上昇)
所持武装
ロングソード『白牙』(アーティファクト) ドワーフ製の複合弓(最高)
鋼の短剣(最高) ミスリルの短剣(最高) 飛竜の鱗の盾(最高)
飛竜の皮膜のマント(最高) 高位魔獣革の部分鎧(最高) デススパイダーシルクの手袋(最高)
ヨルム
age? rank9(上位相当)
skill 縮小化 巨大化 硬化 再生 毒分泌 特殊感覚 脱皮
unknown 契約(ユーディッド) 感覚共有(ユーディッド) 全skill共有(ユーディッド)
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