なばり屋怪奇譚

柴野日向

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3章 待ちて焦がれる

3

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「あんなに言うとんやから、探してやってもええやないか」
 駅長の台詞に、パソコンのキーを叩きながら返事をする。
「一応は探してみるけどな。でも聞いたことねえよ、そんなもん」
「もし見つけたらわしにも教えてくれ。試しに使ってみたいんや」
「その髑髏頭のどこに使うんだよ」
 ケタケタと、何も買う様子のない骸骨が陽気に笑う。その様子を見ていた晴斗の腕の中で、すねこすりが頭を持ち上げた。開いた瞼の中には、黄金色の瞳。それが向く方向に晴斗も視線をやる。
 ピンポン、と視線の先でチャイムが鳴った。
 隣の事務室だ。咄嗟に晴斗と彰は顔を見合わせる。
「今日、誰か来る予定あったか」
「いや……なかったと思うけど」
 心霊の相談を受けていることは積極的に開示しておらず、ホームページやSNSといった活動もしていない。あくまで口コミで知った人が稀に電話をかけてくる程度の事務所を、予定外の誰かが訪ねている。
 再度チャイムが鳴った。
「新聞の勧誘とかかな」
「面倒だな……」ため息をつく。「ハル、ちょっと見てこい」
 あからさまに嫌な顔をしながらも、晴斗はすねこすりを棚に置くと、ドアを開けて隣室に向かった。やがて、晴斗が誰かと会話をする声が小さく聞こえてくる。その相手の声がいやに若そうな女のものであることに、元気の良い勧誘のおばちゃんを想像していた彰は訝しむ。
「とーいといとい」
 暇を持て余した骸骨が、骨しかない指先をすねこすりに向けた。目を閉じていた小さな妖怪はちらりと片目を開けて相手を認識すると、ぱっと棚から床に飛び降りる。晴斗がいないならもう用はないらしい。音もたてずに店を出て行った。
 すぐに晴斗は戻ってきた。「お客さんだって」少し困惑しながら棚に目をやる。
「さっき帰った」彰はすねこすりが出て行ったドアの方を指さす。「客って誰だ」
「さあ。二人組の女の子。相談したいことがあるんだって」
「飛び込みか」小さく舌打ちし、パソコンの画面を覗き込む。せっかく執筆作業がノッてきたというのに。
「適当に帰しとけ」
「彰が言ってよ。僕はそういうの苦手だ」
「責任者が不在だとか言っとけばいいんだよ」
「でも、すごく困ってるみたいだった」
「俺も困ってるんだよ」
 少しの押し問答の末、結局彰は立ち上がった。真面目な晴斗は、積極的に嘘を吐くことに抵抗があるのだ。
「ほなら、わしも帰るわ。明日は非番やな。地獄めぐりツアーでもまた行ってみるかなあ」
 今日が非番じゃなかったのか。制服の後ろ姿を見て、そんな言葉を呑み込む。幽霊列車はよほど暇なようだ。
 マンドラゴラを設置し、隣の事務室に移動する。晴斗が出入口のドアを開け、客を中に通した。
 見覚えのない、二人の女の子だ。恐らく大学生だろう。落ち着かない様子であたりをきょろきょろ見渡しながら、スリッパに履き替えておずおずと部屋に入る。一人はやけに明るい茶髪を巻いて背に垂らし、右耳には銀色のピアスの輪を光らせている。クリーム色のサマーセーターに膝上丈のスカートを履いた、所謂「今風」の女の子。隣には、トートバッグを腕に、水色のワンピース、フレームレスの眼鏡をかけ、肩につく真っ直ぐな黒髪を持つ普通の女の子。普通、なのだろうが隣と比較してしまうせいもあり、やけに地味に見える。
「すみません、急に来て」今風の少女が軽く頭を下げた。「あたし、時津大学の学生で、星彩華っていいます」
「あっ、私も同じ大学で……楽々浦渚です」普通の少女もぺこりとおじぎをした。
「友だちから、ここで相談してみたらって聞いて……まず電話とかするべきかと思ったんですけど、その子も番号を覚えてなくって」
「それで飛び込んだんだな」
 彰の言葉に、二人は同時に頷いた。
「俺は東雲だ。東雲彰。そんで、甥っ子の晴斗。手伝いだ、気にすんな」
 彰の横に戻ってきた晴斗が頭を下げると、彼女たちも釣られて頭を下げる。
「言っとくが、俺は何でも屋じゃねえぞ」
 あくまで相談を受けるだけだと主張する。勘違いした客から、上司を呪ってほしいなどと言われて追い返した過去もある。だから予め予防線を張っておく。
「話だけでも聞いてください」
 彩華という少女が、強気の口調で言った。
「あたしたち、本当に困ってるんです。でも、誰に相談したらいいかわからなくって」
「お時間とらせちゃってごめんなさい」
 フォローするように、渚という少女が慌てて付け足した。
 確かに二人は、困り切った表情に焦りを滲ませている。どうやら冷やかしではなさそうだ。そう判断し、彰は取り合えずソファーに座るよう促した。
 彩華と渚が、出入口を背に並んでソファーに浅く腰かける。その向かいに彰が座り、晴斗はそのまま、狭いキッチンへ向かった。
「まあ、何かの縁だ。何があったのか話してくれ」
 彼女たちは顔を見合わせ、少しほっとした顔を見せた。渚よりも気の強そうな彩華が口を開く。
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