無能無才な一般人の異世界生活

kryuaga

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二十話

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 まるで稲妻が頭の中を走り抜けたように、突然記憶の蓋が開いた。

 ああ、そうだ、思い出したよ。俺は地下で1度死んだ…いや、正確には死にかけたところを助けられた。

 この声に。正体の分からない≪赤≫とやらに。

 そして、地下での≪赤≫とのやり取りを思い出した途端声が聞こえた。いや、逆なのか? 声が聞こえる様になったからあの時の事を思い出したのか?



『求メル力ヲ思イ描ケ』



 それに頭の中に響くコレ…声? 声だよな? 男だか女だか分からないし、低いのか高いのか分からないし、早口なのかユックリ喋ってるのか分からないけど、頭の中に聞こえるそれは確かに声だ。

 ……まあ、良いや。とりあえず、この火の玉だか槍だか矢だか良く分からんのを何とかしたいな。



『【スキル:炎熱無効】ヲ取得』



 一発目の炎が体に当たる。

 石が当たったような小さな衝撃があったがそれだけだ。

 まったく熱くない。炎熱無効…。なるほど読んで字の如く熱ダメージを完全にシャットアウトするスキルか。

 続けざまに体中に小さな衝撃が走るが、一々足を止める程の事じゃない。



「な、なんだコイツ!?」

「熱耐性如きでうろたえるな!! 近接に切り替えてまずはあのガキを仕留めろ! 勇者と女は後だ!!」



 判断が早い。あの真ん中の頭一つ分背の高いのがリーダー格か。

 左右から剣を抜きつつ黒ローブが2人突っ込んでくる。

 さてと…コッチからも攻撃していくか。



『【スキル:フィジカルブースト】ヲ取得』



 右側から迫る剣を避ける。

 攻撃が遅い。身体能力だけじゃなく肉体依存の感覚機能も強化されるのか、なるほど。

 踏み込んで剣を持つ手を引く。

 まともな戦い方なんて分からんから、喧嘩殺法でいかせて貰うぜ。とりあえず全力で顔を殴る。



「ぉぶッ!!!?」



 黒ローブの顔に全力で拳を叩きこむ。鼻が変な曲がり方をしたのが感触で分かったが、途中で止めるわけにもいかないので構わず振り切る。

 男の体が錐揉みしながら5mくらい飛んだ。

 左側から迫っていたもう1人に向き直る。

 俺が睨んだだけで明らかに相手が怯んだ。

 ふと足元をみると、さっき明弘さんが叩き落としていた剣の1本が転がっていた。

 剣か…使えるかな? とりあえず拾ってみる。



『【スキル:マルチウェポン】ヲ取得』



 あらゆる武器を自在に使いこなす事が出来る異能。これでヨシっと。

 重いな…何キロあるのか知らないが、フィジカルブースト無かったらロイド君の体じゃ振れないぞこの重さ。

 自然な動作で剣を構える。

 うーん、殴るだけならまだしも、武器持って戦うのはちょっと緊張するなあ…。まあ、負けるつもりはまったくねえけど、



「さっ!!」



 踏み込む。

 黒ローブが待ってましたとばかりに剣を振り下ろす、が、やっぱり俺にはその動作が全部遅く感じる。

 スピードを緩めて半身になって避けつつ、体を半回転させて相手の首目掛けて剣を振る。

多少の抵抗感を無視して剣が肉を裂いて骨を砕く。

 半端に切れた首が変な方向に折れ曲がり、斬撃の衝撃を受けて体が地面を人形のように転がる。



「……ふぅ…」



 人を殺した……。

 込み上げてくる吐き気を、気合いで呑み込む。吐くのも後悔するのも全部終わった後にしろ! 今は殺さなきゃ殺される。護るべきものが有るんだ、今は割り切れ!

 ……明弘さんも、同じ苦しみ味わってたのかな? 勇者として、この街を…人々を護る為に人殺しをする覚悟。



「囲め! 一対一で戦うな!」



 背の高い黒ローブの声に素早く反応して5人が俺を取り囲み魔法を詠唱し始める。炎熱系の魔法はダメージ通らないから無視できるけど、どうやら俺に炎熱魔法が通じない事を全員が理解したらしく、赤い魔法陣を展開している奴が1人もいない。

 チンタラ1人ずつやってたら魔法で滅多打ちだな。

 まあ、とりあえず―――全力で剣を投擲。

 後ろで控えていた背の高いリーダー格らしき黒ローブの胸の真ん中を貫通する。

 ……殺す事にビビらずちゃんと投げれた。偉いぞ俺! いや、本当なら褒められたこっちゃねえけど。

 で、周りの5人はどーすっかな? 広範囲ぶっぱ出来る魔法とか使えれば早いんだけど。



『【スキル:魔炎】ヲ取得』



 これは…?

 ああ、うん、なるほど。そーゆースキルか。



「おい、お前ら―――」



 今にも魔法を放とうとしている5人に向かって気軽に話しかける。勿論この状況で返事をくれる奴はいない。コッチもそんなの期待してないけど。

 ゆるく拳を握って右手を大きく横に振る。



「邪魔」



 炎が走った。

 荒立つ波のように、真っ赤な炎が視界一杯に広がり、黒ローブ達が1人残らず炎の波の中に呑まれる。

 火の中で悲鳴も上がらず、あっという間に肉の焼けた臭いと5つの黒焦げになった焼死体だけがその場に残る。

 魔炎か…。このスキル凄え凶悪かもしれない。

 今俺が使った炎は魔法ではない。魔法は自分の中の魔力を使って発揮されるが、俺の炎は空気中の魔素を直接燃焼させる物だ。つまり、魔法の弱点である魔力の枯渇も、魔法使用後のディレイも存在しない。勿論魔法じゃないから魔法防御にも引っかからない。まあ、耐性効果はどうしようもないから、無敵のスキルってわけじゃないけど。



「今の連中で最後か」



 場に残っていた黒ローブは今ので最後だった。

 ……本当に最後か? どっかに隠れて俺の事狙ってたりすんじゃねえか?



『【スキル:熱感知】ヲ取得』



 視界でも聴覚でもない、まったく別の感覚が開く。

 視界に入った映像が、頭の中でサーモグラフィーにされてるような感じ。あ、さっき殴り飛ばした奴はまだ熱がある。やっぱりパンチ一発じゃ死んでないか……。どうする、とどめ刺しておくか? いや、でも……。

 ダメだ、非情になれ! アイツが目を覚ましたらまた街の人間を襲うぞ。かと言って縛り上げてる時間はないし、縛ったところで仲間が助けに来るかもしれんし。

 無抵抗な人間を焼くのは気が咎めるが、心を鬼にする。

 右手を男に向けて体の周囲の魔素を燃やす。噴き上がる炎の柱。

 せめて、痛みも苦しみも感じずに逝けてると良いんだが……。これ以上は街を襲った連中には過ぎた慈悲か。苦しんだんなら自業自得と諦めて貰うしかねえな。

 周囲には人らしき熱源はねえ。

 敵はここら辺には居ないってことだが、同時に街の人間も……いや、考えるのは後だな、今は行動優先だ。



「怪我してないか?」



 明弘さんの近くでへたり込んでいたイリスに声をかけると、ビクッと震えてから怯えた目が俺に向く。

 ………覚悟の上でやったけど、そりゃ恐がられるよな…。



「大丈夫か?」



 もう一度訪ねると、小さくコクリと頷く。



「うん、なら良かった。ここに居ると黒ローブがまた来るかもしれないから移動しよう。歩けるか?」



 手を差し出すと、またビクッと震える。

 ……ああ、くそ…結局俺、自分の事は何もこの子に説明してないしな。



「……聞いてくれ。俺は、キミの知ってるロイドじゃない。だけど、この体は本当のロイドのものなんだ」

「…どう、いう事…ですか…?」

「ゴメン、今は詳しく話してる時間がない。でも、この騒ぎが終わったらちゃんと話す、約束だ」



 イリスの目から微かに怯えが消え、ジッと小動物みたいな青い瞳が俺を見る。



「それまではロイドの代わり―――は出来ないけど、俺にキミを護らせて欲しい」



 恐る恐るイリスの手が、俺の手を握ろうと動く。触れる直前で躊躇する。俺の方が動いて急かすような真似はしない、イリスにこの手を取って貰わなきゃ意味がない。

 2度目の躊躇の後、イリスは俺の手を握る。

 俺は、離さないようにその手を強く握り返す。

 さて、ここを離れる前に……。



「明弘さん……」

「勇者様……」



 横たわる体の横に膝をつく。

 開いたままの目に手を伸ばして瞼を閉じさせる。

 触れた体は、今さっきまで生きていたとは思えないくらい冷たくて……この人は、本当に死んじまったんだ。

 ………ふと、近くに落ちていたブレイブソードが目に入る。何故か剣が「一緒に連れて行け」と言ってるように思えた。

 お前も持ち主の敵討に行きたいのか?

 だったら、行くか、一緒にさ!



「貴方の剣、この街を護る為に借ります」



 ブレイブソードを手に取って立ち上がる。



「明弘さん、必ず後で迎えに来ます!」



 右手に勇者の剣を持ち、左手に護るべきイリスの手を握る。



「行こう!」

「は、はい!」



 戦場となったルディエに俺達は駆けだした。
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