番が見つけられなかったので諦めて婚約したら、番を見つけてしまった。←今ここ。

三谷朱花

文字の大きさ
2 / 13

今ここ→②

しおりを挟む
「申し訳なかった」

 どう考えても、無様なステップを踏んでいたはずなのはジョエルの方で、テオ様が謝る必要などないのに、テオ様は礼を取ると、ジョエルから距離を取るように離れていく。
 あっさりと離れていくテオ様に、ジョエルが気に食わない様子で目を細めたのが見えたけれど、私は見なかったことにしてテオ様に視線を戻す。

 この二人が会場に現れた時の嫌な気分が蘇る。
 友達のパメラにこの仮面舞踏会を組んでもらったけれど、ジョエルたちが来ないようには画策しておくべきだった。
 二人は堂々とスカッチャーティ侯爵宅に乗り込んできて、パメラも爪が甘かったと嘆いていたけれど。

 親しい家の妖精たちだけを呼んだつもりだったけど、ジョエルたちはこのちょっと変わった催しに興味を持ったのか、伝手を使ってこの会場に現れたらしかった。
 この仮面舞踏会は、ジョエルのことを一時でも忘れるために催して貰ったと言うのに、逆効果だ。

「悪かったね。大丈夫だったかな?」

 テオ様は私をじっと見つめていて、その優しいまなざしに、私は微笑む。

「ええ。テオ様のおかげで大丈夫でしたわ」
「良かった。フィーが怪我をしたら一大事だからね」

 その言葉に、ドキリとする。

「大袈裟ですわ」

 私が誰なのかは理解しているだろうテオ様の言葉に、私は冷や水をかけられた気持ちになる。
 私が誰なのかわかっていれば、私に番とされる婚約者がいることだって、テオ様はわかっているだろう。
 本当は番のはずのテオ様とは、もう番うことが許されない。
 だって、つい先日、お父様……妖精王から妖精国の皆に向かって、私、フィオーレ = ポルタルピとジョエルの婚約が発表されたのだから。

 次期妖精王になるべき私は、20歳までに番が決まっているはずで、でも、国中を探しても、私はその番に気づくことができなかった。
 
 私に欠陥があると告げたのは、私の教育係だった。
 私に番が見つからないのは、番に気づく能力が欠けているからだと。
 だけど、私に反論などできるはずもなかった。
 だって、20年も探しているはずなのに、私には番が見つからなかったから。
 妖精王になる者ならば見つけるはずの番を。

 そんな時、二つ年下のジョエルが言い出したのだ。
「気づいてもらえなかったから言い出せなかったけど、私がフィオーレ様の番なのだ」と。
 誰も、公に反対しなかった。
 
 ジョエルが公爵家だったことも大きかったかもしれない。
 番という不確かな感覚を、証明できる方法が、番同士でなければわからないというところもあっただろう。
 ジョエルがちょっかいをかけていた女性がいた事実は目をつぶられた。
 私の目から見れば、ジョエルが愛しているのはコラソンで、私を見る目には、王配になるという欲しか見えなかったけれど。

 妖精の国に伝わる「偽りには死を」という言葉が現実になるのであれば、ジョエルには死しか待っていないと思ったけれど、そんなことは起こるはずもなかった。
 私の反対など、欠陥があるという意見の前に、葬られた。

 だけど、私には、目の前のテオ様が番だと、はっきりとわかる。
 だけど、妖精王の宣言を私が覆すことは、妖精王の力が意味のないものだと宣言するようなものだ。
 妖精王になるはずの自分が、それを覆すことなど、できない。
 妖精の国が、妖精王の存在で秩序を保ってきたと理解できているから。
 妖精王は、妖精たちにとっての、絶対だから。
 
 幸せな時間など、あっという間だ。
 私が現実に意識を飛ばしている間に、曲が終わってしまった。
 もう、現実に戻るしかないんだろう。

 ……いや、でもそれって、おかしいよね。
 いや、おかしいよ!
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

君は僕の番じゃないから

椎名さえら
恋愛
男女に番がいる、番同士は否応なしに惹かれ合う世界。 「君は僕の番じゃないから」 エリーゼは隣人のアーヴィンが子供の頃から好きだったが エリーゼは彼の番ではなかったため、フラれてしまった。 すると 「君こそ俺の番だ!」と突然接近してくる イケメンが登場してーーー!? ___________________________ 動機。 暗い話を書くと反動で明るい話が書きたくなります なので明るい話になります← 深く考えて読む話ではありません ※マーク編:3話+エピローグ ※超絶短編です ※さくっと読めるはず ※番の設定はゆるゆるです ※世界観としては割と近代チック ※ルーカス編思ったより明るくなかったごめんなさい ※マーク編は明るいです

あなたの側にいられたら、それだけで

椎名さえら
恋愛
目を覚ましたとき、すべての記憶が失われていた。 私の名前は、どうやらアデルと言うらしい。 傍らにいた男性はエリオットと名乗り、甲斐甲斐しく面倒をみてくれる。 彼は一体誰? そして私は……? アデルの記憶が戻るとき、すべての真実がわかる。 _____________________________ 私らしい作品になっているかと思います。 ご都合主義ですが、雰囲気を楽しんでいただければ嬉しいです。 ※私の商業2周年記念にネップリで配布した短編小説になります ※表紙イラストは 由乃嶋 眞亊先生に有償依頼いたしました(投稿の許可を得ています)

王弟殿下の番様は溺れるほどの愛をそそがれ幸せに…

ましろ
恋愛
見つけた!愛しい私の番。ようやく手に入れることができた私の宝玉。これからは私のすべてで愛し、護り、共に生きよう。 王弟であるコンラート公爵が番を見つけた。 それは片田舎の貴族とは名ばかりの貧乏男爵の娘だった。物語のような幸運を得た少女に人々は賞賛に沸き立っていた。 貧しかった少女は番に愛されそして……え?

番など、今さら不要である

池家乃あひる
恋愛
前作「番など、御免こうむる」の後日談です。 任務を終え、無事に国に戻ってきたセリカ。愛しいダーリンと再会し、屋敷でお茶をしている平和な一時。 その和やかな光景を壊したのは、他でもないセリカ自身であった。 「そういえば、私の番に会ったぞ」 ※バカップルならぬバカ夫婦が、ただイチャイチャしているだけの話になります。 ※前回は恋愛要素が低かったのでヒューマンドラマで設定いたしましたが、今回はイチャついているだけなので恋愛ジャンルで登録しております。

幸せな番が微笑みながら願うこと

矢野りと
恋愛
偉大な竜王に待望の番が見つかったのは10年前のこと。 まだ幼かった番は王宮で真綿に包まれるように大切にされ、成人になる16歳の時に竜王と婚姻を結ぶことが決まっていた。幸せな未来は確定されていたはずだった…。 だが獣人の要素が薄い番の扱いを周りは間違えてしまう。…それは大切に想うがあまりのすれ違いだった。 竜王の番の心は少しづつ追いつめられ蝕まれていく。 ※設定はゆるいです。

私のことが大好きな守護竜様は、どうやら私をあきらめたらしい

鷹凪きら
恋愛
不本意だけど、竜族の男を拾った。 家の前に倒れていたので、本当に仕方なく。 そしたらなんと、わたしは前世からその人のつがいとやらで、生まれ変わる度に探されていたらしい。 いきなり連れて帰りたいなんて言われても、無理ですから。 そんなふうに優しくしたってダメですよ? ほんの少しだけ、心が揺らいだりなんて―― ……あれ? 本当に私をおいて、ひとりで帰ったんですか? ※タイトル変更しました。 旧題「家の前で倒れていた竜を拾ったら、わたしのつがいだと言いだしたので、全力で拒否してみた」

婚約者が妹と結婚したいと言ってきたので、私は身を引こうと決めました

日下奈緒
恋愛
アーリンは皇太子・クリフと婚約をし幸せな生活をしていた。 だがある日、クリフが妹のセシリーと結婚したいと言ってきた。 もしかして、婚約破棄⁉

最愛の番に殺された獣王妃

望月 或
恋愛
目の前には、最愛の人の憎しみと怒りに満ちた黄金色の瞳。 彼のすぐ後ろには、私の姿をした聖女が怯えた表情で口元に両手を当てこちらを見ている。 手で隠しているけれど、その唇が堪え切れず嘲笑っている事を私は知っている。 聖女の姿となった私の左胸を貫いた彼の愛剣が、ゆっくりと引き抜かれる。 哀しみと失意と諦めの中、私の身体は床に崩れ落ちて―― 突然彼から放たれた、狂気と絶望が入り混じった慟哭を聞きながら、私の思考は止まり、意識は閉ざされ永遠の眠りについた――はずだったのだけれど……? 「憐れなアンタに“選択”を与える。このままあの世に逝くか、別の“誰か”になって新たな人生を歩むか」 謎の人物の言葉に、私が選択したのは――

処理中です...