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第12章 大幅な遅れをお詫びいたします
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親愛なるエスポール
ロジェの居場所を吐くよう拷問するためにわたしが連れていかれたのは皮肉にも、以前彼と来た、ヴェルレーヌ家のあの美しい前庭でした。
噴水とバラに囲まれた中で、ヴェルレーヌ家に損害を与えたプレヌリュヌ・コルネイユの拷問が行われるのです。
十字架に縛り付けられ、鞭で打たれ、ナイフで少しずつ顔をいたぶられても、恐怖は感じませんでした。
ロジェの居場所を言えと迫ってくる手下たちに、呟き続けます。
知りません。
わたしには、言えません。
同じ言葉を口ずさむ自動人形になったように。
おそらくそのときわたしの身体のあちこちに襲っていた痛みはなぜかあまり感じなかったのです。
思えば不思議よね。
ほんの半月ほど前、自分が死んでも誰も悲しんでくれないから死んでしまおうかと嘆いていた女が、いざ殺されるという今になって、自分のことは頭の片隅にも浮かばないの。
胸の中ではわたしは別の言葉を、繰り返していました。
お願い、逃げて。
お父様から逃げて。
わたしの身体が焼き尽くされているあいだ、少しでも遠くへ。
心に響いてくるのは、彼の声ばかり。
『なんでも似合うから迷った』
『いい教育だ』
『オレは好きだよ』
飾りけがなくて端的で。
なのに深みがあるその言葉はなぜかまっすぐ胸の奥深くまで染み渡って。
いつしかそれがずっと、傍らにあってほしいと思いました。
『プレヌ』
そのとき突如として、ひらめきが訪れました。
神の啓示なのだ、と正直そのときは真剣に感じたわ。
死ぬ前に最後の願いを叶えるため、パリを旅してきましたが。
彼と様々な場所を歩むうちに。
いつの間にかわたしは、生きたいと切望していたのでした。
このときようやくわかったのです。
そう。ほんとうはもう、ずっとずっと前から。
生きたい。
生きて誰かを愛し、愛されたいと望んでいたのだと。
悟った直後、感じ入ってうつむいたので、足元に火がつけられるのを目にしなければなりませんでした。でも、心はその驚きと、早朝の澄みきった泉のような新鮮さであふれており、それどころではありません。
別に、たいそれた野心とも、途方もない夢とも思えないささやかな望みなのに。
どうしていつもその望みは、わたしの前をちらつき、通り過ぎてしまっていたのでしょう。
最期にその尻尾に触れ、死んでいくなんて、なんだか滑稽だわ。
そろそろ、この世にお別れを告げなくては。
さようならを言いたいのはやはり、ただ一人。
わたしは、ありがとうという言葉を選ぶことにしました。
一瞬でも、生きていると思わせてくれて。
「ありがとう。……ロジェ」
全生涯を天の国に横たえたつもりでいたので。
呟きに返答するように、背後から声が聞こえたときはそれこそ、十字架ごと飛び上がるかと思いました。
「大幅な遅れをおわびいたします、コルネイユ嬢。――お迎えに、あがりました」
縛り付けられた手首の縄に、ナイフが入れられていくのがわかります。
すぐ後ろに、寄り添うように立っている、彼によって。
「エスポール・ディアマンとしては、お初にお目にかかります」
ロジェの居場所を吐くよう拷問するためにわたしが連れていかれたのは皮肉にも、以前彼と来た、ヴェルレーヌ家のあの美しい前庭でした。
噴水とバラに囲まれた中で、ヴェルレーヌ家に損害を与えたプレヌリュヌ・コルネイユの拷問が行われるのです。
十字架に縛り付けられ、鞭で打たれ、ナイフで少しずつ顔をいたぶられても、恐怖は感じませんでした。
ロジェの居場所を言えと迫ってくる手下たちに、呟き続けます。
知りません。
わたしには、言えません。
同じ言葉を口ずさむ自動人形になったように。
おそらくそのときわたしの身体のあちこちに襲っていた痛みはなぜかあまり感じなかったのです。
思えば不思議よね。
ほんの半月ほど前、自分が死んでも誰も悲しんでくれないから死んでしまおうかと嘆いていた女が、いざ殺されるという今になって、自分のことは頭の片隅にも浮かばないの。
胸の中ではわたしは別の言葉を、繰り返していました。
お願い、逃げて。
お父様から逃げて。
わたしの身体が焼き尽くされているあいだ、少しでも遠くへ。
心に響いてくるのは、彼の声ばかり。
『なんでも似合うから迷った』
『いい教育だ』
『オレは好きだよ』
飾りけがなくて端的で。
なのに深みがあるその言葉はなぜかまっすぐ胸の奥深くまで染み渡って。
いつしかそれがずっと、傍らにあってほしいと思いました。
『プレヌ』
そのとき突如として、ひらめきが訪れました。
神の啓示なのだ、と正直そのときは真剣に感じたわ。
死ぬ前に最後の願いを叶えるため、パリを旅してきましたが。
彼と様々な場所を歩むうちに。
いつの間にかわたしは、生きたいと切望していたのでした。
このときようやくわかったのです。
そう。ほんとうはもう、ずっとずっと前から。
生きたい。
生きて誰かを愛し、愛されたいと望んでいたのだと。
悟った直後、感じ入ってうつむいたので、足元に火がつけられるのを目にしなければなりませんでした。でも、心はその驚きと、早朝の澄みきった泉のような新鮮さであふれており、それどころではありません。
別に、たいそれた野心とも、途方もない夢とも思えないささやかな望みなのに。
どうしていつもその望みは、わたしの前をちらつき、通り過ぎてしまっていたのでしょう。
最期にその尻尾に触れ、死んでいくなんて、なんだか滑稽だわ。
そろそろ、この世にお別れを告げなくては。
さようならを言いたいのはやはり、ただ一人。
わたしは、ありがとうという言葉を選ぶことにしました。
一瞬でも、生きていると思わせてくれて。
「ありがとう。……ロジェ」
全生涯を天の国に横たえたつもりでいたので。
呟きに返答するように、背後から声が聞こえたときはそれこそ、十字架ごと飛び上がるかと思いました。
「大幅な遅れをおわびいたします、コルネイユ嬢。――お迎えに、あがりました」
縛り付けられた手首の縄に、ナイフが入れられていくのがわかります。
すぐ後ろに、寄り添うように立っている、彼によって。
「エスポール・ディアマンとしては、お初にお目にかかります」
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