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しおりを挟むアイアス公都をミステン公国、ドワーフの国、そして多数国家からの援軍が成す連合軍が陥落させた2ヶ月後、僕は海を行く船の上に居る。
あの戦いの後、僕等のチームは一旦バラバラになった。
カリッサさんはあの地に残り、ミステンに併合される事になったアイアスとシルバルのアンデッドの掃討に尽力するそうだ。
パラクスさんは魔術師としての位階を上げる為にも、今まで溜め込んだ資金を用いて術式研究を行う為に魔術の先端を行く大国、マイレ王国に行く。
何でも魔術師としての実力は、単に術を行使して戦いをこなすだけじゃ無く、新たな知識の獲得と研究によって上がるモノらしい。
僕は当初、カリッサさんと共にミステンに残ってアンデッドの討伐に協力する心算だったが、それは仲間達に反対された。
何故なら僕は四人の中で最も若く取り込み易く見え、実際に大きな後ろ盾も無いのに、抱える秘密は誰よりも多いからだ。
ヨルムの言った永遠の生って言葉が大袈裟でも何でもないのなら、どんな事をしてでも其れを手に入れたがる人間はきっと少なくはない。
例えばカリッサさんなら、神の権威という後ろ盾がある。
ミステン公国の命よりも、己が神への信仰を優先するのが当然で、彼女への無理強いは食神以外の中立神に仕える神官からも多大な反感を買う事になるだろう。
今回の戦いでも大いに目立ったカリッサさんは、既に食神の神官の中では代表的な存在として知られているらしい。
なので国もカリッサさんへの対応には細心の注意が必要となるそうだ。
彼女が僕に対して過保護な事を知ってる人も割と多いので、僕があの地に留まればカリッサさんへの影響を与える為にも、国からの僕への干渉は予想される。
それにあの戦いの後、正確には脱皮の後、僕の髪と瞳の色は変化した。
髪色程度は染めれば誤魔化しは効くけれど、瞳の色はどうしようもないのだ。
親しい人達には戦いで受けた毒の影響で髪の色が抜けたと説明したけれど、僕に何らかの変化があったと察する人が、他に居ないとは限らない。
だから僕は再会を約束し、一度故郷を離れる事になった。
海原はどこまでも続いてて、空も青い。
この数日で船の揺れにも大分慣れた僕は、海をぼんやりと眺めていた。
「ユー殿、海ばっかり見てて飽きぬのか?」
気怠そうな様子のトーゾーさんが、甲板に上がって来る。
船の上には娼館も無ければ、思う存分に身体を動かす機会も無い。
昨日の夜は他の乗客と賽を使った賭け事に興じていた様だけど、其れも既に飽きたのだろう。
ミステンを離れるにしても、特に行く当ての無かった僕を誘ってくれたのは、故郷であるテンショー国に一時帰国する予定のトーゾーさんだった。
何でもパラクスさんやカリッサさんとも話し合った結果、一番遠くに離れるトーゾーさんが僕を連れて行くと決まったらしい。
以前より気を操る術を教えてくれるとの約束もあったので、この機会にとの事なんだそうだ。
トーゾーさんの使う朽多派一刀流の基礎も同時に教わってるので、今の彼は仲間であると同時に僕の師にもあたる。
「うん、海の中って凄いよ。トーゾーさん」
確かに人の目には変化の無い海は飽きるだろうけど、ヨルムと同じ幻獣になった僕の目は、深い海の中を見通せた。
森にも負けぬ多くの命が、海の中には存在する。
其れ等を船の上から眺めるのは、人と違う視点を持ったばかりの僕にとってはとても楽しい事なのだ。
「そんな物か。しかし海の中が見えるのならば魚を釣るには便利そうだ。どれ、船員に釣り竿でも借りて来るとしようか」
トーゾーさんの言葉に、苦笑が漏れる。
多分この感覚を共有出来るのは、同じ目を持つヨルム位だろう。
でも残念な事にヨルムは未だ眠りに付いて居た。あの時、僕を自分の同体に、幻獣にする為に力を使い過ぎたからだ。
僕の中に居るのだけれど、目覚めにはもう少し時を必要とすると思われた。
その時、ふと僕はある事に気付く。
「ちょっと待ってトーゾーさん。船が二隻、こっちに向かって来てるけど、あれって海賊?」
この船の見張りは未だ見つけてないだろうし、彼方からも恐らく見つかっては居ないだろう。
だがこのまま進めば、やがて人の目でも見える距離に接近する事になる。
しかし逆に言えば、今なら進路を変えれば見つからずにやり過ごせるのだ。
問題はどうやってそれをこの船の乗組員に伝えるかだ。
遠見の術を使える魔術師でも無い僕が、船の見張りよりも良い目を持ってると信じて貰えるかどうかは、正直とても怪しい。
一応伝えるだけ伝えてみようと考えた僕に、けれどトーゾーさんが待ったをかける。
「やめておいた方が良かろう。その目が目立って良い事は無い。それに折角の飯の種が来てくれるのだ。二隻居るなら一隻はユー殿に譲るとしようか」
そう言ったトーゾーさんの顔はとても嬉しそうだった。
やはり退屈していたのだろう。
飯の種と言い切られた海賊に少しばかりの哀れみを感じる。
僕は弓を取り出し矢を番えた。まあそもそも海賊なんかをする方が悪いのだ。
よりにもよって僕等の乗る船に出くわした運の無さを呪って貰おう。
高所に居る見張りが、甲板の上で武器を取り出した僕等を見て不審な表情を浮かべるが、僕等の目線の先を追い、海賊船に気付いて騒ぎ出す。
流石は船乗りと言うべきだろうか。この距離で気付けるなら、とても良い目をしてる。
引いて放った矢に、一隻の海賊船が帆の一枚、制御を失って船足を鈍らせた。帆を張るロープが僕の矢に断ち切られたからだ。
二隻の海賊船に一度に襲い掛かられれば、僕ら二人じゃ守り切れない。
勿論船員にも戦える者は居るだろうが、無駄に此方側に犠牲者を出す必要は無いだろう。
もう一射すれば、更に帆が風に流され、海賊達が船の上で大騒ぎをしてるのが見えた。
遠慮は要らない。さあドンドン行くとしようか。
僕は生きてる。この世界で。
ヨルムが目覚めるまで。そして目覚めてからもずっと。
ひとまずおしまい。
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そんな訳で、ラストでヨルムが女の子の姿を取ったのには、正直言って驚きました。「ひとまず」おしまいとの事でしたので、その内に彼らがイチャイチャする続編が来るのを期待していますw
感想有難うございます。
此方も見て貰えるとは……。
此れだけは、なろうに出してない奴ですね。
二作目なんですが、割と長いです。
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前作からとても楽しく読ませていただいてます
ヨルムと共に段を追って成長する姿が本当にあった事のようでとても引き込まれて、とても面白かったです!
あと一昨日に大分今更な感じですが、ヨルムの名前の由来がたぶんヨルムンガンドだと気付きました……
次回作も楽しみにしつつ、続きや番外編も楽しみにしてます!
前のもですか、ありがとうございます。嬉しいです。
ヨルムンガンドからですね。
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宜しくお願いします。