逆転の娼婦姫

ほか

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第2章 あじさい革命

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 質問者の彼女が親し気だったのでつい、本心で応えてしまっていた。

 ちらと国王夫妻を見るも、王は相変わらずにこにこと、王妃はやや顔をしかめてなり行を見守るばかりだ。ええい、こうなったらやけだ。





「たしかにそう。あたしは恥知らずよ。でも、そんな評価に意味があるかしら」

 ぱちんとセンスを閉じ、露わになった口元ではっきりと発音する。

「人を殺したいと思う感情がそこここに生まれてしまっている現状の中で、そんなの道徳的じゃないと目をつぶって蓋をするのは無意味だわ。現にそれは存在してるんだもの」

 閉じたセンスをぴしゃりと片手で受け、パエリエは宣言した。

「ならば、存在してしまったそれの対策に目を向けたほうが生産的じゃなくて?」





 水を打ったように、人々の反論が静まる。

 凍るような沈黙の中一人、一歩輪の中に進み出た人物があった。





「驚かせてしまってすみません、みなさん」

 婚約者の肩に愛おしそうに手をかけながら。

 相変わらず一ミリも動じていない、エクリュの瞳。

「僕の愛しい人はリアリストでして。皇室の一員となる者として決して目を逸らすべきではないと言っているのです。国に蔓延する貧困、階級差、人々の苦しみ、ひいては殺害衝動からも」





 まるで天井から降ろした梯子のような、優し気な色を湛えて――。

 直後、民衆から感嘆の声が上がる。

「なるほど。そうか。もしかしたらパエリエ様なら、我々のことをわかってくださるのでは」

「蔓延する犯罪からも、皇太子夫妻は我々を救ってくださると――」

 人々は期待にむせび、さきほど問いを発した令嬢でさえもうっとりと手を組み合わせている。

「まぁ。たくましい。まるで本の中で四姉妹を見守っていた両親のような愛情ぶかきお考えです」





 そそとやってきたオルタンシアが、

「今回は事なきを得ましたが」

 と前置いて、ポーカーフェイスのまま、パエリエの耳元で告げた。

「皇后教育の課題。文学全集に哲学書と歴史書、マナー集も一冊ずつ加えます」

 ああっと頭を抱えたくなる。

 勉学の時間にたまに現れる彼女に抜き打ちで質疑応答をされる時間。

 死ぬほど緊張するのだ。

 だが、追加の課題などかわいいものだったと言わざるを得ない。





「ははは、さすが、言われることが違いますな」

 事なきを得たかに思われた事態が、奈落の底へと引きずり降ろされたのだ。

「底辺代表の娼婦姫は」

 聞き覚えのある声に、ひきつらせた顔を向ければそこには――シェンデルフェールが立っていた。

 娼館を経営していた貴族。

 旧王族の血を引いていて王党派とは対立関係にあるということは後で知った。

 ぱちっと音を立てて顔を覆いたい衝動をどうにか抑える。

 案の定あたりは一気にざわついてしまっている。

 最悪だ。





 ――まぁ、こんなものよ。

 声がする。

 また、斜め上から。

 ――事実なんだから。

 ――娼婦の女が王妃になろうなんて、ばかげた話。

 ――間違っていたのよ。

 ――別に平気なはずでしょ?

 ――あの館に戻るだけ。

 声が締めくくった途端、身体が痙攣しだす。

 いったいなんなのだと問う間もなく、今度は。

 身体の奥底から声がした。

 ――いやだ。

 ――あそこにはもう――戻りたくない。

 でも、どうすれば?

 反論一つできずにいるパエリエに、人々は既に不審の色を確信に代え始めている。

 ――もう、きっとだめ。

 うな垂れそうになる震えごとそっと、長い腕が囲った。







「わたしの婚約者を侮辱することは許しません」
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