無能無才な一般人の異世界生活

kryuaga

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二十一話

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 ルディエはすでに全域が戦場になっていた。

 南も東も門が両方とも破られて、そこら中で黒ローブが老若男女問わず、兵士だろうが商人だろうが無差別に襲っているようだ。

 熱感知のスキルのお陰で、ルディエ全体のそんな状態がボンヤリと分かった。

 っと、そこの物陰になんか居るな。



「【アイスランス】」



 建物の影から飛び出して来た黒ローブが即座に用意してあった魔法を発動させる。

 氷の矢だか槍だか良く分からん造形物が飛んでくる。

 イリスの手を引いて背中に隠れさせ、ブレイブソードで撃ち落と―――おお、落とすまでもなく氷が消えた!?

 凄いな…これがマジックキャンセルか…。魔法への絶対の優位性。

 …って、関心してる場合じゃねえっつーの!!



「燃えてろ」



 黒ローブの首から上が業火に包まれる。

 炎に悶える男を無視して通りを進む。一々相手が死んだのを確認するのは、正直しんどい。どうせ放っておいても2秒後には黒くなって動かなくなる…。

 それに…、



「大丈夫か?」

「はい、大丈夫…です」



 今はイリスも一緒だからな。

 中身別人っても、ロイド君の体で人殺しするのはあんまり見せたくない。



「でも、どこに行くんですか?」

「うーん…」



 問題はそれだよなあ…。

 あの巨人型の魔物を探して討ちに行きたいけど、イリスを連れ歩いてそのまま戦闘にでもなったら洒落にもならん。アイツは明らかに黒ローブ達とは格が違った。

 それにもう1つ気になっている事がある。

 魔道皇帝……。もし、敵の親玉が今戦場に来ているとしたら、そっちも何とかしなきゃならないかもしれない。ブレイブソードを借りてる以上、今は俺が勇者代理だ。

 いや、でも最悪の展開として黒い巨人と魔道皇帝の両方を相手にするってのも覚悟しておかねえとな。仮にその状況になって焦らないように…。

 ん?

 中央通りに出る1本手前の通りに差し掛かった時、熱感知に反応。通りに出る前に足を止めて先の様子を窺う。

 フルプレートに身を包んだ騎士風の男6名が、20人近い人間を護りながら黒ローブ達と戦っていた。戦況は決して良くないな。相手も6人だが、あんな大人数護りながらじゃ攻めるも守るも厳し過ぎる。実際、騎士風の男達の鎧は何発も魔法を受けたのかかなりボロボロになっている。

 ………ったく、しょうがねえなあ!



「ちょっとここに居てくれ」

「…え?」

「助けに行ってくる。見つけちまった以上放っておけない。絶対にここから動くな、何かあったら大声で俺を呼べ! …それと、出来るだけ戦ってるところは見ないでくれ」

「…どうして…?」



 お前に人殺してるところ見せたくないからだよ…とは言えないよなあ…。



「どうしてもだ。じゃあ、行ってくるから動くなよ!」



 通りに飛び出す。

 戦場までの距離、目測30mを一気に駆け抜ける。

 まずは一番近い奴から、だ!

 目の前の騎士達に気を取られて俺に気付いていない。その背中に、スピードの乗ったままの斬撃をプレゼントふぉーゆー!

 ブレイブソードを肩から対角線の腰に向けて振り落とす。

 グシャリと肉と骨が裂き砕けて血飛沫が上がる。



「ちわ、邪魔するよ」



 人を殺した事に内心ドキドキしつつ、それを悟られないように平静を装ってブレイブソードを振って軽く血払いする。



「何者だ!?」「ブレイブソード!?」「誰であろうと構うな殺せ!」「子供?」「援軍か!?」「魔法を放て!」「あれが…勇者か…?」「【コールドボルト】」「私達助かるの!?」「子供じゃねえか!」「まさか冒険者か?」



 反応が一気に返って来て少し困る。俺は聖徳太子じゃねえんだから全部聴きとれねえぞ。

 とか思ってたら、その騒ぎに乗じて氷の魔法が飛んで来た。特に焦る事もなくブレイブソードで打ち消して、カウンターで魔法を撃った黒ローブの周囲の魔素を燃やして火達磨にする。



「何すんだボケ!? 危ねえだろうが!」



 ちょっとイラッとして炎の威力が強かったかもしれない。

 まあ、周りの黒ローブが火消してるし問題ないか…多分。ほら、ちゃんと起きたし、死んでないし…まあ、死んでもおかしくない火力だったけど



「貴様、何者だ!?」

「俺が誰か? それは、とっても難しい質問だな。なんたって、俺自身が良く分かってない。でも、まあ確かな事は、テメエ等にとっては死神に近い何かだって事だろ」



 言い終わらないうちに黒ローブの1人が突っ込んでくる。

 手には短剣。腰だめに構えて、任侠映画の「玉取ったらああ!」的な奴だろうか。悪いけど、そんなのに真正面から付き合うつもりはない。



「そらッよ!」



 突っ込んでくる男の目の前に突然現れる炎の壁、避けきれない。避けさせるつもりもない。炎の壁から触手のように真っ赤な熱の塊が男の体に絡みつき、今度は消火させる間を与えずに炭にする。

 視界に入っていないが右横に居る黒ローブが魔法を放とうとしている。見てない方向も“見えている”。ああ、これ熱感知か。ある程度の至近距離なら視界の内でも外でも関係なく働くのか、こりゃ便利だ。近接戦闘なら死角無しじゃん。



「【フレイムボ―――】」

「遅えっ!」



 相手の魔法の発動より、俺が炎で丸焼きにする方が圧倒的に早い。後出しでも余裕で先手が取れる。魔炎は本当にヤバいな…強スキルっていうか、もうチートに片足突っ込んでる。俺が敵だったら、絶対このスキル持ってる奴とは戦いたくない。いや、でも炎熱無効あるから関係ないか。



「な、なんだコイツは!?」「詠唱していないぞ!? 魔法じゃないのか?」「まさか、本当にこのガキが勇者なのか!?」



 すっごいビビられてる…。

 ちょっと気分良いけど、別にこれ俺の力じゃねえしなあ…。後付けで貰ったチートな上に、体もロイド君の物だし、俺自身の要素ってあんまねえからなあ。

 っと、優越感感じてる場合じゃねえな、ここは戦場なんだ。相手がビビって腰が引けてるってんなら遠慮なく攻めさせて貰う!

 俺が一歩目を踏み出す。



「「「【レジストファイア】」」」



 お、ビビってるわりにちゃんと反応してきた。

 レジストって事は炎耐性の魔法かな? 流石に調子に乗って魔炎を見せ過ぎたか…強スキルたって対処されるのはちゃんと頭に入れとかないとな。

 こっから先は近接攻撃に切り替えるか。炎で焼くのに比べて、斬った感触が人殺しを実感しちまうから、正直あんまり好きじゃないんだが…。好き嫌い言ってる場合じゃねえからな。

 相手がディレイの間に全員始末する。

 どうせ魔法は撃ってこないんだ、思いっきり突っ込む!

 1人目が手斧を懐から出し切るよりも早く脳天を割る。ああ、くそ…やっぱ、いちいち感触が手に残って気持ち悪いな…。

 2人目は―――っと、騎士風の連中がすでに2人がかりで斬り倒していた。グッジョブ!

 3人目は逃走を初めていた、落ちていた手斧を足で手元に蹴り上げる。ちゃんとした投げ方は知らないが分かる、マルチウェポンがあるからな。



「せーのっ!」



 クルクルと縦回転しながら狙い通りに相手の頭を割る。

 はいはい終了。

 辺りを見回して熱感知で敵を探す。そこらの家の中に幾つか人っぽい熱源があるな…けど少しだけ熱が低い。怯えてるからかな…? だとすると逃げるタイミングを逸した街の人間達か。



「救援感謝する」

「ん?」



 フルプレートの騎士風っていうか、多分ガチの騎士の1人が声をかけて来た。他の騎士達は怯えて羊の群れみたいな塊になっている住人に声をかけて落ち着かせている。



「いえ、たまたま通りかかっただけなんで。っと、イリス! もう大丈夫だからコッチ来てくれ!」



 丁度通りの角から恐る恐る顔を出していたイリスに大声で呼びかける。敵が声に反応して集まるかもと思ったが、もう声かけちゃった後だから今度から気を付けよう。

 イリスが目を丸くしているので、手招きでもう一度呼ぶ。あ、そういや手招きって外国じゃ「アッチ行け」の意味なんだっけ? コッチの世界だとどっちの意味なんだろ? とか一瞬考えたが、ちゃんとイリスがキョロキョロ周りを気にしながらも来てくれたところを見ると、ちゃんと日本式の意味で通じるようだ。



「大丈夫…だったの?」

「おお、全然。そっちは?」

「大丈夫だった」

「うん、なら良かった」



 戦いながら、イリスの方にも注意は向けてたから大丈夫なのは分かってたけど一応確認な。

 俺達のやりとりが一段落するのを待っていたのか、改めて騎士が声をかけてくる。



「少年、君はいったい何者なんだ? 持っているのはブレイブソードだろう? アキヒロ様はどうしたんだ?」



 死んだ。って正直に言うわけにゃいかんよなあ…。

 勇者アキヒロはルディエの皆の心の支えだ。死んだと知れたら全体の士気に関わる。騒ぎが終わればどうやっても分かる事だけど…この場は黙って……いや、違うだろ! イリスにも黙ってる事で結局傷つけたじゃねえか! ちゃんと話そう。それでどうなるかは分からないけど、どうなっても俺は俺のすべき事をする、それで良い。



「明弘さんは……戦死されました…」

「ッ!? …本当…なのか……?」



 その問い返しに頷くのは、俺自身にも勇気がいった。俺だって、まだ明弘さんの死をちゃんと自分の中で処理出来ていないんだ…。

 けど、目を背けてる場合じゃない。

 俺は、騎士の問いに無言で頷く。

 騎士の顔が目に見えて青褪める。分かるよ…。俺も状況が許してくれるならそんな顔していたいし…。



「それで、俺が勇者の代理としてブレイブソードを」

「代理?」



 代理つっても、別に本当に勇者家業がしたいわけじゃない。

 半分は明弘さんの…同郷の人間のやり残しの後始末。半分は良心から来る使命感だろうか? …まあ、ちょっとだけ、あの魔物を俺がぶっ潰さないと気が済まない、って言う私怨が入ってるか。



「明弘さんが護って来たこの街を、これ以上荒らさせるのは正直すっげえ気分悪いんですよ。だから、こっから先は俺が代わりにこの街を護ります」



 前の俺なら「誰かがやるだろう」で終わらせていたかもしれない。でも、今は俺がその“誰か”なんだ。力が有るからやろうってんじゃない、俺自身がそうしたいんだ。この街の中の有り触れた日常を、俺が護りたいんだ。



「……それは本当なのか?」

「勇者の魂に誓って」



 しばしの沈黙。



「戦士の誓いは血より重い。その誓いに違えるな、小さき勇者よ」

「ああ。勇者じゃないけどな」

「それと、1つ頼みがある。アキヒロ様の死はここだけの話にして欲しい」

「…分かりました。そちらの判断に従います。イリスもそれで良いか?」



 隣でオロオロしながら会話を聞いていたイリスに水を向ける。



「え? あ、は、はい!」



 話聞いてたよな? 緊張で耳に入ってないとかだと笑えないんだが…。まあ、ここは信用しよう。



「それで、この大人数でどこ行こうとしてたんですか?」

「ああ、ルディエ城だよ。今、城を開放して住人を受け入れているからね」



 あ…そういや、イリス探して走り回ってた時にそんな内容を聞いた気がする…。あん時はテンパってたから気にしてなかったけど…。



「それなら一緒させて貰えますか? 俺はともかく、コッチの子は連れ歩くの危な過ぎるんで」

「助かる! 正直我々6人でこの人数を護りながら移動するのは厳しかったんだ」

「んじゃ、さっさと行きますか」





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