番が見つけられなかったので諦めて婚約したら、番を見つけてしまった。←今ここ。

三谷朱花

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今ここ→③

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 私の手を、テオ様がギュッとつかむ。
 私は驚いてテオ様を見上げた。

「もう一曲、いいだろうか?」

 微笑むテオ様に魅入られた私は、考える前に頷いていた。
 嬉しそうに顔を綻ばしたテオ様に抱きしめられるように、次の曲のステップを踏む。

 ざわり、と会場が揺れる。

「フィー、1曲以上踊る意味を分かっている?」

 テオ様の言葉に、私は小さくうなずく。
 1曲以上踊る相手は、自分の伴侶になる相手だけ。
 だから、目立ってしまう。
 ジョエルとコラソンのように。……あれは、明らかに悪目立ちだけど。
 番って妖精王から発表されてすぐなのに、堂々と二人で舞踏会に現れるとか!
 ……仮面をかぶってるからバレないと思っているなら、浅はかなだけだし、別にバレても困らないと思っているなら、私どれだけ馬鹿にされているんだろうって話だよね。

 ドン。
 また、私たちの世界を邪魔したのは、ジョエルだった。

「無粋だな」

 ぶつかって来たのは、明らかにジョエルの方なのに。
 ニヤニヤしながら、我々に近づいてきていたのが、視界に入ったのだから間違いない。
 きっと、見慣れない私とテオ様の二人を、自分の暇潰しのターゲットに決めたのだろう。
 いじめの。
 自分より身分が上の相手はいないだろうと、きっと思い込んでいるから。

「なぜ、無粋なのかな?」

 テオ様は怖気づくような様子もなく、ジョエルに言い返す。
 テオ様を馬鹿にするように、ジョエルが笑いだす。
 嫌な笑い方だ。
 自分より下に見るとバカにするのは知っていたけれど、本当に尊敬できそうにもない。
 ジョエルの笑い声に、周りの妖精たちの視線が集まりだす。

「愚問だな」
「この催しに水を指すようなことをしている方が、無粋なのではなくって?」

 私はそれまで変えていた声色を、いつものものに戻す。
 さすがに気づくのか、ジョエルが戸惑った表情になる。
 でも、それは気のせいだった。

「私が誰かわかっていて、そんなことを言ってるのかな」

 尊大なジョエルの態度に、隣にいるコラソンが得意気に頷く。
 
「ジョエル様のことがわからないなんて、よほどの田舎者ね」

 コラソンの意地の悪いその表情は、いつもの私の姿のときでも、隠れて見せるものだから、よく知っている。

「ああ。君が誰かも、彼女が誰かも、私は知っている」

 私がテオ様を見上げると、ニコリ、とテオ様が微笑む。その瞳に、私は吸い込まれそうになる。
 でも、戦うべきものを思い出して、我に返る。

「私は」

 告げようとして開いた私の口を、テオ様の指が遮る。驚いてテオ様を見上げると、テオ様がしっかりと頷いた。

「彼女は、私の番だ」

 先ほどのざわめきを上回るざわめきが、会場に広がる。

「ハハハハ」

 乾いたジョエルの声が、会場に響きだす。
 その声は、先ほどと同じ、テオ様を馬鹿にした声だった。

「何を言い出すかと思えば、番を持つのは、妖精王になる者だけだ! 君は、次期妖精王の番として選ばれた私を羨んでいるのかな?」

 高らかな声に、私は小さくため息をついた。

「そうよ! ジョエル様はフィオーレ様の番として、特別に選ばれた妖精なのよ!」

 ジョエルの言葉を後押しするように、コラソンが頷く。

「それは、間違いじゃないかな」

 テオ様が落ち着いた声で告げる。会場のざわめきが一層強くなる。

「何を馬鹿なことを!」

 ジョエルが顔を赤くする。
 ギュッと肩をテオ様に抱きしめられて、私はテオ様の体に支えられるように顔を上げた。

「バカなことではないわ」
 
 私がきっぱりと告げると、ジョエルがプルプルとこぶしを震わせる。

「何を言い出すのだ! 私を、次期妖精王の番である私を、侮辱するのか!」

 ……正直、侮辱する気は満々だ。というか、侮辱するしかなくない?
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