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秋の夜長

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 アルフレッドがとろんとしていたまぶたを完全に閉じ寝息をたて始める。
 ベビーベッドの脇で眠りに落ちるアルフレッドを優しい目で見ていたケイトの体が急に浮く。
「え?!」
「シー。アルフレッドが起きちゃう」
 声をひそめるクリスに、ケイトは戸惑う。
 突然横抱きにされたら、誰だって戸惑うに違いない。
「だって……」
「だって、じゃありません。そろそろ僕の相手をして?」

 クリスの瞳に熱を感じて、ケイトは顔を赤らめると目をそらす。
「黙っているってことは、嫌じゃないってことだよね?」
 ケイトは頷きもしないが首を横にもふりはしなかった。
「無理だと思ったら言って?」
 クリスが自分の感情だけを優先しないとすでに理解しているケイトは、小さく頷いた。
 このやり取りも、既に6回目になる。
 そしてまだ二人は、致してはいなかった。
 戸惑いつつもクリスの手に翻弄されるケイトも、最後の最後になると、体が緊張してこわばってしまうからだ。

 クリスを信頼していないわけでも、愛しいと思っていないわけでもない。
 だが、致した記憶も残っていないケイトは、未知の経験に体がこわばってしまう。
 それを感じると、クリスは優しい顔で、また今度にしましょうと、ケイトをただ抱き締めたまま眠りにつくのだ。
 ケイトだって男性の生理はわかっているつもりだ。忍耐力がなければ、そしてケイトのことを大切だと思ってくれていなければ、そこで止めるなんて出来ないだろうと理解している。
 だからクリスが自分の感情を相当律しているだろうことは間違いようがない。

 ケイトはそっとベッドに下ろされる。クリスの真っ直ぐな瞳に、ケイトの心臓がトクンと跳ねる。
 そっとケイトに触れる手が、熱い。優しく触れる唇に、ケイトは愛しさが溢れてくる。
 今までケイトは、されるがままだった。
 でも、ちょっとだけ勇気を出して、ケイトはクリスの唇を舌で少しだけ舐めた。
 クリスの目がちょっと見開いて、嬉しそうに緩む。
 クリスの舌がケイトの舌を追うように口の中を這う。
 ケイトはおずおずとクリスの舌に応じていく。
 クリスが唇を離した時には、ケイトもクリスも吐く息は荒く、そして熱いものだった。
 
 クリスは自分が着ていた上着を急くように脱ぎ捨てると、ケイトの服のボタンをもどかしそうに解いていく。
 寝る前だったこともあって、ケイトは胸を覆う下着はつけていなかった。熱い手が、その胸をそっと覆う。
 わずかな感覚だけで、ケイトは、ん、と声を漏らした。
 こんなことは、初めてだった。
 クリスもそのことに気付いたらしく、嬉しそうな表情で、もう一度ケイトの唇に口付けた。
 クリスのキスに応じるケイトの表情には、それまでにあった不安な感情は、もう見られなかった。

 秋の夜長は、こうして更けていく。

完 
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