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「申し訳なかった」
どう考えても、無様なステップを踏んでいたはずなのはジョエルの方で、テオ様が謝る必要などないのに、テオ様は礼を取ると、ジョエルから距離を取るように離れていく。
あっさりと離れていくテオ様に、ジョエルが気に食わない様子で目を細めたのが見えたけれど、私は見なかったことにしてテオ様に視線を戻す。
この二人が会場に現れた時の嫌な気分が蘇る。
友達のパメラにこの仮面舞踏会を組んでもらったけれど、ジョエルたちが来ないようには画策しておくべきだった。
二人は堂々とスカッチャーティ侯爵宅に乗り込んできて、パメラも爪が甘かったと嘆いていたけれど。
親しい家の妖精たちだけを呼んだつもりだったけど、ジョエルたちはこのちょっと変わった催しに興味を持ったのか、伝手を使ってこの会場に現れたらしかった。
この仮面舞踏会は、ジョエルのことを一時でも忘れるために催して貰ったと言うのに、逆効果だ。
「悪かったね。大丈夫だったかな?」
テオ様は私をじっと見つめていて、その優しいまなざしに、私は微笑む。
「ええ。テオ様のおかげで大丈夫でしたわ」
「良かった。フィーが怪我をしたら一大事だからね」
その言葉に、ドキリとする。
「大袈裟ですわ」
私が誰なのかは理解しているだろうテオ様の言葉に、私は冷や水をかけられた気持ちになる。
私が誰なのかわかっていれば、私に番とされる婚約者がいることだって、テオ様はわかっているだろう。
本当は番のはずのテオ様とは、もう番うことが許されない。
だって、つい先日、お父様……妖精王から妖精国の皆に向かって、私、フィオーレ = ポルタルピとジョエルの婚約が発表されたのだから。
次期妖精王になるべき私は、20歳までに番が決まっているはずで、でも、国中を探しても、私はその番に気づくことができなかった。
私に欠陥があると告げたのは、私の教育係だった。
私に番が見つからないのは、番に気づく能力が欠けているからだと。
だけど、私に反論などできるはずもなかった。
だって、20年も探しているはずなのに、私には番が見つからなかったから。
妖精王になる者ならば見つけるはずの番を。
そんな時、二つ年下のジョエルが言い出したのだ。
「気づいてもらえなかったから言い出せなかったけど、私がフィオーレ様の番なのだ」と。
誰も、公に反対しなかった。
ジョエルが公爵家だったことも大きかったかもしれない。
番という不確かな感覚を、証明できる方法が、番同士でなければわからないというところもあっただろう。
ジョエルがちょっかいをかけていた女性がいた事実は目をつぶられた。
私の目から見れば、ジョエルが愛しているのはコラソンで、私を見る目には、王配になるという欲しか見えなかったけれど。
妖精の国に伝わる「偽りには死を」という言葉が現実になるのであれば、ジョエルには死しか待っていないと思ったけれど、そんなことは起こるはずもなかった。
私の反対など、欠陥があるという意見の前に、葬られた。
だけど、私には、目の前のテオ様が番だと、はっきりとわかる。
だけど、妖精王の宣言を私が覆すことは、妖精王の力が意味のないものだと宣言するようなものだ。
妖精王になるはずの自分が、それを覆すことなど、できない。
妖精の国が、妖精王の存在で秩序を保ってきたと理解できているから。
妖精王は、妖精たちにとっての、絶対だから。
幸せな時間など、あっという間だ。
私が現実に意識を飛ばしている間に、曲が終わってしまった。
もう、現実に戻るしかないんだろう。
……いや、でもそれって、おかしいよね。
いや、おかしいよ!
どう考えても、無様なステップを踏んでいたはずなのはジョエルの方で、テオ様が謝る必要などないのに、テオ様は礼を取ると、ジョエルから距離を取るように離れていく。
あっさりと離れていくテオ様に、ジョエルが気に食わない様子で目を細めたのが見えたけれど、私は見なかったことにしてテオ様に視線を戻す。
この二人が会場に現れた時の嫌な気分が蘇る。
友達のパメラにこの仮面舞踏会を組んでもらったけれど、ジョエルたちが来ないようには画策しておくべきだった。
二人は堂々とスカッチャーティ侯爵宅に乗り込んできて、パメラも爪が甘かったと嘆いていたけれど。
親しい家の妖精たちだけを呼んだつもりだったけど、ジョエルたちはこのちょっと変わった催しに興味を持ったのか、伝手を使ってこの会場に現れたらしかった。
この仮面舞踏会は、ジョエルのことを一時でも忘れるために催して貰ったと言うのに、逆効果だ。
「悪かったね。大丈夫だったかな?」
テオ様は私をじっと見つめていて、その優しいまなざしに、私は微笑む。
「ええ。テオ様のおかげで大丈夫でしたわ」
「良かった。フィーが怪我をしたら一大事だからね」
その言葉に、ドキリとする。
「大袈裟ですわ」
私が誰なのかは理解しているだろうテオ様の言葉に、私は冷や水をかけられた気持ちになる。
私が誰なのかわかっていれば、私に番とされる婚約者がいることだって、テオ様はわかっているだろう。
本当は番のはずのテオ様とは、もう番うことが許されない。
だって、つい先日、お父様……妖精王から妖精国の皆に向かって、私、フィオーレ = ポルタルピとジョエルの婚約が発表されたのだから。
次期妖精王になるべき私は、20歳までに番が決まっているはずで、でも、国中を探しても、私はその番に気づくことができなかった。
私に欠陥があると告げたのは、私の教育係だった。
私に番が見つからないのは、番に気づく能力が欠けているからだと。
だけど、私に反論などできるはずもなかった。
だって、20年も探しているはずなのに、私には番が見つからなかったから。
妖精王になる者ならば見つけるはずの番を。
そんな時、二つ年下のジョエルが言い出したのだ。
「気づいてもらえなかったから言い出せなかったけど、私がフィオーレ様の番なのだ」と。
誰も、公に反対しなかった。
ジョエルが公爵家だったことも大きかったかもしれない。
番という不確かな感覚を、証明できる方法が、番同士でなければわからないというところもあっただろう。
ジョエルがちょっかいをかけていた女性がいた事実は目をつぶられた。
私の目から見れば、ジョエルが愛しているのはコラソンで、私を見る目には、王配になるという欲しか見えなかったけれど。
妖精の国に伝わる「偽りには死を」という言葉が現実になるのであれば、ジョエルには死しか待っていないと思ったけれど、そんなことは起こるはずもなかった。
私の反対など、欠陥があるという意見の前に、葬られた。
だけど、私には、目の前のテオ様が番だと、はっきりとわかる。
だけど、妖精王の宣言を私が覆すことは、妖精王の力が意味のないものだと宣言するようなものだ。
妖精王になるはずの自分が、それを覆すことなど、できない。
妖精の国が、妖精王の存在で秩序を保ってきたと理解できているから。
妖精王は、妖精たちにとっての、絶対だから。
幸せな時間など、あっという間だ。
私が現実に意識を飛ばしている間に、曲が終わってしまった。
もう、現実に戻るしかないんだろう。
……いや、でもそれって、おかしいよね。
いや、おかしいよ!
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